Review/レビュー
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Ancillary Sword

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 アン・レッキーのスぺオペ Imperial Radchシリーズの第2巻です。


 前作、シリーズ第1巻の Ancillary Justice は、ヒューゴー賞など2014年SF賞5冠に輝きました。主人公ブレクは生身の人間として生きることになった戦艦の人工知能で、同時進行する複数の場面を一人称で描くなど、独自のスペオペ世界を構築しました。
 本書では、舞台を別の惑星に移し、ブレクは艦長に任命され、帝国内に潜む腐敗と謎の勢力と闘うことになります。


 前巻でボスキャラを倒した後の展開に注目していたのですが、残念ながら予想は悪い方向に外れてしまいました。数千年に渡る帝国の秘密は、単なる背景のままでほとんど進展はありません。一方、肝心のプロットはまるでTV版のスタートレックのようです。戦艦が奇妙な惑星を訪れ、有能な艦長と副長・船医がそこに潜む謎をあばく、というアレです。


 何より問題なのは、主人公が全能になりすぎたことでしょう。前巻では、ブレクは非人間ゆえに多くのハンデを抱えながらも不可能に挑む孤高の復讐者として描かれ、魅力的なヒロインでした。しかし、今回は、AIを通じて離れた場所の人間の脈拍までモニターできる能力を持ち、皇帝の血筋で艦隊司令という誰も逆らえない身分まで手に入れました。結果として、物語にハラハラ感がなくなってしまったように思います。
 その意味で、米アマゾンのレビューで相変わらず評価が高いのは不思議です。アメリカ人は、アメコミを始めこういう全能のヒーローへの嗜好が強いのかもしれませんね。


 異世界やそこに暮らす人々を鮮やかに描きだす筆致は健在ですので、最終巻での逆転を期待したいと思います。


 PS: →シリーズ第3巻:Ancillary Mercy のレビューはこちら


※ 本シリーズはなぜかKindle版が出ていませんが、電子書籍としてはKobo版Google Play版で読むことができます。


●ストーリー●  (ネタバレあり。ご注意を。)


 ブレクは帝国を揺るがす陰謀を暴き、自らの復讐を果たした。
 皇帝ミアナイは、帝国内の混乱を鎮め事態の掌握を図るため、ブレクに皇帝の家系という偽の身分を与え、戦艦<カラーの慈悲>号の艦長に任命する。気力を取り戻したセイヴァーデンも士官として乗船する。


 ブレクの最初の任務は恒星間ゲートの一つを封鎖することだった。ブレクは、管理拠点にするため、ゲート近傍の植民惑星を周回するステーション・アソエックに赴く。


 ステーションと惑星ヴァルスカイはそこで産出される茶の取引を通じて潤っており、ブレクは地元の司政官たちから歓待を受ける。しかし、ステーション最上部の広大な自然公園の下層には管理から見捨てられた貧民街が広がり、一般市民もその存在を無視している。また、植民惑星の農園では、異民族の奉公人たちが過酷な契約にあえいでいた。


 以前からゲートを警護していた先任の艦長ヘトニスや司政官は、ブレクに何かを隠しているようすだった。そして、部下たちも突然艦長となったるブレクに対して反感を抱いている。人間ではないブレクが、艦隊を統率し、ステーションに渦巻く陰謀を暴くことはできるのだろうか・・・。


●覚えたい単語● --電子書籍のハイライト記録から

badass かっこいい/ひどい、makeshift office 間に合わせのオフィス、indentures (年季奉公の)契約、mourning proprieties 喪の作法




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