行政サービスの評価・測定

米国の地方自治体に関する会計基準に見る「行政サービスの評価・測定」の外部報告ほか

はじめに

日本でも、行政改革の先進県として、三重県の北川正恭知事が先頭を切って三重県の財務情報の開示や、県民参加の行政評価について種々の試みを行っています。「道路整備十ヵ年計画」を重要なものから順位をつける(点数制にして理由等を公開)ことによって、県民に対する説得力をもたせる一方、議員の陳情などの関与を避けることができたとしている。

多摩川源流にある人口1100人の山梨県小菅村は、98年12月はじめて「タウンミーティング」を開いた。過疎が進む村の将来について住民代表が集まり話し合う会議である。民意を反映した村の長期計画を作成しようとする試みである。

行政と住民の隔絶した中からは、行政に対する不満が蔓延し、行政は民意を吸収できないといったいった苛立ちは解消しない。情報不足であれば,市民は闇雲にリストラを叫ぶことになる。行政と住民との結びつきは、三重県の試みのように情報公開であり、小さな村落であれば、行政と住民とが直接接して意見交換することでお互いの意思疎通が信頼を生み出すことになる。

原点に帰れば、行政は住民に対するサービス提供する公の機関である。行政サービスをする側はサービスの提供が住民に評価されてはじめて仕事のし甲斐があり、住民からすればサービスが見えれば評価しようがある。つまり、判断するだけの情報の提供が市民に対して行わなければ、行政にとっても市民にとっても不幸な状況は無くならない。

そこで、行政府の財政状態の情報公開の仕組み(国家及び地方自治体の会計基準)及びこのホームページで地方自治の行政サービスの評価について、米国で試みられている方法を紹介しています。

行政改革と財政改革について

我が国でも、中央省庁中心の中央集権の官僚国家から、民主主義を基礎に置いた地方分権が叫ばれ、地方自治の重要性が高まりつつあるようです。

国家及び地方財政で問題となるのは、財政が赤字となり財政困難になったとき、@財政収入の見直しに関連して財源探し(新たな税収−例えば、消費税の導入のような)及びA財政支出に関連して行政が肥大し行政の役割が問われることになるのではないでしょうか。日本は、バブル崩壊後、国及び地方自治体の借金経営が深刻化し、かつ、景気浮揚策として減税や公共投資の復活など、財政は逼迫しつつあります。当然、歳出削減に関連して行政改革が叫ばれるようになっています。

米国も、1980年代に、日本が批判していましたように「双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)」に悩まされました。そこで、財政赤字を無くそうと立ち上がりました。まず、財政赤字を無くすには、財政の透明性を高める必要がありました。国民に対する財政報告です。これは、国家にあっては、「連邦政府の会計基準」により財政報告しようとしました。地方自治体については、同様に「地方自治体の会計基準」により財政報告しようとしています。透明性を高め、市民や政治家などが、どこに問題がありどう直せばよいのかを検討する基礎であるからです。つまり、説明責任を果たすことです。しかしながら、単なる、財政報告では、行政サービスの良否を判定できないことから、下記に示すような情報開示を求めるようになりました。

1994年、一歩進んで、行政サービスの内容の評価・測定にまで踏み込んでいます。つまり、行政サービスが「経済的(Economy)であるかどうか」「能率的・効率的(Efficiency)であるかどうか」「有効(Effectiveness)であるかどうか」を判断できる情報を開示することを求めるようになってきています。財政報告の作成基準であります会計基準は、国家については、「国家の会計基準・概念書」、地方自治体については「地方自治体の会計基準概念書第2号”サービス努力と実施に関する報告(Service Efforts and Accomplishments Reporting、SEA Reporting)"」があります。

いわゆるSEA Reporting(行政サービスの努力と実施の報告)とは、ある行政の仕事に関し、行政が投入(Inputs)した資源(予算(金銭)、施設、人員など)が、実施することによって具体化された産出(Outputs)と、その行政サービスを実施したことによる結果(Outcomes)と、かつ「投入(Inputs)」「産出(Outputs)」「結果(Outcome)」に関して、それぞれの能率性・効率性(Efficiency)」を判断するために必要な説明的情報(Explanatery information)を開示させようとするものです。

具体的には、下記のロスアンジェルス警察のケースが分かりやすいので例示します。

ロスアンジェルス警察のケース

SEAを上記の説明では何を言っているのか分かりずらいので、インターネットからロスサンジェルス警察のケースを参考に下記に示します。


警察に関するサービス努力及び実施に関する提案(Recommended Service Efforts and Accomplishments for Police Departments)

指標 指標を選択した理由
投入(Inputs)
支出予算
サービスを提供するために必要な資金資源の測定のための指標として
施設、道具、車両 サービスを提供するために必要な非人的資源の測定のための指標として
人員数・使用時間 サービス提供のために必要な人的資源と組織の規模を測定するための指標として
産出(Outputs):
パトロール時間数
パトロール・サービスの時間の測定するための指標として;パトロールは、警察努力の基本的商品として一般的である。
サービスの要求と対応時間 サービスを要求されたときから対応までの時間の測定をするための指標として
犯罪調査数 調査部門のサービスの数を測定するための指標として
逮捕者数 犯罪者に対する警察努力の成功を測定する指標として
犯罪予防のために参加した人員数 犯罪予防部署の人員数の測定のための指標として
結果(Outcome)
犯罪による死者・負傷者数
人に危害を与える犯罪行為を減らすことに関して、警察努力の有効性(Effectiveness)を測定するための指標として
犯罪によって失った資産価額 犯罪行為による器物などの資産に対する損害を減少させることに関して、警察努力の有効性(Effectiveness)を測定するための指標として
10万人に対する犯罪数 犯罪行為を減少させるに関し、警察努力の有効性(Effectiveness)を測定するための指標として
犯罪発見率 犯罪行為及び犯罪者の探知に関する、警察努力の有効性(Effectiveness)を測定するための指標として
応答時間 応答時間の品質を測定するための指標として
市民の満足度 市民のニーズに一致の程度に関して、警察努力の全体的な有効性(Effectiveness)を測定するための指標として
有効性(Efficiency)
1事件のコスト
警察努力の有効性の指標として
説明情報(Explanatory Variables)
・年齢別人口
・失業率
・住宅数
・事業所数
・低所得層の割合
・管轄内の資産価額
・サービスの要請/ケース
上記「産出」「結果」および「有効性」を見る場合に参考となる情報


上記は、ロスアンジェルス警察のケースですが、病院、学校、消防、エージェンシー、外郭団体、特殊法人など、それぞれ評価測定できる指標を設定し市民に公開することで、行政の市民による民主的な評価・測定が可能になります。

まだ、米国でも完璧なものではないようですが、市民が行政サービスを評価・測定し、市民のための行政にしてゆくために参考となる方法ではないでしょうか。 いわゆる「お役所仕事」からの決別は、洋の東西を問わず同じことなのです。それを改善する手だてとして、納税者でありサービスを受ける市民による監視が必要なのですが、その手段として上記の方法は、現実的な方法と思われるのですがいかがでしょう・・・

地方自治体の会計基準概念書第2号
サービス努力と実施の報告(Service Efforts and Accomplishments Reporting)


地方自治体の会計基準の概念書第2号は、行政の業務執行を評価測定するために必要な情報を市民等に対して提供するために作成されています。

従来の財務情報の外部報告では業務の測定・評価できないために、納税者・政治家などの評価・測定者に分かるような情報公開を目的に、従来の財務情報の報告の一部として開示することを求めたものです。概要は、地方自治体の会計基準委員会のホームページ「概念書第2号の概要(Service Efforts and Accomplishments Reporting)」に掲載されていますのでご覧ください。

なお、地方自治体の会計基準で、今までに公表された基準書のリストが、地方自治体会計基準委員会の「GASB・Final Pronouncements(http://www.rutgers.edu/Accounting/raw/gasb/pub/pub31.html)」に掲載されていますので、興味のある方はご覧ください。

ドイツのケース

ドイツの行政管理改革(Public Management)

1983年から、法律の簡素化と管理の脱官僚主義化(debureaucratisation)の促進を始めとし、鉄道及び郵政の改革、ルフトハンザ及びドイツテレコムの民営化、固定資産税及び有価証券取引税の廃止、健康保険及び年金制度の改革など、ドラスティックに行政改革及び財政改革が行われている。業績管理においては、外部専門家の支援で発生主義会計の原価管理マニュアルを開発した。行政に徹底的な説明責任(Accountability)が求められている。OECD(経済協力開発機構)にピューマ(PUMA・・Public Management 行政管理)のサイトにドイツの行政改革の経緯が記されている。ドイツに基礎をおき同様の法律体系を持つ日本に参考となる。

1999年10月11日、パリで行われたOECDの対日経済審査会合で、「日本経済は最悪期を脱した」としたが、昨年同様、今後、規制緩和と構造改革が重要との注文が相次いだという。昨年は、「日本政府の危機意識の欠如」を厳しく指摘された、とある。(12日の日本経済新聞報道)。

ニュージーランドのケース

ニュージーランドのニュー・パブリック・マネジメント(New Public Management, NPM)

ニュージーランドにおける中央省庁改革が端的な例として紹介されている。国家レベルでは公共事業省、郵政省、エネルギー省を廃止し、教育省、保健省、運輸省、司法省の人員・機能を縮小し、企業化・民営化などをして、国家公務員の数を8万5千人から3万4千人に削減した。


おわりに


地方自治にしても、財政の透明度を高め、納税者・市民に公開するばかりでなく、行政の業務の評価・測定できる仕組みが必要ではないかと思います。

民間企業であれば、市場で売れなければ企業は倒産します。つまり、市場が企業をどうするか決めます。

行政は、本来、政治がその業務の評価を行う必要がありますが現実的ではありません。従って、会計基準を設定して納税者・市民に分かりやすい情報公開を行い、かつ、業務の評価・測定できるような「業務評価測定」の情報開示を含めて行い、行政の、経済性、効率性、有効性などについて、市民が評価・判定して、政治が改善策を実施します。

我が国でも、三重県が企業会計の手法を使って貸借対照表、収支計算書を作成し情報公開の一環として県広報誌にも掲載して県民から提言や意見を募る(日本経済新聞 1998年3月16日)。JICPAジャーナル1998年6月号に「三重県における企業会計方式の導入」と題して、研究に参加した関西学院大学助教授の論文が掲載されています。日本においても、従来の、歳入・歳出で記録する会計から、発生主義会計により貸借対照表および収支計算書の作成に移行する端緒が生まれています。

会計記録を発生主義会計で纏め、貸借対照表及び収支計算書を公表しただけでは、限られた情報のみが提供されることになり、行政サービスを評価・測定するには情報が十分とはいえません。

有権者である住民サイドの視点で情報公開を行うのであれば、一歩進んで、行政サービスが「経済的に行われているのか」、「能率的・効率的に行われているのか」および「効果的に行われているのか」を判定するに足る情報を提供することで、有権者が判定できるようにしなければなりません。換言すれば、行政サービスが「適正規模なのか」「サービスが市民に満足してもらえているのか」「最も経済的にサービスしているのか」に関して判定する情報が納税者・市民に対して提供される必要があるということです。

外部報告が、有権者(納税者・市民)によって判定できる情報になれば、情報としての価値は一層高いものになります。情報の価値が高まれば、その情報の必要性はより一層高まります。

一方、行政の側において、住民が行政の役割について十分な理解が得られるならば、行政も働き甲斐を得て活気を取り戻し、悪名高い「お役所仕事」から脱却でき、行政サービスの向上に資することになります。行政は、住民が支えていることから考え直すべきなのです。行政と住民が理解し得る情報の提供にあります。行政の責任論でいえば、行政の住民に対する説明責任(Accountability)を適時・適切に遂行することにあります。三重県の例は、ほんの一歩です、しかし、大きな一歩になることを期待するものです。

日本には地方財政に関する納税者・市民に対する外部報告を目的とした、権威ある組織が作成した「自治体の会計基準」が存在しないこと、従って、外部報告が「会計基準に準拠して適切になされているかどうか」を監査する「独立監査人による監査制度」が存在しないことを認識すべきです。

自治法の改正により平成10年度から開始される「外部監査制度」は、歳入・歳出の現行の会計制度にあっては、不正・誤謬の摘発・発見監査ないし内部統制制度の欠陥の指摘のみに限定されます。監査目的・監査範囲・監査意見の内容など何等明らかにされずに、外部監査制度のみ先行したため、機能するか疑問視され、形式的なものになる可能性が多分にあり、会計制度と監査制度の双方の整備・確立が望まれるところです。

米国の真似はすべきではないでしょうが、民主主義のノウハウを持っている米国からは、学ぶべきものがあるのは否定できません。特に、今や、インターネットにより、誰でも、何時でも、どこからでも、情報が簡単に入手できるようになっています。特に、米国はオープンな国です。情報はふんだんに惜しみなく公開しています。それも、分かりやすく・・・


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米国の行政改革及び財政改革について

1993年3月、ゴア副大統領を統括責任者に任命しナショナル・パーフォーマンス・リビュー(National Performance Review,NPR)プロジェクトを創設し、1998年ナショナル・パートナーシップ・フォ・リインベンティング・ガバーメント(National Partnership for Reinventing Government)に名称変更し、行政及び財政改革を進めています。アカウタビリティとディスクロージャーの充実を基礎に行財政改革を行っています。
予算管理局(OMB)と行財政改革との関係は「米国連邦政府の会計基準」をご覧ください。


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上記は、私見を含んだ部分があります。正確を期する為、直接アクセスして本文をご覧ください。

 公認会計士 横山明
Tel 047-346-5214 Fax 047-346-9636
E-mail: yokoyama-a@hi-ho.ne.jp