第三章 《分詞構文》という副詞要素、これで不都合はなかった
第一節. 格別の不都合は生じなかった…文末の-ed分詞句の場合(1)

   前章では、カンマを伴う分詞句の読解の多様な在り方の一つ一つを概観した。この章では、私個人のこれまでの分詞句体験を簡単に述べてみたい。

   私自身、《分詞構文》という了解を長い間、多くの英語学習者たちと共有してきた。格別の不都合は生じなかった、これが《分詞構文》という了解のもとで分詞句に接しながらも自足し得た主たる理由である。自足し得た経緯を、幾つかの形態の分詞句を考えることで改めて辿ってみたい。

   わけあって(この「わけ」については後述する)、初めに、文末に位置する-ed分詞句を取り上げてみたい。視覚的には「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」という形態で現れる。私は長い間、こうした-ed分詞句は概ね《分詞構文》(副詞要素)の一形式である、という判断の下で英文を読んできた。

   例えば次のような文例である。

(3−1) She enters, accompanied by her mother. (PEG, 279)
           〈彼女は母親に伴われて入る。〉
(3−2) Jones and Smith came in, followed by their wives. (PEG, 280)
           〈ジョーンズとスミスは中に入り、彼らの妻が続いた。〉(下線は引用者)[3−1]

   "accompanied"と"followed"の暗黙の主辞はそれぞれ"She"と"Jones and Smith"であり、分詞句を《付帯状況を表す副詞要素》と判断し、これを上記のように読んで、さしたる不都合のあろうはずもなかった(「付帯状況」については[1−4]参照)。

   たまさか、不都合にも出会った。「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」という-ed分詞句が《分詞構文》(副詞要素)ではなく、その直前の名詞句を説明する形容詞要素であるという例である。こうした種類の-ed分詞句は入試に出題される英文の中で目にすることはかなり少ないがもちろん皆無ではない。文例(3−3)では「カンマ+-ed分詞句+カンマ」という形態で出現しているが、実質は「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」という形態の-ed分詞句に等しい。

(3−3)
I read her favorite books, piled upon the oak dresser, and came to know ... (96年、津田塾大)
〈私は彼女のお気に入りの本を読みました。オークの化粧台の上に積み重ねてあったんです。…〉(私訳)

   "piled"の暗黙の主辞は"her favorite books"であり、この-ed分詞句は"her favorite books"に関わる名詞修飾要素である。形態から判断する限りではこの-ed分詞句は《分詞構文》(副詞要素)であってもいいはずだが(第一章第2節参照)、ここでは直前の名詞句を説明する形容詞要素、つまり非制限的名詞修飾要素であり、非制限的関係詞節に置き換えても意味内容の違いは感じられない。この-ed分詞句は名詞修飾要素であるということで、私の周囲の英語講師たちの判断は一致した。(3−3)読解については、結果的に、日本語訳の形についても、講師たちの見解は概ね一致した[3−2]

   格別の不都合ではなかった。ある-ed分詞句が《分詞構文》(副詞要素)ではなく名詞修飾要素であったとて、英文を読む上で何の差し障りもない。カンマを伴う-ed分詞句は名詞修飾要素である場合もある。《特例》と見なしてもいいような-ed分詞句である。そんな説明で取りあえずはしのげる。英語教師たる私はそうやってしのいできた。

   何とかしのぐついでに、私は意識することなしにあることを避けてもいた。カンマの役割を具体的に説明することである。分詞句の「非制限的名詞修飾用法」の具体的事例を目にしながらも、分詞句が名詞句を後置修飾する場合、その名詞修飾は、カンマの有無を契機として「制限的」と「非制限的」という二通りの在り方で出現するという視点に私は立ってはいなかった。更に、「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」という視覚的形態で現れる-ed分詞句が、時には《分詞構文》(副詞要素)であり、ときには名詞修飾要素であるという《揺れ》さえも対象化できていなかった。カンマを伴う分詞句が時には副詞要素であり時には名詞修飾要素であるという足場の上に現に立っていながらも、その不安定さを知覚することなく、従って格別の不安を覚えることもなかった。

  

(第三章 第1節 了)


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© Nojima Akira