第六章 開かれた世界へ
第4節 「カンマを伴う分詞句」の「暗黙の主辞」の在り方について
その四 文形式Aの場合
〔注6−28〕
形容詞句(CGELの用語では「形容詞節」)についてのこうした記述を、以下に見るような名詞句に関するCGELの記述とすり合わせて見る。
@The river lay in its crescent loop entirely without movement, an artifice of green-black liquescent marble. 〈その川は微動だにせず三日月の弧を描いており、溶解した暗緑色の大理石からなる造化であった。〉 (CGEL, 14.9)(番号と下線は引用者)
@中の"an artifice of green-black liquescent marble"についてCGELは次のように述べている。
我々はこの名詞句を副詞要素として機能している無動詞節[verbless clause]と見なすことができよう。(ibid)
こうした判断は、@中の"an artifice of green-black liquescent marble"の位置を移動させて作った文(AThe river, an artifice of green-black liquescent marble, lay in its crescent loop entirely without movement.)(@をこのように書き換えることが適切か否かという点は等閑に付す。不適切であろうというのが私の見解ではあるが)についての次のような記述が先にあると考えるとより分かりやすいものになる。
文末の名詞句が主辞に隣接して置かれていた[had been placed]とすれば、我々はそれを完全並置[full apposition]と見なしたことであろうに[would have regarded]。(ibid)(「完全並置」と「部分並置[partial apposition]」については[7−12]もしくはCGEL17.66参照)
A中の"an artifice of green-black liquescent marble"は"The river"を非制限的に修飾する名詞要素であるという判断が披露されている。
ところで、文例(6−17a) (The man, rather nervous, opened the letter. [6a])について「形容詞節"rather nervous"は主辞と結びついているだけではなく、述辞とも結びついている」(ibid, 7.27)と感じられるとすれば、Aの場合にも、「名詞句は主辞と結びついているだけではなく、述辞とも結びついている」と感じられるはずなのである。A中の名詞句"an artifice of green-black liquescent marble"は主辞"The river"の属性("The river"について語り得ることがら)の一端であるという判断より、母節全体について語り得ることがらの一端であるという判断の方がより適切であると感じるのである。本稿の視点から言えば、"an artifice of green-black liquescent marble"は、母節全体によって「特定」が実現されている主辞、つまり、「微動だにせず三日月の弧を描いていた(その)川」についてこそ語り得ることがらの一端であると感じるのである。かくして、文末に位置していようが主辞の直後に位置していようが同じように「主辞と結びついているだけではなく、述辞とも結びついている」と感じられるような「名詞句」が、CGELによれば、その位置に応じて、時には「副詞要素として機能している無動詞節」であると、時には主辞に対する並置要素であると判断されることになる。
更に、文例@中の名詞句に関する記述(「副詞要素として機能している無動詞節と見なすことができよう。」)と、以下の例に見られる分詞句に関する記述との整合性には疑問が残る。
BThe siren sounded, indicating that the air raid was over. [‘…which indicated that …’](ibid, 15.59)〈サイレンが鳴り響いた。空襲は終わったという合図だった。〉(番号と下線は引用者)([6−5], [6−9]参照)
ここでは、分詞句の暗黙の主辞は「母型節全体である」(ibid)と説明されている。分詞句の暗黙の主辞は"The siren"ではなく、"The siren sounded"という母節全体であるというのがCGELの判断である。CGELの記述するところ(関係詞節を用いた書き換えが示されている)に従えば、この分詞句は、母節全体という暗黙の主辞を非制限的に後置修飾する要素であると判断されているということになる。CGELは、"They are fond of snakes and lizards, which surprises me. [4]"〈彼らがヘビやトカゲが好きなのだが、私には驚きだ。〉(ibid, 17.9)(下線は引用者)という文例について次のように記している。
文修飾関係詞節[sentential relative clauses]では、先行詞は名詞的語句ではなく節である。即ち、文例[4]では節全体"They are fond of snakes and lizards"は"which surprises me"によって後置修飾されている[postmodified]。(ibid)
何がCGELに、B中の分詞句を非制限的後置修飾要素と判断させる一方で、@中の名詞句"an artifice of green-black liquescent marble"を「副詞要素として機能している無動詞節」と判断させているのか。
(〔注6−28〕 了)
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