『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第六章 開かれた世界へ

第1節 異邦人の孤立


〔注6−5〕

   慣用表現的分詞句の場合を除けば、文頭に分詞句に置いて発話を組み立てる場合、次のような指摘が当てはまる。

定型表現を別にすれば、文は話者の念頭に唐突に湧き上がるのではなく、話者が話し続ける中で段階的に組み立てられる。
(Jespersen, The Philosophy of Grammar, CHAPTER I Living Grammar, p.26)
   従って、暗黙の主辞との適切な関係づけを求められるような分詞句の場合、「文章全体の包括的構想[comprehensive conception]を要するものであり、書き言葉の場合により適しており、…」(ibid, p.27)という記述も当てはまる。

   文形式B(分詞句,+S[=分詞の暗黙の主辞]+V….)の場合に、最も「関係づけ」が誤たれやすい、と感じているのはPEGの著者ばかりではない。

   CGELの"Unattached nonfinite and verbless clauses" (15.59)〈結びつきのない非定動詞節及び無動詞節〉("Unattached"を別の用語で言えば"unrelated, pendant, dangling"などである…15.59Note)中に、結びつきがないため、その適切さに疑問符が付けられるか、あるいは不適切であると判断される文例が、分詞句(「接続詞+分詞句」は除く)を含む文例だけで、九例挙げられている。すべて、分詞句が文頭に位置する文例である。

@? Driving to Chicago that night, a sudden thought struck me. [‘ I was driving’] [1]
   《その夜シカゴに向かって車を走らせていた(私に)突然ある考えが私に思い浮かんだ。》
A? Walking down the boardwalk, a tall building came into view. [3]
   《海辺の遊歩道を歩いていた(私に)高い建物が見えてきた。》
B? Being the eldest, the responsibility fell particularly on my shoulders.
   《長子である私の両肩にその責任がとりわけのしかかった。》
C? Advised to study anthropology, his choice was psychology instead.
   《人類学を研究するよう助言された彼の選択分野はその代わりに心理学だった。》
D* Reading the evening paper, a dog started barking.
   《夕刊を読んでいた犬が吠え始めた。》
E* Using these techniques, a wheel fell off.
   《これらの技術を用いる車輪が外れた。》
F* Opening the cupboard, a skeleton fell out.
   《戸棚を開けた骸骨が落ちてきた。》
G* Grilled on charcoal, everyone enjoyed the fish they caught.
   《炭火で焼かれた誰もが捕った魚を満喫した。》
H* Having eaten our lunch, the steamboat departed.
   《私たちの昼食を食べ終えた蒸気船は出航した。》
   (《  》内は仮の日本語訳。文例番号と下線は引用者。記号「?」については[6−2]参照、記号「*」は種々の記号の用法を説明する頁に「容認不可能[unacceptable]」(ibid, x)とある。記号「*」については更に[1−24]参照)

   なお、次の文例は、関係づけは不適切ではないとされている例である。

   IThe siren sounded, indicating that the air raid was over. [‘…which indicated that …’] (ibid, 15.59)〈サイレンが鳴り響き、空襲の終わったことを告げた。〉(文例番号と下線は引用者)

   この文例は、「(分詞と暗黙の主辞の)結びつけ規則[attachment rule]は一部の事例には適用されないか、少なくとも緩やかなものとなる」例に含まれ、そのうちの「暗黙の主辞が母型節全体である」例として挙げられている。分詞句の暗黙の主辞は"The siren"ではなく、"The siren sounded"という母節全体であるというのが、CGELの見解である。

   ちなみに、「分詞句の暗黙の主辞が母型節全体である」事例の出現頻度についてはCGELの記述から窺い知ることはできないが、私の体験によれば、「暗黙の主辞が母型節全体である」ような分詞句はありふれており、かなりの頻度で出現するということだけをここでは述べておく(例えば(5−3)(Mr Hull said BMW wanted to move quickly with a sale of Rover Cars, worried that the market would pull its share price down if delays were incurred.)という形式中の-ed分詞句より遥かに頻繁に目にする)。

   私見では、「その暗黙の主辞が母型節全体であるような分詞句」は関係づけが適切に行われている分詞句であり、従って「結びつけ規則が適用されない例」にも「結びつけ規則が緩やかなものとなる例」にも含めるべきではない分詞句である(この種の分詞句の例については[1−9], [2−1]参照)。ここで確認し得るのは、CGELに挙げられている、「暗黙の主辞と結びつけられていない分詞」の例のすべてが、文頭に位置する分詞句の例であるということである。関係づけが誤たれている(あるいはそれに類する)例としては、文頭に位置する分詞句が最も選ばれやすいことが分かる(分詞句の他に、更に九例挙げられているが、すべて文頭の句である)。

   PEGでは既に挙げた文例(第六章第1節参照)のほかに、「接続詞+分詞句」を含む文例を二例挙げている。

JWhen using this machine it must be remembered …….
KBelieving that I was the only person who knew about this beach, the sight of someone else on it annoyed me very much. (280)
   (Jにカンマがないのは原文通り。文例番号、太字体、下線は引用者)

   それぞれ以下のように改められることになる。

LWhen using this machine you must remember …….
   〈この機械を使う時は、…を忘れてはいけない。〉
MAs I believed I was the only person etc. or
   Believing that I was the only person on the beach, I was annoyed by the sight of someone else. (ibid)
   〈浜辺にいるのは自分だけだと思っていた私は、人影に当惑した。〉
   (Lにカンマがないのは原文通り。文例番号、太字体、下線は引用者)

   PEGにおいても、「関係づけが誤たれている」例としては、文頭に位置する分詞句が最も選ばれやすいことが分かる。

   また、PEUの「455 participle clauses(分詞節)」中には、《分詞構文》に相当する分詞句(慣用的分詞句と絶対分詞句は除く)を含む文例は十一例挙げてあり、内九例では分詞句は文頭に位置している。文末に位置する分詞句のうち、一例は、"It rained for two weeks on end, completely ruining our holiday. (= . . . so that it completely ruined our holiday.)"(下線は引用者)〈二週間雨が降り続き、おかげで私たちの休暇は台無しになった。〉である。この文例については後述する(第六章第1節参照)。そして、分詞句の暗黙の主辞が母節の主辞ではないがために誤りとされる例としては以下の一例が挙げられている。

N * Looking out of the window of our hotel room, there were lots of mountains. (455)(下線は引用者)
   《*ホテルの部屋の窓から見た山々の連なりがあった。》(記号「*」については[1−24]参照)

   文例Nには「これではあたかも山々が窓から外を眺めているようだ」という注意書きが添えられている。

   PEUに見て取れるのは、「副詞節に類似した」(455)使われ方をされる分詞句については、文頭に位置する分詞句が集中して選ばれているということ、つまり、副詞節に類似した働きをする分詞句の位置としては、文頭が最も意識されているということである。またここでも、「関係づけが誤たれている」例としては、文頭に位置する分詞句が優先的に選ばれていることを確認できる。

   また、Azarの前掲書(UNDERSTANDING AND USING ENGLISH GRAMMAR)中の「誤りを探して訂正する」練習問題(EXERCISE 31--ERROR ANALYSIS)の9番に、"After graduating from college, my father wants me to join his business firm."〈大学を卒業した後の父は私に父の会社に入るよう望んでいる。〉(p.300)という例を見ることができる。

   綿貫陽・淀縄光洋・MARK F. PETERSEN『教師のためのロイヤル英文法』の"Petersen Corner [48] DISAGREEING SUBJECTS"は初めから「文頭の分詞構造」に的を絞っている。

文頭の分詞構造["Head-of-the-sentence" participial constructions](例えば、"Being a hot day, we went to ...")は、英語を母語とする人たちにもっとも誤用されているもののひとつであることは確かである。(p.147)
(下線は引用者)
更に、"Using the right key, the door was easy to open." (p.147)(下線は引用者)という例が挙げられている。

   林語堂著、山田和男訳『開明英文法』は「分詞によって修飾される語(名詞または代名詞)に関しては、よく注意しなければならない。分詞句を導びく分詞は、その分詞句の従属する主節の主語を修飾すべきものなのである。」(9.41 分詞の誤まった結びつけ方(Misconnected Participles))(訳文のまま)と述べ、次のような例を挙げている。

つい次のような言い方をし兼ねない。
Having finished my lesson, the teacher let me go home first.
レッスンを済ませたのは先生ではないので、上の文は誤まりである。次のように言うべきである。
Having finished my lesson, I was allowed by the teacher to go home first.(ibid)(訳文のまま)(太字体と下線は引用者)
同署はまた、次のような練習問題を載せている。
練習78  次例を研究し、分詞の結びつけ方が何故問逮っているかを調べよ。正しい分詞構文を作り上げるのが難しい場合には、他の文形を用いてもよい。例えば、"As I have finished my lesson" とか" When he was three years old "の如くである。

1. Being three years old, his father died.
2. Not knowing the strange town, the guide showed me the different places worth visiting.
3. Having punished them enough already, cannot the prisoners be set free now?
4. Being desirous to settle the accounts, will you please send me the amount due by return post?
5. Being a movie fan, Colman and Barrymore are his favourites.
6. Being a despotic ruler, the people disliked him.(ibid)

   全て文頭の分詞句である。

   FowlerがA Dictionary of Modern English Usageの"UNATTACHED PARTICIPLES & adjectives (or wrongly attached)"の項の中で、関係づけという点からみて「だらしない用法[slovenly uses ]」の例として挙げてあるのはすべて文頭(ないし節頭)に位置する種々の句である。以下で、括弧内の初めの名詞句は分詞や形容詞が「結びつけられるべき名詞」、二番目の名詞句(括弧内の太字体の語)は「誤って関係づけられている名詞」であるとされている。

Unlike the other great European capitals which lay themselves out to cater for the tourist, Russian is the only language spoken (the capital in question; Russian).
A belief that a Committee of Inquiry is merely an evasion, & that, if accepted, the men will be caught out (Committee; men).
Experiments have shown that, while affording protection against shrapnel, the direct bullet at moderate range would carry fragments of the plate into the body (plate; bullet).
Based on your figures of membership, you suggest that the Middle Classes Union has failed (suggestion; you).
I would also suggest that, while admitting the modernity, the proofs offered by him as to the recent date of the loss of aspiration are not very convincing (I; roofs).
A girl fell on a pen, which pierced her eye, & causing meningitis, she died (which; she).
Having muzzled the House of Lords it is difficult to see at the moment any real obstacle to the successful passage of the Bill (the Government ;-- )・
Whilst placing little hope in the present dynasty, it is always possible in the East for some official to rise to power who may change the destinies of his people (we; official).(太字体と下線は引用者)
   ここでも関係づけに問題ありとして挙げられている例が全て文頭(あるいは節頭)に位置する句であることを確認できる。(「関係づけが誤たれている」ということと、文として適切であるかどうか、は別のことである。ここで紹介したCGELの記述と文例、さらに同書15.59参照。どのような場合に「関係づけが誤たれている」と判断すべきか、は更に別の問題である。)

(〔注6−5〕 了)

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