『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第六章 開かれた世界へ

第5節 解読という誘惑


〔注6−38〕

   ちなみに、大江三郎『講座第五巻』「Y.分詞構文」中の「1.概観」と「2.分詞句の位置」だけを調べても(3.は「独立分詞構文」)、そこに引用されている用例は、著者名(全て小説家)だけで出典が明らかにされているもので計二十例(go + -ingの二例と, come + -ingの一例は除く)、内十八例は登場人物の動作や状態が描かれた文中で使用されている(動物の動作や状態が描かれた文中で使用されている分詞句が二例だけある)。内訳は、文頭(-ing句九例;-ed句一例)、文中(-ing句四例)、文末(-ing句七例)である(複数の分詞句を含む引用例が一例あるため、総計は二十一例となる)。小説に文例を求めた場合、用例に片寄りが生じる傾向甚だしく、ために、小説はカンマを伴う分詞句の多様な用例を体験するのに最適な言語資料ではないと私は判断している。本稿で、私が編纂中の用例集から挙げている文例に、小説から引用したものはない。

   例えば、Dick Francis, TWICE SHYの第一頁だけを見ても、日本の学校英語で《分詞構文》(《独立分詞構文》は除く)と通称される分詞句を五ヶ所に見出せる(すべて文末の分詞句。-ed句一例、 -ing句四例)。-ing句のすべては、登場人物の瞬間瞬間の動作行為を表現した例であり、その多くの場合に、「副詞的勾配」([6−6]の末尾、及び[6−19]参照)を感知しやすい。

   第四章冒頭でも述べたように、本稿は「全ての用例をインターネット上から拾うという方針を立てた」(その結果、別種の片寄りが生じる可能性までは否定しない)。言語資料を「英国や合衆国の主要な新聞・雑誌だけではなく、様々な国や地域の、日本ではその名も存在も知られていないような英語媒体、更には、大学案内、各種パンフレット、企業や各種商品の紹介文、求人案内など」に求めた。今この世界で日常的に飛び交っている英文に求めた。私宛のダイレクトEメール(殆どは"spam"即ち"junk e-mail"である)からも文例を紹介する機会があるかもしれない。

(〔注6−38〕 了)

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