『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第六章 開かれた世界へ

第3節 ある教科書が自ら身を置いた窮境


〔注6−19〕

   同じように主辞の直後に置かれた「カンマ+分詞句」でも、副詞的勾配の方を感知しやすい(「分詞句と母節[1−10]」の関係の方が優位であると感じられる)場合と、形容詞的勾配の方を感知しやすい(「分詞句とその暗黙の主辞」の関係の方が優位であると感じられる)場合がある(「勾配」については[6−6]の末尾参照)。

   さて、以下の二つの文例中のいずれの分詞句がいずれの場合に当てはまるだろうか。

   The Arab countries, driven by a wave of sympathy for the Palestinians, are expected to give him a massive endorsement, as well as promises of support.
〈アラブ諸国はパレスチナの住民に対する共感のうねりに押されており、支援を約束するにとどまらず、氏を断固として支持するものと思われる。〉
(注) him : Mr Arafat
(Clinton brokers peace deal, but no one will sign By Anton La Guardia in Sharm el-Sheikh, Electric Telegraph, Wednesday 18 October 2000)

   あるいは[1−13]で既に挙げた例。

The strategy, called Plan Colombia, seeks $3.5 billion in international aid in the next three years.
この行動計画はコロンビア計画と呼ばれており、今後三年間で35億ドルの国際的支援を求めている。
(注)The strategy:コロンビアの麻薬撲滅計画[an anti-drug plan]。
(注)コロンビアの麻薬戦争に13億ドル援助する法案を合衆国下院が可決したという記事。
($1.3 Billion Voted to Fight Drug War Among Colombians By ERIC SCHMITT, The New York Times ON THE WEB, June 30, 2000)

   主辞の直後に置かれた「カンマ+分詞句」の中には副詞要素であると確言されるようなものもある、とする記述もある。

一般的に補足(節)[supplementive]であると明白に分類されるようなものが二種類ある。
(a)助動詞もしくはbe動詞を含んでいる-ing節。
The children, having eaten their fill, were allowed to leave the table.
The old man, being of sane mind, dictated and signed his will.
このような-ing節は普通、名詞句の後置修飾要素[postmodifiers]とはなりえない。(CGEL, 15.61)
(もう一種類の「補足(節)[supplementive]であると明白に分類されるようなもの」である「(b)無動詞形容詞節」については[3−3]参照。「補足節」については[1−4]及び[3−3]参照)
   こうした記述の支えとなりそうな記述を紹介しておく。PEUは、"*Do you know anyone having lost a cat" (PEU, 454)(記号「*」については[1−24]参照)を「典型的誤り」の例として挙げている。「二つの動詞の活動作用[actions]に時の相違[time difference]がある場合、分詞は用いることができないのが普通である。」(ibid)と説明され、適切な文として、"Do you know anybody who has lost a cat?"(ibid)が示されている。また、「"Being"は、受動的動詞構造[passive verb constructions]の場合を除いては、形容詞的節[adjectival clauses]においては使用し得ない。」(ibid)として、次のような文例が挙げられている。
Anybody who is outside after ten o 'clock will be arrested.
(Not: *Anybody being outside . . .)
Did you see that boy being questioned by the police? (passive) (ibid)
   助動詞もしくはbe動詞の-ing形に導かれる-ing節は名詞句の後置修飾要素とはなりえないといったCGELの指摘を考慮に入れ、"The children, having eaten their fill, were allowed to leave the table."。(CGEL, 15.61)にみられるような分詞句を、本稿では今後、「非制限的名詞修飾要素」と表記する代わりに「並置分詞句」と表記することもある。"apposition"に「同格」の代わりに「並置」という語を充てることは既に[1−1]で述べた。"apposition"の語義を考えた場合、これに「同格」という語を充てることは不適切であると考えたからである。
別の名詞を説明したり特徴づけたりする名詞は、その傍らに置かれ、その位置ゆえに、並置要素[an appositive](即ち、傍らに置かれた[placed alongside of])と呼ばれる。
(CURME, Syntax, 10-III-1)(下線部は原文では斜体)
   Curmeの「並置要素[an appositive]」は名詞という形態に限定されるわけではない([1−1]参照)。

(〔注6−19〕 了)

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