『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第六章 開かれた世界へ

第1節 異邦人の孤立


〔注6−6〕

   「副詞的勾配の感知」はCGELでは至るところで示されている。次の箇所では「副詞的勾配」が相当に感知されている(以下の引用については第二章第5節参照)。

非制限的後置修飾は非定動詞節を用いても実現可能である。例えば、
The substance, discovered almost by accident, has revolutionized medicine. (’ which was discovered almost by accident ….’)[2]
〈その物質は殆んど偶然に発見され、医学の世界を革新した。〉
……
非制限的非定動詞節は意味[meaning]を変えずに文頭に移すことが可能である。例えば、
Discovered almost by accident, the substance has revolutionized medicine. [2a]
〈殆んど偶然に発見されたその物質は、医学の世界を革新した。〉
しかし、こうした可動性[mobility]は実は、非制限的非定動詞節が名詞修飾的[adnominal]働き[role]をするものなのか副詞的[adverbial]働きをするものなのか曖昧であるということを含意している。(17.34)(下線は引用者)
   ただし、[1−13]でも挙げた以下の例は分詞句が名詞句を後置修飾する例として挙げられており、カンマについても「副詞的勾配」にも言及されることはない。
The spy, carefully hidden in the bushes, kept watch on the house.
The spy, carefully hiding in the bushes, kept watch on the house. (ibid, 17.100)(下線は引用者)
   並置要素[appositive]の場合にも「副詞的勾配」は感知される。 本稿では”apposition”に「同格」ではなく「並置」という語を充てる([1−1]参照)。同格語・句・節の総称である「同格要素」の代わりに「並置要素」を用いる。
The river lay in its crescent loop entirely without movement, an artifice of green-black liquescent marble.
〈その川は微動だにせず三日月の弧を描いており、溶解した暗緑色の大理石からなる造化であった。〉(ibid, 14.9)(下線は引用者)
   この文について次のように述べられる。なお「この名詞句」とは”an artifice of green-black liquescent marble”を指す。
我々はこの名詞句を副詞要素として機能している無動詞節[verbless clause]と見なすことができよう[could]。(ibid)
   同じ名詞句でもその位置によっては「並置要素」へと傾く。
文末の名詞句が主辞に隣接して置かれていた[had been placed]とすれば、我々はそれを完全並置[full apposition]と見なしたことであろうに[would have regarded]。(ibid)
(「完全並置」と「部分並置[partial apposition]」については[7−12]、もしくはCGEL17.66参照)
   ちなみに「文末の名詞句」を主辞に隣接した位置に置けば次のようになる。

   The river, an artifice of green-black liquescent marble, lay in its crescent loop entirely without movement.

   また、並置については次のように述べられている。

並置はまず第一に、そして一般的に、名詞句同士の関係である。(CGEL, 17.65)
並置によって示される関係は繋辞関係に類似している。(ibid)
こうした並置の例は、非制限的後置修飾、特に非制限的関係詞節と同等と見なされることがある。(ibid)
(「こうした並置の例」とは”A neighbour, Fred Brick, is on the telephone.”)
   並置要素"Fred Brick"は"A neighbour"を、並置要素"an artifice of green-black liquescent marble"は"The river"を非制限的に修飾する名詞要素と判断し得る。

   更に、形容詞句についても、殆ど同じ記述が繰り返され、「副詞的勾配の感知」が示される。

主要語[head]が、等位的に連なる形容詞群によって非制限的に[nonrestrictively]修飾される場合、形容詞を後置することが普通である。即ち、
A man, timid and hesitant, approached the official. [4]
〈一人の男がおどおどと躊躇いを露わに、その係員に近づいた。〉
しかしながら、等位的に連続する形容詞群の潜在的可動性[potential mobility]は、この形容詞群が全体として名詞句から引き離されることを許容し、さらに、この形容詞群が名詞句の一部というよりむしろ副詞的要素[adverbial]であることを示す
Timid and hesitant, a man approached the official. [4a]
A man approached the official, timid and hesitant. [4b]」(17.58)(下線は引用者)
   CGELでは「勾配[a gradient]」は次のように説明されている。
勾配[a gradient]とは、類似性と対立性の程度という点から、二種類の範疇(例えば、二種類の品詞)を関連づける傾向尺度[scale]である。この両端には、いずれかの範疇に属することの明確な項がそれぞれくる。この傾向尺度の中間の位置は「どちらつかずの」事例、つまり、一方の範疇の基準も他方の範疇の基準も、程度は様々ながら、満たすことのできない項によって占められる。
   例えば、"and" と"if"はそれぞれ明確に「等位接続詞」と「従位接続詞」であるが、"for"は「中間的位置」にあり、"for"については従位接続詞的勾配も感知されるということになる。

   関係詞節による修飾の在り方についても「勾配」が語られている。

制限的と非制限的の区別は有用である。しかし、そうした区別は同種の二つの範疇間の二分法であるというよりむしろ勾配[gradient]であると見なす心構えをもつべきであろう。(CGEL, 17.21)([1−18]参照)

  

(〔注6−6〕 了)

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