『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第6節 何が曖昧なのか

その七 「相[aspect]」の曖昧さ


〔注7−90〕

   以下の文例は「(1)「付帯状況」を表す分詞構文」の例として挙げられている。

@ Placing his hand on her thigh, Steve whispered, "I love you."
   (手を彼女のももの上において、「愛しているよ」とスティーブはささやいた)
A Michael was driving along the country road, singing and whistling.
   (マイケルは歌を歌ったり口笛を吹きながら、田舎道をドライブしていた)
(堀口・吉田『英語表現文法』p.209)
   これらの文例については次のような解説が付されている。
@Aは、それぞれ、次の2文が分詞構文で1文になったものであり、同時進行的な付帯状況を表している。
@(a) Steve placed his hand on her thigh.
    (b) Steve whispered, "I love you."
@は(b)を中心の文(主節)として、(a)の動詞を分詞化し分詞構文にしたものである。主節の主語と分詞化した動詞の主語が同じときは、主節の主語だけを示せばよい。
A(a) Michael was driving along the country road.
    (b) Michael was singing and whistling.
Aは(a)を主節として、その付帯状況として(b)を分詞構文化したものである。@と同様、2つの文の主語が同じだから主節の主語を示すだけでよい。(ibid)
   文例@中の"Placing ......"は「置きつつあった」ではなく、「置いた」という瞬間的動作活動であるとともに、その後に「離れる」という動作活動が生じない限り、「手は彼女のももの上にあった」という継続的事態をもたらしもする。ただ、この-ing分詞句は継続的動作活動を表しているわけではないという点で、ここには相に関する曖昧さは感じられない。文例@を「手を彼女のももの上に置いた。そして(手を彼女のももの上に置いた状態で)『愛しているよ』とスティーブはささやいた。」と解釈し、この-ing分詞句を「(2)二つの動詞の表す動作活動に時系列を見て取れる場合」に分類するか、「手を彼女のももの上に置いた状態で、『愛しているよ』とスティーブはささやいた。」と解釈し、同時発生あるいは付帯状況([1−4], [7−81]参照)と分類するかは、既述のように、個々の受け手の存念次第である。文例@については[7−79]参照。

(〔注7−90〕 了)

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