「――これは、ジュネーブで夏を過した時(1974年)から一年ばかりの間に、数回、見知らぬ女が深夜、枕辺に現れて、書いて欲しいと切々とうったえる如く語って、作者を苦しめた物語である――」冒頭のこんな文章から始まる女の結婚生活を描いた書き下ろし。これは実話ですが、書き上がった作品を見て、結局は自分の意識に在った女性像が夢枕に現れたと、随筆『こころの広場』のなかで結論づけています。また作者はこの作品により作家生活のうちに、夫に生きた若子(『愛と死の書』)と子に生きた伸子(『巴里に死す』)と自己に生きた美子の3種類の立派な日本女性を書いたのではないかと顧みています。

狭き門より
全296頁
1976年8月20日 発行
定価 1,100円
株式会社新潮社
絶版



【 掲載作品 】

狭き門より