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TIME'S EYE

  • 著者:アーサー・C・クラーク/スティーヴン・バクスター
  • 発行:(2005/3)Del Rey $7.99(マスマーケット版)
  • 2005年読了時、本邦未訳
    早川書房より邦訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 バクスターとクラークとの共著第2弾である、Time Odysseyシリーズの第1作です。
 最初の共著「過ぎ去りし日々の光」では、バクスターはクラークの威を借りた新鋭作家という趣でしたが、本作は本格ハードSF作家2人の堂々たるコラボレーションになっています。
 ひとことで言うと(^o^;)、わが「戦国自衛隊」の地球版なのですが、宇宙ひも理論によるタイムスリップの原理説明や、異なる時代の地殻と大気が混ざりあった結果結果発生する大規模な火山活動や気象変動、生物としての人類の本質の考察など、そのスケールと深遠なアイディアは、やはりこの2人ならではです。
 本書には、ペーパーバックにはめずらしく、巻末に2人の作家へのインタビュー記事が付いていますが、それによると、このTime Odysseyシリーズは、クラークの「Space Odyssey」シリーズのモノリスのアイディアと、バクスターの「Manifold」シリーズの世界観を融合させたということで、随所に両作品を彷彿させるシーンが出てきます。しかし、ライティングはほぼバクスターが行ったらしく、作品の味わいはほとんどバクスターのものです。クラーク作品を期待して読むと違和感が大きいでしょう。
 バクスターは、近年、マンモス・シリーズの原始時代に始まって、タイム・シップでは近代ロンドン、Coalescentではローマ末期のヨーロッパなど、過去をリアルに描き作品に厚みを持たせていますが、本作でもアレクサンダー大王と、ジンギスカンの軍隊のありさまが克明に描かれ、戦記ものとしてもなかなか楽しめます。

 しかし、9.11以降の世界に対する2人の作家の考え方なのでしょう。舞台となるアフガン国境から現イラクの地域が有史以来、21世紀まで、同じように諸勢力がぶつかり合ってきた地域であることが示されます。作中でキプリングが述べる「人間はもともと戦争が好きな動物だ」という主張が心に残ります。
 あとがきでバクスターも触れているのですが、2004年オリバー・ストーン監督の映画「アレキサンダー」が公開されました。そこで暗喩として示されているのは、現在アメリカが振りかざす正義の空虚さです。見てから読むことをお勧めします。
 一方、Time's Eyeの改変された世界では、モーゼもキリストもモハメッドも生まれないことが暗示され、ジンギスカンの刃から辛くも逃れた辺境の仏教寺院にかすかな希望が託されます。この辺は、キリスト教、イスラム教などの一神教に否定的な、クラークの考えなのでしょう。

 本作の主人公・平和維持軍のイギリス軍女性兵士ビセサの名は、キプリングの短編Beyond the Paleに登場する、インド人少女の名です。彼女はシリーズ第2作「Sunstorm」にも登場しますが、改変世界に取り残されたアレクサンダー大王と、19世紀、21世紀の兵士達のその後も気になるところです。
 本書は、 2006年12月、ハヤカワ書房から「時の眼―タイム・オデッセイ」として翻訳が出ました。

●ストーリー●
 1885年、アメリカ人の記者、ジョシュ・ホワイトは、イギリス人の記者ラディとともに、英国領インド(現パキスタン)とアフガニスタンに駐留するグローヴ大尉の率いる英国軍に同行していた。部隊は、なぜか外部との連絡が全く取れなくなっていた。そのとき、砦の中に不思議な球体が現れ、直立猿人の親子が出現する。
  2037年、パキスタンとアフガニスタンの国境では、2020年にラホールを壊滅させた限定核戦争以来も各国の利害が対立し、緊張が続いていた。平和維持軍に参加していたイギリス軍の女兵士ビセサと2人のパイロットは、ヘリコプターで偵察中に不可解な乱気流に巻き込まれ、墜落してしまう。しかし、そこは、ジョシュ達のいる1885年のアフガンだった。 そして部隊の同行記者のラディこそ、後にノーベル賞を受賞するイギリスの大詩人ジョセフ・ラドヤード・キプリング作品)の若き日の姿だった。
 一方、ソユーズで地球への降下準備に入っていた3人の宇宙飛行士、ロシア人のムサ、コーリャ、アメリカ人黒人女性セーブルは、突然地球とのリンクを失い、軌道上に取り残される。宇宙から見た地表は、パッチワークのように異様な変貌を遂げていた。 

 ビセサたちが遭難した地表は、いかなる衝撃にも反応しない異次元の存在らしい謎の球体を「眼(Eye)」が等間隔に浮かび、複数の時代の地表がモザイクのように混在していた。そして、イラクのあった場所からは、人間のものではない強力なビーコンが発信されていた。その場所は、バビロン

 ビセサと19世紀の英軍は、紀元前4世紀のヨーロッパの覇者、アレクサンダー大王らと行動を供にし、バビロンを目指すこととなる。

 しかし、同じころ、中央アジアに着陸したソユーズの乗組員は、13世紀のアジアの覇者、ジンギスカンに捕らえられ、バビロンへと向かう。

  十数世紀を隔て相まみえるはずのない両雄が、バビロンで出会うとき何が起こるのか。ビセサたちは元の地球に戻れるのか。そして、「眼」の正体とは何か。



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