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Titan

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:(1998/11/01)Harpercollins $7.99(マスマーケット版)
  • 2005年8月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★☆☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 宇宙開発計画が存亡の危機にさらされる中、その存続に命をかけるNASAの宇宙飛行士たちの苦闘を広大なスケールで描きます。

 

 本書は1997年の出版ですが、その数年後に意外なところで注目を集めました。2003年にスペースシャトル・コロンビアが空中分解し乗員全員が死亡する事故が起こりましたが、偶然にも本書でもコロンビアが墜落していたのです。2004年に中国が三番目の有人宇宙飛行国となることも当てています。宇宙開発オタクでもあるバクスターの慧眼というべきでしょう。

 ただし、最後に人類を超えた大宇宙へと話が広がるのは、やはりバクスター流です。

 

 さて、個人的に気に入った見せ場は、NASAの成功を良しとしない空軍の一味が、博物館入りしていた史上最速の超音速実験機、X-15で、スペースシャトルを撃墜しようとする場面です。

 スペースシャトルは個体ロケットを分離し、マッハ4で上昇を続ける。しかし、世界で唯一、このX-15のみが、それに追いすがることができるのだ。俺は、ガンサイトの照準を合わせた。レーガン時代に開発され眠りについていた衛星破壊ミサイルASATが、今、轟音とともに上昇するシャトルめがけて発射された。―

 うわぉお!カッチョイイィ〜!!!!!

 

 なお、本書はNASAを舞台にしているため、"Voyage"、"Moonseed"とともに「NASA三部作」と呼ばれますが、三作品は全く独立した物語です。

 

●ストーリー●  ※ネタバレあり。ご注意ください

 

 2004年、女性宇宙飛行士のベネセラフは、スペースシャトル・コロンビアで初めてのミッションを行うが、その帰途コロンビアは空中分解し彼女一人がからくも生還する。

 

 その頃、アメリカでは、虚無主義者のテロが頻発して、社会情勢が不安定化していた。保守化・キリスト原理主義的な傾向が強まる中、次期大統領選挙で超保守派のマクラレンが当選すれば、NASAの宇宙開発は終焉せざるを得ない。NASA長官アダマールは、早急にシャトル失敗を挽回し世論を味方に付けるため、ヒーローとなったベネセラフに宇宙計画の建て直しを託す。彼女は、既成事実を作り一発逆転を狙うため、ジェット推進研究所(JPL)が密かに研究していたタイタンへの有人飛行を決断する。
 その計画は、NASAの保有する全てのシャトルや博物館のアポロ宇宙船、サターン5型ロケットそして宇宙ジャンキーの宇宙飛行士など、残る遺産を総動員して片道飛行を行う、無謀なものだった。

 

 ベネセラフは、タイタンの資源の可能性と中国の脅威を巧みにちらつかせて予算を獲得し、軌道上にシャトル、国際宇宙ステーション、アポロ司令船をつなぎ合わせた急造宇宙船を組み立てていく。

 一方、空軍の超タカ派は、NASAから宇宙開発予算の奪還するためタイタン計画の妨害を目論む。博物館に眠っていたX-15が秘密裏に復活し、シャトル撃墜の命令が下される。ベネセラフら5人の宇宙飛行士はかろうじて攻撃をかわすが、彼らを待っていたのは想像もしなかった長い地獄への旅路だった。

 



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