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In The Lion's Mouth

  • 著者:マイケル・フリン
        ( Micheal Flynn )
  • 発行:2012 / $7.99 (TOR)
  • 2013年3月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★★★
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 フリン入魂の銀河シリーズ第3巻。(シリーズの公式名がない!)

  <これまでのレビュー>

  第1巻 The January Dancer (舞台設定付き)

  第2巻 Up Jim River


 このシリーズは、登場人物自身が話の顛末を振り返る形で語られますが、今回の語り手は敵対勢力シャドウの女スパイ、レイヴン・オラフスドッターです。レイヴンは、1巻・2巻にもわずかに登場していて、漆黒の肌と超絶的な身体能力で強い印象を残しました。今回はいよいよメインキャラクターとしての参加です。

 ところで、本作は言葉の「なまり」をそのまま表記する手法をあちこちで取っていますが、レイヴンのはけっこう凄いです。

  "Ooh,noo. Nayver to keel him - oonless he fell his dooty."

  "He woonted to coome, boot he was tied oop."

 Nayver = Never 、keel = kill 、oop = up だと思いますが、果たしてネイティヴの読者はどういう印象を受けているんでしょう。


 さて、前作Up Jim River では、ドノバンがシャドウの妨害工作をかわしてブリジットを窮地から救い出し、娘ミーラナとの絆も深まりました。本巻では、明らかとなった人間関係を軸に、ドノバンの過去と、敵対する地球を中心にした勢力「中央世界連盟」、その諜報機関「シャドウ」の異様な姿が少しずつ明かされてきます。なお、Lion's Mouthとは、ご想像通りシャドウたちの「虎の穴」です。

 しかし、3部作かと思ったら今回も謎は全ては明かされず、すでに第4巻目、On the Razor's Edge の発売が2013年7月と予告されています。もしかしたらフリンは、相当長いシリーズを想定しているのかもしれません。この読解困難な「なまり表記」にどこまで付き合えばいいのか、悩むところです。


PS@: このシリーズについてフリンのインタビュー記事 を発見。

PSA: 第4巻 On The Razor's Edge のレビューはこちら


●ストーリー●

 辺縁同盟の超保安官ブリジットと娘ミーラナは、館でミーラナの父・ドノバンの到着を待っていた。そこに敵対する女エージェント・レイヴンが訪れ、彼女らにドノバンの身に起こった出来事の顛末を語り始める。

 ドノバンは、ブリジットらが暮らす惑星に向かう途中、レイヴンに急襲され拉致されたのだ。ドノバンは幾度も脱出を試みるが、あるきっかけで中央世界連盟に同行することを承諾する。

 その頃、辺縁同盟に敵対する中央世界連盟内(CCW)では混乱が起きていた。

 レイヴンらが属するのスパイ組織「シャドウ」は、中央統括される組織ではない。中世の騎士のように、シャドウ一人一人が卓越した個人的能力により畏怖され、多くの部下を擁して治安維持に当たっていた。このためシャドウ同士は同僚ではなく、功績と能力を競い、折あらば抹殺しあうライバル関係ですらあった。

 そして今、支配体制「Those of Name」に絶対の忠誠を誓うロイヤル・シャドウたちに対して、一部のシャドウたちが反乱を企てていた。レイヴンは自らが使える反乱派のシャドウのため、反乱の切り札として、ドノバンを拉致したのだ。

 反乱派シャドウが秘密裏に集う惑星に降り立ったドノバンらは、何者かに襲われる。反乱派内部にも裏切り者がいる可能性がでてくる。

 反乱派首脳と面会したドノバンは、意外な事実を知らされる。ドノバンは、かつてシャドウの一員で、戦闘能力強化の実験の結果、人格の分裂と記憶の欠損を引き起こしたというのだ。そして、失われた記憶の中に、主流派の本拠・地球の「シークレット・シティ」への侵入経路があるはずだという。ドノバンは、真実の自分と誇りを取り戻すために、反乱への協力を承諾する。

 やがて、ロイヤル・シャドウと反乱派の衝突が始まる。シャドウ同士の秘術を尽くした戦闘は激烈を極める。劣勢に見えた反乱派だが、レイヴンの「パダボーンが戻ってきた!」声に、形勢は逆転する。


 反乱は成功するのか、ドノバンの過去に隠された真実とは何か。物語は、いよいよ闇の中心に潜む地球へと向かっていく・・・



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