こうしてまた一人の迷える『犬』を救ったのだね。マゾの本性を見抜かれることへの怯えがM氏にはなかったのだろうか、と想像したが。マゾ性を発現させられる相手との邂逅を心待ちにしてきたM氏にとっては、本性を晒されることの恐れよりも、長年胸に抱いてきたマゾへの憧れの方が大きかったのだろうね。そしてまた、カオルが女の悦びに導いてくれるだろう相手として直感と洞察とからM氏を選んだように、M氏もまたマゾの本能としてカオルをミストレスとして選んだのだろうと想像した。それにしても、プライドで固められていたであろうエスとエムの境界線をあっさりと超えさせてしまうカオルの力・・・相手の瞳に一瞬浮かんだ微妙な変化をも見逃さず、隠していたであろう本性を瞬時に嗅ぎ取る嗅覚と眼力。そして、それを炙り出す蠱惑的?であろう眼差し(一連の巧みな言葉もそうだが)には感服する。「お前・・・マゾだね?本当は」とカオルに問われたM氏には自分の心に尋ねる時間も、躊躇する間もなかったと想像する。長く保ってきたポジションを崩すことの恐怖を断ち切ることと引き換えに強烈な快楽のご褒美をもらったであろうM氏は、カオルというミストレスに自分の居場所を見つけて、長く飼われることになったのだろうか、とまたしても昔語りの続きを聞きたくなってくるが、ほんの一時と決めて立ち寄ったカオルを引き留めるのは、身勝手というもの。好奇心を満たすべく私が発した我が儘に快く応じてくれたカオルには改めてここで感謝の意を伝えておきたい。そして我が儘ついでに言わせてもらえば、またいつでも羽を休めにこの薔薇の園に立ち寄ってもらいたいと思う。そのときまで、私はまた、薔薇の園の手入れを続けるとしよう。 |