【コウタ・メール5】 『コウタには時間がなくなりました』
平成14年12月4日

、、、皆さん、状況が変わりました。コウタには時間がなくなりました。

たまたま、名古屋から出てきている叔母を名川家まで送っていった晩、コウタの両親は主治医から呼び出され、コウタの移植は4ヶ月後がリミットであることを宣告されて帰ってきました。
両親も、もちろん私も、半年くらいかけてドナーを探して移植するものだとばかり考えていたのでショックが隠し切れません。それ以上に、私は病院のインフォームド・コンセプトに強い疑問を感じ始めています。
「海外移植にはコーディネートの時間がない」というなら、なぜ「個人負担でも近親者のHLAを調べたい」という両親の希望に対して、「適合する確率が低いことを考えると、その費用は海外移植に取っておいた方がいい」などと主治医は言ったのでしょうか。また、主治医は「5/6しか適合していない韓国の臍帯血を使用するより、母子寛容移植の可能性を見た方がいい」と考えているのに、「トップの考えがボクと違う」みたいな説明。それは、自分の医療行為に責任を取っていないということではないでしょうか。医者は人の命を扱っているのに!

最初の説明は、「このまま化学治療だけだと生存確率は10%です」とのことでした。でも、韓国からの臍帯血を移植する成功率も10%と言われ、両親は戸惑っています。
骨髄バンクのドナー登録のお願いは続けて参りたいと思います。それは、コウタはもちろん日本だけでも約2000人が適合者を探しているからです。
コウタだけのことを考えると、12月いっぱいにドナーを見つけないと、韓国から頂く臍帯血の移植になります。私の出来ることは、まだ詳しい情報が届いていない名古屋の親戚に、この厳しい現状を伝えることです。母方の親戚は適合率が父方より少し高い、、、という噂も聞きました。
フィラデルフィア染色体型の白血病には時間がないそうです。ベストは骨髄の適合者が現れることです。コウタ・メールを読んだ近親者は早急にHLA検査を検討してください。ただし、移植の意志がない場合はしないで下さい。

父と兄のつてで、中田横浜市長にも関心を持って頂くことができました。「他人を思いやる人間性や誰もが当事者になる可能性に対する想像力の欠如こそが問題の本質」という市長のご認識は正しいと思います。でも現実はもっと厳しい。「バンクに登録者が何十万人になろうとも、患者のドナーが見つからなければ患者にとってはバンクの存在価値はないのです!」はじめに聞いたシンポジウムでの言葉が心に突き刺さっています。
読売新聞の取材が12月5日に決まりました。コウタがこういう状況の中で、取材でどんなお話になるのか分かりません。ご連絡が遅くなってすみません。

私たちがこうしている間にも、コウタは闘っています。移植に向けて、また薬が一段階強くなります。小さな体に全身麻酔で骨髄注射なんて患者は日常茶飯事なのです。麻酔を早く覚ます注射もあって、起きるととても痛いそうです。こうして移植の準備を進めている患者が日本にはたくさんいることを私も今まで知りませんでした。
だから偉そうなことは言えないけれど、命を救うことより優先しなければいけない仕事ってこの世の中にあるのでしょうか。自分の子供ではなく、他人の子供なら「命」を諦めていいのでしょうか。
子供を産んでいない私が、生意気言ってすみません。

今回のコウタ・メールは、時間がないと宣告され、少し攻撃的になってしまいました。お許し下さい。でも、コウタの両親はこうしてパソコンに向かう時間もないでしょうから、心をひとつにして皆さんにお願いして参ります。どうか、祈りを。

黒川英里