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みかきもりの気ままに小倉百人一首

2015/9/12 ちはやふる第152首「瀬を早み」

BE LOVE 18号(2015 9/15)「ちはやふる」第152首において、
高校選手権東京都予選の決勝リーグで、北央学園との運命戦「せ」-「ひとも」で「せ」が出て
敗れた瑞沢高校は、四将の机くんの勝ち数で辛うじて2位となって近江神宮進出を決めます。
千早は元部長の太一にメールを送ります。
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差出人:綾瀬千早
件名:
全国大会に行けるよ。
最後に読まれた札は
「せ」だったよ。
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メールを見た太一は「瀬を早み」の歌を想い、「待っている」でも「会いたい」でもない
「もう一度出逢う運命を願う歌」と解釈し、「おれも運命につかまってんのかな」と思います。

綾瀬千早の名前からは「瀬を早み」の歌も連想されます。
崇徳院「瀬を早み」(太一と別れてもいつか必ず逢おうと思う)と後鳥羽院「人もをし」(太一の
いないかるた部は味気なく物思いする)の運命戦で「せ」が出たことで、ストーリーが動き始めた
ように感じます。

No. 作者 解釈
77 崇徳院 瀬を早み岩にせかるる滝川の
われても末に逢はむとぞ思ふ
[みかきもり]
詞花集の崇徳院229「瀬を早み」の歌は、久安百首の崇徳院76「ゆきなやみ」の歌を
改作したものとされています。
「早瀬」を古語辞典で調べてみようと思い立って見てみると、万葉集 巻十 2089
「天の河白波しのぎ落ちたぎつ早瀬渡りて」が用例として載っていました。
千早と太一の所属する府中白波会に、渡り手が出てきたと思いました(^^)

しかし万葉集 巻十 2089を見ましたが、残念ながらピンと来るものではありませんでした。
そこで久安百首の崇徳院76の76から万葉集 巻十 2076を見ると、「天の川 瀬を早みかも」
の歌でした。「瀬を早み」が出てきてちょっと驚きました。

◎万葉集 巻十 2076
 天の川 瀬を早みかも ぬばたまの 夜はあけにつつ 逢はぬ彦星
 ⇒太一(1):かるたが真っ黒に見えた時期は過ぎつつあるが、まるで天の川の急流が
 二人の間に横たわっているかのように、千早に逢おうとしない太一。

◎久安百首 崇徳院 76
 ゆきなやみ 岩にせかるる 谷川の われても末に 逢はむとぞ思ふ
 ⇒太一(2):行き悩んでいるが、いつか必ず逢おうと思う気持ちが芽生えた太一。

◎詞花集 崇徳院 229
 瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ
 ⇒千早:太一と別れてもいつか必ず逢おうと思う。

こうして見ると、奇遇にも一十百千万がそろっていますね(^^)
「ちはやふる」第152首は、千早がイメージされる「瀬を早み」の歌を表に出しつつ、太一を通して
その裏にある「天の川」や「ゆきなやみ」の歌が感じられます。
76からは離ればなれの織姫と彦星が出逢う七夕の前日7月6日が連想され、千早と太一が逢う
フラグがたったように思います。


■参考文献
・新訂 新訓万葉集 上巻     佐佐木信綱編     (岩波文庫)
・百人一首 全訳注       有吉 保       (講談社学術文庫)
・全訳古語辞典(第二版)    宮腰 賢、桜井 満   (旺文社)

■参考URL
・Wikipedia 万葉集Wikipedia 久安百首Wikipedia 詞花和歌集Wikipedia サラダ記念日国際日本文化研究センター/和歌データベース 久安百首(久安六年御百首)国際日本文化研究センター/和歌データベース 万葉集・武田訓

みかきもりの気ままに小倉百人一首
・4. 「8人の天皇」24. 「奇数のぞろ目の歌番号(年中行事)」


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