『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第二章 個々の読解の在り方を吟味する

第5節 【読解  その5】について


〔注2−19〕

   ここで注目すべき点は、CGELは、そこに読み取れそうな意味合いを、つまり、分詞句の意味内容と母節の意味内容を論理整合的に結びつけるために分詞句に読み取るべき意味合いを、分詞句の機能を判断する上での論拠にはしていないということだ。論拠は別のところにある。CGELにとって、分詞句が文頭に移動可能であるということは、その分詞句は副詞要素であると判断すべきであるということに直結する。CGELでは、「可動性」を、ある語群が副詞要素であると判断される際の重要な契機と見なし、至るところでそのことを記述している。基本となる記述は以下のようなものである。

副詞的要素は、一般的に、その可変的[variable]位置(例えば、節の冒頭、中位、あるいは末位)によって、その任意性によって、また、一つの節内に出現し得る副詞的要素の数は決められていないという事実によって、それ例外の諸要素からは区別される。(2.12)
   こうした記述は以下のような記述によって補足されている。
(i)副詞的要素の位置は文末である場合が最も多い。(ii) 副詞的要素は通例、任意的である。(iii)副詞的要素には殆どの場合可動性がある。(iv)副詞的要素は他のどんな要素が出現するかを決定しない。
副詞的要素は、構造的観点から見ると、多分に任意的付属要素と見なされるであろう。こうした任意的付属要素は思いのままに付け足されるであろう。従って、一つの節に含まれる副詞的要素の数に厳格な制限を加えることは不可能である。(2.13)
   文頭の分詞句に「名詞修飾」という機能を認めないという立場は次のように表明されることもある。Kruisinga & Eradesは"But hoisted against the pale horizon the five gibbets showed black and skeletal . . ."(KRUISINGA & ERADES, An English Grammar, 39.2)(カンマがないのは原文通り)についてこう述べる。
この文には自由付加詞[free adjunct]はない。なぜなら、明瞭に感知し得る休止[pause]がないからである。さらにまた、斜体で印刷されている語句が前置されていることによって、これらの語句をthe five gibbetsの名詞修飾的付加詞[attributive adjunct]であるとする解釈も排除される。それらの語句の本当の特徴は、原因を含意する、付随的状況[attendant circumstances]の付加詞というものである。(ibid)(下線は引用者)
   Kruisinga & Eradesの「自由付加詞」については[1−1],[1−8]及び[2−6]参照。「カンマを伴う分詞句の可動性」、「カンマを伴う分詞句とその暗黙の主辞の関係」、「カンマを伴う分詞句と母節の関係の在り方」等については第六章第4節「その一」以降で詳述する。

(〔注2−19〕 了)

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