第六章 開かれた世界へ
第4節 「カンマを伴う分詞句」の「暗黙の主辞」の在り方について
前節で見たように、前掲教科書(New Encounter English T)によれば、「カンマを伴う分詞句」が暗黙の主辞の直後に位置する場合、その分詞句は非制限的名詞修飾要素であり、暗黙の主辞の直後ではなく、隔たった位置に後続する場合、その分詞句は《分詞構文》(副詞要素)であった。この判断の根拠となっているのは、暗黙の主辞と「カンマを伴う分詞句」の「隔たり」であろうと推測する他なかった。
ところで、「カンマを伴う分詞句」の暗黙の主辞を、一般的にどのような在り方で見出せるのか。本稿では既に、「-ed分詞"worried"の暗黙の主辞は《一応》"BMW"と考えられる」という言い方をし、《一応》と記さねばならなかった事情についても語るべきことは既に語っておいた(第五章第3節参照)。
本節では、第五章第3節で行った記述を踏まえ、本章第1節で区分した四種類の文形式、
@S[=分詞の暗黙の主辞]+,分詞句,+V…. ;
AS[=分詞の暗黙の主辞]+V…,+分詞句.;
B分詞句,+S[=分詞の暗黙の主辞]+V….;
CS+V…名詞句[=分詞の暗黙の主辞] +,分詞句.
のそれぞれについて、「カンマを伴う分詞句」の「暗黙の主辞」の在り方を改めて吟味する。
その一 文形式C中の分詞句とほぼ等価であると見なせる分詞句の場合
最初に、文形式C(S+V…名詞句[=分詞の暗黙の主辞] +,分詞句)中の分詞句とほぼ等価であると見なせる分詞句(これが-ed分詞句である場合、かなりの頻度で出現する形態の分詞句である)に検討を加える(以下の(6−14)は既に[5−2]で挙げた例)。
(6−14)
At her husband's funeral, attended by thousands of seething Israelis, there were words of hate today.
〈数千数万の怒りのたぎったイスラエル人が参列した彼女の夫の葬儀では、この日、憎しみの言葉が飛び交っていた。〉
(注) her husband : パレスチナ人群集のリンチで殺されたと伝えられているイスラエル軍兵士の一人Vadim Nourjits。
(A Hope for Peace Dies With an Israeli Brother By Sharon Waxman, Washington Post Staff Writer, Washington Post.com, Saturday, October 14, 2000; Page A1)
ここで、カンマに導かれた-ed分詞句という形で展開されているのは、話者にとって既知である名詞句(即ち「脈絡内照応性」は既に実現されていると話者に判断されている名詞句)の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である(第一章第5節参照)。(6−14)中の-ed分詞句はその暗黙の主辞である名詞句"her husband's funeral"を非制限的に修飾する分詞句である。分詞句の暗黙の主辞は、(6−14)を孤立した発話と見なして判断する限りでは単に"her husband's funeral"である。その一方、この"her husband's funeral"は話者にとってのみならず、この記事(A Hope for Peace Dies With an Israeli Brother)という言語的脈絡(発話の流れ)を辿ってきた受け手にとっても「脈絡内照応性」が既に実現されている名詞句であり、その指示内容は「狂乱したパレスチナ人暴徒の手でリンチを加えられ、見分けがつかないほど打ちのめされ焼かれたバディム・ヌルジッツという名の彼女の夫の葬儀」でもある[6−21]。従って、(6−14)については、カンマを伴う分詞句についての上記の如き要諦に加え、付随的に次のような記述が成立し得るであろう。
受け手は発話の流れの中で既に、なぜ「彼女の夫の葬儀」に「怒りのたぎった数千数万のイスラエル人」が参列するに至ったのか、その経緯の一端を明かされている。「彼女の夫」が「狂乱したパレスチナ人暴徒の手でリンチを加えられ、見分けがつかないほど打ちのめされ焼かれたバディム・ヌルジッツ」であるという情報を既に示されている。ただし、分詞句に展開されていることがらが受け手にとって「既知の情報(即ち話者と受け手に共有されている情報。話者だけではなく受け手もまた語り得ることがら)」であるのか、「新しい情報(ここで提示されて初めて受け手が話者と共有することになる情報)」であるのか、「意外な情報(受け手がそこに話者の個性や独自性を見出すきっかけとなるような情報)」([1−44]参照)であるのかは付随的なことと言える。また、(分詞句の)暗黙の主辞である名詞句とこれを非制限的に修飾する分詞句について、同じような付随的記述が常に成立し得るものではない。事例が別のものであれば、それに関する付随的記述も別のものとならざるを得ないであろう。
言うに及ばず、この分詞句には「可動性[mobility]」(第二章第5節及び[2−20]参照)は備わっていない。
(第6章 第4節 その一 了)
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