第六章 開かれた世界へ
第4節 「カンマを伴う分詞句」の「暗黙の主辞」の在り方について

その二 文形式Cの場合
  

   続いて、文形式C(S+V…名詞句[=分詞の暗黙の主辞] +,分詞句)中の分詞句を吟味する。

(6−12)
Many ships and planes have mysteriously disappeared in this area, known as the Bermuda Triangle. (New Encounter English T, p.18)
(この一文は教科書本文を元に周到に組み立てられた発話である[6−22]

   ここで、カンマに導かれた-ed分詞句という形で展開されているのは、話者にとって既知である名詞句(即ち「脈絡内照応性」は既に実現されていると話者に判断されている名詞句)の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である。(6−12)中の-ed分詞句はその暗黙の主辞である名詞句"this area"を非制限的に修飾する分詞句である。ただしこの事例のように、母節末に位置する名詞句については("this area"のような前方照応的代替表現ではなく、固有名詞である場合にも)、母節全体によって「特定」が実現されていることを、ここでは、"this area"は「数多くの船舶や航空機が不思議な消え方をしているこの区域」であることを改めて想起することは無駄ではあるまい([5−11]参照)。

   続いて同じ文型式Cで、分詞句が-ing分詞句である事例[6−23]を吟味する。

(6−15)
The Congressional Budget Office laid out three estimates last month of the non-Social Security surplus, ranging from $838 billion to $1.9 trillion.
〈議会予算局は先月、社会保障の分野以外の黒字額の見積もりを三通り算出したが、その見積もりには8380億ドルから1兆9000億ドルまでの幅があった。〉
Clinton Submits a Budget of $1.8 Trillion by RICHARD W. STEVENSON, The New York Times ON THE WEB, TUESDAY, FEBRUARY 8, 2000)

   ここで、カンマに導かれた-ing分詞句という形で展開されているのは、話者にとって既知である名詞句(即ち「脈絡内照応性」は既に実現されていると話者に判断されている名詞句)の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である。(6−15)中の-ing分詞句はその暗黙の主辞である名詞句"three estimates of the non-Social Security surplus"を非制限的に修飾する分詞句である。この名詞句の指示内容については「8380億ドルから1兆9000億ドルまでの幅があった」と語り得る(と話者に判断されている)のである。また、(6−15)の場合にも、暗黙の主辞の在り方は「議会予算局が先月算出した社会保障の分野以外の黒字額の三通りの見積り」のごとくであると判断することが可能である。ただ、そうする必要性は極めて希薄であるとも判断し得るのである([5−11]参照)。

   文形式C中の分詞句は、「文末にあって、それより前には位置し得ない形容詞句」(CGEL, 15.62)に相当し([5−1]参照)、こうした形容詞句は、「普通、その前に位置する名詞句の非制限的後置修飾要素である」(ibid)。文形式C中の分詞句に「可動性」は備わっていない。

  

(第6章 第4節 その二 了)


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© Nojima Akira