第六章 開かれた世界へ
第5節 解読という誘惑
〔注6−36〕
以下の7つの文例についての記述を見れば、「可動性」に有無を指摘し得ることの根拠が示されていないことが気づくはずである。
Jason, told of his son’s accident, immediately phoned the hospital. [1]
Jason, who was told of his son’s accident, immediately phoned the hospital. [2]
Jason was told of his son’s accident, and he immediately phoned the hospital. [3]
John, knowing that his wife was expecting a baby, started to take a course on baby care. [4]
John, who knew that his wife was expecting a baby, started to take a course on baby care. [5]
John knew that his wife was expecting a baby and he started to take a course on baby care. [6]
Julia, being a nun, spent much of her life in prayer and meditation. [7]
(CGEL, 15.60)(太字体と下線は引用者)
これらの文例については次のように述べられる。
文例[1][2][4][5]と[7]はすべて従位節を含んでいるが、文例[1][4]と[7]だけが副詞節である。なぜならば、それらの節は文頭にも、文中にも、(文例[1]を除いて)文末にも位置することが可能[can]だからである。(ibid)(下線は引用者)
分詞句ごとに可動性の有無は語られはするが、例えば文例[1]の分詞句を文末の位置へと動かすことができない(可動性はない)ことの根拠は示されていない(可動性はないことは自明であると見なされているのかもしれないが)。文例[1]の分詞句を文末の位置に移動すると次のようになる。
[1a] Jason immediately phoned the hospital, told of his son’s accident.
ここでは、「ジェイソンは直ちに病院に電話したが、病院は彼の息子の事故を知らされていた。」という読み方の可能性が生じるのである(文末に位置し、その直前の名詞句を非制限的に修飾する分詞句の文例が挙げられることがいかに少ないかという点については第六章第1節)。
CGELは、副詞的要素と文の他の諸要素との示差的特性の一つを可動性に見ている。「文中で副詞的要素が取り得る様々な位置の相対的自由度という点で、副詞的要素とそれ以外の要素の間には鮮明な相違がある。」(8.14)として次のような例をあげている。(以下で、I, M, Eはそれぞれinitial, medial, endの略)
By then the book must have been placed on the shelf. I
The book by then must have been placed on the shelf. iM
The book must by then have been placed on the shelf. M
The book must have by then been placed on the shelf. mM
The book must have been by then placed on the shelf. eM
The book must have been placed by then on the shelf. iE
The book must have been placed on the shelf by then. E (CGEL, 8.14)(下線は引用者)
こうした記述と文例から読み取れるのは、CGELの著者たちが「副詞的要素が取り得る様々な位置の相対的自由度」を述べる際、副詞的要素が実現されるには必ずしもカンマは不可欠であるとは判断しておらず、そのためカンマについて何らかの記述を行うこともまた不可欠であるとは判断していない、ということである。「極めて多様な言語的構造によって実現することが可能な」(8.1)副詞的要素の具体例を列挙する際にも、「可動性のある分詞節」(15.60)について触れる場合にも、「副詞的要素が取り得る様々な位置の相対的自由度」(8.14)を示す具体例を挙げる際にも、そのいずれに場合にも、カンマについての記述が行われることはなかったということ、つまり、「カンマが不可欠である副詞的要素」という範疇が格別の関心の対象となってはいないことを考慮すると、本稿の主題である「カンマを伴う分詞句」と様々な副詞的要素との間に何らかの相違を予感し得るはずである(副詞要素とカンマの関係については[3−6], [6−7]、文末に位置する「補足節」とカンマの関係については第七章第1節参照)。CGELが副詞的要素と文の他の諸要素との間の示差的特性の一つを可動性に見たのと同じように、本稿は、「カンマを伴う分詞句」と様々な副詞的要素との間の示差的特性の一つをカンマに見出すことになる。本稿では、そこに可動性を容認し得るとしても、必ずカンマを率いて移動するような語群についての記述を試みてきたのである。
文頭の分詞句に伴うカンマについては、[2−22], [3−6]参照。
(〔注6−36〕 了)
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