第七章 開かれた世界から
第6節 何が曖昧なのか
その五 「暗黙の主辞」の曖昧さ
文形式A(S[=分詞の暗黙の主辞]+V…,+分詞句.)(第六章第4節「その四」参照)中の-ing分詞句の場合、 法の判定についてはともかく、分詞句の暗黙の主辞を判定しようとする際に曖昧さを体験することがある。
(7―29)
No wires protrude from the body, making the device relatively unobtrusive and reducing the risk of infection.
〈線が一本も体から突き出ていないことで、この装置は相対的に目障りでなくなっており、感染の危険も減少している。〉
(注)the device : "AbioCor"と呼ばれる人工心臓[The synthetic heart -- called AbioCor]。 Abiomed 社と合衆国の国立心臓・肺・血液研究所[the government's National Heart, Lung and Blood Institute]が共同開発した。
(Doctors implant first self-contained artificial heart (From the Los Angeles Times) By Rosie Mestel, Times Staff Writer, Chicago Tribune.com, Published July 3 2001, 8:37 PM CDT)
文例(7―29)では、分詞句の暗黙の主辞を「線が一本も体から突き出ていない」という母節全体に見出してもいいし、「体から突き出ている零本の線」(あるいは単に"No wires")に見出してもいい (暗黙の主辞の在り方に感じ取れるこのような不安定さについては第六章第4節「その四」及び[6−9], [6−33]参照) 。カンマを伴う分詞句の暗黙の主辞は母節全体であると判定し得るような例はありふれており、そのような事例は、時にこの種の取るに足りぬ曖昧さを体験させてくれる[7−70]。
(第七章 第6節 その五 了)
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