『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第1節 《分詞構文》と主辞補辞……分詞句の場合


〔注7−3〕

   「分詞は、主節動詞の主語を間接的に修飾」の箇所の分だけ『現代英文法辞典』の記述の方が詳しい故、本文には『現代英文法辞典』の記述を引用した。参考のため、『コンサイス英文法辞典』の記述を以下に引用する。

(3)主語修飾。stand, be. come, sitなど出現や存在を表す自動詞の後ろに位置して、これらの動詞の表す動作・状態における主語の様態をより具体的に表す。
(安井稔編『コンサイス英文法辞典』, participle(分詞)の項)
   ところで「(3)主語修飾」という機能は分詞の諸機能の中でどのような位置を与えられているのか。『現代英文法辞典』の「participle(分詞)」の項は、「(1)定義と機能」、「(2)機能」、「(3)主語修飾」、「(4)動名詞起源」の各項から構成されている。「(2)機能」は三つに分類されている。「(a)形容詞的機能」、「(b)副詞的機能」、「(c)動詞的機能」である。

   この内、「(a)形容詞的機能」は「限定用法」、「叙述用法」、「形容詞用法から転じて」の3項目から成り、「叙述用法」には「自動詞の後ろで補語として用いられる」と「『名詞句+分詞』の形をとって、知覚動詞やその他の動詞の目的語として機能する」が含まれている。つまり、「主格補語」と「目的格補語」は「叙述用法」の中で語られることになる。

   「(b)副詞的機能」は「分詞は後述(3)のように、主節動詞の主語を間接的に修飾し、主節動詞と同格的に、主節動詞の表す動作・状態における主語の様態を叙述する働きを持つが、この緊密な結び付きが緩み、主飾動詞を含む節全体と副詞的な関係を結ぶようになる。 この用法は分詞構文(PARTICIPIAL CONSTRUCTI0N)と呼ばれるもので、主節に対して、付帯状況、原因・理由、時、条件・譲歩などの意味を表す」と説明される(「後述(3)」とは「(3)主語修飾」のことである)。「この緊密な結び付きが緩」めば、つまり、カンマ(あるいは抑揚)によって切り離されれば、《分詞構文》が出現するのである。

   『現代英文法辞典』によれば、本文に引用した"He sat in a corner watching everything but saying nothing."中の分詞句(下線部)は「主格補語」にも「分詞構文」にも分類されない。『現代英文法辞典』はここでは、「述辞並置要素」([1−4], [6−37], [7−1]参照)を採用するわけにはいかないようである。「主節動詞と同格的に」といった語り口には、こうした分詞句を「述辞並置要素」に分類したいという口吻を感じ取れもするが、Curmeの「述辞並置要素」は包括的に過ぎるのである。さりとて、CGELの「補足節」( [1−4], [3−3])を採用するわけにもいかないようである(おそらく、《分詞構文》という了解との兼ね合いである)。『現代英文法辞典』の記述は、カンマを伴わない分詞句"watching everything but saying nothing"を「主格補語」と受け止めようと「分詞構文」と受け取めようと、受け手の存念次第であると述べているようにも読める。別の受け手によって次のような解説が行われることにもなっても不思議ではない。

■分詞についての1つの問題:
@stand waiting, come runningなどでは、-ingは補語と考えるのが当然で、一語だけで分詞構文とはいえない。AI'm awfully tired waiting. の-ingも同様に考えていいだろうが、このwaitingは「待っている状態で」のほかに「待っていたので《理由》」と解することもできる。
(杉山忠一『英文法詳解』p.423)
   「@stand waiting, come running」中の-ingを「補語と考えるのが当然」である理由が、「一語だけで分詞構文とはいえない」からであると、この記述の筆者が考えているのかどうかまでは分からない(この筆者は《分詞構文》を「『分詞+それに付随する語句』という構文で『接続詞+主語+動詞…』と同等の意味を表すものが分詞構文である。」(ibid, p.424)と説明している)。この筆者は《分詞構文》の要件の一つを「二語以上」と思いなしているのかもしれない。ただ、「AI'm awfully tired waiting. の-ing」を「補語」と見なしながらも副詞要素のようにも解し得るとする姿勢は、『現代英文法辞典』の記述に示されている姿勢に通じているように見える。

   「主格補語?分詞構文?」と表現することで「困惑」を明示している記述もある。

He sat smoking. (たばこを吸いながら坐っていた)(主格補語)―He came home feeling glad.(彼は喜びを包みながら家へ帰った)(主格補語?分詞構文?)Feeling glad, he came back. (喜びを包んで戻って来た)(分詞構文)の類似性に注意。
(清水護 編『英文法辞典』Participial Construction(分詞構文)の項)(下線は引用者)
   カンマを《分詞構文》の要件とは見なさず、結果的に、《分詞構文》と「主格補語」の区別を放棄している立場もある。
§231.分詞構文―(1)基本型など
(1)基本型  主文との意味上の関係は、時・理由・付帯状況を表すものが多い。
(江川泰一郎『改訂三版 英文法解説』)
   上記の記述に続いて挙げられている文例の中には学校英文法の世界で「主格補語」と見なされてもいいような分詞句を含む文例がある。
次のような§229(2)に近いものを加えると、付帯状況の例は非常に多い。
    She was standing on a ladder picking apples.
    (彼女ははしごに乗って、りんごを摘んでいた)
    She went through the drawers looking for the sweater.
    (彼女は引き出しの中を調べて、セーターを探した)(ibid)
   §229(2)は"sit/ stand + -ing"などの例であり、「準補語と呼んでもいいが、分詞構文にも近い」(ibid, 229)と解説されている。

   以下の場合も、カンマは《分詞構文》の要件とは見なされておらず《分詞構文》と「主格補語」の区別は放棄されている。

分詞構文の主節の動詞がbe動詞である次のような例もある。
(33) We were down on the pavement going into the hotel. -- Hemingway
(大江三郎『講座第五巻』、p.244)(下線は引用者)
   更に、「分詞句が、主格補語である形容詞と並列される次のような例がある。」(ibid, p.245)として次のような文例が挙げられている。
(35)
a. Just for a minute Elsie stood motionless in the doorway looking over her shoulder. -- Christie
b. The lights from the store windows lay bright and shining on the sidewalks. -- Sherwood Anderson
c. He sat brooding and silent on the foot of the bed. ? McCullers」
(ibid)(太字体と下線は引用者)
   そして次のように述べられる。
いずれにせよこれら繋合辞的動詞が分詞句を伴う時、それが主格補語か分詞構文か断定することは困難である。(ibid)(下線は引用者。be動詞は「繋合辞(copula)」である)
   更に、「次にみられるような分詞句の例は懸垂分詞構文とはいえない。」(ibid, p.241)として挙げられている"c. Sounding from a long way away, I heard Sophia's voice, clear and self-controlled. ? Christie"については次のような解説が示されている。
cでは、文頭の分詞句を文末に移せばまさに知覚動詞構文になる。ここで分詞句を前置させたのは話者の知覚の順序を反映させるためである。「私」の知覚(聴覚)の順序は、「はるか遠くから何かが響いてきた。それはSophiaの声だった。澄んだ、抑制された彼女の声だった。」でうまく表わせよう。このような場合、分詞構文と知覚動詞構文に一線を両することは無理であろう。知覚動詞構文の中の分詞が、つながりがゆるみ独立性を獲得するほど分詞構文に近づく。(ibid) (下線は引用者)
   悟りを開いているかに見える記述もある。
一口に分詞構文といっても、それとはっきり判断のつかないものだってある。補語と分詞構文の間に位置するもの、主語の修飾句とも思えるものなど、生きた英語の中には「白」とも「黒」とも言えない『灰色』の部分が存在しているのは当然のことだ。
(田村泰著『しなやかな英文法』、p.221)

(〔注7−3〕 了)

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