第5節 解読という誘惑
〔注6-37〕 分詞句に伴うカンマに「示差的特性」を見出すことがないのはCGELに限るわけではない。Curmeの場合とて同じである。また、Curmeが、ある語句に「フォース[force]」を感じ取れると述べる場合、そうした感じの根拠を示すことがないのはその他の論者の場合と同じである。Curmeは「述辞並置要素」(これには「日本の学校英文法」の《分詞構文》が含まれる)には「副詞要素的機能」があることを感じ取っている。 述辞並置要素[predicate appositive]はしばしば、主辞に関する評言[remark]を付加するだけではなく、副詞節の意味力[the force of an adverbial clause]をも有し、かくして主辞と主動詞の双方に対する関係を保持する。「根拠」が提示される代わりに「(副詞的意味力を有する)述辞並置要素の広範な使用は英語のもっとも特色ある特徴の一つである」という宣言が行われる。Curmeが多用する「フォース[force]」という用語の使われ方を見ておく。 動詞的名詞の後では、名詞修飾的句は形態的には[in a formal sense]形容詞要素であるが、論理的には[logically]目的辞ないし副詞である。例えば、前置詞句"for her children"と"in the evening"は名詞修飾的句であるが、それぞれ目的辞のような意味合いを、副詞要素のような意味合いを感じ取れる、ということである。「論理的に」はCGELにおいては「意味の上では[semantically]」と記述されるであろう(CGEL, 17.3、あるいは、第二章第4節参照)。Kruisinga & Eradesも「意味の上では」と書く代わりに「論理的に」と書く([1-8]参照)。非制限的関係詞節に「意味の上で」感じ取れる相対的独立性について次のように記述される。 連続的関係詞節[continuative relative clauses]は、構造が類似する名詞修飾的節[attributive clauses]とは違って、実際には主節の内容に従属していない。連続的関係詞節は、先行詞[leading noun]についての、論理的観点からは[from a logical point of view]独立文に含まれていてもいいような情報をむしろ与えているのである。更に、Kruisinga & Eradesは非制限的関係詞節と母節との間の論理的関係を解読した上で、"semi-adverbial clause"という下位範疇を見出してもいる([2-12]参照)。 Curmeの記述に戻る。「宣言」が繰り返される。 英語の顕著な特徴は、副詞的意味力[adverbial force]を備えた述辞並置構造[predicate appositive construction]の幅広い使用である。形容詞、形容詞的分詞、あるいは名詞が動詞の近くに、つまり動詞の前後に置かれて、時・様態[manner]・随伴的状況[attendant circumstances]・原因・条件・譲歩などの関係について動詞を修飾する。上記の例からも、Curmeのいう「述辞並置要素」が《分詞構文》と一対一対応するわけではないことは見て取れるはずだが、「述辞並置要素」は《分詞構文》より遥かに幅広い領域を覆っていることを明確に示す次の例を挙げておく。 I feel it as a rare occasion, occurring as it does only once in many years (= since it occurs only once in many years). (CURME, Syntax, 48-2)上記二例中の"occurring"の暗黙の主辞はいずれも"it"である。ここでは述辞並置要素は「主辞に関する評言を付加する」(Syntax, 6-C)わけではない。 そして、述辞並置要素は「動詞を修飾する」と記述する根拠をCurmeは次のように述べる。以下の文例中の"crying"と"bathing"は「形容詞的分詞[adjective participle]」(CURME, Parts of Speech, 8)と呼ばれている。 述辞並置要素はしばしば補足要素[supplementary]として、完全な述辞叙述の動詞[Verbs of complete predication]に連結され、述辞[predication]を修飾する。先の記述に見られた「意味の上で」という含みは、ここでは「一つの述辞[predication]は別の述辞[predication]を修飾することがある」という宣言に取って代わられている。
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