『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第6節 何が曖昧なのか

その一 「簡潔さ」と「曖昧さ」


〔注7−56〕

   以下に引用するのは、「文字表現資料[written material]と即興的音声表現資料[impromptu spoken material]をほぼ等量調査した英語用法調査資料集成[the Survey of English Usage corpus]」(CGEL, 8.13)の資料である。

(5000語のテクストごとの副詞的要素の出現頻度)
音声表現[speech] 文字表現[writing]
副詞的要素の総数 712 753
実現形[Realization types]
前置詞句 258 336
閉じた部類の語句 278 246
開いた部類の副詞(句) 76 66
定動詞節 70 60
非定動詞節・無動詞節 12 33
名詞句 18 12
   これらの数字に見られる幾つかの顕著な特徴には注意を向ける価値がある。

(i)A要素[adverbial element]の大多数が表現されているのは二つの形態においてである。一つは前置詞句であり、もう一つはwell, still, of courseといった(短いのが普通である)閉じた部類の語句である。

(ii)音声表現資料と文字表現資料は、A要素の総出現数においても、実現形の分布においても、大して相違しない。

(iii)しかし、音声表現[speech]ではA[副詞的要素]としての名詞句の割合が大きい(1:1.5)一方で、文字表現資料[written material]では前置詞句(1:1.3)と非定動詞節/無動詞節(1:2.75)の割合が大きい。最後の点は、数の上で最も目立つ亜類型[subtype]が以下に見られるような-ing節であることを考えれば、驚くほどのことではない
     Finishing her work early, Margaret decided to go for a swim.

(iv)恐らくこれほどあるとは予想されていないのは、音声表現資料[spoken material]の場合の方がA[副詞的要素]としての定動詞節の出現頻度がより高いということ(1:1.2)であろう。このことは、広く信じられていることとは、つまり、従位節(典型的には、定動詞を伴う副詞節)の出現頻度は相対的な「統語的複雑性[syntactic complexity]」の十分な表示であり、即興的音声表現は文字表現[written English]ほど統語的には複雑ではない、という考えとは食い違っている。
(CGEL, 8.13)(下線は引用者)
(「非定動詞節」については[1−1]、「無動詞節」については[2−20], [7−10]参照)
(「A要素」は副詞的要素[adverbial element]。[1−5]参照)

   音声表現の中で出現する「非定動詞節・無動詞節」十二例(上記の表の数字)の内、《分詞構文》と見なされる類の分詞句・形容詞句などがどれくらい含まれているのかは不明であるが、音声表現において「非定動詞節・無動詞節」が決して稀ではないことだけは確認できる。音声表現[speech]と文字表現[writing] における「非定動詞節・無動詞節」出現の比率は、12:33即ち1:2.75という値なのである。 

(〔注7−56〕 了)

目次頁に戻る
 
© Nojima Akira.
All Rights Reserved.