『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第6節 何が曖昧なのか

その六 文形式B中の分詞句の「法」


〔注7−72〕

   種々の学習用文法書に挙げられている文例を見比べたとき目の当たりにする文例の貧困(もちろん、文例の数の乏しさに限ることではない)は既に馴染みのものだ。同様の貧困は、文形式A(S[=分詞の暗黙の主辞]+V…+,分詞句.)中の-ed分詞句([4−6], [6−1]参照)の場合にも、文形式B(分詞句,+S[=分詞の暗黙の主辞]+V….)中の-ed分詞句([7−66]参照)の場合にも目にした。文形式A中の-ed分詞句の文例の貧困は怠惰の証であると判断するとしても、以下に示す文例の貧困は、果たして、文形式B中の-ing分詞句が直接的条件を表すif 節に置き換え得ると感じられるような事例は-ed分詞句の場合にもまして稀であることの反映であると斟酌していいものか。

Turning to the right, you will see the building.(杉山忠一『英文法詳解』、p.417)

Turning (= if you turn) to the left, you will find the church. (高梨健吉『総解英文法』、p.477)

Doing this work every day, you will soon improve.
= If you do
(この仕事を毎日していれば、すぐ上達しますよ。)(清水周裕著『現代英文法』、p.356)

Turning (if you turn) to the right, you will find a tall building.
Hearing (if you hear) him speak English, you would take him for an American. (木村明著『英文法精解』、p.519)

分詞構文というのは文語体で、会話ではあまり使いません。となると、皆さんの読む文法の本には不自然な例文が載っていることがあります、例えば、「左に曲がるとあなたの探している家が見えますよ」というのを
Turning left, you will find the house that you are looking for. (△)
とした例文が昔からありますが、これは普通の会話ではむしろ
Turn left, and you'll find the house you're looking for. (○)
のように“命令文+and……”の形で言うでしょう。(山口俊治『英文法講義の実況中継(下)』、p.1)

4)条件を表す場合
1. Getting up early tomorrow, you will see the sun rise.
   (明日早く起きれば、太陽の昇るのが見えます)
2. Turning to the right, you will find the post-office on your left.
   (右に曲れば、左手に郵便局があります)
3. Working hard, you will complete the task before noon.
   (一生懸命やれば、昼までにはその仕事が完了するだろう)(荒木一雄編『新英文用例事典』、p.246)

《参考》 条件・譲歩を表すこともあるが、例はきわめて少ない。
Going ahead (=If you go ahead) for a mile, you will get to the pier.
(1マイルもまっすぐ行けば、桟橋に出るでしょう)〈条件〉(江川泰一郎『改訂三版 英文法解説』、231)

Turning to the right, you will find the post-office.
[= If you turn to the right, you will find the post-office.] (右へ曲れば郵便局があります)
(中原道喜『マスター 英文法』、p.394)

Turning to the right, you will see a large building on your left. (=If you turn...)
(清水護 編『英文法辞典』participial construction[分詞構文]の項)

Turning to the left (=If you turn to the left), you will find the post-office on your right hand.
(大塚高信編『新英文法辞典』Participial construction(分詞構文)の項)

Turning to the left, you will find the post-office on your right.
(左に曲がれば右手に郵便局があります)
(荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』participial construction[分詞構文]の項)

   こうした文例を目にすると、「生徒は分詞構文を用いて書きたがるが、あまり分詞構文をむやみに使わないように指導したい。」(『教師のためのロイヤル英文法』p.145)([7−52]参照)とか、「条件を表すのに生徒がむやみに分詞構文を用いないようにしたい。」(ibid, p.147)とか言いたくなるのも分からないではない。ただし、言うべきことをもう少し正確に言えば、ここに引用してあるような英文を学生は断じて書いてはいけないということであり、更には、《分詞構文》という了解に基く限り、「カンマを伴う分詞句」を用いて英文を書く指導はしたくてもできないはずだということである。

(〔注7−72〕 了)

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