第七章 開かれた世界から
第6節 何が曖昧なのか
その三 文形式@中の-ed分詞句の特性
〔注7−66〕
《参考》 条件・譲歩を表すこともあるが、例はきわめて少ない。
Going ahead (=If you go ahead) for a mile, you will get to the pier.
(1マイルもまっすぐ行けば、桟橋に出るでしょう)〈条件〉
Admitting (=Though I admit) you have a point, I still think I am right.
(君の言うことにも一理あるが、やはり私が正しいと思う)〈譲歩〉
(江川泰一郎『改訂三版 英文法解説』、231)
§240 分詞構文の表す意味
(4)条件
主文にwillやmayが用いられるのがふつうだが、慣用表現以外にはあまり用いられない。
Used economically, this tube will last a month.
(節約して使えば、このチューブで1か月は持ちます)
(= If it is used economically, this tube will last a month.)
(5)譲歩
慣用構文に限られるといってよい。
Granting this to be true, we still cannot explain it.
(これが事実であることは認めるが、それでも説明はできない)
(=Though we grant this to be true, we still cannot explain it.)
(綿貫陽・宮川幸久・須貝猛敏・高松尚弘『ロイヤル英文法 改訂新版』、p.523)(下線は引用者)
"Used economically, this tube will last a month."を迷いもなく"If it is used economically, this tube will last a month."と解読することの妥当性に私は疑いを抱いている。このような孤立した発話の場合、「カンマを伴う分詞句」と暗黙の主辞の関係を十分に吟味することは困難である。結果的に、この例について言えば、"this tube"について「(現に)節約して使われている」と語り得る(と話者に判断されている)のか、それとも「(今後)節約して使われることになる」と語り得る(と話者に判断されている)のか、判断は下し難い。その暗黙の主辞について語り得るであろう(と話者に判断されている)ことがらの一端が展開されている「カンマを伴う分詞句」は直接的条件を表す"if"節([7−38]参照)に置き換え得るように感じられるだろう。しかしながら、この孤立した発話をもとに判断を下すとしたら、「(現に)節約して使われているこのチューブは1か月は持ちます。[This tube is used economically, and/so it will last a month.]」と解する他はない。すでに"Used like this, they are similar to adverb clauses."をめぐり、「カンマを伴う分詞句」の暗黙の主辞の在り方の十分な吟味の重要性と孤立した発話の危さを指摘しておいた([6−35]参照)。
次のような孤立した発話中の分詞句についても同じである(ただし、以下に示すように、直接的条件を表すif 節に置き換え得るように感じられる-ed分詞句の例として、本文に引用した"trained ......."のような、暗黙の主辞の直後に位置する-ed分詞句ではなく、文頭に位置する-ed分詞句が選ばれているのはおそらく偶然ではあるまい)。
Used economically, one tin will last for at least six weeks.
( = If it is used economically, . . . )
〈節約して使えば、一缶で少なくとも6週間はもつ。〉
(PEU, 455)
例えば14.7の[1-4]では、次のような挿入をすることもあるかもしれない[might]。
(If it is) kept in the refrigerator, the drug should remain effective for at least three months. [3a]
〈冷蔵庫に保管しておけば、その薬は少なくとも三ヶ月は効き目が失われることはないはずだ。〉
(CGEL, 14.8)
14.7に示されている文例[1]〜[4]の内の[3]だけを以下に引用する。
Kept in the refrigerator, the drug should remain effective for at least three months. [3] (CGEL, 14.7)
空気ならぬ脈絡が足りないと言う他はない。ここでも([1−26]参照)次のように語り得るはずだ。
もし、私が、jarとか soundとか palmとか tractなどの意味を言うよう求められたとしたら、唯一の率直な返答は、脈絡[context]を示してくれ、そうすればその意味を語ろう、というものだ。
(Jespersen, The Philosophy of Grammar, p.66)
PEUとほぼ同一の文例が他書でも使いまわされており(上記『ロイヤル英文法 改訂新版』の文例も参照)、同じように解読されている。
Used economically, this money will last until next payday.
= If it is used
(節約して使うなら、これだけあれば今度の給料日まで持つだろう。)
(清水周裕著『現代英文法』、p.356) (この文例には「注意 ×Being used economically」という注意書きが添えられている。[1−14]の冒頭部参照)
Used economically, this will last for at least three months.
(節約して使えば、これは少なくとも3か月は持ちます) (荒木一雄編『新英文用例事典』、p.246)
脈絡をもとに慎重に検討した結果、分詞句に展開されているのはその暗黙の主辞について語り得るであろう(と話者に判断されている)ことがらの一端であると判断されるような例を幾つか挙げておく。私の用例集には、文形式B(分詞句,+S[=分詞の暗黙の主辞]+V….)(第六章第4節「その五」参照)の-ed分詞句の用例が約百五十例収められている。この形態の分詞句の場合についても、直接的条件を表すif 節に置き換え得ると感じられる例は、優先的に洩らさず用例集に収めてきたことを考慮すると、以下に示すような例の出現頻度は、文形式@(S[=分詞の暗黙の主辞]+,分詞句,+V….)(第六章第4節「その三」参照)の-ed分詞句が直接条件を表すif 節に置き換え得ると感じられる例の出現頻度に比較すれば、幾分高いと言えるにせよ、極めて低いことは同じだ。
@
Left to its own devices, even the most indolent tumour will eventually elbow aside bodily organs that the body needs to keep itself and soul together.
〈勝手にさせておくと、最も不活発な腫瘍でさえついには、身体と精神の一体性を保つために身体にとって必要な身体諸器官を押しのけることになる。〉
(注) leave O to O's own devices「〜を勝手にさせる」
(The Times Christmas appeal by the Editor, The Times Online, THURSDAY NOVEMBER 23 2000)
A
Properly established, the speed camera system could reduce deadly driving, as the red-light cameras appear to be doing now.
〈適切に設置された場合、速度違反監視カメラシステムは、死亡事故に至るような運転を減少させることになるだろうが、それは赤信号無視監視カメラが現在行っているようなことである。〉
(注)the red-light cameras : cameras now recording red-light runners「現在、赤信号を突っ走る車を記録しているカメラ」
(Editorial : High-Speeder Cameras, Washington Post.com, Monday, July 9, 2001; Page A16)
B
"Left to its own logic, globalisation widens the gap between winners and losers, at the national as well as the international level," former Philippine president Fidel Ramos said.
〈「その論理にことを委ねたら、世界平準化は、国際的にも各国内においても、勝者と敗者の差を拡大することになる。」とフィデル・ラモス前フィリピン大統領は語った。〉
(注)スイスのダボス[Davos]で行われた通称ダボス会議[正式名称the World Economic Forum]に関する記事。
(Globalisation backlash By VERONICA SMITH in Davos, Switzerland, The Advertiser.com [Austraria], 29jan01)
C
Left unprotected, our parks would soon be deforested.
〈保護されることなく放置された場合、我が国の公園の樹木はほどなくすべてなぎ倒されることになろう。 〉
(注)筆者は、公共放送網の内で全米最大のテレビ局Thirteen/WNET New Yorkの会長[president of Thirteen/WNET New York, the nation's largest PBS station]。
(Opinion : Masters of the Media By William F. Baker, Washington Post.com, Tuesday, March 12, 2002; Page A21)
D
Given the proper signals, the cells will naturally develop into the sought-after organ.
〈適切な信号を送られると、そうした細胞は求められている臓器へと自ずから発展する。〉
(Nature's blueprint to growing organs By Steve Sternberg, USA TODAY, USA Today.com, 01/23/2002 - Updated 09:24 AM ET)
E
Left on their own, Arab regimes are not likely to make the choice for change.
〈彼らに任せておいた場合、アラブ諸国の政権が変化を選択することは無さそうである。 〉
(Editorial : A moderate Islam, FT.com, Dec 27 2001 18:37:54)
F
Caught in the right mood, though, he could deliver barbed quips.
〈それでも、気が向けば辛らつな軽口を叩くこともあった。〉
(参)She wasn't in the right mood for listening to jazz. 〈ジャズに耳を向ける気分ではなかった〉
(注)he : George Harrison
(Obituary : George Harrison, Former Beatle, Dies at 58 By ALLAN KOZINN, The New York Times ON THE WEB, November 30, 2001)
G
Relieved of the incubus of the Taliban, they will strive, as they have done before, to achieve the apparently impossible.
〈タリバンという重荷が取り除かれれば、彼らは、これまでそうしてきたのと同様、一見不可能に思われることを成し遂げようと努めるであろう。 〉
(注)they : 難民救援活動を行っている諸機関[the leading relief agencies]
(Leader : Why Afghans are starving, Electric Telegraph, Wednesday 24 Oct 2001, Issue number 45542)
「カンマを伴う分詞句」を直接的条件を表すif 節(あるいは「〜ならば」という日本語表現)に置き換え得ると感じられるかどうかによって、つまり、その論理的関係の解読という手法によってその機能を判断するという立場を本稿は否定してきた。本稿では、その暗黙の主辞について現に語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端が展開されていると判断し得るような「カンマを伴う分詞句」、及びその暗黙の主辞について語り得るであろう(と話者に判断されている)ことがらの一端が展開されている「カンマを伴う分詞句」は「並置分詞句」であると判断する。文例Fの場合、「ジョージ・ハリソンは辛らつな軽口を叩くこともあった」のだが、そんな時の彼は「その気になっていた」のであり、「その気になっていた」は彼の「一時的属性」、そんな時の彼について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である。その他の「カンマを伴う分詞句」は、その暗黙の主辞について語り得るであろう(と話者に判断されている)ことがらの一端が展開されている並置分詞句である。
文頭に位置する-ed分詞句"Left ……." に"if"が加えられ、副詞要素として発話されている例もある(言うまでもないことであるが、文例@〜G中の-ed分詞句は並置分詞句であり、その暗黙の主辞について語り得る(であろう)(と話者に判断されている)ことがらの一端が展開されている非制限的名詞修飾要素である。文例A「適切に設置された速度違反監視カメラシステムは…」のように、制限的修飾要素のように訳出して不都合の感じられないものもある。こうした訳出に関する問題点ついては[1−31]参照)。
H
If left unchecked, this contempt for the law and due process could pose more of a threat to our way of life than Al Qaeda.
〈もし見過ごされることになれば、法とその適正な手続きに対するこうした侮蔑は、私たちの生活様式にとってアルカイダ以上の脅威となる可能性がある。 〉
(注)this contempt for .... : 放射性爆弾[radioactive bomb]を炸裂させようというアルカイダの企みに荷担していた廉で告発されたJose Padillaが、弁護士との接見も認められず、具体的罪状を挙げて起訴されることもないまま、拘留されつづけていること。
(Opinion : Isn't Democracy Worth It? By BOB HERBERT, The New York Times ON THE WEB, June 17, 2002)
(〔注7−66〕 了)
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