文のはやし

 江戸期に出された春本の総数を白倉敬彦氏は千二百点ほどと推測される。そしてその三分の一ほどは幕末期の安手の作であり、実体もその所在も定かではないと述べられる(白倉敬彦『絵入春画艶本目録』(平凡社、2007年6月18日刊))。
 それら幕末期に出された厖大な数の春本の中で、もっとも多く出されたものは何か。それは艶書往来「文のはやし」であると考える。「文のはやし」は他の書名を持つ類書も多いが、往来物の基本型である上下二段に分かれ、上部の頭書に実用的な知識を、下部に手紙文を載せるということは共通しており、多くが「文のはやし」に通じた書名を持つことから、「文のはやし」と総称しておく。
 筆者はここ十年ほど、集中的に「文のはやし」系艶書往来、ならびに系列の春本を蒐集してきた。それらの一覧を掲げておく。
 なお「文のはやし」系春本については、本科事業を用いて、以下の三本の論考を発表している。

  1. 板坂則子「一九『文しなん』と陽起山人『文のはやし』(附 往来部分翻刻)」(『専修国文』第九七号、専修大学日本語日本文学文化学会、2015年9月)
  2. Noriko ITASAKA 川端康成『眠れる美女』、G・ガルシア・マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』について ("Bunron - Zeitschrift f?r literaturwissenschaftliche Japanforschung"№3、2016年5月、ドイツ、ネット公開のみ)
  3. 板坂則子「艶書往来『文のはやし』考」(『近世文芸 研究と評論』第九十号、2016年6月)