進行性筋ジストロフィー症は、共通症状として、近位筋(proximal muscle)が好んで侵されるが、例外的に四肢遠位筋が侵される病型がある。1902年Gowersにより、初めて1例が報告され、1951年、Welanderはスェーデンでの72家系249例について同様の病像を記載し、myopathia distalis tarda hereditaria、すなわちdistal myopathyの概念を確立したのである。
その後、同様な症例の報告があり、現在までの報告所見を要約し、特徴を述べると次のごとくである。
1)遺伝性は家族性発現(autosomal dominant と autosomal recessive の両方がある)と弧発例がある。
2)発病年齢は、2~77歳にわたっている。
3)筋萎縮筋、脱力は四肢末端から始まり、進行は緩徐である。深部反射は減弱ないし消失し、fasciculation や感覚障害はない。
4)検査所見では血清酵素として、CPK が正常範囲から中等度上昇のものまである。
筋電図では、大部分のものは low amplitude NMU voltage を示す。しかし症例によっては high amplitude NMU voltage のものもある。 筋生検では、ミオバチーの変化(筋線維の大小不同、筋鞘核、中心核の増加、間質結合織の増加、脂肪浸潤など)がみられる。
5)本症と鑑別すべき疾患は、四肢末端から筋脱力と筋萎縮がおこり、しかも緩徐な経過を辿るものがあげられる。これにはCharcot-Marie-Tooth 病、myotonic dystrophy、慢性脊髄性筋萎縮症などがある。
進行性両眼性外眼筋麻痺が起こり、数年の経過で完全な麻痺を呈する症例について、Kiloh と Nevin(1951)は筋生検でミオパチーの所見を見出し、ocular myopathy という1病型の存在を提唱した。本症例は、一般に進行性筋ジストロフィー症の1型と考えられる。 しかしその後になって、外眼筋の麻痺にとどまらず、経過とともに以下にのべるような他の障害を合併する報告もされている。すなわち、
1)外眼筋麻痺+顔面筋、頸部筋、上肢筋の萎縮を示す例(descending ocular myopathy,1962)
2)外眼筋麻痺+咽頭筋の萎縮(嚥下障害)を示す例(oculopharyngeal muscular dystorophy,1962)
3)筋以外の異常を伴う症例の報告。
すなわち、網膜色素変性、難聴、脳波異常、髄液淡白増加などの中枢神経系の異常および心筋障害などの合併である。
これらの症例では、症状の軽い四肢筋の筋生検で、トリクローム染色によりミトコンドリアの集積を示す“ragged-red fiber”が見られている。さらに電顕所見では多数のミトコンドリアの集積、巨大化したミトコンドリア、封入体をもつ特異なミトコンドリアの集積が認められている。ミトコンドリアの異常は、小脳、肝臓、汗腺にも見られている。 別名として、Kearns-Shy 症候群(Kearns と SHY は1958年外眼筋麻痺に加えて、色素性網膜と心の完全ブロックを有する例を報告している)、oculo-craniosomatic neuromuscular disease,ophthalmoplegia plus,あるいは oculoskeletal myopathy などがある。
以上のごとく特異なミトコンドリアの存在を重視して、oculocraniosomatic disease with abnormal mitochondria ともよばれている(三田哲司:神経進歩20:26、1976)。全身のミトコンドリアの異常は、何らかの代謝異常を示唆するものと考えられているが、今後の研究に待たねばならない。
筋ジストロフィー症の特殊型で、比較的にまれな疾患である。また、臨床上の概念および分類上の問題があり、今後の検討が必要である。その特徴は以下のごとくである。
1)先天性あるいは生後半年くらいに発症する。
2)臨床経過より2型に分けられる。
a)良性型:生下時より筋トーヌスの低下、筋力低下、関節の拘縮を伴い、筋組織は、筋ジストロフィー症の所見を呈する。しかし経過は非進行性である。
b)悪性型:筋緊張低下、筋力低下、全身の関節拘縮がおこり、先天性全身関節拘縮症の症状を呈し、経過は 進行性で、幼児期あるいは幼年期までに死亡する。
3)福山型先天性筋ジストロフィー症
1960年、東女医大小児科の福山幸夫教授によって記載されたもので、顔面筋罹患、関節拘縮、知能障害、中枢神経障害を示す特徴が見られる。今日では、1疾患単位として認められている。
その特徴は、
a)常染色体劣性の遺伝様式を示し、男女同率に発症する。
b)生下時から6ヶ月までに筋緊張低下、筋力低下を起こし、早期から、腰、膝、指骨関節の拘縮がみられる。
c)初期から顔面筋が侵される。さらに前頸筋群、胸鎖乳突筋も早期に侵される。
d)経過は、緩徐に進行性で、10歳前後に全身の筋萎縮と全身関節の拘縮がおこる(このため木彫人形のよう になる)。
e)深部反射は、初期より低下あるいは消失する。足把握反射は残る。
f)前例に高度の知能障害、約半数に有熱性あるいは無熱性のけいれんをみる。
g)血清CPKの上昇、筋電図と筋生検所見は、筋ジストロフィー症の所見に類似する。
h)剖検例では、大脳皮質、小脳皮質のmicropolygyria, agyria、大脳皮質の融合などが報告され、脊髄前面角 細胞や前根には病変はみられていない。
以上の臨床症候および検査所見から、筋ジストロフィー症と高度の中枢神経障害が合併していることが明らかである。
徳島大の三好和夫ら(1967,1974)は、悪性肢帯型(malignant limb-girdle type)を新しく提唱している。本病型は、常染色体劣性遺伝を示し、男女にほぼ同様に発病し、筋萎縮は腰帯型。1~5歳で発症し、急速に進行し、血清CKP値は中等度に上昇、筋緊張低下や知能発育遅延を呈さないという特徴を有する。