レポート ザ・ケーススタディ


【電動ホイスト】

「レポート ザ・ケーススタディー」

■生活スタイルその2 乗車編(1)「第二段階」

「Ⅳ.電動ホイスト」車椅子にて

序章 電動車椅子へ

乗車日である。電動車椅子に乗る(トランスファー)には、電動ホイストを使用する。朝食までは、ベッド日と同じ。食後に一服したら、お袋の「さっ、乗るよ。」の一言で、活動が始まる。


まず、集尿器を付ける。(詳しくは、「Ⅱ排尿管理」を参照。)そして、着衣。全介助で、かなりのコツを要する。(視覚的参考には、ビデオ ザ・ケーススタディー。)


掛け布団を全部とっぱらい、折りたたんで、ベッドの横、右足の横にある台にのせる。冬場の寒い時には、一度にはとっぱらわない。足の方からめくって、先に下半身にジャージなどを履かせる。



第一章 着衣

着衣は、とにかく着させ易い物ばかり選んで着ている。上は、襟首にボタンが2つ、3つのポロシャツやボタンのないトレーナー、セーターなど。

下はもっぱらジャージを履き、冷え対策には、中にレッグ・ウォーマーを履いたり、裏生地にネルを縫い付けたりして保温につとめている。

ネルは、スソから腰まで必要で着せにくくなるが、ウエストが十分に広がるように上下左右とハサミを入れたり、左横にチャックを付けて対処している。ウエストの結びヒモも、「前」からチャックに合わせて、左横に付け替えるとよい。


更に、膝掛けを電動車椅子に乗った時、シートからフット・レフトにかけて、すなわち足の裏側に敷き込むと、保温効果が高まる。


こんな物ばかり着ていると、たまにはスーツでも着込みたくなる。しかし、ピッタリしたワイシャツは着せにくいし、スーツで車椅子に乗ってもベルトを上から絞めたのではあまり格好良くない。

そこで、脇のしたに、ベルトを通すチャックを付けた。スーツの胸は「V」でベルトが見えそうだが、ベストとネクタイで隠れることがわかった。着心地も悪くない。


【①レッグ・ウォーマー】

まず、レッグ・ウォーマー。靴下は履いたまま寝ている。ゴムの弱い方を「もも」にくるようにする。


夏場は、半分にカットしたものを、膝を中心に履く。「ひざ」のガードにもなり、見た目にもよい。麻痺した足は痩せこけているが、レッグ・ウォーマーをズボンの中に履いていると、肉付き加減は悪くない。


レッグ・ウォーマーを履かせるコツ。ベッドの左側からの場合、・・・。

 (1) 介助者は、自分の左手に、レッグ・ウォーマーを通す。

 (2) その手で、症例の足首を持って

 (3) 右手でレッグ・ウォーマーを引っ張り上げて、整える。簡単である。

 (4) これを、両足にやる。


【②ズボン】

ズボンは、ジャージ。冬場は、ジャージの内側に「ネル」を縫い付けておくと、レッグ・ウォーマーと合わせて、更に保温効果がある。


ジャージを履くコツは、レッグ・ウォーマーに準ずる。但し、レッグ・ウォーマーと違い、両足であるから、「一息」というわけにはいかない。段階的に、履くのである。


 (1) まずジャージを、やはり介助者の左手に通す。

 (2) その手で、症例の方足の足首を持ち、

 (3) ジャージを「ひざ」まで引っ張り上げる。

 (4) この時、必ずジャージの「すそ」を足首まで持ってきて、チャックを閉める。

 (5) これを、両足ともにやる。

 (6) 次に、ジャージを「もも」まで、方足づつ、両方、交互に上げる。

 (7) 最後に、「こし」まで。ここがポイント。

 (8) 症例の片膝を立てる。

 (9) 左膝なら右側に「倒す」と左の「けつぺタ」が浮く。

 (10)そのスキに、ジャージの腰にくる分を持って、腰まで履かせる。

 (11)同じ要領で、もう片方もやる。


一度にできなかったら、何度か繰り返す。バカ力は、いらない。


〔ハルン・チャック〕

ジャージの右太股上側、パンツ・ライン上には、特別にチャックを付けている。このチャックから、集尿器のホースを出し、尿をタンクに溜めるのである。チャックのツマミを外側に引けば閉まり、内側に引けば開くように、付ける。これは、近所の「なおし屋」さんの手による。料金はそれほどでもない。


冬場、足が冷える時は、普通の靴下とジャージの上から、毛糸の分厚い靴下を履く。見ると、「鉄腕アトムのブーツ」みたいである。このアトム・ソックスには、一年の半分ぐらいお世話になっている。


【③上着】

上半身に着る物。夏は半袖ポロシャツ、冬はハイネックに毛糸のセーター、ネルのトレーナー、ジャンパー。重ね着で、介助者は大変である。首には、襟口にタオルか、グルグルとマフラーを捲いている。頚部を保温するとかなり違う。


さて、上着を着る。

まず、眼鏡を外して、上着に首を突っ込み、眼鏡をかける。

例えば、ハイネック。


右袖から・・・。

 (1) 介助者は、ハイネックの右袖を、自分の左腕に通す。

 (2) その手で、症例の右手首を持ち、「天井の方向」に上げて袖を通す。

 (3) さらに、引っ張り挙げると、肩が浮く。その間に、肩まで入れてしまう。

 (4) 右肩周囲の筋肉は、寝ていても顔のところまで持ってこれる力があるので、引っ張っても脱臼などの心配はない。

 (5) 次に左袖。

     先に右袖を通したので、服が右によっている。これを、右肩は外さないようにして、服を左側に意図的に寄せる。

 (6) 左袖は、右袖と同じようにして通す。

 (7) 左肩は、「万歳の方向」に手を上げて、入れる。

     この時、左肩は亜脱臼しているので意識的に力を入れることが必要なこともある。

 (8) 首と両肩が通ったら、

 (9) 親指を服の裾に突っ込み、残りの指は脇の下の部分を一緒に持ち、

 (10)肩の裏側でタゴロを捲いてる服を、背中までグッと引いて両肩を決める。

 (11)そして、両体側に沿って服を腰まで下げ降ろす。体側といっても、やや背中側を持つのがポイント。

 (12)最後に、左側臥位を取って、裾をズボンに突っ込む。

 (13)左側臥位は、症例の右膝を立て、その膝と右上腕を持って体交する。


介護者みずからのボディーがバリヤーになるのでベッドから落ちる心配はない。


着衣は、基本的には全介助であるが、上着の場合は、症例も肩を浮かすなどすると介助者へのアシストになる。


例えば、首にハイネックなどを通す時には、首に力を入れ、後頭部でベッドを押す。すると心持ち両肩が浮いて、介助者へのアシストになる。肩に通す時にも、心持ち肩を突き上げるようにすると良い。


テレビなど見ながら、服を着る。そして、電動車椅子にトランスファーである。



第二章 トランスファー・システム

電動ホイストは、明電興産の「パートナー」。天井走行型のリフターで、リモコンで操作される。介助者一人でも、腰を痛めることもなくトランスファーできるのが魅力である・・・。来る高齢化社会に向け、介護機器としても期待されている。


着衣が済んでから、トランスファーである。所定の場所から吊り具(ベルト)を取り出し、症例の身体の下に敷き込む。


【①吊り具(ベルト)】

まず、脇の下と両膝の裏に2本の吊り具(ベルト)をセットする。

吊り具には『平』と『アンコ』の2タイプがあり、膝には平タイプを使う。

脇の下には、腋下にパッドの付いたアンコ・タイプ(腋下パッド付き吊り具)を使っている。

これは、脇の下に平タイプを使用すると肩が痛くなるので、負担を軽くするためアンコ・タイプが考えられた。


それでも痛くてたまらない場合は、組んだ腕をそのまま一緒に固定できるタイプも研究されている。

(東京都補装具研究所 TEL:203-6141(代) 市川 洌(きよし) 主任研究員)


商品化はされておらず、都民ならば、オフィシャルに東京都心身障害者センターの住宅相談を受けるとよい。

                                    (詳細は、付録3にて・・・)


(補足:入浴は、リフターを利用している。ベルトは、入浴用にもう1式用意してある。詳しくは、「Ⅷ.入浴介助」にて)


【②トランスファー手順 (1)ベルト敷き】

(1) タイプを、膝の下に滑り込ませる。簡単である。

(2) 脇の下には、アンコ・タイプ。

(3) まず頭をチョット浮かせて、後ろから首の下に滑り込ませる。

(4) 次に介助者は、腕を持ち上げて、

(5) 肩が浮いたところで、肩甲骨の裏までズラす。

(6) この時、症例は介助に合わせて、肩を突き上げて、アシストするとよい。


リモコンは、エレベータと浴室の間にある柱にぶら下げている。

症例のパートナーは、初期型なのでサイズが大きい。


【③リモコン】

電池は、四角い9Vを使用する。

スィッチは、6つ。リモコンの先端(黒くて丸い窓)からの赤外線を発し、

     『赤』ボタンを押すと、      電源が入る。

     『白』                切れる。

     『↑』ボタンを押すと、   ハンガーが上がる。

     『↓』                下がる。

  茶色の『→』ボタンを押すと茶マークの方向に走行する。

  青色の『←』       青マークの方向に走行する。


リフターの所定の場所は、風呂場とベッドの間である。

赤いボタンを押すと「パショツ」と音がして電源が入る。

本体に、赤いランプがつくので、目で確認できる。


【④リフター本体 (1)外観】

ボディーには、走行方向を表示する茶と青の矢印がマークしてあり、緑と赤の 2つランプが出っ張るようについている。

ボディーの下には、重そうなハンガーがワイヤーでぶら下がっている。

ワイヤーの通る穴は2つで、1つは1円玉程度の大きさである。

もう1つは1円玉を10枚ぐらい並べた大きさで、これはワイヤーを巻き取りには幅が要るからである。


【エマージェンシー/H001形とH002形】

電動のリフターは、その性格上、故障時に多くの心配がある。

使用機種は、タイプH001形。

メーカーによれば、トラブルの発生はICの不良とモーターの駆動を両輪に伝 えるタイミング・ベルトの損傷とのこと。


電動リフター使用時において、タイミング・ベルトの損傷は、介助者が伴えば 危険はないが、問題はホイスト・ダウンできない場合である。


つまり、例えば、ホイスト・モーターの故障で、ハンガーが降りない場合、リ モコンで、ダウン信号を送って走行モーターにブレーキがかかれば、ホイスト側 のワイヤーを強く引けばハンガーを下げる事は可能である。

但し、これにはタイミングが難しいとのこと。


また、停電などで走行レールに通電がなくなったり、ICの不良でリモコンを 受信しない場合、ハンガーを降ろすことはできない。


これらの問題を解決したのが、タイプH002形である。緊急時には、ICの モーターに関係なく、機械的な仕掛けで、ハンガーを下げることができる。

その他、H002形は、こまめにマイナー・チェンジをしている。


【④リフター本体 (2)センサー】

緑色のランプ(赤外線感知センサー)が、リモコンからの赤外線を感知すると 電源が入り、その他の操作も受け付ける。

但し、操作は単一動作のみで、上下ボタンと走行ボタンの同時操作は受け付け ない。


【④リフター本体 (3)内臓モーター:走行と巻取り】

本体には2つのモーターが内蔵され、1つはレール上を走行する走行モーター である。

もう1つは、ハンガーがブラ下がっているワイヤーを巻き上げたり、ときほぐ したりするホイスト・モーターである。


リモコンの走行ボタン茶矢印の『→』を押すと、リフターはボディーにマーク された茶の方向に走行し、青矢印の『←』を押すと、青マークの方向に走行する。


パートナーを所定の位置から、症例の上まで移動させる。

『→』ボタンを押す。

「ゴロ、ゴロ、ゴロ。」リフターは、『茶』マークの方向に走る。


「ゴロッ」「ゴロッ」


【⑤走行レール (1)構造】

レールは、埋め込み式。新築でないと難しい。他に、露出型もある。

レールの内側には、2本の銅線が張っていて、微弱の電流が流れている。

もちろん「切る」こともできるが、通常は「入れ」ぱなしである。


「ゴロッ、ポシュ、・・・。」時たま止って、電源も「落ち」たりする。

銅線に緑青が吹き出し、レールが絶縁状態になるのである。

銅線にニッケル・メッキをしても、下から青緑は吹き出す。絶縁防止にはなっ ていないそうだ。


【⑤走行レール (2)手入れ】

絶縁防止には、手入れが要る。

木の棒に紙やすりを付けて、レールを直接磨かなければならない。

以前、メーカーに話をしたら、メンテ業者がそのような手作り道具を置いていった。


しかし取り合えず、その場では電源を入れ直して、またリフターを動かす。朝 は、忙しいのである。


「ゴロ、ゴロ、ゴロ、・・・。」


症例は、横目でTVを見ている。すると、画面にノイズが走る。

どうやら、パートナーが干渉しているようだ。

毎度のことなので、どうとも思わなくなったが、録画をするときには困る。

同じところを通ると必ず、ノイズが出る。どうなっているのだろう。


「ゴロ、ゴロ、ゴロ。」ある箇所を過ぎると、ノイズはおさまる。

パートナーは順調に進む、・・・。


【②トランスファー手順 (2)ホイスト・ダウン】

「・・・、ゴロッ」、腰の真上に来たら、リフターを止め、 ホイスト・ダウン。

リモコンの『下』ボタンを押す。

「ガーッ」とハンガーを降りて行く。


へそ上30cmぐらいでハンガーを止め、ハンガー・フックにベルトの金具を 掛ける。


「カチン。」足側(平・タイプの吊り具)の遠い方(右側)

「カチン。」              近い方(左側)

「カチン。」脇の下側(アンコ・タイプ)の遠い方(右側)

「カチン。」              近い方(左側)


特に順番はないが、これが習慣である。

お袋に「どうして?」と尋ねたこともあるが、首を傾げて「そう?」とか言って、まるで意識していない。

何回も重ねた結果である。どこかに、必然性があるのだろう。


【②トランスファー手順 (3)ハング・アップ】

4点ともフックに掛けたら、ホイスト・アップ。リモコンの『上』ボタンを押 す。

「ガーッ」とハンガーが上がって行く。その様は、・・・。


(1) まず、膝があがり、上半身はのけ反った感じ。首は、後ろに倒れたまま。

(2) 上がるに従い、上半身が起きていく。

(3) そして、お尻がベッドから離れると、上半身ものけ反らなくなる。

(4) 首を起こすと、「グッ」と体重がベルトにかかる。脇の下にベルトが食い込 む。


やはり「ちょっと痛い。」しかし長い時間、ブラ下がっている訳ではない。

それに、痙性で緊張している背筋をストレッチするのに、こんなに楽な方法は ない。


更に、「ガーッ、・・・。」ハンガーは上がって行く。


「ズタッ、ズタッ。」突然のノッキング。


リモコンのセンサーが、パートナーの緑ランプ(センサー感知器)から外れか かったようだ。

テレビに気を取られていたのは、症例だけではなかった・・・。


介助者が気を配り直して、リモコンをリフターに向け直すと、ハンガーはまた 順調に上がっていく。

固体差もあるだろうが、リモコン・センサーはあまり拡散していないようだ。 一定の角度しか受け付けない。


「・・・、ガーッ、スタッ。」ハンガーが止る。これで、一杯である。


「ふんっ、う~ん。」


深呼吸をしながら首を前後に倒したり、360度グルグル回してみる。

バック・レストやベッドなど、頭の動きに制限がなくなる数少ない一時である。 右腕なんかも前後に振ってみる。


人が観ると「ジタバタ」しているように見えるかもしれない。


再び、リフターを『茶』の方向にすすめたいが、その前に電動車椅子をベッド と平行に、上車ポジョンまで引っ張ってくる。


【⑥車ポジション】

電動車椅子、部屋は狭いながらも、壁際に寄せている。前回の下車ポジションから押し下げただけなので、そのまま引っ張り出すと「下車ポジション」が「乗車ポジション」になるという仕掛け。


下車する時には、一人分の間隔を開けて、ベッドと平行に、パワステを真っ直ぐにするのが、介助者へのマナーである。

間隔が開いていなければ、症例もその他の介助を受けにくい。ベッドと平行に止めても電動車椅子のパワー・ステアリング(前輪)が斜めだと、真っ直ぐに下がらないからである。


乗車ポジションは、お尻がリフターで降りる位置である。ほとんど、勘。ホイスト・ダウンした時に、やや電動車椅子が前に出加減にする。


電動車椅子を引っ張り出したら、フル・リクライニングをする。座位のままトランスファーするよりも、バック・レストを倒して、寝かせてトランスファーする方が乗せやすい。この点からも頚損にはリクライニング車をすすめる。


電源は、バック・レスト頭部左の「赤いボタン」である。

押すと「ファッ」という電子音がする。

更に、マイコン・セレクターの「赤いランプ」が点灯するのを確認したら、リクライニングなどの動作機能を選択することができる。


スイッチは、エアー・ブロー。バック・レスト頭部の右側、電源とは対称的な位置にある。(詳しくは、次パート「Ⅵ電動車椅子」にて)


お袋がエアー・ブローを軽く指で押すと、マイコン・セレクターがリレーを開始する。

「ポッ、ポッ。」

ランプの点灯が2つ目のdownに来たら、2回続けて押す。

「ツッ、ピッ。」

すると、「ウィーン」とリクライニング・ダウンをする。


お袋は、マイコン・セレクターの使い方を、熟知しているわけではない。

ただ、リズムでエアー・ブローを押し、リクライニング・ダウンをしている。リクライニング・アップする時もそうである。

お袋には、それでいいと思う。知らなくても、使えればいいのである。


フル・リクライニング。電動車椅子側のトランスファー準備OK!である。


リモコンの『茶』ボタンを押す。

「ゴロッ、ゴロッ、・・・。」再度、パートナーが動き出す。


すぐに、90度のカーブを曲がって、電動車椅子のポイントへ向かう。ちなみにカーブ部分は高い。


【⑤走行レール (3)タイプ】

天井へのレールの取り付け方には、「埋め込み型」と「露出方」がある。

新築の場合レールを天井に埋め込み、家屋改造の場合レールは露出になる。

レールには、直線のSレールとカーブのRレールがある。

また、方向転換には、ターン・テーブルも用意されてはいるが、かなり値がはる。(詳しくは、付録2を参照。)


【②トランスファー手順 (4)ハング・ダウン】

「・・・、ゴロッ、ゴッ。」電動車椅子の真上で、パートナーを止める。

間髪入れずに、『下』ボタンを押す。

「ガーッ。」ハンガーが下がって行く。

お尻がシートに沈むやや前に、介助者は症例の足首を持って下げる。


パートナーを真上に止めたつもりでも、多少はズレることもあるし、ハンガーが回ってしまうこともあるからだ。

これをコントロ-ルするために足首を持つ。お尻だと、ハンガーが余計に回ってしまうのだ。

コツとしては、シートがやや前に来るように電動車椅子を置き、お尻がシートに収まる瞬間に持っていた足首を前に引いて、シートに収まるようにする。


お尻がシートに着いても、更にハンガーは降りる。

「ガーッ。」

徐々に両膝が伸びてくる。

「ガーッ。」

両足の平が、ステップに近づく。

「ガーッ。」

両足の平を、ステップに乗せる。


頭は、必然的に平枕の上に乗る。

右側には、エアー・ブロー、ゴム質だからやわらかい。

左側には、電源スイッチ、硬質プラスチックが硬く感じる。


上半身は、バック・レストにきちんと乗っている。ズレていたとしても、それほど問題にならない。

要は、下半身、特に腰の位置が重要なのである。

両手は、ブラリとしている。肩甲骨のベルトが妙にかさばる。


身体が電動車椅子に乗ったところで、フックからベルト金具を外す。


「カチン」、「カチン」、「カチン」、「カチン」。


2本のベルトは両端がしなる。

ハンガーは「ブラ、ブラ」としている。


【②トランスファー手順 (5)ホイスト・アップ】

リモコンの『上』ボタンを押す。

「ガーッ、・・・。」なかなか、ハンガーが上がりきらない。


「もう少し早く上がってくれないかしらねェ。」お袋がたまらずにこぼす。

症例のケアを済ませてから、仕事に出ようというのだから、気持ちはわかる・・・。


が、「まぁ。こいつのおかげで、介助者1人でトランスファーできんだから、それでヨシとしないとね。」「2人で、ワッセ、ワッセとしてた時の事を考えればえらい違いだと思うけど・・・。」

そう言って、入院期のことを思い出す。


関東労災病院、リハビリ病棟でのこと。

午前のプログラムはPT。


2階のリハビリ病棟から1階の体育館(運動療法室)に電動車椅子で降りて行く。これも訓練なのである。

スロープで減速したり、カーブを大きく回ったり、すれ違いで譲ったり譲られたり、・・・。

今思うとマットでコチョ、コチョやるよりも、よっぽどリハビリの本質をついている。


PTでは主に、右腕の残った運動能力すなわち残存機能を強化したり、呼吸訓練などをやっていたが、これは、電動車椅子に乗っかるための必要最低限度の基礎体力をつけるものだ。


この基礎体力を基に、電動車椅子を自在に操る。十分な体力を持っていれば、周りを「見切る」のは簡単なことだ。

しかし、ギリギリの筋力しかないと、コントローラーのレバーを押すのが精一杯で、周りを「見て」も、見えていないことがある。


故に意識的に「見る」ことが必要になる。病棟から訓練室まで、自ら電動車椅子で行くことが格好の訓練材料になるのである。

それには、まず電動車椅子にトランスファーしなければならない。


しかし、電動車椅子に乗るにも一苦労。人力によるトランスファーには、人間が2人、付添婦の他に看護婦がいる。

ところが看護婦は、処置などで運動会のように駆けづり回っている。毎朝「捕まえる」のが大変だったのを思い出す。


介助者1人だけでトランスファーができれば、それにこしたことはなかったのである。

(もっとも、看護婦の介助には、コミュニケーション的な要素があり、事実楽しかったことは歪められない。)


介助者1人によるトランスファー。退院して、家に帰れば尚更である。

皆、仕事を持っているから、とてもトランスファーのために常時介助者を2人そろえることはできない。電動ホイストがどうしても必要だったのである。


リクライニング機構のない普通の車椅子の場合だと、介助に2人を要したが、リフターを使って1人でトランスファーする方法を思いついた。

まず、リフターで車椅子に座らせたら、平たいベルトが胸ぐらいにくるようにハンガーにかけ、両手ごと上半身をベルトに突っ込み、体重の半分をあずける。

そして、後ろからズボンごとひいて、深く車椅子に座ることができる。


これを考えれば、ハンガーの上がるのがチョット遅いぐらいなんでもないのである。

だが、早く仕事に行こうと思うので、「遅い」ことが気になりだすのである。


「ガーッ、・・・。」ハンガーが上がり続け、・・・。

「ガーッ、スタッ。」一杯まで、巻き上がる。

すかさず、リモコンの白いボタンを押す。

「スコン。」とパートナーの電源を落とし、リモコンを所定の場所に戻す。

パートナーを一々、元に戻す必要はない。

夜にベッドへ、トランスファーする時、乗車と同じポイントが下車のポイントにもなるからである。


その様を見ながら、お袋に話しかけてみる。


「アノサ、『上』ボタンだけは1回押せば、最後まで上がりきるってのはどう?」

「・・・。」

「イヤ、スピードはしょうがないと思うんだけど、ついでに電源も落ちてくれたらいいんじゃない?」

「う~ん、・・・。」

「使いやすくない?」

「・・・。」


介助者の声を聞きたかったが、ほとんどリアクションはなかった。

フッとした思い付きなど、こんなものか・・・。


が、毎日のことであるから、何とかなるなら、したいものだ。


パートナーの位置はいいし、電源も切った。最後にベルトを外しにかかる。


【②トランスファー手順 (6)ベルト外し】

介助者は、ベッドと電動車椅子の間に入りながら、


(1) 症例の右手首を持って天上方向に引っ張ると、肩が浮く。アシストもする。

(2) その間に、ベルトの右半分を頭の方向へずらす。

(3) 介助者は、症例の左腕の付け根に手をのばして、軽く持ち上げる。

(4) 腕を持ち上げるように滑らせて、左手首をしっかりと握る。

(5) 右手と同じようにして、肩の浮いたスキにベルトをずらすと、ベルトが首に来る。

(6) 無意識に首を、「ひょい。」と持ち上げ、 ベルトを引き抜こうとすると、

(7) ベルトは、「スッ。」と抜かれる。

(8) 続いて、膝の裏側にあるベルトも引き抜き、 合わせて所定のフックに引っ掛ける。



余章 その他のセット・アップ

この後、体位保持用にベルトを絞めて、リクライニング・アップし、集尿器を セットし、ECSの呼気センサーをセットする。


症例にとって、トランスファーとは、ベッドから電動車椅子へのトランスすべて、すなわち着衣や環境のセット・アップも含むのである。ここでは、便宜上「電動ホイスト」の利用までにとどめておく。

電動車椅子の乗車チェック、及びその他のセット・アップは次パート「Vセット・アップ」にゆずる。


〔付 録〕 トランスファー・システム:天井走行リフター


〔付録1-1〕 設置タイプ

パートナーを取付けるには、天井に取付ける方法と簡易に設置する方法がある。

天井取付型には埋込タイプと露出タイプがあり、ほか簡易設置型には家庭用と 施設用がある。


家庭復帰に際して住宅改善を考えた場合、 新・増築するなら、レールを天井に埋めこむ天井取付型(埋込タイプ)がいいだろう。


改築なら、レールが露出している天井取付型(露出タイプ)になるだろう。

どちらにしても天井取付型には、架設する工事が要る。

工事ができない場合には、簡易設置型(家庭用)がある。これは、2.7mの走行レールを4本の鉄製パイプで支えているものだ。


簡易設置型(施設用)は、スタンドにキャスターがついていて移動が楽にできる。


〔付録1-2〕 走行レールに関して・・・

レールは、内側に銅線が2本(ニッケル・メッキ可)通電は、微弱である。

電源(メイン・スイッチ)は、レール端にあるボックス内に収納。

走行不可になる事由は、絶縁状態。湯垢、煙草のヤニ、ホコリなどがレールに付着すると通電しなくなり、リフターは走行不可になることがある。

この場合、直接レールを紙やすりなどでみがいてやる。


ノイズ干渉 リフターが走行すると、ノイズが出て、TVに干渉するポイントがある。


〔付録2〕 費用 明電社パンフレット1986-3(21.5L)To3Lの折込6104(c)より


個人専用天井取り付け型 定価表
個人専用天井取り付け型の構成 単位 定価(円)
本体(H002形)ハンガー・リモコンを含む 一組 520,000
吊りべルト 一組 20,000
直線レール(鉄製)取付部品含む 一M 46,000(ステンレス制は約5割増)
曲がりコーナー部(鉄製) 一本 90,000(R=600)

個人専用簡易設置型 定価表
個人専用簡易設置型の構成 単位 定価(円)
本体(H002形)ハンガー・リモコンを含む 一組 520,000
吊りべルト 一組 20,000
直線レール(鉄製) 一本 60,000(2.7m 定尺)
設置架台 一式 100,000(鉄製パイプ式)

注)病院・施設等使用頻度の高い場合、本体は高頻度タイプ(ML2002形)・定価800,000(ハンガー・スイッチ含む)をお使い下さい。

付属部品定価表
御希望納入品 単位 定価(円)
呼気スイッチ(操作用) 一式 98,000(走行・昇降)
引ひもスイッチ 一式 90,000(走行・昇降)
リモコン・スイッチ(予備用) 一個 27,000(走行・昇降)
浴室用吊り椅子 一台 85,000
ターンテーブル 一式 400,000(レール方向転換装置)
非常用電源装置(EP-05) 一台 98,000(定格保証 5分)
注)1.上記金額には調査費、搬入費、諸経費は含まれておりません。
注)2.上記金額は予告なしに変更することがありますので予めご了承下さい。

リース料金表
形 式 月額料金(円) 備 考
S式 22,200 3年(36カ月)分割払い
T式 24,600 搬入費、架設費、諸経費はご契約時にお支払いいただきます。

リース料金表 (月賦)
形 式 月額料金(円) 備 考
S式 23,300 3年(36カ月)分割払い
T式 25,700 搬入費、架設費、諸経費はご契約時にお支払いいただきます。

レンタル料金表
形 式 期 間 月額料金(円)  備 考
S式 1~12ヵ月間 34,300 最低御契約期間4ヵ月
13~24ヵ月間 232,000   レンタル期間満了前解約時レンタル料金の2ヵ月を
お支払いいただきます。
25~36ヵ月間 12,100  
※リース及びレンタルの料金に含まれるもの

S式(簡易設置形家庭用)

本体部 :巻上機、ハンガー、リモコンスイッチ

レール部:鉄製(2.7m)

架台部 :鉄製パイプ式

(注)吊りベルト一式20,000円は別ご購入いただきます。


 T式(天井取付形)

本体部:巻上機、ハンガー、リモコンスイッチ

レール部:鉄製(5m)

(注)吊りベルト一組20,000は別途ご購入いただきます。


※延長レール(5m以上の場合)は1m当たり46,000にて別途うけます。

S.61年4月現在

明電興産株式会社 〒141 品川区大崎3-7-9 TEL:03-490-3737(代)



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