美術館見てある記・2007年編

2008年 1月 6日


 ミーハー的美術館みてあるき記事を書いてから、ずいぶん年月がたってしまいましたが、2006年秋にフランス出張に行き、中間の週末にパリで4つの美術館をはしごして(マルモッタン美術館、オルセー美術館、オランジュリー美術館、ルーヴル美術館)、またまた美術熱が頭をもたげてきました。
 2007年は、日本でも見てみたい美術展がいくつかあったことと、我が家からそう遠くない三浦半島の観音埼に新しい「横須賀美術館」がオープンしたこともあって、いつになく美術館めぐりをしてしまったので、追加編で記事にしておきましょう。

<その他の美術館見てある記>
  ・その1・アメリカ編
  ・その2・ドイツ編
  ・その3・フランス編
  ・その4・日本編

マルモッタン美術館のパンフレットマルモッタン美術館(Musee Marmottan Monet)
 恥ずかしいことに、日本語版のカタログを売っていました・・・。

オルセー美術館のパンフレットオルセー美術館(Musee d'Orsay)
 ここにも日本語版のカタログが・・・。

オランジュリー美術館のパンフレットオランジュリー美術館(Musee de l'Orangerie)
 ここにも日本語版カタログ・・・。

ルーヴル美術館のパンフレット ルーヴル美術館(Musee du Louvre)
 ここにも日本語版カタログ・・・。


1.モネ回顧展(国立新美術館)

 モネといえば、何といっても圧巻なのはオランジュリー美術館の2つの「睡蓮の間」です。壁をぐるりと360度取り囲んだ睡蓮の大作。前回1987年にここを訪れて以来モネのファンになり、2006年秋に再訪する夢がかなったのでした。
 そのモネをまとめて日本で見られる、しかもまだ行ったことのない国立新美術館で、ということで出かけてきました。

 展示内容は、ただモネの絵画を並べるというだけではなく、同時期に同じ対象・モティーフを描いたもの(普段は世界各国の異なる美術館に展示されている)を並べて展示するという、なかなか興味深いものでした。
 マルモッタン美術館で、膨大なモネのコレクションを見たときに、年代とともに睡蓮の描き方が変化して行き、最晩年はかなりぞんざいな描き方になって手抜きでは、と思っていたのですが、モネが晩年ほとんど目の見えない状態で絵を描き続けていたということを知って、納得しました。

モネ回顧展のパンフレットモネ回顧展のパンフレット

モネ回顧展のチケットモネ回顧展のチケット

 「国立新美術館」については、どうして六本木のこんな場所に広大な土地があったのか、元は何だったのかと思っていましたが、美術館内に展示されていた「東京大学・生産技術研究所」の模型を見てピンと来ました。そう、元の「東大・生研」には仕事で何度か来たことがあったのでした。
 この美術館も、故・黒川紀章氏の設計でしたね。


2.フェルメールとオランダ風俗画展(国立新美術館)

 国立新美術館には、11月に再び行きました。お目当てはフェルメール。
 フェルメール「牛乳を注ぐ女」は、ほとんどアムステルダムから門外不出で、今回たまたまアムステルダム美術館が改装工事中なので貸し出しが可能になった、ということで、これを逃すと一生拝めないかしれない、と行って来ました。
 同時代のオランダ風俗画と併せた展示でしたが、フェルメール「牛乳を注ぐ女」の光と明るさは際立っていました。この絵だけ、パンダ舎並に「立ち止まらないで下さい」状態でしたが、平日の夕方近くだったので、まだゆったりと見られた方だと思います。

 実は、ミーハー美術ファンは、フェルメールのことをあまり知らず、世界に30数点しか現存しない、ということで、初体験のつもりで見に行ったのですが、行ってみて実はアメリカのワシントンでもフェルメールの絵を見ていたことが判明しました。
 私のみてある記・アメリカ編に載っているワシントン・ナショナル・ギャラリー)のパンフレットの表紙の絵が、実はフェルメールだったのです(「赤い帽子の女」)。この絵は、確かにワシントンで見た記憶があります。ワシントン国立美術館には、その他3枚フェルメールがあるそうのですが、そちらはほとんど記憶に残っていません・・・(「手紙を書く女」「天秤を持つ女」「フルートを持つ女」)。もったいない・・・。

 また、ルーヴル美術館にも「レースを編む女」という絵があったらしいのですが、私は見逃していたと思います。(何せ、ルーヴルは広すぎる・・・)

フェルメール展のパンフレットフェルメール展のパンフレット








フェルメール展のチケットフェルメール展のチケット

 この美術展には、もう一つ、上野学園が所有する古楽器も展示されていました。ヴィオラ・ダ・ガンバ、ヴィオラ・ダモーレや、リュートといった、名前はよく聴き、写真や映像で見たことがあるものを現実に見ることができたのと、名前も実物も初めて接するものもあった。ヴァージナル(アップライト型チェンバロ)、ハーディ・ガーディ(鍵盤式フレット、手回し弓付き小型ヴァイオリン)、キタローネ(低音リュート、長・超長の2本の棹を持つ)など。上野学園のホームページで写真を見ることができますが、実物を見ることができたのは大変ためになりました。


3.ムンク展(国立西洋美術館

 秋の上野界隈で、西洋美術館の「ムンク展」と東京都美術館の「フィラデルフィア美術館展」をはしご。この2つの美術展を同じ日に回ると、入館料が割引になりました・・・。

 実は、仕事でノルウェーからの来訪者に会う機会があり、ちょっとノルウェーについて調べていたのでした。その中で、特に今年(2007年)没後100年のグリーグ(1843-1907)、そしてイプセン(1828〜1906)、ムンク(1863-1944)といったノルウェー文化に行き当たりました。
 このとき知った事実に「ノルウェーは世界第3位の石油輸出国」というのがあります。意外ですよね。そしてノルウェーは日本よりも広い国土に、全人口が460万人。石油収入とこの人口なら、確かに福祉国家を維持できそう・・・。過密の日本とは、ずいぶん違った社会ですね。

 ムンクは「叫び」の画家という程度にしか知りませんでしたが、今回全生涯にわたる一通りの作品を見て、かなりイメージが変わりました。(我が家にあるナクソス盤CDのグレツキ/交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」のジャケットが、このムンク「叫び」なのでした。そういえば、昔子供と一緒に遊んだテレビゲーム「桃太郎電鉄」の投資対象の名画の中に、この「叫び」をもじった「あくび」というのがありました・・・)
 根拠のない不安、女性の官能性と魔性、希望と絶望といった極端から極端に揺れ動く孤独な画家というイメージですが、晩年には「個人」から「社会」にも視野を広げ、社会的にも認められ恵まれた人生を歩んだようです。また、同じモティーフ(「吸血鬼(抱擁する男女)」何度も繰り返して描いていたり、「水面に映る月」がいろいろな絵に共通に登場していたり、生涯にわたって女性の中の魔性や救い、癒しなどの多面性を追い求めていたようで、いろいろと発見があり興味を持ちました。

ムンク展のパンフレットムンク展のパンフレット


ムンク展のチケットムンク展のチケット


4.フィラデルフィア美術館展(東京都美術館)

 前述のムンク展からのはしごで観ました。
 このフィラデルフィア美術館前の階段は、映画「ロッキー」で主人公ロッキーが駆け登る場所なのだそうですね。

 フィラデルフィアという街は行ったことがありませんし、この美術館も当然行ったことがありません。でも、さすがにアメリカ、実業家が富で買い集めたコレクションを寄贈して美術館の所蔵品が充実してきた、ということで、特定の有名な絵はないものの、有名どころの画家の作品が目白押しでした。
 ルノアール、モネはおなじみですが、モネが最晩年に描いた、ジヴェルニーの自宅の日本庭園にかかる橋が、ほとんど見えない目で描いた痛々しさが伝わってきました。
 ユトリロの白壁もなかなか気に入りました。
 パンフレットの表紙になっているアンリ・マティスは、ヒンデミット作曲「画家マティス」のマティスではありませんよ、ということで最近話題になっていたことを思い出しました・・・(ヒンデミット作曲「画家マティス」は、中世ドイツの画家マティアス・グリューネヴァルト)。この「青いドレスの女」の着ている青いドレスが、美術館に飾ってありました。

フィラデルフィア美術館展のパンフレットフィラデルフィア美術館展のパンフレット (アンリ・マティスですね!)








フィラデルフィア美術館展のチケットフィラデルフィア美術館展のチケット


5.横須賀美術館

 2007年4月に新しくオープンした横須賀美術館は、三浦半島の観音埼公園の中にあります。小さな美術館で、有名作品はないものの、東京湾の景観と開放感を楽しめる美術館です。景観を壊さないよう、低層の建物で展示は地下にあります。屋上からは浦賀水道を行き来する船と対岸の房総半島がよく見え、芝生で寝転んだり弁当を食べることもできます。

 特に、敷地内に併設されている谷内六郎館は、この美術館のすぐ近くにアトリエを構えて「週刊新潮」の表紙絵を描き続けた谷内六郎氏の原画が寄贈されていて、その原画と作者コメント(週刊新潮に載ったもの)を展示していてお勧めです(常設展示と共通のチケット\300で見られます)。
 チケットのデザインになっているのは、長年横須賀(田浦)にアトリエを構えて活動し、没後作品を横須賀市に寄贈した朝井閑右衛門氏の作品で、この画家の作品が一つの部屋に常設展示されています。
 この朝井閑右衛門氏や谷内六郎氏など、地元との結びつきが、この美術館の最大の特徴であり財産のようです。

横須賀美術館のパンフレット横須賀美術館のパンフレット





横須賀美術館のチケット横須賀美術館のチケット


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