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RESPLENDENT

  • 著者:スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter)
  • 発行:(2006/9/21)Gollancz £12.99(ペーパーバック大判)
  • 2007年3月読了時、本邦未訳
  • ボキャブラ度:★★★★☆
     ※個人的に感じた英単語の難しさです。

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 ジーリークロニクルの外伝、Destiny's Childrenシリーズの第4巻。Asimov's誌などに掲載された19作品を全面的に改稿し、年代順に再構成した短編集です。


 このDestiny's Childrenシリーズは、もともと「環境と時間による人類の分化と変容」をテーマにした長編三部作(CoalescentExultantTranscendent)でした。各巻単独では斬新な取り組みもあったのですが、3巻の関連性が希薄で、シリーズ物としては失敗した感があります。しかし、本書は、各短編がその関連の穴を埋めつつ、さらに本家ジーリーシリーズをも補完しており、重要な1冊となりました。MayflowerIIなど元々単行本だった作品も収録されていて、非常にお得です。

 本書では、54世紀のクワックス支配期から、第3次拡張期を経て、人類が終焉を迎える100万年後までのエピソードが綴られます。主人公はそれぞれ異なりますが、全体は、その歴史を不死人ルルが振り返る視点で構成されています。


 背景であるジーリークロニクルのスケールはそのままに、初期の作品ではみられなかった叙情性も加わって、久しぶりにSFらしいSFをじっくり堪能させてもらいました。ジーリーファンなら、この短編集だけは、なんとしても読むべきだと思います。お勧めです。

 というわけで、ストーリー紹介も最小限にしておくことにします。

●ストーリー● (ネタバレあるのでご注意を。日本語タイトルは適当です。)

 

1 復活 (Resurgence)
Cadre Siblings 「兄妹」 (AD 5301)
 地球の支配者となった異星人クワックスは、人類の記録や地球の自然の徹底的な消去を続けていて、支配を補助させる一部の人間にのみ、不死の特権をを与えていた。
  少女ルルは、ある日、不死人キャナに召喚され、クワックスに反抗して研究所に立てこもった幼馴染みの少年を説得するよう命令される。そして、不死となる薬を手渡される。
Conurbatin 2473 「都市2473」 (AD 5407)
 少女ララは、人類の「連合」の蜂起により、クワックス支配が崩れ去るのを目撃する。しかし、宇宙から来た連合の人間たちは地球に軍政を敷き、ララたち住人に対してクワックス技術の使用を禁じる。
Reality Dust 「リアリティ・ダスト」 (AD 5408)
 「歴史真理委員会」の執行官ハマは、クワックスに協力した不死人たちを逮捕するため木星の衛星カリストに赴く。そこでは不死人たちが、追跡を逃れ永遠に生き延びるために異様な実験を行っていた。
  (※2000年刊ノベラ単行本の再収録)
All in a Blaze 「きらめきの中」 (AD 5478)
 ファヤは、太陽系外縁の氷小惑星ポート・ソルで穏やかに暮らしていたが、自分が歳をとらないことに気づいていた。周囲の疑いの目を感じ始めていたある日、謎の女が彼女に近づいた。
2 ゴースト戦争 (The War with Ghosts)
Silver Ghost 「シルバーゴースト」 (AD 5499)
 少女ミンダは、極寒の惑星で遭難し死を覚悟したとき、謎の銀色の球体と出会う。シルバーゴーストと人類の悲劇的なファーストコンタクトを描く。
     (※SFマガジン2003年2月号に邦訳掲載 )
The Cold Sink 「コールド・シンク」 (AD 5802)
 シルバーゴーストとの交渉官であるラオウルは、役割の重圧に疲弊しきっていたが、交渉相手のシルバーゴースト「大使」から奇妙な誘いを受ける。その真意とは……
On the Orion Line 「オリオン線にて」 (AD 6454)
 オリオン線は、シルバーゴースト戦争の最前線。戦闘が開始されようとしたとき、全ての艦艇は一切の機械が作動しない空域に飲み込まれ遭難してしまう。からくも脱出した主人公たちは、シルバーゴースト船に突入し、予期しない肉弾戦を行うはめになる。その戦いの中で、彼らは自分たち人類の本質を垣間見ることになる。
Ghost Wars 「ゴースト戦争」 (AD 7004)
 劣勢だったシルバーゴーストが、突然反転攻勢に転じ、恐ろしく狡猾な戦い方で人間を打ち破り始めた。その裏に「ブラック・ゴースト」という謎の存在がいるという噂が広がっていた。人類の戦闘艦「オリオンの槍」号は、シルバーゴースト側から秘密裏に接触を受ける。「ブラックゴースト」を暗殺してほしいというのだ。
 シルバーゴーストの出自が明らかになる短編。
The Ghost Pit 「ゴーストの穴」 (AD 7524)
 レイダは、駆逐されつつあるシルバーゴーストを追うゴースト・ハンター。わずかな情報を手がかりに、彼女はベテランの同業者レッシュとともに、3つの月がパイプで連結された惑星系にたどり着く。そこはシルバーゴーストの巣窟と思われたが……
3 同化 (Assimilation)
Lakes of Light 「光の湖」 (AD 10,102)
 同化委員会の使節パラは、第2次拡張期に殖民した人類の子孫に接触しようとしていた。しかし、彼らが住んでいる場所−それは、ひとつの恒星をまるごと包んでいる漆黒の殻の表面なのだ。
Breeding Ground 「繁殖地」 (AD 10,537)
 人類は、生物宇宙船のスプライン船と契約を交わし、戦艦としていた。砲手マリの乗り組むスプライン船は、シルバーゴーストの急襲により重症を負って操縦不能になり、超空間を暴走する。ようやくたどりついた場所で、マリたちはスプライン船の本当の正体を知る。
 
The Dreaming Mound 「夢見る菌糸」 (AD 12,478)
 人類は、戦争遂行のために不要な惑星をまるごと粉砕し、資源採取を行っていた。人民委員ゼラは、破壊を命じられて辺鄙な惑星に赴くが、そこには忘れ去られていた第2次拡張期の移民団の子孫と、謎の菌糸が共生して暮らしていた。
The Great Game 「偉大なゲーム」 (AD 12,659)
 人類はジーリーとの全面戦争の瀬戸際にあった。カード提督の軍は、救助の要請を受け地殻変動に見舞われた殖民惑星へ赴くが、その惑星はジーリーの戦艦ナイトフライヤーに取り囲まれていた。
4 煌き (Resplendent)
The Chop Line 「チョップ戦線」 (AD 20,424)
 ジーリーとの戦いが続く中、ダック少尉の勤務する592基地に見知らぬ傷付いたスプライン船が到着する。そこで彼女は、船長となった未来の自分と対面する。彼女が未来に犯した軍規違反の罪で、未来の自分を裁かなければないのだ。
In the Un-Black 「黒でないもの」 (AD 22,254)
 少女ラバたちの一族は、巨大ガス惑星の中に浮かぶ「監視所」で世代を重ね、目的さえも忘却した任務に当たってきた。いつか地球行きのシャトルが迎えに来ることを夢見て。ついにある日、同化委員会が一つの決定を携えて監視所に到着する。
Riding the Rock 「岩乗り」 (AD 23,479)
 人民委員見習いのルカは、対ジーリー反攻作戦に同行を命じられる。ルカは女性艦長ティールに魅かれるが、銀河系中心部の最前線で彼を待っていたのは、想像を絶する戦いの現実だった。
  (※2002年刊ノベラ単行本の再収録)
5 帝国の陰り (The Shadow of Empire)
Mayflower II 「メイフラワーU号」 (AD 5420-24,974) 
55世紀、小惑星ポート・ソルには、クワックスへの協力者とみなされた人間たちが連盟の追跡を逃れ暮らしていたが、ついに連盟の艦隊に急襲を受ける。技術者ルセルを含むわずかなメンバーが、亜光速の殖民船・メイフラワーU号で脱出する。指導者である不死人アンドレは、幾世代にもわたる航行を予期し、ルセルを新たな管理者として不死人にする。しかし、それはルセルにとって、数万年にわたる苦闘の始まりだった。
  (※2004年刊ノベラ単行本の再収録)
 
Bitween Worlds 「世界の間で」 (AD 27,152)
 「ウィグナーの友達」協会の新米僧ヒューチャリティは、ブラックホールに飲み込まれつつある惑星からの避難の支援に狩り出されていた。しかし、避難民の一人の女が、爆弾で船をハイジャックし、協会に対し、意味の分からない要求を突き付ける。ブラックホール内で生きている実の娘と、死んだ救世主マイケル・プールに会いたいというのだ。
6 人類の敗北 (The Fall of Mankind)
The Siege of Earth 「地球包囲」 (AD 1,000,000)
 百万年後、ジーリーに敗れて太陽系に追い詰められた人類は、ジーリーが用意したポケット宇宙へと最後の退却を始めていた。絶望が支配する中、少年サイマットは、大人たちに反抗して一人火星の荒野を放浪していた。しかし、廃墟の都市で「バーチャル」の子供たちと出合ったことから、彼は突然、地球の運命を左右する役割を担うことになる。
  クラークの「都市と星」、ブラッドベリの「火星年代記」を髣髴とさせ、最終章を飾るにふさわしい佳作。



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