はじめに
この辞典は、実務翻訳に携わる私たち二人が自らのために蓄積した英語表現集をもとに、辞典として必要な部分を補いながら発展させてきたものです。収録した英語表現はすべて、英語圏で作成された文書や印刷物などから拾った、生きた実例です。仕事にそのまま使えるような有用な用例を、英語または日本語のキーワード(英和または和英)で引けるように整理しました。ボリュームが増えたために、今回の改訂では英和と和英を一冊にまとめることができず分冊となりました。『ビジネス技術
実用英和大辞典』(以下、英和編と呼ぶ)がひと足先に刊行され、一カ月ほど置いて『ビジネス技術
実用和英大辞典』(以下、和英編と呼ぶ)が刊行されます。用例の中には、英和にのみ収録したものや、和英にのみ入れたものもありますが、英和と和英は表裏一体ですので、ここでは両方についてまとめて述べます。見出し数および用例数は、次のようになっています。
・英和−−見出し19,937 子見出し1,271 用例83,363件 参考用例 82件
・和英−−見出し22,494 子見出し 140 用例85,511件 参考用例275件
辞典の特徴を知った上で有効にお使いいただくために、もう少し細かくご説明しましょう。
1) 他の辞典と併用する二冊目の辞典
本書は、「これ一冊で大方用が足りるように」との意図で作られたものではありません。メインに普通の英和/和英辞典を用意していただき、二冊目として補助的に使用されることを想定しています。というのも、この辞典づくりの発端は、既存の辞典が知りたいことすべてには答えてくれない不満から、それを補う情報を収集し始めたことだったのです。
私たちは二人とも日英方向の翻訳をしていましたし、仕事を離れても、もっと自在に英語で表現できるようになりたいという思いがあり「この日本語を英語で何と表現するのだろう」という疑問を常に持っていました。辞典では調べがつかなくても、英語国で作成された文書をいろいろと見ていると、その中に答えが見つかることがあります。なるほど、こう言えばいいのか、と。そうして集めた実例が、自然発生的にこの辞典になったのです。和英方向の問題意識を持って用例を収集したことが、和英編ではそのまま役立つはずですし、英和編においても他の辞典と違った観点で編集されたことになり、ひとつの特徴になっているのではないかと思っています。
十分に網羅的ではありませんが、ほかの辞典を補う情報が豊富ですので、お手持ちの辞典の代わりにではなく、相互に補い合うものとしてお使いいただければ幸いです。
2) 受け身の英語ではなく英語での発信に
英和編と和英編を、単に前者は英語を読むためで後者は英語を書くため、というふうには捉えないでください。上の
1)
で述べたように、英文を理解することよりは英語で表現することに重きを置いて編集してあります。英語を読むには英和編を、英語を書いたり話したりするには和英編と英和編の両方を役立てていただけたらと思います。
英和編は、見出し語がどのような意味で用いられるかを示すだけでなく、見出し語の使い回しを示すことも目的としています。名詞については、可算か不可算かの情報をできるだけ示しました。また、どんな前置詞、動詞、形容詞と連語を成すか(コロケーション)がわかる用例を示すようにしました。英文を組み立てるにあたって、どの英単語を使えばよいかをまず和英編で見当をつけ、それから英和編でその単語を引いて実際の組み立て方を調べるといった使い方をお勧めします。
英和編については、見出し別に用例を並べただけでなく、見出し語自体の意味の説明にもある程度力を注いで編集しました。一方、和英編は、集まった用例をどれかの見出しの下に配して整理しただけであり、他の辞典で調べがつく重要な基本的表現は必ずしも含まれていません。
3) 用例は、ネイティブによる自然な英語から取材
用例は、英語圏(主に米国、その他カナダや英国など)で作成された文書からとったものです。ほかの言語から英語に翻訳されたと思われるものは、対象から除きました。インターネット上の文書からもとりましたが、非英語国のサイト、ネイティブでない人によって書かれたと思われる文書、あるいは入力ミスや誤用と思われるものを排除するよう心がけました。抽出するにあたって、用例として不要な部分を削ったり、指示語を具体的なものの名に変えたり、固有名詞を架空の名にするといった程度の加工は施しました。
各用例には和訳をつけました。英和編に限らず和英編においても、和訳を英語の後に配置しましたが、これは、英語表現が先に存在したのであり、和訳はそれの理解を助けるために私たちがつけたものだからです。
和訳は、翻訳のお手本になるような性格のものではありません。用例の前後の文脈が断ち切られているため、実際に翻訳するときとはどうしても異なった言い回しになる場合があります。また、普通は訳さない
the
をくどいほどにまで「その」とか「それらの」と明示的に訳しました。これは、日本では不定冠詞
a を使うべき時にまで the
を使ってしまうきらいがあるために、この辞典では a と the
の違いを際立たせようと意図したものです。辞典という性質上、英文と和文の対応が取りやすいよう直訳に近い訳し方をした場合も少しはありますが、学習辞典ではないので、全体の傾向としてはためらわず意訳を入れるようにしました。B意訳Cと断らないで意訳してあることもありますのでご了承ください。
4) 実際に即した生きた用例
取扱説明書、仕様書、案内書、報告書、プロポーザル、契約書、論文、ホームページなどの文書を作成するときにそのまま使えるような表現を集めました。メディアで使用される表現も多数収録しましたので、新聞、雑誌を読むときに役立ちます。
5) 豊富な言い替え
見出し語の意味だけでなく、用例の訳でも
[ ](部分的言い替え)、および ;(用例全体の言い替え)記号を使って言い替ました。多少くどく感じますが、探している言葉を思い付くための発想の助けになったり、言葉が持つ意味の幅の広さを示せるものと思います。
6) 今の時代を反映
時事用語については、網羅的にではありませんが、海外の媒体に現れる重要語を、最新のものも含めて収録しました。日進月歩の技術分野の用例についても、新しい表現を追加しています。ただし、古い話題の用例もあります。古いものについては、一部差し替えましたが、英語表現として現在も参考になる用例は残しました。
以上を踏まえて、状況によってこの辞典と他の辞典をうまく使い分けていただけたらと思います。それでは、お急ぎの方は以降の序文を読み飛ばして、本書とどうぞよろしくお付き合いください。
さて、今回の改訂までに至った経緯などをざっと書いておきましょう。辞典のもとになる用例収集は、先に海野文男が1983年から少しずつ始め、80年代末頃には書きためた表現が大学ノート30冊ほどになりました。それを表現集としてまとめようと、1990年に入ってから思い切って二人とも翻訳の仕事を休んでコンピュータに入力し始めました。やっていくうちに辞典の形にしようと考えるようになり、大プロジェクトに発展して作業が思ったより長引いてしまいました。生活資金が続かなくて途中しばらく翻訳の仕事に戻ったりもしましたが、幸いにも各方面から援助を受けながら何とか曲がりなりにまとめることができ、1994年1月に『最新ビジネス・技術実用英語辞典
英和・和英』として発表しました。これが本書の事実上の初版にあたります。以後、翻訳の傍ら細々と辞典に追加、修正、差し替え、削除などの手を加え、紙媒体と電子
(CD-ROM)
媒体で何度か改訂してきました。紙媒体では初版から数えてこれが3回目の刊行となります。
皆様には辞典をお使いになる前に読んでいただくつもりのこの序文ですが、これを書いているのは、辞典本文の校正が完了した後です。長期に渡る大変な作業が終わってほっとひと息といった時期にあたります。終わって解放されて、充実感に浸りたいところですが、本書の初版を出したとき以来、改訂を重ねても、この時期どうもいい気分になれたことはありません。
校正原稿全体に目を通す段になって、辞典の粗が見えるからなのです。校正とはいっても、特に今回の改訂版の場合、文字の誤りを直すだけでなく追加・変更も可能だったのですが、それでも時間的制約というものがあります。内容を良くしようとすると際限がないので、それよりは、誤りや不備をなくすことに極力時間を振り向けなければなりません。時間に追われるように目を通しながら、無数に手を入れるのですが、終わった後は、全部直し切れていないのではないか、何かとんでもない不備を見落としたのではないか、という不安がいつもつきまとい、後味の悪さばかりが残ってしまいます。
それでも、初版のときに原稿が手を離れた後1カ月ほどひどく落ち込んでいたのに比べると、今回はましかもしれません。ボリュームが増えた分、見直しがたいへんにはなりましたが、日外アソシエーツ編集局との長年のやりとりにより原稿データの受け渡しと処理がずいぶんスムーズになって、校正で能率良く手を入れることができました。また、これまで長い間に、気づいた箇所についてはその都度変更を加えてきましたので、全体としては良くなっているつもりです。
お使いになってお気づきの点などありましたら、インターネットでお知らせください。次に示す海野のウェブサイト内、辞典コーナーに「誤植・間違い・ご提案
送信フォーム」を用意してあります(万が一、下記URLが急に使用不能になって移転先へのご案内もできなくなったら、辞典名でネット検索しておいでください)。
CyberScope http://www.hi-ho.ne.jp/unnos/
増刷りあるいは次の改訂があるかどうかはもちろん今のところわかりませんが、機会があれば皆様からのご指摘等について可能な限り反映させていただきます。
2002年9月中旬
海野文男(うんのふみお)
海野和子(うんのかずこ) |