第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第1節 戦国乱世

   カンマを伴う分詞句[1−1]の読解[1−2]をめぐっては、日本の学校英語の世界は戦国乱世であるといっていい。教師一人一人が一国一城の主である。これはつまり英語学習者一人一人が、ということでもある。

   文例(1―1)は高校用教科書の一冊からの引用である。

(1―1)
A big Martin Marina rescue plane, containing a crew of 13 men, quickly took off.
New Encounter English T, p.18)

〈マーティン・マリーナ号という大型救援機は、乗員十三名を乗せて[とともに]、すぐに飛び立った。〉(私訳)(斜体・太字と下線は引用者)
   この英文に見られる分詞句の読解は教師によりてんでんばらばら、さながら百花斉放である。ただ、読み解かれ方は多種多様でありながら、「訳出」〔日本語への言い換え〕は「私訳」に近い形でほぼ統一されることになる。この英文の場合には、分詞句の読解と訳出との間に際立つ相関性は見て取れないだろう[1−3]

   この分詞句の読解の様々な在り方を以下に列挙してみる。

【読解その1】

   付帯状況[1−4]を表す《分詞構文》(副詞的句[1−5])である。非制限的関係詞節(形容詞節)で書き換えても意味内容[1−6]の違いは感じられない。ただ、《分詞構文》(副詞要素)を副詞節で書き換えることはあっても、関係詞節(形容詞要素)で書き換えることはしない。

【読解その2】

   《分詞構文》である。非制限的関係詞節で書き換えても意味内容の違いは感じられず、関係詞節で書き換えられる。

【読解その3】

   《分詞構文》もしくは「直前の名詞句を説明する形容詞要素」である。どちらかといえば形容詞要素であると考える。

【読解その4】

   《分詞構文》である。非制限的関係詞節で書き換えても意味内容の違いは感じられない。ただし、書き換えた場合の非制限的関係詞節は副詞節に近いと考える。

【読解その5】

   非制限的名詞修飾要素(即ち名詞句を非制限的に修飾する要素)である。非制限的関係詞節で書き換えても意味内容の違いは感じられず、関係詞節で書き換えられる。

【読解その6】

   直前の名詞句を説明する形容詞要素である。非制限的関係詞節で書き換えても意味内容の違いは感じられず、関係詞節で書き換えられる。ただし《分詞構文》(副詞要素)なのか形容詞要素なのかという議論は重要とは考えない。

   以上、大概の読解の在り方を集約してみた。とは言え、現段階では想いも及ばぬような読解の在り方が他にもありそうな気もする。

   これらの読解の在り方一つ一つの吟味は第二章で行う。その前にまず、第2節では《分詞構文》についてその一般的考え方を、第3節では「制限的修飾と非制限的修飾」についてその一般的区別を確認しておく。

(第一章 第1節 了)

目次頁に戻る / 表紙頁に戻る
 
© Nojima Akira