「合衆国再生ー大いなる希望を抱いて The AUDACITY of HOPE」

2009.6.28

 表題はオバマの考え方、政策を述べた本。就任から半年の時点で読み返してみ るとどうか。
 金融危機は、米国での銀行や証券会社の救済策が出た後に、自動車産業を始めとする 実体経済の悪化、不況/景気後退になった。
 一方で米国で初めての黒人大統領が就任し、民主党が8年振りに政権を取り戻して、 米国政治での優先順位が変わっている。市場原理主義から修正資本主義へ、自由放 任経済から政府規制へ、金融資本主義から製造業重視へ、広範囲の民営化から教育/ 社会保障/労働条件重視へ、富裕層優遇から中産階級/低所得者重視へ、外交におけ る単独主義から国際協調へ、エネルギー多消費社会から地球環境重視へ。列挙すると、 良い方向に成りそうだが、果たして本当に米国は、日本は、世界は変わることがで きるだろうか?

「合衆国再生ー大いなる希望を抱いて The AUDACITY of HOPE」
(バラク・オバマ、楓書店・ダイヤモンド社、2007.12、@1900)

1 どんな本?
 率直に言って無知蒙昧なブッシュを選びかつ再選させた国民が、初めてのアフリカ 系米国大統領を当選させたことは驚きだった。
 そのオバマの自伝「マイ・ドリーム」に次ぐ2冊目の本で、考え方、政策を述べた もの。本から受ける印象は、非常にまともな考えを持っているということ、このとお りならば世界は良い方向に向かうはずだが、制約、限界があるとすると、それは彼が 米国人であり米国大統領だということだ。2年後に中間選挙があり、4年後に再選を 目指さなければならない、その中で考えを通すには、選挙運動時と同じく草の根の声 から離れず、それを組織して力とすることだろう。

2 生い立ち
(1)家族
 名前はバラク・フセイン・オバマ。「9.11」があった後でミドルネームがフセイン という不利。
 家族、親戚はイリノイ州、ハワイ州、ロンドン、ケニアに分かれている(p20)。
   母は白人、自由主義者を自称し、60年代の公民権運動を崇敬し、寛容と平等、恵 まれない人々の権利を守る価値を、機会あるごとに私に叩き込んだ(p34)。
 母は人類学者(p228)、国際機関でも働いた(p311)。
 父はケニア人。父の業績と挫折?父母は2歳のときに離婚した。子供の頃の私に父親 という存在はなかった。母の再婚相手はインドネシア人(p228)、ハワイで学生だっ たが、徴兵で同国軍中尉になった、後にアメリカ資本の石油会社で働いた、母はアメ リカ大使館で英語を教えた、インドネシアの暮らしではアメリカ合衆国市民であるこ とからの受益が大きかった(p308ーp311)。
 母は仕事で外国に居たため、高校時代は祖父、祖母と暮らした(p74)。
 妻ミシェルと出会ったのはシカゴの企業弁護士事務所、最初のデートはサーティー ワン(バスキン・ロビンス)(p372ーp378)。
(2)宗教
 「祖父母は宗教的信条が強くはなかった。祖母は合理的な理性主義だった。」「母は 宗教に懐疑的で非宗教だったが、本棚にはギリシャ、アフリカの神話と共に聖書、コ ーラン、ヒンズー教聖典などがあった。母は人類学者として信仰を見ていた。」「父 はイスラム教徒として育ったが、無神論者だった。」「継父も宗教には懐疑的で、イ ンドネシアではイスラム教もヒンズー教、仏教、精霊信仰と混ざる。」(p226ーp228)。
 「黒人教会は、人々の生活をまるごと見る必要があった、食べ物、着る物、異議申し 立て」「単なる弱者の心の慰めや死の恐怖に対する防衛でない信仰」「つまり信仰と は、この世に対する理解を放棄することではなく、経済的社会的正義を求める闘いを 放棄する必要もないことを確信したので、洗礼を受けた」(p230ーp232)。
(3)学校
 継父とインドネシアで5年間暮らし、最初カトリック系の学校に通い、後にイスラム 教徒が多い学校に通った(p228)。
 コロンビア大学で国際情勢を勉強(p326)、ハーバード大学法科大学院(p373)。
(4)共感(エンパシー)
 「人の立場になって考える共感について母から学んだ。人種的偏見、校内のいじめ、 労働者の薄給、どんなものでも無分別な行為を軽蔑した。あなたがそんなことをされ たらどんな気持ちがする?」(p74)。
 「自分の政治を導く指標として、繰り返し戻っていく。一国家としての私たちは共感 の不足という難点を抱えている。」「共感がもっと強くなれば、政策のバランスを変 えて、苦しんでいる人々に利益をもたらすことができる。彼らと私たちが同じ人間な ら、彼らの苦しみに力を貸すことができなければ、自分を貶めることになる。」 (p75ーp76)。
 「他方、ある種の白人には積極的差別是正措置に抗って当然の不安があることを、黒 人の指導者は理解する必要がある。経営者が競争からどんな圧力を受けているかを、 労働組合の指導者も理解する必要がある。」(p76)。
 「意見が食い違っても、相手の目を通して世界を見ようとすること、共感とはそうい うことだ。」(p76)。
(5)社会活動・政治家として
 大学を出て、シカゴで市民運動の弁護士業とニューヨーク市立大学シティカレッジ のハーレム・キャンパスを拠点に教会集団系の地域社会活動家、慈善団体役員を4年 (p48)。
 「公人として生きる決意、人種についてのアイデンティティが固まった」(p230)。
 35歳のときにイリノイ州議会上院議員に、友人から勧められて立候補し当選し3 期6年(p7ーp12)。
 途中2000年に連邦下院選挙で民主党の現職に挑み惨敗している。
 次に合衆国上院議員に立候補する。対立候補は、州監査役や億万長者の実業家、シ カゴ市長の元首席補佐官、医療専門家の黒人女性など。
 選挙運動は、地区や郡の友人・知人のつてに頼って開いてもらう小集会に出かけた (p6ーp7)。
 2008年大統領選挙立候補。
(6)憲法学者
 シカゴ大学法科大学院の憲法学上級講師を10年間(p90)。合衆国憲法注釈書、権 利章典、建国の父の意図の記録。
 「憲法は固定された文書ではなく生きている文書であり、世の中の変化の文脈に照らし て読み解かなければならない。」「憲法という枠組みの最大の役割は議論する場を与 えること」(p94)。
 (独立宣言から)「すべての人間は生まれながらにして平等であり・・侵されざるべ き一定の権利を持ち、生命と自由、幸福の追求が含まれる」「これがアメリカ人の出 発点だ」「自分の意思で人生を作り上げられるし、そうでなければならない」(p59)。
 「B上院議員、元院内総務は、20代前半にKKK(白人至上主義団体)の一員として政治 活動を始め、これを長年否認していた。」「上院の規則、設計には建国時の妥協が反 映されている。北部州と南部州の間の取引、奴隷制度への不干渉を保証する道具にな った上院。原点・・建国の文書、討論に立ち返る必要がある」(p82-p84)。
(7)世界の国と比べて
 「子供の頃にインドネシアで一時期を過ごした、ケニアに家族が居る。この二国では 個人の権利は軍の将軍たちの自制心や腐敗官僚の気まぐれに左右されている。」「初 めてミシェルをケニアに連れていったとき・・ケニア人の大半にとって彼らの運命は 他者に委ねられているという事実を知った。いとこ達は賄賂を支払わずに仕事を見つ けたり事業を始めたりするのがどんなに難しいかを語って聞かせた。」(p60ーp61)。
 「活動家達からは政府の方針に反対を表明したら投獄の憂き目に遭うと聞かされた。」
 「部族への忠誠の要求がときにどんなに息苦しいものになるか・・遠い親戚から好意 を求められ、何の予告もなしに現れる。」「アメリカ人であることの幸運・・どんな に自由であるか」
 「我が国で貧しい部類の人でも、物と公共的設備(電気、水、水洗トイレ、電話、テレ ビ、家庭用品)があるのは当たり前だが、世界の大半ではまだ達成されていない。」 (p163)。

3 政治観
(1)願いの普遍性
 選挙運動で各地を回るとき、「人々が、友好的でも無関心でも敵対的でも、私は口を 閉じて、彼らの話に耳を傾けるよう努めた」(p11ーp13)。
 「会話から感じたのは、人々の願いのつつましさ、人種、地域、宗教、階級を超えた 普遍性があること」、それは「働く意思のある人なら誰でも最低限の暮らしができる 仕事が見つかること、病気になったために破産するようなことはおかしい、どんな子 供でも良質な教育を受けられるべきで、親が裕福でなくても大学に進学できるべきだ、 安全ときれいな空気、水、家族と居られる時間、年老いたときにそこそこの尊厳があ る生活」
 「政府がすべての問題を解決できるわけではないが、少し優先順位を変えれば困難を 乗り越えることができる」
 「自分が政治の世界に飛び込んだ理由を再認識した」
(2)理想、共通の価値観、希望
 「さまざまな相違があり、対立がある、政争と文化戦争の時代、理想を議論する共通 の言語も存在しないような気がする」「どうすれば分裂を乗り越えて、公益に基づく 政治が可能か、具体的な問題に効果的に取り組むことができるか」
 「(もちろん)私は(不偏不党ではない)民主党員なので、富裕層と権力者に有利な 政策に怒りを覚え、温暖化を危惧するし」「混じり合った血を受け継いだ黒人のレン ズを通して体験を考えずにはいられない」
 「私や公職にある人は、選挙に敗れる恐怖を避け、自分の信念を保持できるか、正直 でいられるか、本書のもうひとつのテーマだ」(p13ーp16)。
 「民主党は反応(リアクション)の党になった、論拠を単純化したり誇張するときに 私たちは負ける、政治討論のレベルを下げるときに敗北が待っている」「いま必要な のは、自分の利益と他者の利益は繋がり合った不可分のもの、と考える党派を超えた 大多数のアメリカ人だ」(p42ーp44)。
 「1980年代に地域社会活動家だったときに、近隣の指導者に、あなたは時間とエネルギ ーとお金をどこに掛けているか質問した。それがなにを価値あるものかと考えている 試金石になる。」「こういう価値観は、ひとつの国の国民として自分たちが何者であ るかを決定する。」(p77)。
(3)政治的分裂、二大政党制の弊害
 「イラク、税、人口妊娠中絶、銃規制、同性愛者の結婚、移民、教育政策、環境規制、 政府の大きさ etc.」「意見の違いを超えた激しい対立を起こし、両党派とも敵に対し て罵詈雑言を投げつける、選挙では中傷広告を浴びせる」
 「多数党は絶対的支配権を持ち、野党はどんなつつましい修正案も討議に掛けること はできない」(p21ーp27)。「勝者独り占め方式の選挙で政府の全部門を支配する」
 「(国民、住民の)真の代表になるには、現状とは別種の政治が必要で、共有してい るものを認識することが必要だ」「年配の議員では党派心の薄いことがあったが、戦 争体験や冷戦、アメリカ経済が一人勝ちだったことの他、南部の人種的抑圧を黙認す るなど、対立する課題を曖昧にしてきたこともある」(p29ーp30)。
 「理想主義と現実主義のバランスを取って、歩み寄れることと、それ以外の区別をつけ、 ときには相手の主張も認める成熟した政府を国民は待っている」(p46)。
 「憲法は、国政を同格の3本に分けた、上下2議院制、州政府の連邦主義、これらは権 力を分散し利益のバランスを取り、少数派多数派いずれによる圧制も避けるために考 案された。」(p92)。
(4)選挙区割り、政治家の変質
 「下院選挙区は与党によりコンピューターで区割りされ、その中に支持者が過半数住 むように操作される。有権者が代表を選ぶのでなく代表者が自分の投票者を選んでい る。」(p107ーp122)。
 「多忙で注意散漫な有権者の意識に(引用注:複雑な社会を反映した割り切れない政 策を持って)入り込むのは難しい。資金調達は、勝算がある現職が有利になる。テレビ 広告には巨額の予算が必要。政治家の敗北は公にさらされ共同体から拒絶されたよう な屈辱がある。」(p106)。
 「ロビイストは賄賂を出さなくても、平均的な有権者より公人を利用しやすい。当選す ると、いつの間にか財力のある人(法律事務所経営者、投資家、他)と過ごす時間が増 える。彼らは頭が良く興味深く、公共政策に精通し、小切手を献金する経済的余裕が ある・・しかし一様にその階級特有、高額所得層の考え方をしている。」「気が付く と、私は相手との相違を糊塗し、彼らが何を期待しているかを予想し、一定の話題を避けて いた。彼らは、私が政界に入り奉仕したいと考えた、普通の市民が直面する空腹、失望、 恐怖、不合理、苦難とは無縁の世界に居る。」
 「組織が送ってきたアンケートに答えるときに、単純にイエスと言えないことがある、 期待される正解を書かないと推薦を失う。」「支持者が何を求めているかに関係なく、 国全体にとって何が最良かに照らして、理非によって問題の比較検討を続ける。」 (p122ーp127)。
 「政治家は、有権者に声を届かせる作業をマスコミに依存している。マスコミは、私が (議会で)投じた票を解釈し発言を分析し信条を吟味する。一般大衆にとって、私とい う人間はマスコミが語る私だ。」(p128ーp129)。
 「超党派的行動はギブ・アンド・テイクが必要で、誠実に歩み寄ることが前提になる。 ところが現実には修正はほとんどなく、少数党は慢性的に力で押し切られる。」 (p140ーp142)。
(5)個人の利益と共同体的価値観の緊張
 「人間であるが故に、誰もが歪みや行き過ぎを免れず・・ときに衝突を起こす。」「自 国の歴史の中で、愛国心が好戦的愛国心や外国人嫌悪に陥るところを見てきた。信仰が 硬化し、独善や頑なさや他者への残虐行為へと変わるのを見た。」(p61ーp63)。
 「対立する価値観にバランスを見つけるのはとても難しい。緊張が生じるのは・・複 雑な矛盾した世界に生きているからだ。9.11以来、我が国はテロとの戦いで、憲法 の定めた原則(引用注:人権思想等)に無責任な態度を取ってきたと私は固く信じて いる。」(p63)。
 「話し合いのテーブルで、深刻な意見の相違には焦点を定めず、全員が共有しているは ずの共通の価値観について話をする。具体的な指摘が成されたとき・・修正し」 (p65ーp66)。

4 国内政策
(1)社会契約
 「独立宣言の起源は、18世紀の自由主義と共和主義の思想」(p59)。「ホッブスや ロックという啓蒙思想家は、本来自由な人間が、個人の横暴を抑えつつ自由と幸福を 追求するために、契約として国家を作ったと考えた。」(p91ーp92)。
 「政府による財政投入と規制は、きちんと計画すれば経済成長の阻害要因にならず促 進要因になる」(p38ーp39)。
 「(キング牧師)法律は、人に私を愛するように強制はできないが、その人が私にリン チを加えないようにはできる。」(p70)。
(2)教育
 「建国以来、この国の約束であった機会均等や上昇移動が減る」「公立学校制度、大 学教育」「教員の補充」「科学の基礎研究、労働力の訓練に投資する」 (p28)(p162)(p165)(p174)。
 「スラム地区を苦しめていることの多くには、文化の崩壊が関係している」(p16)。
 「時代遅れの設備で、老朽化した危険な建物で、教える技術が未熟な教員しか居なく ても、貧しい子供が潜在能力を発揮できるという主張は偽りだ。」(p70ーp71)。
 「グーグルでは地球の3次元映像で、今行われている全検索を光で表すことができるが、 広い闇の区画がアフリカの大半と東南アジアの一部にあった。またグーグルの新人は 大半が外国から来たアジア人や東欧出身白人で、アメリカ生まれの技術者は少なく、 黒人やラテン系はひとりも居ない。」(p150ーp154)。
(3)医療
 「恐ろしく高額で非効率で、終身雇用が前提でなくなった経済に合わず、不安と貧困 の原因で、破綻している」(p28)。
 「社会保障制度の崩壊、連邦政府は医療保険会社を大幅な減税で優遇しているが、会 社は増大する経費を保険料や自己負担や免責金額という形で労働者に押し付けている。」 (p195ーp199)。
 「医療保険制度の修復、市場原理だけで医療の課題を解決できない。州の合同資金に よる医療保険プランを新設する。」(p202ーp207)。
(4)産業
 「現在の自由市場制度は、所与のものではなく試行錯誤の結果だ。政府は、市場の働きを 好転させる対策を取ってきた。道路や橋などインフラを整備し、労働者を訓練した。」 (p164ーp167)。
 「(ニューディール)証券取引委員会、連邦預金保険公社、社会保障法、失業保護、 生活保護、週40時間労働、児童労働法、最低賃金法、全国労働関係法、不景気を解決 するには労働者に収入を増やすこと。」(p167ーp171)。
 「エネルギー政策の転換、石油への依存は、国家の安全を弱体化させる。アメリカの石 油使用量は世界の25パーセント。」(p183ーp188)。
 「自由貿易の功罪、中米自由貿易協定(CAFTA)、北米自由貿易協定(NAFTA)、必要なの は自由貿易だけでなく公正な貿易もだ。組合の結成権と児童の就労禁止を含め、アメ リカと貿易国はしっかり労働者を保護する必要がある。」(p188ーp194)。
(5)分配
 「1980年に平均的な最高経営責任者(CEO)に支払われる手取り収入は、時間給労働者の 42倍だった。2005年には262倍になっている。CEOの報酬の急増は業績の良化とは関係 がない。文化的現象で・・恥じる心を失い、強欲が国に被害を及ぼす。」(p69ーp70)。
 「グローバル化でアメリカに本社を置く企業は、世界市場で競争力を維持し投資家を 満足させるために、人員を削減し仕事を外注し海外に工場を移した。賃金の上昇を抑 え、確定給付保険計画と退職計画を労働者に出費とリスクを押し付ける401Kと医療貯蓄 口座(HSA)に置き換えた。」(p159)。
 「賃金が低いサービス業が増える一方、手当は出ず、病気になると破産し、子供の大 学教育や退職後に備えての貯金をできない。」(p160)。
 「フルタイムで仕事をすれば自分と子供たちを支えることができるべきだ。」「労働 者にもっと高い賃金が入るよう組合労働者と経営者が戦う土俵、労働法を作り直すこ とが必要だ。」(p199ーp202)。「格差社会の是正が必要」(p212ーp216)。「この 30年でアメリカ人男性の平均収入の伸びは、インフレ調整後で1パーセントを切って いる。アメリカの家庭の大多数を、中流階級からの転落から守ってきたのは共稼ぎだ った。」(p383ーp384)。「妻と私は職業専門家としての地位を確立していたから、 子育てで急な予定変更をしても仕事を失う危険は無く、育児サービスに支払う収入も あったが、アメリカの労働者の過半には許されていない。子育てへの支援策が必要。」 (p390ーp393)。
(6)税
 「ブッシュが富裕層のために行った減税は、財政的に無責任であり道徳的にも問題」 (p52)。
 「製造業が従業員を解雇し、メキシコに工場を移す。税法を改正し、海外に事業を移す会 社には税制優遇措置を取り消す。」(p154ーp157)。
 「莫大な債務は、高所得層の減税の結果だ。収入の大半が配当と資産売却利益の大資産 家は、労働者の税率より低い。市場から最大の恩恵を受けた人の税率は高い方が理に 適っている。相続税の廃止は、富裕層による貴族政治化を招き、自分で獲得したので ない者に国家資源の運用権が譲り渡される。」(p207ーp211)。
(7)人種間の壁
 「黒人のアメリカも、白人のアメリカも、ラテン系のアメリカも、アジア人のアメリ カもない、ただアメリカ合衆国があるだけだ」「私たちは肌の色ではなく、内なる人 格によって判断される(キング牧師)」「私にはこれを信じる以外の選択肢はない、 クリスマスに一族が集まれば、国連総会さながらの様相を呈する」「2050年を過ぎた アメリカは、白人が過半数の国ではない、それは予測しきれない影響を経済、政治、文 化に及ぼす」(p254ーp260)。
 「人種による生活格差、長期にわたる差別が行われてきた諸部門では、マイノリティ 雇用目標を決める以外に効果的な改善法はない」(p272ーp274)。「黒人家庭の過剰 なテレビ視聴、タバコやファーストフードの消費、学力を重視する姿勢の欠如等は、 個人、集団にも責任がある」「黒人家庭の崩壊は驚異的な高い割合、貧しい黒人の固 定化した行動パターンが世代にまたがる貧困をもたらしている」(p275)(p279ー p287)。
 「しかし長期的には特定の人種対象でなく、全人種共通の政策、国民皆保険、学校、 仕事、経済成長等の方が優れている」(p276ーp279)(p287ーp289)。

5 国際政策
(1)「テロとの戦いは理想比べであり、長期的な安全は思慮深い軍事力の投入と他 国との協力増進に懸かっている」「世界の貧困と破綻国家に取り組むのは、慈善の問 題ではなく、国の利益に重要だから」(p28)(p349ーp350)。
 「自国の安全を脅かす差し迫った脅威を排除するため(自衛)であれば、単独軍事行 動を取る権利はある。この基準に照らせばアルカイダはその対象になる。サダム・フ セインの支配していたイラクは、この基準に見合わなかった。」「自衛の枠組みを超え た問題について世界で力を行使するときは、単独行動ではなく国際的な行動を取るの がほとんどの場合戦略的な利益に適う。」「連合の構築という忍耐の必要なプロセス によって、私たちは別の考え方にも耳を傾けざるを得なくなり、その結果慎重に行動せ ざるを得なくなる。」(p352ーp353)。
 「歴史上、人々の切望する自由が、外部の干渉によってもたらされた例はめったに無い。 民主主義は現地の人々が目覚めた結果もたらされた。」(p360)。
(2)「ケネディ大統領は就任演説で「地球の半分を占める掘っ立て小屋に暮らし、 貧困の鎖を断ち切ろうと苦闘している人々に、私たちは誓う。どんなに時間がかかろ うとその自助努力に最大限の助力をすると。共産主義者がそうするからではなく、そ れが正しいことだからだ。」ケネディの約束を履行する意欲があるなら、軍事力の使 い方にはいっそうの分別が求められる。」「アメリカをひな型にする世界的なシステ ムに異議を唱える人も居る。このシステムは力を持たない者の利益より力を持つ者の 利益を反映することが多いが、このシステムは変更と改善の余地がある。」(p358ー p360)。
 「先進国は発展途上国に対し貿易障壁を取り除くよう要求する、貧しい国を貧困から 救い上げる輸出から自国を守っているくせに。IMFは、インドネシアのような金融危 機まっただなかの国々に、国民に大きな苦難を強いる再調整を課した。世界銀行は、 報酬の高いコンサルタントや現地エリートの利益になっても、一般市民の利益にほと んどならない高額プロジェクトに資金を提供することで悪名高い。」(p361ーp362)。
(3)イラク
 「2002年シカゴの反戦集会で、大量破壊兵器の証拠は疑問でイラク侵攻は大きな犠牲 を払った手痛い誤りになると演説した」(p52ーp53)(p333ーp334)。
(引用注:イラク戦争開戦から6年余りで、イラク市民10万人以上、米兵4千人以上が 死亡した。)
(4)ポスト9.11
 「法律は意味が曖昧だったり拡大解釈が可能だったり、状況に左右される。2005年に はそもそも権力の座にある人々は法律というルールに縛られるか否かという話まであ った。下院司法委員会の過半数支配は、上訴裁判所と地方裁判所判事の承認を左右す るし、最高裁判所の把握も重視される。」(p85ーp88)。
 「ソマリア、シエラレオネ、コンゴといった国々には、法律と呼べるものが何ひとつ 無い。国際的な支援政策は、法の支配と透明性という原則が国の発展に果たす重要な 役割を無視し過ぎていた。」(p363)。
(5)イスラエル
 「人は本当に歴史から学ぶことができるのだろうかと、私はときどき考える。ひとつ の段階から次の段階に上がっていくのか、それとも、にわか景気と不景気、戦争と平 和、上昇と下降のサイクルに乗っているだけなのか。」「バグダッドへ赴いた際、一 週間かけてイスラエルとヨルダン川西岸を訪ね、両側の役人と会い、争いの絶えない この場所を頭に刻み付けた。大虐殺で親を失い自爆攻撃で兄弟を失ったユダヤ人から 話を聞いた。パレスチナ人は検問所で受けた侮辱の話をし、自分たちの失った土地の 思い出を語った。」「アメリカには中東に平和をもたらす努力をする義務がある。」 (p366ーp368)。
(6)アメリカの他国への干渉
 「わが国の対外政策の履歴にはいろんなものが交じりあっている、国家や紛争を冷戦 等のプリズムを通して見る傾向、自国の利益に適うときは、圧制や政治腐敗や環境汚染 に目をつぶり助長した、他国民の正当な願望を無視した、ときには国益、理想と他国 の利益に貢献した」(p315ーp316)。
 「アメリカの秘密調査活動がイランのような国々で、民主的に選ばれた指導者の解任 を画策したこともあった」(p323)、「あくどいイラン・コントラ事件」(p326)。
(7)宗教
 「宗教が選挙に持ち込まれる、妊娠中絶、同性愛etc」「曰く、アメリカはキリスト 教信仰と神から与えられた自由の国」「信仰の話題を放棄すれば他の候補者に付け込 まれ政治的にもまずい」「信仰について真剣に考える必要があるのは、みんなをアメ リカ再生計画に引き込むためでもある」(p233ーp241)。
 「多元的な民主主義は、宗教特有の価値観ではなく、普遍的な価値観に変換する」  「信仰と理性が働く領域は別々で、政治は共通の現実に基づいて共通の目標を説得し 合えるかに係り、また妥協や技術が必要」(p244ーp255)。

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