「崩壊する世界 繁栄する日本 
「国家モデル論」から解き明かす」

2009.8.30

 一般国民が恩恵を受けられる経済モデルは何か?

 米国の金融資本主義は、見直しが必要になっている。それは日本では御手洗・竹中・ 八代・小泉の「改革」の見直しに他ならない。
 経済とは「経世済民」だそうだ。「いざなぎ越え」の景気と言われながら、株主への 配当が増える一方で、若年層の正社員比率は半分以下になった。いかに「国民の生活 を豊かにする」か。数ある経済指標も、この観点で見なければ「意味が無い」。
 衆議院が解散して各党が「政権選択」を標榜する現在、目先のバラ撒きを競うのでなく、 「猛獣型資本主義・市場原理主義」か「富国有徳・修正資本主義」か、まず国家目標を明 確にしたい。
 表題の「繁栄する日本」というのは今のままでそうなるというのでなく、他国を反面教 師にして、あるべき経済モデルを構想してそう作り変えれば、日本は繁栄する潜在的条件 を備えている、何もしなければ海外の経済状況に振り回されるだけ、ということだ。

「崩壊する世界 繁栄する日本 「国家モデル論」から解き明かす」
(三橋貴明、扶桑社、2009.3、@1400)

1 どんな本?
 著者は、外資系IT企業数社に勤務した後に、中小企業診断士の資格を基に、企業の 財務分析を通した提案型コンサルティングを行っている。他方、財務分析の手法を、国際 収支などの国家の経済指標に応用して、各国の経済分析と発信を行っている。
 金融資本主義をもてはやし、フェイクマネーに踊った後、サブプライムローンに始まる 金融危機を迎えた各国の国家モデルを分解して、日本の望ましい国家モデルを検討する。

2 国家モデル(経済モデル)
(1)日本と外国の比較
 日本経済を理解するには、各国の数値データを見てみる。海外諸国の国家モデルは日本 経済を映す鏡になる。例えば円高の日本経済への影響はどうか?2007年の輸出総額は80兆 円と巨額だが、他方、輸出対GDP比率は15.5%に止まる(p2ーp4)。よく言うように円高が マイナスとは限らない。
(2)「輸入」のための外貨の稼ぎ方
 国家の経済モデルとは、その国がいかに「付加価値」を稼いで成長し「輸入」を可能に するかということ。国民の「ベネフィット(受益)」からは、輸出は外貨を手に入れる手 段であり、食料や生活用品を輸入できることが目的になる。
 「付加価値の稼ぎ方」はGDPかGNIの構成を見ることで分かる。例えば米国は内需依存で、 中国は外需依存になっている。しかしGDPの大きさや成長率が問題ではなく、その構成を 見なければ、経済の強さや危険性は把握できない(p19ーp22)。
(3)輸入力を示す「為替相場・外貨準備高」の重要さ
 国家の目的に「国民を富ませる」ことがある。産業基盤や国民生活を成り立たせるには 「輸入」が不可欠。通常の輸入は外貨で支払うため、自国通貨が暴落すると外貨を手に入 れられなくなり輸入できない。食糧自給率が低ければ飢餓にもなりかねない(p34ーp39)。
 国家の経済モデルのふたつの柱は「いかに付加価値を稼ぐか」「いかに輸入を可能にす るか」、固定した正解は無く、外部環境・内部環境で変化する(p57)。
(4)経済モデルの4指標
 経済指標を単体で見るのでなく、なぜ指標がその値になっているかを、複数の経済指標 を分析することで明らかになる(p24ーp53)。
 主に4つを見る。
 (ア)GDP国内総生産/GNI国民総所得
 「一定期間内に国内で産み出した付加価値の総額」で、成長率はその推移。日本での構 成は「民間消費56%、固定資本形成23%、政府支出18%、純輸出1.6%、在庫変動0.6%」。
 このうち固定資本形成は、民間住宅や企業設備投資と政府公共投資等で、どの部分が増減 しているか。純輸出は「輸出ー輸入」で、輸出が増えても輸入も増えればGDPは増えない。
 また「GNI=GDP+海外からの所得の純受取額」で、日本の場合は海外からの利子・配当金の 受取りがある(p24ーp34)。
 (イ)国際収支
 4項目から成る「経常収支・資本収支・外貨準備高・誤差」。
 「経常収支」は「貿易・サービス(観光他)・所得(利子・配当金)・経常移転(寄付他)」 の各収支。日本の「所得(利子・配当金)収支」は「貿易収支」を上回っているため、貿 易が赤字でも経常収支は黒字になり、対外債権は増え続ける(p39ーp41)。
 「資本収支」は海外との投資や融資で「日本から資金が出れば流出、入れば流入」で、 海外での工場建設、海外株式の購入や、海外企業の日本支店開設、外国人の日本株式購入 などがある。近年の日本は資本輸出国で資本収支は赤字だが、その結果、対外債権が増え て、海外からの所得(利子・配当金)収支が増えている(p41ーp42)。
 「外貨準備高」は中央銀行が持つ対外債権の増減。為替介入や外貨運用の配当で増減す る。外貨が無い国で自国通貨が暴落すると、買い支える対抗ができない(p42ーp44)。
 (ウ)対外債務・債権
 米国は、1国で世界の経常収支赤字の8割以上を占める。債権から債務を引いた対外純 債務が2兆5400億ドルになる。米国は基軸通貨国なので、究極にはドルを印刷して債務を 返済できる。返済できる限りは、借金が多くても国民が消費を謳歌できて、「民間消費や 固定資本形成(民間住宅)で経済成長(GDP増大)できる」。米国は「貿易収支の赤字 (消費)」を「海外からの投資資金流入(対外債務増加)」で埋めてきた。
 ただし通常の国は無限に借金を繰り返すことはできない。
 たとえ米国であっても「基軸通貨ドルを崩壊させない」ことが大前提になる(p45ーp48)。
 他方、日本は「対外資産610兆円ー対外負債360兆円=対外純資産250兆円」の純債権国 になっている。製品を海外に売り、国としては外国に債権(貯金)を積み上げてきて堅実 だが、国民の幸せ・消費という点では、美味しい物を食べられず、家族や友人と遊ぶこと もままならないならば、それは間違いかもしれない(p46ーp47)。
 (エ)為替相場
 サブプライム危機までは「証券化商品の販売等で海外からマネーを呼び込み、住宅投資 や個人消費を活性化させて高成長する手法(経済モデル)」を取る国が成り立った。この 経済モデルでは「自国通貨の為替相場を高く維持する」ことが絶対条件になる。対外債務 が多いまま通貨が暴落すると、外貨建て債務が膨れ上がり、返済ができずさらに通貨が下 がり、国民生活に必要な輸入ができなくなる。
 日本に置き換えても「食料自給率40%、エネルギー自給率4%」なので、円安は日本経済 のためにならない(p49ーp53)。
(5)金融危機で失敗した国家モデル
 「海外からマネーを呼び込み、住宅投資や個人消費を活性化させて高成長する手法(経 済モデル)」は、通貨下落で失敗した。英国、アイスランド等(p53ーp55)。
(6)日本の成長手法は?GNIのどの指標を伸ばすか?
 日本はゼロ金利マネーを世界に提供して(円キャリートレード)、円安にしながら輸出 企業を後押しした。
 02年から6年続く景気拡大は「いざなぎ越え」と言われながら、株主への配当が増える 一方で、若年層の正社員比率は半分以下になり、一般国民は好景気の恩恵をほとんど受け られなかった。
 円安とは日本国民の購買力が下がること、また主に内需を相手に商売する中小企業の売 り上げも伸びない。「円安で輸入力が下がり、また投資資金が海外に向かうために、内需 拡大に制約ができる」。世界同時好況の中で、日本国民や中小企業は「縁の下の力持ち」 を押し付けられてきている。
 即ち、輸出企業・大企業主導型の日本の国家モデル(国民の生活を豊かにする方法)も また失敗したということだ(p33ーp57)。

3 金融危機で失敗した国家モデル
(1)アイスランド:海外からの投資資金(借金)で個人消費・GDPを増やしたが自国通貨 暴落で経済モデルが崩壊(p59ーp79)
(ア) 「高金利で世界から外貨預金を集めて、海外の証券化商品等で運用する。この結果、 対外債務はGDPの数倍。」「低金利の外貨建てローンを国民に提供して、個人消費を増や し、GDPを膨らませた。この結果、08年後半に自国通貨の暴落で、ローン負担が急増した。」
(イ) サブプライム危機で、主要3銀行を国有化したが、銀行資産のうち「海外からの外貨 預金が87%」を占め、その金額はGDPの9倍だった。このため通貨暴落で預金払出に応じられ なくなり、口座凍結した。この脆弱な金融・不動産業がGDPの26%を占めていた(p61ーp67)。
(ウ) 増やした個人消費に使う金は「高金利で海外から集めたマネー(家計借入の23%を占 める)で、借金・対外債務になる」。経済が過熱して物価高・インフレーションになって も(海外からの低金利資金があるため)金利政策では対処できない(p70ーp73)。
(エ) 08年10月自国通貨暴落後で、対外債務はGDPの17倍になる。サブプライム危機で、海 外から集めたマネーを運用していた証券化商品等が暴落して残ったが、今後、アイスラン ドは対外債務を返していかなければならない(p76ーp79)。
(2)韓国:貿易立国を志向するが「ウオン安、円安」などが欠けると成り立たない弱さ がある
(ア) 「ウオン安で輸出を図るが、その裏に多額の資本財輸入があった」「06、07年は海外 マネー流入で株式・不動産バブルのため、住宅・個人消費で内需が拡大した」(p81ーp99)。
(イ) 韓国ウオンは、投機マネーの流入により07年後半まで上昇して、韓国政府は輸出への 悪影響を除くためにウオン高対策の介入をしていた。サブプライム危機で、08年に暴落に 転じた。
 投機マネーの流入(06、07年)により、一時的な株高・不動産高騰で国内経済にも波及 したが、ウオン高で輸出製造業が悪化して貿易黒字も減少した。
 サブプライム危機で、海外マネーが資金逃避に転じると、韓国ウオンも下落して輸入価 格が上がったが、他方、世界的な需要縮小で輸出も回復しない(p83ーp86)。
(ウ) 輸出依存度(輸出対GDP比率)を国際比較すると、高いのはドイツ40%、韓国38%、 中国37%、低いのは日本15%、イギリス15%、米国8%、うちイギリス、米国は貿易収支が赤字。
 輸出依存度(輸出対GDP比率)が高いと、為替変動で国内産業に与える影響も大きくなる (p83ーp87)。
(エ) 韓国のGDP構成は一見バランスが良い、「個人消費の割合が高く、内需全体も高い」、 日本に近い(p87)。ちなみに日本の構成は「民間消費56%、固定資本形成23%、政府支出18%、 純輸出1.6%、在庫変動0.6%」(p25)。
 しかし輸出対GDP比率を比較すると、韓国38%、日本15%で、韓国は輸出依存度が4割近い にもかかわらず純輸出(輸出ー輸入)が0.8%で低い。
(オ) 対米貿易で稼ぐ国の為替レートは、対ドルで上昇していく特徴がある。かつての日本、 西ドイツや、今の中国だが、韓国ウオンは対ドルで下落している、80年以降で半減。
 これは韓国の輸出産業が、4つの条件「1ウオン安、2資源安、3米国の需要、4日本 から資本財を買える円安」のいずれかか欠けると成り立たないため。資本財に関して過度 の日本依存が続いているため、08年の貿易赤字130億ドルに対して、対日赤字300億ドルに なる。
 今後、韓国が貿易立国を志向し続けるならば「需要縮小期でも競争力を保てる製品を、 日本からの資本財の輸入なしで生産する」必要がある(p95ーp99)。
(3)ロシア:主力輸出品もGDPも原油・エネルギー資源に依存していて、価格変動が景 気変動に直結する
(ア) 「エネルギー資源の輸出で稼ぐ」「エネルギー産業への依存度が高く、価格変動に影 響を受ける」
(イ) ロシアのルーブルは、08年7月まで上昇を続けた後、下落に転じて、半年で30%下がっ た。主な原因は、07年7月を頂点にする資源バブル・原油価格の下落。原油価格の指標で あるWTI指数の上昇・下落とちょうど対応している。株価指数のRTSも、08年5月を頂点に 5か月で76%下落した。ルーブルや株価の下落が原油価格の下落と対応しているのは、「石 油こそがロシア経済の全て」だから(p104ーp107)。
(ウ) 98年にロシアは、アジア通貨危機と原油価格低迷により、信用危機になり短期国債利 回りが118%に上がり、財政破綻、債務不履行(デフォルト)になった。ところが01年の5.1 %から07年の8.1%まで、毎年5%を超えるGDP増加をしている。04年以降、貿易収支、経常収 支が黒字。ロシアのGDP構成では、純輸出(輸出ー輸入)の割合が高い。他方、輸出対GDP 比率27.3%の割に貿易黒字対GDP比率11.8%が他国より高い(ドイツ、中国は8%台)。これ を貿易黒字対輸出比率に直すと、ドイツ、中国の20%台に比べて、ロシアは40%を超えて黒 字の割合が高い。これらは「主力輸出品が原油・エネルギー資源である(輸出額の55%)」 ことの表れである。GDP構成の「民間消費、固定資本形成」もエネルギー産業が貢献して いる。GDPの25%を石油・天然ガス産業が占め、政府歳入の35%をエネルギー産業に依存し ている(p108ーp115)。
(エ) 新興工業国をBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ぶが、そのひとつのロ シアの経済モデルは、前記のような弱点がある(p110)。まさしく「GDPの大きさや成長 率が問題ではなく、その構成を見なければ、経済の強さや危険性は把握できない」(p19ーp22)。
(オ) 原油・エネルギー資源に依存しているため、価格変動が景気変動に直結するが、更に 「ソ連時代の旧設備のため、採算価格が中東1バレル=35ドルのところ、ロシアは70ドル」 「GDP単位当りエネルギー効率(1次エネルギー供給量)を比べると、日本を1としてロシ アは18と低い」など条件が悪い(p115ーp118)。
(カ) (引用者注記)「石油こそロシアの全て」で生命線であるという数字を見ていくと、 プーチンが「国内政治での石油王(政敵)の追放」「ロシア国内の原油・エネルギー権益 を外国企業から強引に取り上あげ」をした、といったことが、生命線をめぐっての必死の 攻防だということが理解できる。だからこそロシア国民・世論も「原油・エネルギー権益 =国益」と、プーチンを支持している。
(4)イギリス:「国際収支の発展段階説」の最終段階「債権取崩国」であり、経済モデ ルの反面教師/過度に金融業に依存する国家モデルは脆弱
(ア) 「金融業に世界から資金を呼び込み、不動産業も増加」「政策金利を高めに維持して、 資本収支の黒字を大きくしてポンド高にして、輸入力を維持する」
(イ) 08年3月に英国エコノミスト誌が、日本を揶揄して「japain」(Japan+pain)と称して いるが、このとき既に英国では不動産価格、次いでポンド、株価が下落に転じている。
 同誌が手本に挙げる「米国のROE(株主資本利益率)・投資リターンも常軌を逸したレ バレッジ(てこ)等によるもので、米国を代表する証券会社が経営危機に陥っている。」
 また同誌が日本に教唆する「市場化、改革も今や英国の銀行が国有化で持ち堪えている。」 (p119ーp122)。英国ポンドは、08年7月以降、年末までに、対ドルで29%下落、他方、日 本円は高騰したため、対円では更に下落。
(ウ)英国は、 00年の金融サービス市場法(業態別の金融監督機能を金融サービス機構に一 元化等)で法制度を整えて、金融立国を目指した。
 こうなったのは、90年の東西ドイツ統一、ERM(欧州為替相場メカニズム)による為替 相場変動の抑制、通貨安定策の中で、92年のヘッジファンドによるポンドの空売り攻撃 「ポンド危機」があった。当時、旧東ドイツへの投資拡大により欧州で金利が高くなり、 英国も欧州との通貨統合を控えて高金利・ポンド高を維持した。このため不況だった英国 経済とポンド高に乖離が生じてヘッジファンドに狙われた。結果としてポンドは暴落して、 英国はERMを脱退して通貨統合は無くなった。しかし、逆に金利政策の自由度は高まり、 金融緩和で国内消費が増えて、またポンド15%下落で輸出が増えて貿易収支が改善した。
 欧州から切り離されたことで、金融業に集中できた(p122ーp125)。
(エ) 07年に世界の為替取引額の国別シェアは、「英国34%、米国16&、スイス、日本6%、シ ンガポール5.8%」で、英国は米国の倍で3割を占める。金融業に続いて、00年からこの間 に不動産価格は2.4倍になり、金融業・不動産業で雇用者の2割を占めるに至った(増加数 では48%)(p125ーp127)。ところが、英国のGDPは世界の5%に過ぎない。
(オ) 英国の「経済モデルの4指標」を見ると、「GDP国内総生産」の構成は「普通の内需 国(個人消費が大きくかつ伸びている)」に見える。
 ところが、「国際収支」は、「国際収支の発展段階説」の最終段階「債権取崩国」であ ることを示している。「債権取崩国」とは、「貿易収支が赤字で、経常収支が赤字。結果 として、対外債権が減少して、所得収支の黒字が減っていく状態」。英国の所得収支は05 年を境に06年以降減少に転じている。
 英国の経常収支の赤字は年ごとに増えていく、埋め合わせるのは資本収支で、つまり 「海外からの資金流入(借金)」になる。英国の「対外債務」は対GDP比400%、GDPの4倍 で突出している。他国をグラフから見ると、フランス約180%、スペイン、ドイツ約150%、 米国約100%、日本約45%。英国の対外債務は03年ー08年の5年間で52%増加した。「海外か ら継続して資金を流入させ、国内で金融・不動産事業を発展させる」経済モデルだった。
 ところがいったん流入が止まり流出に転じると、「為替相場」が下落して、経済モデル が成り立たなくなり、輸入力も下がる。(p127ーp132)。
(カ) 今回の金融危機で「信用収縮に対処するために政策金利を下げると、英国ポンドが暴 落する」悪循環に陥った。もしもGDPの構成・国際収支で「貿易でも稼げる」経済モデル であったならば、通貨安はプラスの面もあったが、金融業に特化しているために通貨安は あくまでマイナスでしかなく、悪循環から反転して抜け出す方法を失っている(p132ーp135)。
 まさに「過度に金融業に依存する国家モデルは脆弱」という、経済モデルの反面教師にな っている。
(5)ドイツ:「外需依存」が弱みだが、概ね堅実な経済モデル
(ア) 「輸出対GDP比率が4割で、純輸出対GDP比率が7%になる、外需依存国」「貿易黒字を 稼いで、海外に直接投資(工場建設)も行う資本輸出国」「対外債権からの配当・所得収 支の黒字も増やしている」
 「ユーロ加盟国なので通貨政策はECB(欧州中央銀行)が行い、不況時の財政支出策に も財政赤字GDP3%以内の縛りがある」(p137ーp151)。
(イ) 00年のITバブル崩壊から、08年の金融危機までの流れには、ドイツとユーロ加盟国の 経済との連動が表れている。順に書くと、「ITバブル崩壊で負債返済に注力したためのド イツ不況」「財政赤字をGDP3%以内というユーロ加盟国のマーストリヒト条約の縛りで不 況時に財政支出拡大策を取れなかったドイツ政府」
 このため「ドイツ不況対策で、欧州中央銀行(ECB)としての金利政策で、政策金利を 下げた(ECB)」「ECBの低金利政策が、ユーロ加盟国の住宅購入・不動産バブルを引き起 こした」という流れになる(p141ーp144)。
(ウ) ドイツ経済の特徴は、「製造業のシェアが大きい工業国」で、GDPの粗付加価値産業 別は「製造業30%、金融・賃貸・企業サービス29%、公共・民間サービス22%、商業・ホテル ・飲食店・交通18%、建設7%」」となっている(p144ーp145)。また「輸出対GDP比率40%、 貿易黒字対GDP比率8.2%」で中国の数字が近い、輸出・外需依存国(p84)。
 国際収支が健全で、「貿易黒字を稼いで、海外に直接投資(工場建設)も行う資本輸出 国」「対外債権からの配当・所得収支の黒字も増やしている」。
 輸出額では、米国、英国、フランス、スペインで3割を占めるが、伸び率が高いのは、 ポーランド、ロシア、ウクライナ、ブラジル、チェコで、貿易黒字で中東欧に工場建設し 工業機械・部品を輸出している。08年のポルシェによるフォルクス・ワーゲンの子会社化 後には東南アジアと米国に工場建設を計画している(p146ーp151)。
(エ) 弱みは、「外需依存国であるため、輸出先の不況からの影響が大きい」、00年のITバ ブル崩壊でも08年の金融危機でも、米国、英国、フランス、スペインの需要後退で不況 (リセッション)、GDP成長率低下になる(p141ーp150)。
 また「ユーロ加盟国なので、通貨(ユーロ)変動やECBの金融政策が、自国経済とずれた り、自国政策に縛りがあったりする」(p142ーp150)。
 しかしこれを除けば、欧米の中では堅実な経済モデル。
(6)スペイン:「建設業対GDP比率が突出」して、住宅投資減で景気後退
(ア) 「観光業や流入移民等の不動産関連の建設業で成長」「貿易収支・経常収支が赤字で 対外債務が増加」
(イ) スペイン語を話す人は、中国語、英語に次いで多く、4億人を超える。移民(温暖な 気候等に惹かれるリタイア組、雇用を求める労働者)が流入して、00年4,000万人が07年 4,500万人以上に人口増加。
 持ち家率は、スペイン90%弱、欧米約68%、日本約61%で、高い。住宅ローンの返済期間 が40-50年で長い。銀行の貸出債権は不動産関連が5割以上。
 ここにドイツの不況対策でECB(欧州中央銀行)の政策金利下げ(p143)があり、02年 から07年の住宅投資増加率が6%を超えて、02年以降のGDP成長率が年平均4%になった(p154ーp156)。
(ウ) 建設業対GDP比率は、スペイン約11%、英国約6%、フランス、イタリア約5%、ドイツ 約4%と、欧州主要国の倍になる。08年第2四半期から住宅価格対前年比が下げ始め、住宅 着工数が減り、失業率が悪化している。
 成長手法を建設業に依存しているため、これが停滞すると景気が下振れする(p155ーp158)。
(エ) スペインの貿易収支は赤字で、経常収支の赤字は毎年1000億ユーロになる。これを資 本収支の黒字(流入)で埋めているが、結果として毎年、対外債務が増えて、GDP約1兆500 ユーロに対して対外債務約1兆6800億ユーロと約1.5倍になっている(p131、p158ーp161)。
(7)中国:対米貿易黒字依存の経済モデルを作り変えられるか?うまくいけば将来は日 本の経済モデルに近い経済大国になる?
(ア) 「輸出対GDP比率が4割、純輸出対GDP比率も9%超」「人民元安を維持、外貨準備高が 増加」「所得格差、低賃金で個人消費は伸びにくい」
(イ) 「今後の世界に与える影響が大きい国は、第1に米国、第2に中国」(p170)。しかし 「中国は発展途上にある」(p172)ことと、人口規模が大きいこと等で、今回の金融危機 に伴う世界の景気後退にどう対処するか、経済モデルをどう作り変えていくか、課題は多 い。
(ウ) 米国のサブプライム危機で、中国の経済成長は止まった(p176ーp177)。08年夏の北 京オリンピックに株価上昇を期待する国民もいたが、上海総合株価指数は、07年10月をピ ークに08年4月には5割下がった(p166)。
 不動産販売価格は、景気減速による販売量減により、08年8月に下落に転じた(p167)。 更に輸出は08年11-12月に続けて減少した。輸入(≒国内の設備投資、個人消費)も08年 12月に対前年比で21%減った(p167ーp168)。
 経済成長率は第3四半期9%、第4四半期6.8%と、05年末以来の1桁になり、失業者増が問 題になる8%を下回った。中国の新規求職者は毎年2000万人で、他方、輸出産業の倒産等で 08年上半期で2000万人が失業した(p168ーp170)。
(エ) 中国の経済構造は、米国の景気変動の影響を直接受ける。中国のGDP産業別構成は 「工業55%、農林漁業15%、卸小売等9%、交通通信8%、建築業7%、金融6%」になり、工業が 大きくドイツ30%、日本20%と突出している。
 他方、名目GDPは01-07年で2.5倍以上、01-04年でも1.5倍に増えている。純輸出(中国 の場合≒貿易黒字)が05年以降増えているが、このうち対米黒字が8割になる。05年以降 というのは、米国の住宅バブルと重なる(p170ーp177)。
 05-07年の貿易収支(経常収支)の伸びは顕著、米国を始めとする国際社会の圧力で05 年7月に人民元レートを2%切り上げたが、それでも05-07年に外貨準備高は増えている (p180ーp181)。
(オ) 他の特徴は、「輸出企業の設備投資と住宅が多く、個人消費の金額は増えているが、 富裕層と貧困層に分かれて中産階級はスイスUSB試算で2500万人という」「医療・年金制 度の未整備もあり、収入に対する民間貯蓄率45%と高い」(引用者:日本は制度は整って いるが、非正規雇用の増加により国民健康保険、国民年金の保険料を払えない人が増えて いる上、生活のために預金を取り崩すので低所得層の貯蓄額は減っている、更に日本の医 療機関は診療報酬削減で薬価差益や検査漬けによって辛うじて経営を成り立たせるなど増 える医療費を国民がどう負担するか、制度が課題を抱えている)
 「安い労働力が輸出競争力のもとだったが、高騰している、人件費を上げないと国内の 購買力も上がらないが、安い製品の輸出には不利」(引用者:日本も若年層は非正規雇用 が半分を超えて、年収・購買力が下がっている、大企業等輸出産業のために人件費を削る ことで競争力を保つのか、国民を豊かにして国内需要を増やすのか、円の為替水準ととも に、政策選択が必要になっている)
 「インフレ・物価高騰は国内不安に繋がるので07年に金融引き締め等を行っている」 (引用者:生産量を急に増やせない食品や資源・燃料が高く、製造技術革新が進む工業製 品の価格が下がるのは世界的な傾向)(p170ーp179)。
(カ) 米国のサブプライムローン、住宅バブル崩壊、金融危機で、外需が急減した。中国政 府は「人民元安と公共投資」で乗り切ろうとしている。
 輸出競争力を維持するため、元の対ドル上昇が08年7月で止まり、以降は不自然な水平 に推移している。
 内需拡大は民間個人消費には期待できないので政府の公共投資になる。08年11月発表で は「2年間で57兆円、10分野、低所得者住宅、農村インフラ、鉄道・高速道路・空港、医療 ・教育、環境対策、ハイテク産業、四川震災復興、農村所得対策、増値税対策、商業銀行 融資規制撤廃」としている。(引用者:財源は?人民元を印刷する?)(p182ーp184)。
(キ) 「中国は00-03年頃には人民元高、内需型の経済モデルに転換すべきところ、米国の 住宅バブル発生もあり、対米貿易黒字依存型から抜けられていない」。(引用者:日本も 円高、内需型に転換すべきところ、ゼロ金利・円安政策、登録型派遣等人件費削減で輸出 大企業優遇、輸出立国イメージを墨守している)(p185)。
(ク) (引用者:中国にも複数政党あるが実態は一党独裁。ちなみにケ小平は走資派と批判 されて失脚後に復活して、人民公社等共産経済から市場経済(資本主義経済)に転換した。 失脚した政敵を殺さないのは中国共産党の伝統で、スターリン、北朝鮮や連合赤軍とは違 う。他方、民主主義の手本という米国は、04年大統領選挙は不正疑惑があり、また下院中 間選挙やユダヤ等ロビイストを考慮すると、所謂ドラスティックな政策は取りにくい。如 何なる政体が国家モデル転換に有効か、共産党幹部が間違えば悪影響は大きいが、片や日 本は政策に整合性が無かったり改革と称して格差社会を作ってしまったり、米国は独裁政 権を倒すと言いながら操作した情報でイラク戦争に突入して万を超すイラク人を殺したり、 如何なる政体だから、どうだと論じるのはなかなか難しい)
(8)アメリカ:無責任の連鎖で繁栄する「金融詐欺国家」(引用者:日本は郵貯資金を 胴元に取り上げられる鴨になってはいけない)
(ア) 「貿易赤字を米国債や証券化商品の売却で埋める」「米国民の借金による個人消費で 経済成長」「金融業がこの仕掛けを支え、米政府が機軸通貨ドルを維持する」
(イ) 「米国債の流動性が確保されて利回りが支払われる限りドルの裏付けになる」「金融 危機の中で、08年9月以降に韓国ウオン、英国ポンド、ユーロ等は暴落し、ドルは対円を 除き高騰した」(p187ーp194)。(引用者:前著「ドル崩壊!今、世界に何が起こってい るのか?」の読書雑感でまとめたとおり、財政赤字が増えてドルの価値は薄まり他国通貨 と相対化するとしても、当面基軸通貨であり続ける、理由は、米国は依然、超大国であり、 自分が苦境になるとルール自体を変える。2008.4米証券取引委員会(SEC)が会計基準の 時価会計を放棄した結果、金融機関の不良債権、「含み損」は表面化せず、当面、大量に 持ち続けるとしても大手金融機関は黒字になる、また、米国債保有国がドル下落を望まな い)
(ウ) 米国の経済モデルでGDPに占める個人消費が72%に達する。この多くは借金でもある。 貿易収支の赤字が06-07年に減っているのは、06年の不動産バブル崩壊で輸入が減ってい るため。
 米国は貿易収支の赤字を「米国債や証券化商品の輸出」(借金)で埋めている。サブプ ライム住宅ローンの延滞率は36.6%になるが、各個人にとっては住宅ローンを返済できな くなっても担保の住宅を引き渡せば債務は残らない、ノンリコースローン。また米国では 自己破産すれば借金はチャラ。金融機関も住宅ローン債権を証券化商品にして売却すれば 債務不履行になっても、損失リスクは購入者が負う。(引用者:無責任の連鎖だが、債務 を抱え込まないだけに立ち直りも速い、前記のとおり自分が苦境になると時価会計ルール も変えるのでバランスシート不況にもならない)(p194ーp207)。
(エ) GDP産業別は、「金融・保険・不動産21%、製造業14%、専門・ビジネスサービス12%」 になる。金融・保険・不動産が製造業を上回っている(p203ーp204)。

4 日本の国家モデルは如何にあるべきか
(1)日本:これまでの国家モデル
(ア)「 日本のこれまでの国家モデルが通用することはない、日本の国家モデルは如何にあ るべきか」(p208)。
(イ) グローバリズム、新自由主義等を唱えた英米の結果は、「金融機関の国有化、将来損 失の政府保証、FRBの証券会社への融資、株式も担保にする、時価会計の緩和等」かつて 批判した日本の護送船団方式を上回る。
 しかし「国家が国民の幸福のために存在するならば、欧米の国益中心主義は理に適った 考え方」(p210ーp216)。
(ウ) 日本はよく言う「外需依存でなく内需依存国家」。輸出対GDP比率は「日本15.5%、ド イツ40%、中国37%、韓国38%」、輸入対GDP比率は「日本13%、ドイツ32%、中国29%、韓国 37%」、貿易対GDP比率は「日本28.5%、ドイツ72%、中国67%、韓国75%」(p216ーp218)。  GDPに占める貿易の比率が低いにもかかわらず、日本の政策が輸出企業向けで円安(や 非正規雇用等)で国民の購買力、GDP6割の個人消費を削ぎ落としたために、01-02年にマ イナス成長、その後も1%前後の低成長になった。
 他方、円安等にもかかわらず、プラス成長の04年以降常に増加額で個人消費が純輸出を 上回って、経済成長に寄与している。
 円安誘導は、03-04年の巨額為替介入の結果だが、当時00年ITバブル崩壊でFRBが03年に 金利1%に下げたため、日本のゼロ金利と金利差が1%になり円が上昇を始め、結果として3% 以上の金利差が必要な円キャリートレードが成り立たなくなった、巨額為替介入は日本の 輸出企業優先政策と世界のバブル諸国が日本からのマネー供給を必要とした結果。
 ところが「低金利と円安等で国内の消費は萎縮し中小企業の業績は伸び悩み」「いざな ぎ超えと言う中で実感なき景気拡大になった」(p220ーp227)。
(エ) これまでの経済モデルは、「円安に誘導して、輸出企業の競争力を強化、世界中に資 金を供給する資本輸出国」「(結果として)世界最大の対外純債権国で、所得収支の黒字 が貿易黒字を上回っている」
 「通貨安のために国内に投資が回らず、GDPの6割を占める個人消費の拡大が抑えられた 結果、名目GDPの成長率が低迷した」「通貨安で輸入力が落ちていたが、対外純債権が大き く経常収支も大きな黒字であるため、無制限に通貨が下落していくことは無かった」(p229)。
(2)日本:これからの国家モデル
(ア) 「輸出振興重視から個人消費拡大に政策の重点を転換(GDP対比56.6%を60%に)」 「企業の高度技術育成の設備投資、新技術による新市場育成」「貿易収支は赤字にならな い程度、所得収支と合わせて経常収支黒字、対外純債権を維持拡大」「成長率評価にGNI (国民総所得)を使う」(p239)。
(イ) 「国家の繁栄とは何か」「企業が世界でシェアを取ること、輸出が増えることは、そ のまま国民の幸福ではない」「世界の金融資本主義バブルで日本から資金を供給したが国 民の生活は豊かになっていない」(p230ーp231)。
(ウ) ガラパゴス市場「英語圏の海外業務委託は、インド等にシステム開発から出版・編集 に及ぶが、日本語は国内でのみ通用」「1億人を超える人口は単一市場として世界有数で、 独自の文化・産業を発達させるのに最適」
 「日本語・日本文化は参入障壁になり、そこで発達したガラパゴス化産業を高く売るこ とで繁栄できる(同じ土俵でシェアを高めても安く売るだけ、製造を人件費が安い海外に 移せば国内の雇用が失われ、製造技術が流出して中長期的には競争力を失う)」(p230ーp236)。
(エ) 日米家計資産を比較すると「絶対額で米国は4,000兆円を超え日本は1,500兆円に満た ない」「米国は多い順に株式・出資金33%、保険・年金準備金、現金・預金13.5%、投資 信託、債権、他、日本は現金・預金53%、保険・年金準備金、株式・出資金8%、投資信託、 債権、他」
 「サブプライム危機で、預金から投資へと資金を移した人は大損失だが、投資を奨励し た人は責任を取らない」(p237ーp238)。
(オ) 「海外需要の縮小と円高を前提に、国内市場・個人消費を再評価する」「新産業によ り雇用を創出し、所得を高め個人消費を増やす」「海外企業に出資・買収し、海外からの 配当で所得収支の黒字を増やす、海外子会社からの配当・企業海外利益の国内還流、研究 開発投資等活発化」
 「企業の海外生産比率32%、海外現地法人の内部留保は年額2兆円、累計12兆円」 (p240ーp247)。
(カ) 「日本政府のバランスシートでは、地方を含む負債948兆円、資産491兆円、負債は GDPの2倍近いが資産もGDPぐらいあり差引純債務では他の先進国程度」
 また「日本政府の債務は95%以上が日本の民間からの借り入れ(対内債務・国債)(外 国からの借り入れ・対外債務ではない、通貨暴落にはならない)」(p247ーp251)。

5 引用者の考察:日本の経済構造
(1)アイスランド、英国の例のように、海外の投機マネーに頼った経済成長は成り立た ない。金融業の拡大は、国を危うくする。
(フェイク・マネーに頼る経済モデルがかろうじて成り立つのは、基軸通貨国である米国 だけ。米国でも長くは続かない。)
(2)ここ数年の数字を見れば、紆余曲折はあっても米国、中国が2経済大国になるとい うのが当面の見通しになる。
 日本は、中国とGDP等経済規模の2位争いをするのでなく、「海外の経済状況に振り回さ れにくい、より安定した経済構造に作り変えることにより、国民が経済の果実を受け取り 幸せに生きて(経世済民)、国が国際社会でも一定発言力あるようにする」ことが国家目 標になる。
(3)外需、即ち輸出は、大企業主導型になるが「国家間競争があるから、人件費削減の ため非正規雇用を調節弁にするので、社員の幸せにつながりにくい」「構造的に格差社会 を作り出す」「他産業への波及があるにしても、価格競争をする限り、コスト削減が厳し い」
 外需依存は、海外の景気や為替変動に影響される。輸出依存度(輸出対GDP比率)が高 いと、為替変動で国内産業に与える影響も大きくなる。内需依存が望ましい。
(4)他方、内需は、主に内需を相手に商売する中小企業の売り上げを伸ばす。非熟練労 働者の職場を一定確保できる。
 内需を基盤に「ガラパゴス化した技術を進化させる」「その製品等を輸出する、独自技 術なので模倣されない、基盤技術を押さえることができる」
(5)内需基盤国家
 金融資本主義は変動が大きく、変動を利用して稼ぐ虚業。生活に関連した製造業・サー ビス業は一定幅の変動に納まる。
 内需をターゲットにした生活に関連した製造業・サービス業を振興。
(6)郵政民営化の凍結/国内投資の奨励
 株式売却を中止。運営形態に公的関与を残すように見直す。日本は郵貯資金をギャンブ ル資本主義の胴元(米国金融資本)に取り上げられる鴨になってはいけない。
 国債、国内株式、Jリート等国内投資へ誘導。旧「財政投融資」を再構築したような新 産業振興の政府系投資基金(ベンチャーキャピタル)等を検討。
【財政投融資:郵便貯金と年金積立金は、2001年度の財政投融資改革以前は、政府の「特 殊法人等」に投資・融資していた。現在は、金融市場で自主運用している。
 予算規模が大きく「第二の予算」とも呼ばれる財政投融資計画は、08年度総額13兆 8689億円で、年度末の投融資残高220兆円程度と、ピークだった2000年度末(417兆 8000億円)の約半分。 】
(7)他方、「貿易収支は黒字を維持する」なぜならば、「国際収支の発展段階説」の最 終段階「債権取崩国」(cf.英国)にならないためには、「貿易収支・経常収支の黒字、 所得収支の漸増」が必要だから(p127ーp131)。
【発展段階説:経済の発展段階に伴って、国際収支動向が変化するというクローサーの説。
1. 未成熟債務国:産業が未発達で財、資本とも海外からの調達に依存、輸入が輸出を上 回り、貿易収支赤字、資本不足のため海外から導入して資本収支は流入超。
2. 成熟債務国:輸出産業が成長し、貿易収支が黒字になるが、過去の借入債務の利払い を補うには至らず、経常収支は赤字、所得収支は赤字、資本収支は流入超・黒字のまま。
3. 債務返済国:輸出が拡大し貿易収支黒字が利払いを上回り、経常収支が黒字になり、 対外債務を返済できる。これにより資本収支が流出超・赤字になる。
4. 未成熟債権国:対外債務の返済が進み、対外資産の増加に伴い利子や配当金等の受取 が支払を上回るため所得収支は黒字化・債権国になる。
5. 成熟債権国:貿易収支が減少か赤字に転換するが、対外純資産残高がGDP対比で大きく、 所得収支が大幅黒字のため、経常収支も黒字。
6. 債権取崩国:所得収支黒字を超える消費を行うため、貿易収支赤字が所得収支黒字を 上回り、対外資産や所得収支は黒字であるが、経常収支が赤字、対外債権が減少する。
 日本の貿易収支・経常収支は1960年代以降黒字になり、1980年代以降はGDP比2%ー4% 程度。かつて世界最大の債権国であった米国は1980年代以降経常収支が赤字化し、今や世 界最大の債務国。19世紀から20世紀初頭にかけ、GNP比5%以上という経常収支黒字を経験 したイギリスでも、その後の経常収支は黒字と赤字を繰り返している。】
(8)米国のグローバリズム、それに乗った構造改革はまやかし、国民の幸福に必要な経 済構造を考えることが必要。
(9)次回に取り上げる「21世紀の国富論」(原丈人、平凡社、2007.6、@1400)が書い ているが、金融資本主義の中で、ROE(株主資本利益率)重視という経営を行うと、計算 式を見れば明らかなとおり、「固定資本を持たない」ことが数字の改善になる。
 このため、「製造設備を中国やインドに外注化する」「研究所や開発投資を削る」とい う手段を取り、(短期利益を得て、会社役員は多額の報酬を受け取り)結果として、産業 が空洞化する。
 従って、国の経済モデルを計画するときは、ROE(株主資本利益率)という指標数値は 「危険な数字」として否定的に取り扱う必要がある。

ここも見てね[引用]友情とお金
ここも見てね[随想]映画「若者たち」三部作上映会

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