サントリーに見る商標権1兆円非償却
米社ビーム買収に伴う日本の会計

はじめに
米ビーム社の最終財務諸表(2013年12月31日)
サントリーの買収直後の中間財務諸表(2014年6月30日)
  ・商標権     1,026,084百万円、非償却
  ・のれん       629,845百万円 20年償却
  ・投資差額合計 1,655,929百万円 (総額 160億ドル)
日本の会計基準・・無形固定資産について
  日本の会計基準に商標権の非償却の規定はない
    商標権の計算・評価の開示規定もなく
    減損会計の規定も存在しない
国際会計基準の無形資産について求めているもの
  具体的開示は、スプリントを買収のソフトバンク(IFRS適用会社)を参照
   日本の会計基準との比較


はじめに

2014年1月14日(ブルームバーグ):ウイスキー、ビールメーカーのサントリーホールディングス は、米ビーム (イリノイ州ディアフィールド)を総額160億ドル(約1兆6550億円)で買収することで合意した。ウイスキーの「メーカーズマーク」などのブランドを獲得し、世界の蒸留酒市場で3位のポジションを築く。

ウイスキーの「ジムビーム」や「カナディアンクラブ」を製造・販売するビームの株主は保有株1株につき現金83.50ドルを受け取る。サントリーが13日発表した。これはビームの10日の終値66.97ドルを25%上回る水準。買収総額にはビームの債務引き受け分も含むが詳細は明らかにされていない。ブルームバーグの集計データによれば、ビームの長期債務は20億ドル。発行済み株式約1億6310万株で計算すると、ビームの時価総額は136億ドルとなる。

「本件買収は、本件買収のために設立された当社の米国における100%子会社であるSUS Merger Sub Limited(以下「SUS社」という)とBeam社を合併させる方法(以下「本件合併」という)により行います。本件合併は、Beam社の株主総会において承認が得られること等を条件に成立し、合併後の存続会社はBeam社となります。」(臨時報告書より

酒類4社の14年12月期決算、サントリーが売上高首位に−米ビーム買収奏功 (掲載日 2015年02月17日)
酒類4社の2014年12月期連結決算が2015年2月16日出そろった。米国ビーム社を買収したサントリーホールディングス(HD)と酒類、炭酸飲料などが好調だったアサヒグループHDが売上高、営業利益を伸ばした。キリンHDは減収減益で、売上高はサントリーがキリンを抜き1位となった。サントリーは15年12月期にキリンとの差を広げる見通し。

サントリーは買収したビーム社の売り上げが増収に貢献し、飲料でもサントリー食品インターナショナルが英社から買収したルコゼード、ライビーナ商品の売り上げが国際事業の増収増益を後押しした。国内事業も酒類、飲料とも増収で、飲料では特定保健用食品(トクホ)売り上げが前期比45%増になった。

参考:
  三菱モルガンスタンレー(M&Aコンサルタント)三菱UFJフィナンシャルグループ(融資)⇒2014年5月1日ビーム社買収完了⇒2014年10月1日新浪剛史氏社長就任三菱商事出身
  大前研一氏の分析

米ビーム社の最終財務諸表(2013年12月31日)

米ビーム社はサントリーの買収前まではニューヨーク証券取引所に上場していたので米国証券取引委員会(SEC)へ年次報告書(Form10-K)を登録している。買収の直近である2013年12月31日までは登録開示しているので内容を見ることができます。

要約すると、次の通りです。

Beam Inc. 単位:百万ドル 主な注記
12月31日現在
資産: 2013年 2012年
流動資産合計 $ 2,890 $ 2,902
有形固定資産 815 787
のれん 2,557 2,571 米国会計基準では「のれん」は非償却である旨の注記、四半期ごとに、最低年次に減損テストしている旨の注記がある。
その他の無形固定資産 2,224 2,308 商標権で、耐用年数を確定できないもの2013年は$1,850百万ドル、2012年は$1,943百万ドルは,非償却の注記がある。
毎期、公正価値と比較して、減損していれば公正価値まで減額している旨の注記あり。

商標権の公正価値はロイヤリティ収益の現在価値で計算したstandard relief-from-royalty approachを公正価値であるとしている。
参考:「ロイヤリティ免除法
関係会社への投資 57 51
その他の非流動資産 39 55
資産合計 $ 8,584 $ 8,676
負債:
流動負債合計 $ 706 $ 1,250 短期借入金2013年$12百万ドル、2012年$480百万ドルを含む
長期借入金 2,024 2,024
繰延税金債務 526 453
企業年金債務 92 142
その他の非流動債務 160 195
負債合計 3,510 4,066
純資産合計 5,074 4,609
負債・純資産合計 $ 8,584 $ 8,675
発行済み株式 1,6360万株 1,6010万株

2014年1月12日締結の米ビーム社とサントリー・ホールディングス社の合併契約(Merger Agreement)によると、サントリー・ホールディングスの100%子会社としてSUS Merger Sub Limited(デラウエア―会社法法人)を設立し、ビーム社の株式を現金で一株当たり$83.50で取得して合併させるとしている。

取得価額は、$83.5x発行済み株式数1,6360万株=$13,660百万ドル(為替レート103.92円で1兆4195億円)
他に、サントリー・ホールディングスは、ビーム社の借入金返済のために20億ドルを支払うことになっていると報道されている。サントリーが資金調達を余儀なくされたもの。

つまり、サントリー・ホールディングスは、100%子会社SUS Merger Sub Limitedを通じてビーム社の株式を取得しており、単純に、上記のビーム社の取得をしているのではない。米国で、100%子会社SUS Merger Sub Limitedと合併していれば米国会計基準で会計処理できることになる。

上記のとおり、純資産$5,074百万ドルには、のれん$2,55百万ドル7と無形固定資産$2,224百万ドルが含まれており、のれんと無形固定資産を除くと、純資産は約3億ドル(300億円程度)しかない。つまり、日本法人が直接取得して連結した場合、投資差額は取得原価とほぼ同額となる。日本で商標権(Trade names)の評価ができなくて無形固定資産として識別できなければ投資差額すべてが「のれん」となって償却負担は年500億円(=1兆円/20年償却)増加するはずであった。

因みに、2013年度から過去3年間のビーム社の連結損益計算書は以下の通りである。収益性を見てみる。

連結損益計算書
Beam Inc. 12月31日に終了する事業年度
(In millions, except per share amounts) 単位:百万ドル 2013年 2012年 2011年
Sales 売上高 3,148 3,063 2,859
 Less: Excersise tax 物品税 (601) (604) (560)
Net sales 純売上高 2,547 2,459 2,299
 Cost of goods sald 売上原価 1,067 1,023 985
Gross profit 売上総利益 1,497 1,436 1,313
 Advertising and marketing expenses 広告宣伝費 401 398 358
 Selling, general and administrative expenses 販売費及び一般管理費 392 412 430
 Amortization of intangible assets 無形固定資産の減耗費 17 17 16
 Gain on sale of brands and related assets 商標権の譲渡益 (13) - -
 Restructuring charges リストラ費用 15 4 7
 Business separation costs 事業分割費用 - 13 83
 Assets impairment chargs 資産減損 49 15 31
Operating income 営業利益 617 573 385
 Interest expense 支払利息 91 109 117
 Loss on early extinguishment of debt 早期債務分離損 56 - 149
 Other income その他の利益 (8) (35) (40)
Income from continuing operation before income taxes 継続事業からの税引き前利益 477 499 159
 Income taxes 法人所得税 111 96 39
Income from continuing operations-Beam Inc. 継続事業からの純利益ービーム社 365 403 119
(Loss)income from discontinued operations,net of tax 非継続事業の(損)益、税引き後 (3) (18) 787
Net income 純利益 362 385 906
 Less:Noncontrolling interest related to discontinued operations 控除:非継続事業の非支配持分 - - 4.1
Net income attributable to Beam Inc. ビーム社に帰属する純利益 362 385 902

業績を見ると、年間売上高は2013年度で31億ドル(為替レート103円で3193億円)、2012年度30億ドル(103円換算で3090億円、2011年度で28億ドル(103円換算で2884億円)である。
営業利益では、2013年度で年間6億ドル(103円換算で618億円)、2012年度で5億ドル(103円換算で515億円、2011年度で3億ドル(103円換算で309億円)である。

サントリーの買収直後の中間財務諸表(2014年6月31日)

一方、サントリーホールディングス半期報告書を見ると、ビーム社の買収が完了して2014年5月1日より連結財務諸表に含まれることになった旨の注記がしてある。(有価証券報告書)

ビーム買収に係る会計処理に関して商標権を1兆円計上しその償却は、A無形固定資産(リース資産を除く)主として定額法を採用しています。ただし耐用年数を確定できない商標権については非償却としています。

(6)のれんの償却方法及び償却期間については、主として5年から20年の期間で均等償却しています、として日本の会計基準通りです。

取得による企業結合として、Beam Inc.の買収について注記されており、「当社は、2014年5月1日えお企業結合日としてBeam Inc..を買収しました。買収は、買収のために設立された当社の米国における100%子会社であるSUS Merger Sub LimitedとBeam Inc.を合併させる方法により実施しました」とあります。

(3)取得価額及びその内訳として次の通りとしています。

取得の対価 現金による支出 ¥1,419,539百万円 取得価額は、一株当たり$83.5x発行済み株式数1,6360万株=$13,660百万ドル(為替レート103.92円で1兆4195億円)
取得に直接要した費用 調査費用等 3,513百万円
取得原価 ¥1,423,053百万円

(5)企業結合日に受け入れた資産及び引き受けた負債の額並びにその内訳として、次の通りとしている。

ビームの2013年12月末のドルとの比較
差額は、100%子会社SUS Merger Sub Limitedの買収・合併の会計処理にある。
商標権(Trade names)の会計処理が主体である。
流動資産 314,448百万円
固定資産 1,130,283百万円 商標権1兆円は100%子会社SUS Merger Sub Limitedに既に計上されているようだ。
資産合計 1,447,731百万円 2013年12月末でビームの資産合計は$85億84百万ドル(為替レート103円で8841億15百万円)
流動負債 78,259百万円
固定負債 576,264百万円
負債合計 654,523百万円 2013年12月末でビームの負債合計は$35億10百ドル(為替レート103円で456億30百万円)
純資産 A−B 793,208百万円 2013年12月末でビームの純資産は$50億74百ドル(為替レート103円で5226億22百万円)

つまり、のれん629,845百万円=(3)取得原価1,423,053百万円ー合併後の米国100%子会社純資産793,208百万円

(4)@発生したのれんの金額は、629,845百万円とし、Aのれんの発生原因は、取得原価が企業結合日の受入れ資産の時価合計を上回ったため、その差額をのれんとして認識していますが、当中間連結会計期間末において取得原価の配分が完了していないため、入手可能な合理的情報に基づき暫定的に算定しています、としている。年度末で変更になる間も知れないと含みを持たせている。B償却方法及び償却期間では、20年の期間で均等償却、とあります。


20年の均等償却により年度にして315億円の償却負担で済むことになる。


(6)のれん以外の無形固定資産に配分された主要な種類別の内訳及び金額並びに償却期間として、商標権1,026,084百万円、非償却とあるだけです。
日本の会計基準が開示を求めていないので仕方ないのですが、商標権をどのようにして評価したのか評価方法や、減損会計の方法などは開示されていません。

この結果中間貸借対照表は、巨額な商標権とのれんで、サントリーの貸借対照表は一変することになった。
のれんと未償却の商標権の合計は、純資産を大きく超えることになった。すべてに減損が生じると債務超過を意味する。
業績次第では、融資した銀行の貸付金の回収可能性に関する与信管理の影響が出てくると言えよう。
現に、新浪剛史新社長が決算発表で、ビームを成功させキャッシュを増やして「ビーム買収に関する借入金を返済しなければならない」ことを強調しているのは印象的だ。

サントリーホールディングス 前連結会計年度 当中間連結会計期間 単位:百万円 当連結会計年度
2013年12月31日現在 2014年6月30日現在 増減 2014年12月31日現在
流動資産合計 \ 1,007,834 \ 1,111,655 103,821 \ 1,166,254
有形固定資産 527,269 613,372 86,103 676,606
無形固定資産: 650,413 2,260,288 1,609,874 2,506,267
 のれん 409,293 1,002,371 593,077 ビームののれん6298億円含む 1,118,703
 商標権 184,942 1,200,274 1,015,331 ビームの商標権1兆260億円非償却含む 1,323906
 その他 56,177 57,642 1,465 63,656
投資その他の資産 187,178 198,327 11,148 185,951
繰延資産 1,374 1,251 △123 1,458
資産合計 \ 2,374,070 \ 4,184,895 1,810,824 \ 4,536,537
流動負債: \ 760,029 \ 1,578,562 818,532 \ 779,677
 短期借入金 83,428 904,655 821,226 つなぎ融資は三菱UFJフィナンシャル 87,873
 その他の流動負債 676,601 673,907 △2,694 691,804
固定負債: 557,315 1,570,336 1,016,021 2,566,103
 社債 64,700 335,979 271,279 476,151
 長期借入金 322,387 706,459 384,072 資金調達は三菱UFJフィナンシャル 1,470,386
 繰延税金負債 80,104 414,208 334,104 453,924
 その他の固定負債 90,124 113,690 23,563 165,641
純資産合計 1,056,726 1,035,996 △20,729 1,190,756
負債・純資産合計 \ 2,374,070 \ 4,184,895 1,810,824 \ 4,36537

サントリーホールディングスの収益性は、2014年度から過去3年間の連結損益計算書を見て見ると以下の通りである。(2014年12月決算発表

連結損益計算書
単位:百万円 12月31日終了する事業年度
2014年 2013年 2012年
売上高 2,455,249 2,04,204 1,851,567 2014年5月以降の売上に買収したビームの売上が貢献しているようだ。
売上原価 1,244,469 1,015376 923,270
  売上総利益 1,210,780 1,024,827 928,297
販売費及び一般管理費 1,046,027 989,269 820,553
  営業利益 164,753 126,558 107,744
営業外収益 12,006 5,934 5,212
営業外費用 22,916 11,939 9,894
  経常利益 153,842 120,552 103,061
特別利益 13,489 181,170 1,371 2013年に持分変動利益131,383百万円と関係会社株式売却益45,490百万円を計上している
子会社のサントリー食品の株式をが2013年7月3日に東証1部に上場している。
特別損失 41,101 15,897 10,752
  税金等調整前利益 126,230 285,826 93,680
法人税等 63,930 73438 49,773
  少数株主持分損益調整前利益 62,300 212,386 43,906
少数株主持ち分利益 23,936 16,812 7,275
  当期純利益 38,363 195,574 36,631

2013年に持分変動利益として特別利益に1313億円を関係会社株式売却益454億円、合計1768億円を臨時的に計上している。

日本の会計基準・・無形固定資産について

合併買収に際しての会計では、取得価額には、のれんばかりではなく商標権など識別可能な無形固定資産も含まれるとした考え方があり、当該無形固定資産はのれんとは別に資産計上することになっている。サントリーのビームを取得したケースもこれに該当する。

では、日本の無形固定資産に関する会計基準はどうなっているのであろうか。企業会計原則、「資産の貸借対照表価額五に、無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならない」としか規定がない。

つまり、サントリー・ホールディングのビーム社買収に係る商標権1兆円が、非償却であるという注記だけで済ませることは日本の会計基準が「耐用年数を確定できない無形資産」を想定してなく規定ができていないことによるものだ。

我が国の企業会計基準委員会は、「無形資産に関する検討経過の取りまとめ」(平成25年6月28日)を行っているが結論が出せず、日本では会計基準が整備されていない。

現在、企業会計基準委員会は、修正国際基準「のれんの会計処理(案)」として、非償却の国際会計基準に反して、「(b) のれんは、耐用年数にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならない。のれんの耐用年数は、その効果の及ぶ期間によるが、20 年を超えてはならない。償却費は、純損益に認識しなければならない。」と規定しようとしている。(「のれん処理、日本型は妥当」by 西川郁生前企業会計基準委員会(ASBJ)委員長2015年1月15日参照)

なお、「親子会社間の会計処理の統一」については、企業会計基準委員会企業会計基準第22 号連結財務諸表に関する会計基準17項で、「同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一する」とあり、商標権の非償却については無力となっている。

サントリーホールディングスのビームの商標権非償却の例を待つまもなく、無形固定資産の評価方法、耐用年数を確定できない場合の取り扱い、減損会計などを規定しておらず、日本の会計基準は、ざるのような会計基準となっている。国際会計基準並みの規定が必要だ。日本の会計基準よりも国際会計基準の方が整合性があり。簡潔明瞭だ。資産の減損の方法など非常に難解な問題があるが、巨額なのれんや商標権の非償却も合理性があり分かり易い。

難解で整合性のない日本の会計基準が国際的に遜色ないといって漫然としてよいのでしょうか。


国際会計基準の無形資産について求めているもの

国際会計基準が企業結合に際して、買収額が被買収企業の純資産の額を超過する投資差額のうち、識別可能な無形資産をのれんと区別することを要求する。

企業結合で認識されるのれんは、企業結合で取得した他の資産で個別に識別されず、独立して認識できない資産から生じる将来の経済的便益を表す資産である。(国際会計基準IAS第38号「無形資産」11項) つまり、投資差額のうち識別された無形資産を区分表示した残りが「のれん」という。

無形資産とは、物質的実体のない識別可能な非貨幣性資産をいう。(IAS38号8項)

無形資産の具体的内容は、9項で、科学的・技術的知識、新工程・新システムの設計及び実施、免許、知的資産、市場知識及び商標(ブランド名及び出版表題を含む)などである。また、コンピュータのソフトウエア、特許、著作権、映画フィルム、顧客名簿、モーゲージ・サービス権、漁業免許、輸入割当額(量)、独占販売権、顧客又は仕入先との関係、市場占有率及び市場取引権がある。

識別可能性の定義では、12項で、(a)分離可能であること、つまり、資産または負債と独立して、企業から分離又は区分して売却、ライセンス供与、賃貸又は交換できること、又は(b)その権利が譲渡可能であるか又は分離可能であるかにかかわらず、契約又はその他の法的権利から生じるものであること、であれば、その資産は無形資産の定義における識別可能性の要件を満たしているとしている。

21項では、無形固定資産が、(a)資産に起因する、期待される将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ、(b)資産の取得価額が信頼性をもって測定できる、のであれば、その場合のみに、認識しなければならない、としている。

有限の耐用年数を有する無形資産は、その耐用年数で規則的に配分しなければならない。(97項)有限の耐用年数を有する無形固定資産の償却期間・償却方法は、少なくとも各事業年度末において見直さなればならない。(104項)

耐用年数を確定できない無形資産は、償却してはならない。(IAS38号「無形資産」107項)非償却の無形資産の耐用年数は、当該資産の耐用年数を確定できないという証拠となるような事象又は状況が引き続き存在するかどうかを決定するために、毎期見直しをする。もしそれらが存在しなくなったら、耐用年数の査定を有限に変更し、IAS第8号に従って会計上の見積もりの変更として会計処理しなければならない。

無形固定資産が減損しているかを判定するためには、国際会計基準IAS第36号「資産の減損」を適用する。(111項)

注記による開示として、(a)耐用年数が確定できないか又は有限であるか、有限である場合には、採用する耐用年数又は償却率、(b)有限の耐用年数を有する無形資産について採用する償却方法、(c)期首及び期末の、償却控除前帳簿価額及び償却累計額(減損損失累計額との合計)、(d)無形資産の償却額が含まれる、損益計算書の項目ほか(118項)

無形資産の減損に関して、国際会計基準IAS第36号「資産の減損」は、次のように規定する。
9項で、企業は、各報告日現在で、資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを評価しなければならない。そのような兆候の何れかが存在する場合は、当該資産の回収可能額を見積らなければならない、とする。

また、減損の兆候の有無にかかわらず、企業は、(a)各事業年度において、耐用年数を確定できない無形資産又は未だ使用可能でない無形資産について、帳簿価額と回収可能価額とを比較することにより、減損テストを実施しなければならない。減損テストは、毎年同時期に実施するのであれば、年次期間中のいつでも実施してよい。(b)企業結合で取得したのれんについて、減損テストを毎年実施しなければならない、としている。

減損の認識では、59項で、資産の回収可能価額が帳簿価額より低い場合は、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額しなければならない、としている。


具体的な国際会計基準での表示の仕方は、2013年7月11日に、国際会計基準を適用しているソフトバンクが、米国のスプリント・ネクステル・コーポレーションを約216億ドル(約1.8兆円)で買収し、2014年3月期の連結財務諸表を有価証券報告書に記載して注記13にのれん及び無形固定資産の開示をしているので参照してみてください。
ソフトバンク株式会社・・有価証券報告書2014年3月期(国際会計基準を2014年3月期より適用「決算短信」参照)

スプリント買収に伴って、無形資産としてFCCライセンス3兆6129億94百万円(スプリントのBSに「FCCライセンス358億ドル」計上されているSprint Form 10-k for the year ended Dec. 31, 2013」参照)を計上した。耐用年数を確定できない(indefinite-lived intangible assets)理由を次のように記載している。(因みに、スプリント買収に伴う「のれん」は6024億99百万円ということだ。)
「FCCライセンスは、米国連邦通信委員会(FCC)が付与する特定の周波数を利用するためのライセンスです。FCCライセンスは規制当局の定める規制に準拠している限り、その更新・延長は最低限のコストで行うことができることから、FCCライセンスの耐用年数を確定できないと判断しています。」

重要な会計方針には、「(9) 無形資産・無形資産の測定には原価モデルを採用し」とあり評価方法を記述し、「(11) 有形固定資産、無形資産およびのれんの減損」の記述がされている。

2015年2月5日(米国東部時間)、当社の米国子会社であるSprint Corporation(以下「スプリント」、米国会計基準)は、2014年12月31日に終了した3カ月間(以下「当第3四半期」)において21.3億米ドル(約2,568億円)の減損損失を計上したことを発表しましたが、当社連結決算(国際会計基準)では、当第3四半期においてスプリントに係る減損損失を認識しませんでしたので、下記のとおりお知らせいたします。
参考資料(減損の認識方法)(PDF形式:628KB/2ぺージ)・・2500億円の減損が意味するもの(東洋経済)、2015年2月17日

我が国の会計基準
金融庁・企業会計審議会は、我が国会計基準の整備を精力的に進めてきたが、連結財務諸表、キャッシュ・フロー計算書、研究開発費会計、退職給付会計、税効果会計、金融商品会計などの基準の整備が一段落した平成11 年(1999年)10 月の総会で、「固定資産の会計処理について」が審議事項に取り上げられ、固定資産の会計処理について幅広い観点から検討することとされた。平成14年4月19日に「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)」を公開し、平成14年(2002年)8月9日に「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」が公表された。それによると、

一 対象資産
本基準は、固定資産を対象に適用する。ただし、他の基準に減損処理に関する定めがある資産、例えば、「金融商品に係る会計基準」における金融資産や「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産については、対象資産から除くこととする。

上記のとおり、我が国の減損会計では、無形資産については、何の記述もない。

因みに、平成9年6月6日に大蔵省・企業会計審議会規定連結財務諸表原則では、
親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去に当 たり、差額が生ずる場合には、当該差額を連結調整勘定とする。 連結調整勘定は、原則としてその計上後20年以内に、定額法その他合理的な方 法により償却しなければならない。ただし、連結調整勘定の金額に重要性が乏し い場合には、当該勘定が生じた期の損益として処理することができる。

上記の規定だけで、識別可能な無形資産を投資差額から区分経理することは想定されていない。

また、繰り返しとなるが、日本の会計基準が「耐用年数を確定できない無形資産」を想定していない。

なお、2001年7月26日金融庁所管の公益法人として、財団法人 財務会計基準機構(FASF)の設立認可を受け、企業会計基準委員会(ASB)8月7日正式に発足している。以後、会計基準の設定は企業会計審議会から移管された。 

現在、企業会計基準委員会は、修正国際基準「のれんの会計処理(案)」として、非償却の国際会計基準に反して、「(b) のれんは、耐用年数にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却しなければならない。のれんの耐用年数は、その効果の及ぶ期間によるが、20 年を超えてはならない。償却費は、純損益に認識しなければならない。」と規定しようとしている。(「のれん処理、日本型は妥当」by 西川郁生前企業会計基準委員会(ASBJ)委員長2015年1月15日参照) なお、無形資産については言及していない。
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