日本の会計

日本の会計基準設定主体⇒
会計制度改善のための提言
English
  • 税法と会計
    • 税には別途、租税原則がある・・アダム・スミスの租税原則など
「国際会計基準と日本の会計基準の相違点」 「新しい連結決算」
国際会計基準 公会計基準・・行政部門の会計基準
粉飾決算」 「不良債権」 特殊法人」「公益法人」「独立行政法人
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はじめに

1998年4月14日、日本経済新聞の夕刊に、Nipponビジネス戦記として、ゴールドマン・サックス・バイスプレジデントのマーシュ・グッドマン氏の”「透明性」信頼回復のカギ”と題して次のように記している。

『日本版ビッグバンは「フリー」「フェア」「グローバル」を柱に、金融システム改革を実現することを目指している。「フリー」と「グローバル」は客観的に把握できる概念であり、規制がいくつ撤廃されたか、日本の制度が国際標準にどこまで近づいたかで進捗の度合いを判断できる。

これに対して「フェア」は、はるかに主観的な概念だが、「フェア」な市場といえば、「透明で公正な市場である。これは、ルールが明確に定められ、公平に適用されること会計基準とデイスクロージャー基準によって市場参加者がリスクと機会を評価できるだけの情報を得られるようになっていること、発行体と投資家の利害が最優先されることを意味する。

透明性が高まれば、日本の金融市場に対する信任を回復することができ、東京市場の再活性化の一助にもなるだろう。また、日本の官僚機構と大手金融機関を揺るがしているようなスキャンダルの再発を防止することもできよう。

日本版ビックバンが本当に成功を収めたかどうかは、金融システムがどこまでフェアで透明なものになり、市場参加者すべての利益になるか否かで判断される。』

日本の会計の特徴

明治維新以来、日本が先進国に追いつくために官僚が中心的な役割をもって、現在の日本のあらゆる制度が形成されてきた。日本の会計制度も例外ではなく、主務官庁が基準を作成し財務諸表の提出先は主務官庁となっている。財務諸表利用者への情報開示は、二の次となっているのである。欧米の情報開示が財務諸表利用者(リスクテーカー)に対する情報開示を第一義的に考えて制度ができているのと対照的である。

例えば、上場会社にあっては金融庁(旧大蔵省)企業会計審議会が会計基準を設定し、基準に基づいて作成された有価証券報告書は財務省財務局(旧大蔵省)の審査を受けて財務局に提出され、閲覧したければ財務省の閲覧室、証券取引所の閲覧室で閲覧するか、財務省の印刷局が印刷したものを政府刊行物として購入することになる。決して株主(リスクテーカー)の手許に届かないのである。

また、公益法人独立行政法人の情報開示も同様、主務官庁に財務情報が提出され、財務諸表利用者に対する情報開示とはなっていない。

日本の会計制度は主務官庁中心であるため、縦割り行政で主管の業態ごとに会計基準を作成し、情報開示の提出先も主務官庁である。相互に整合性を維持することは困難であったり複雑なものとなる。当然、財務諸表利用者の声は届き難くなり、分かりやすい情報開示は期待できないという悪循環が起きることになる。

情報開示としての会計は、元来、リスクテーカーに対して行われるものである。自己責任で投資判断するには情報開示がなければならない。非営利団体など公益法人のように基金や寄付金、会費などを広く求めるためには、活動内容を開示することで賛同者を得るのが筋であろう。健全な活動を監視する主務官庁には、開示しているものを提出させることも必要であるがあくまでも、開示する対象は第一義的にはリスクテーカーである財務諸表利用者である。

(1)商法、証券取引法、税法のいわゆるトライアングル体制

日本では、会計規定は、商法(法務省管轄)、証券取引法(旧大蔵省管轄・現金融庁所管)、法人税法(財務省管轄)にそれぞれ規定があり、会計規定の改正をしようとすると、相互の調整が機動的にできない「三すくみ」構造となっており、世界に類を見ない日本独特の制度です。少なくとも、実務家である財務諸表作成者や会計監査人は、三つの法律に悩まされているのです。それが証拠に、会計学者、公認会計士、税理士のそれぞれが、「会計」について、まちまちの解釈をしているのが現状です。一つの企業の財務諸表に、商法会計あり、証券取引法会計あり、税法会計ありといっては驚いてしまうのです。まして、それぞれ違った目的の財務諸表であると言いながら、利益は一致しなければならないと言いますので、またまた、驚かされるのです。

国際的な会計では、投資家や債権者の視点で、投資家保護や債権者保護は、形式を超えて企業の実態substance over form)を「適正表示fair presentation)」し、投資家や債権者の自己責任で投資判断ができるようにすることです。

日本では、法の制限をうけているものに、@新株引受権付社債を発行した場合、新株引受権の付与を米国会計基準が資本取引として資本剰余金への計上を求めているとしても、日本の商法が資本準備金計上を認めていないとして、新株引受権を負債計上していること(金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(平成11年1月22日)」参照)、Aストック・オプションを付与したとき、費用として計上するとともに、貸方は、新株予約権として負債の部と資本の部の中間に独立項目として計上する(企業会計基準委員会公開草案「ストック・オプション等に関する会計基準(案)4項」参照、<国際基準では資本剰余金に計上し純資産には影響しない>)があり、Bファイナンス・リースに、所有権移転が認められないものは法形式の「賃貸借取引」として会計処理できるとして、経済実態(economic substance)を犠牲にしている会計基準があるリース取引に係る会計基準」参照)。

経済的実態(economic substance)の表示を重視する欧米の会計とは対照的に、日本では官主導で基準が作成され法形式(legal form)が重要視されます。証券取引法の各種規則(財務諸表規則・連結財務諸表規則など)や商法施行規則などで作成した財務諸表・計算書類は形式が重要視されます。企業が有価証券報告書を財務局へ提出するときの「財務局の審査」は正に「形式」をチェックしています。企業は、審査を通るために実態よりも形式のみを重視するようになります。世界に例を見ない「規則」や「審査」が「形式」を重視することになり、実態を示し難くしている。実態を示し得ず突然倒産した山一証券、長期信用銀行、日本債券信用銀行、10年以上長期にわたる銀行の不良債権処理、銀行の繰延税金資産の過大計上問題(りそな、足利銀行など)などは日本の制度的なものが色濃く出た結果と言えます。つまり、法形式は適法であっても、その経済的実態が巨額な債務超過であると突然倒産するということであります。

日本の会計の国際的位置づけInternational financial reporting 2003年春(PPTファイルです)」(Prof. Dr. Erik De Lembre教授)の研究結果が分かりやすい。同パワーポイント・ファイルに示されている図表では、アジア・日本は透明性に欠けます。

日本の場合は、投資家や債権者の視点は希薄で、官主導の三つの行政の視点が「トライアングル体制」を生み出している。トライアングル体制とは、日本独特の縦割り行政そのものといっていい。企業の実態を示して欲しいとする投資家及び債権者の基本的視点で考えれば、国際的な制度と同一になります。旧共産圏、欧州、アジア周辺国さえ国際的な視点で急速に会計改革が行われています(国際会計基準 参照)。    

法律 所管 財務諸表等 作成規則 提出先 電子開示
証券取引法
金融商品取引法
金融庁 @有価証券報告書 A財務諸表規則等の内閣府令 内閣総理大臣宛に
財務省・財務局
(証券取引法24条)
金融庁
商法B
会社法
法務省 計算書類
連結計算書類

単年度情報開示
(公開会社は3期開示に変更)
キャッシュフロー計算書なし
A法務省令である商法施行規則
(計算書類規則は廃止)
連結計算書類は商法特例法

A会社計算規則(2006年2月公布)
株主
(商法283条第2項)
02年4月より可
法人税法 財務省 商法決算書 法人税法 税務署 該当せず

@投資家(株主)保護を建前とする有価証券報告書(半期報告書を含む)は、役所(証券取引法24条により内閣総理大臣に提出することになっている)に提出し、株主の手許に届かない。

有価証券報告書は株主総会が終了してから財務省財務局に提出またはEDINETに電子登録されるため、株主総会出席の株主は事前に目にすることはできません。
つまり、株主が株主総会で議決権を行使できる唯一のチャンスに、有価証券報告書は株主総会前に株主に対して情報開示できない。これが日本の投資家(株主)保護の仕組みです。世界に類を見ない仕組みです。(「主要各国の取引所の株式上場」の株主総会(AGM) 参照)
つまり有価証券報告書の実態は利用者不在の仕組みである。特に多くの個人株主には無縁である。
日本の株主に対する財務情報の開示は、定時株主総会召集通知書に添付されるB商法の計算書類である(商法283条第2項)。

金融庁は、証券取引法を改正し「金融商品取引法」を国会に提出、2006年6月7日成立した。概要図 概要文要綱案 法律案

A会計規定を重複して規定している(縦割り行政の弊害)・・完成度の高い会計基準一つあれば良いこと:
財務諸表の作成基準である「会計基準」を、内閣府令(財務諸表規則など)や法務省令(商法施行規則、旧計算書類規則など)にわざわざ重複して規定している先進国は例を見ない。屋上屋を重ねている規定は縦割り行政の何物でもない。主要国では、会計基準に準拠する規定で、証券取引法や商法ないし会社法で重複して規定することはない(世界の常識)。

B商法は「債権者保護」を建前としているが、商法の計算書類は株主総会時に株主に送付される(「株主に対する情報開示」参照)。
商法に計算規定を委ねると、会計専門家によって熟慮検討されたのか疑問。例えば、国際的に常識となっている(1)キャッシュフロー計算書は要求されませんし、(2)比較財務諸表(前年度と比較して良くなったのか悪くなったのか分かる)を求めていません。(3)作成を求めているが開示を求めていない附属明細書(supplementary schedules)は国際的には死語となっており、開示を求める事項は注記(notes)による開示を行うのが国際的常識(IAS1号パラグラフ7”財務諸表とは”参照)。(4)上場会社では、株主に対するタイムリーな情報開示として、半期報告書や四半期報告書も求めていません。

日本の会計制度--商法と証券取引法の二重開示制度の事例
会社名 商法の
計算書類
証券取引法
NTT Do Co Mo 定時株主総会招集ご通知添付書類 有価証券報告書(平成14年度)
NTTドコモの場合、規則改正により平成14年度(2003年3月期)から米国基準による連結財務諸表で開示しています。
加えて、商法上の連結計算書類も早期に開示しています。

なお、他社の事例は「”株主総会”Google 検索結果」から検索できますので、興味ある方は調べてみてください。

会社の計算関係の改正については、西山芳喜金沢大学法学部教授が「法律時報・平成一四年九月号《特集・商法改正ーその将来への視座」に簡潔に述べていますのでご参照ください。
法規集・・目まぐるしく改正されている商法  商法施行規則  商法特例法 参照

2002年5月28日、欧州委員会は欧州議会に対して会計指令法案を提出した。欧州では、2005年までにすべての上場会社が国際会計基準(IAS)での開示が義務付けられているが、一つの会計基準のもとに非上場会社を含めた各国の計算規定を統一するための措置である。「形式を超えて実態(substance over form)」を開示するという会計原則の理念やキャッシュフロー計算書を導入するなど、国際会計基準(IAS)と調和させるという一大改革で、欧州の会計を基本的に変えるものである。(法案本文、 プレス・リリース 参照)

米国の場合は、協力者(投資家などの資金提供者)を増やすために、自身の事業活動内容の理解を得るために分かりやすい情報開示を必要とするインセンティブが働いている民主導主型ですが、日本の場合は、主務官庁によって情報開示の規則が作成され、かつ、情報開示は主務官庁に対して行い国民の目の届き難い官主導型で、例え外部にも情報開示したとしても様式・内容等は形式的・画一的な文書で判りにくいという特徴があります。民主導型の迅速に対応できる仕組みを構築しない限り、情報開示は適時・適切に改善されることはない。


商法は、「配当可能利益を計算する」としながら、親会社のみの財務諸表と配当可能利益を計算に止まり、子会社が巨額の赤字でも配当可能利益の計算に含まれませんし、そもそも、連結財務諸表が考慮されていません。また、配当可能利益の計算は資金の裏付けを伴いますのでキャッシュフローの概念が根底にあるものと考えられますが、キャッシュフロー計算書の導入は考慮されていません。

日本の会計は、財務諸表の作成者や会計監査人にも難解であり、当然のこととして、投資家が理解するのは容易ではありません。財務情報の開示(ディスクロージャー)は、その作成基準である会計基準自体も、投資家を含めた一般(潜在投資家)にも、分かりやすく公表されることが必要なのです。

世界の大勢は、会計基準を特定の法律から独立して規定しています。会計基準を調べようとすれば、投資家を含めて誰でもが容易に調べられ理解しやすいようになっています。

なお、証券取引法を含む会計制度のトライアングル体制は、株式・社債などの有価証券の発行・流通に関係する上場会社や店頭登録会社等の約3300社が対象とされます。証券取引法が適用されない会社には、商法・税法の適用があるのみでトライアングル体制ではありません。

現在、大蔵省(現金融庁)企業会計審議会が、国際会計基準の一部導入(連結財務諸表、キャッシュフロー計算書、税効果会計、退職給付の会計、金融商品の時価会計など)を行っている会計基準は、証券取引法の枠の中で行われています。その一部(税効果会計、金融商品の時価会計など)については、商法を改正して一致させようと検討していますが、証券取引法適用会社が商法違反とならないための手当です。

会計ビックバンが露呈した矛盾・・機動的に調整できない日本の構造
実務を混乱させる制度(2000年3月現在)

● 商法と連結決算・・「公告」について
新たな会計基準は、連結決算中心主義である。一方、商法は連結決算の規定は無い。商法の決算書を官報・新聞等への公告は当然、商法規定では単独決算の公告となる。違反すると「百万円以下の過料」となる規定である。「なぜ会社の実態をより良く開示すると商法違反になるのか」と経営者が疑問に思うのは当然で、企業にとっては、連結中心主義となったと理解し企業実態がわかる連結決算で公告をするという。
トライアングル体制、縦割り行政または機動的に調整できない行政の硬直化が企業に商法違反を課そうとしているのだ。

● 商法と法人税法・・「連結納税制度」について
法人税法の所得の計算は商法決算書の利益(損失)を基礎にして申告調整を行い課税所得(欠損)を計算して納付すべき法人税額(還付を受けるべき法人税額)を計算するとある。そもそも、商法に連結決算の規定が無い場合は、連結決算による連結納税制度はできない。
法人税法は、商法と別途に連結納税制度を構築する(例えば、国内子会社の課税所得(損失)の単純合算する、親子会社の損益通算制度)などの方法が考えられるが、いずれにしても、検討する時期が遅すぎる。

● 監査役の監査権限・・「50%以下所有の連結子会社への監査」について
新連結基準は支配基準を適用しており、50%以下の所有でも連結子会社となる場合がある。商法は、子会社を50%超と規定している。子会社への監査権限を、支配力基準と整合していない子会社については商法は規定していない。商法に明記されていなくても、監査役の実質的な責任は、50%以下所有の連結子会社に対しても及ぶと考えるのが常識的であろう。

いずれにしても、商法、証券取引法、税法のトライアングル体制は、机上の論理として完結するかもしれないが、実務の世界では、制度的、構造的欠陥なのである。「株主に対する情報開示」参照
日本の制度はドイツの制度を範としているとされているが、そのドイツは大変革しているのである。
商法の改正に追いつけない企業会計原則

● 金庫株(自己株式)解禁について・・施行後でも商法規定も会計基準の双方で未完
2001年10月、商法改正により金庫株(自己株式)の取得が解禁された(自己株式の譲渡は2002年4月からとしている)。この改正により、計算書類規則では自己株式の表示は資産計上から資本の部に「自己株式」の項目をもうけて資本から控除するとしている。しかしながら、自己株式の譲渡については税法との調整が未定であるところから明記されていない。
一方、企業会計審議会は中途半端な議論のみをして「自己株式の会計処理」について結論を導き出せないでいる。新たな会計基準設定主体である企業会計基準委員会の代表斎藤東大教授が企業会審議会で発言したところによると、企業会計基準委員会で会計処理基準を検討すると悠長に応えている。(詳細は「金庫株(自己株式)」参照)

● 企業分割制度について・・会計基準の設定がない
2001年4月、商法改正により会社分割制度が導入されたが会計基準の設定の議論さえない。ちみに、国際会計基準35号に「廃止事業(Discontinued operation)」が存在するが無視された状況にある。(詳細は「スピンオフ(会社分割)」参照


本当の会計制度改革が始まった

1999年12月21日、自民党「企業会計に関する小委員会」は、「企業会計基準設定主体の充実・強化に向けて(案)」をまとめ提言している。

2000年3月27日、日本公認会計士協会と経団連は、会計基準設定主体となる民間機関を設立することを明らかにした。大蔵省も大筋で了承。企業会計審議会から、独立色の強い機関に権限を移し、基準つくりの透明性を高めるとして、5月中旬をメドに組織の概要を固め、早ければ2000年度中にも発足させる、としている(日経3月28日)。日本特有の形式的な独立であってはならないことは無論のこと、今後は、設定した会計基準の内容の質が問われることになろう。

2000年4月12日、法務省商法の株式会社に関する規定を全面的に見直し7月末をメドに骨格を決定すると報じられた(日経)。計算規定の見直しとして連結財務諸表の導入などを含んでいるようだ。上記会計基準設定主体と整合するものになるか注目される。21世紀に耐えうるものになるのかしっかり見守る必要がある。「株主に対する情報開示」参照


(2)政策に利用される会計

日本は政策に会計基準が利用される。 金融機関に対する次のような例がある。
金融機関に関し不良債権に対する貸倒引当金の積増しを以前要求しなかった(自己資本減少の猶予)、有価証券の原価法と低価法の選択適用を認める(含み損計上の猶予)、土地の時価法による再評価額計上を認める(自己資本増加のため、98年3月期と99年3月の2年間だけの限定)、金融機関の有税償却に関する税効果会計早期適用を認める(新聞報道のみで未確認・自己資本の増加のため)、すべて銀行の自己資本を増加あるいは含み損を計上しない方法である。このような会計に関する考え方は、民間事業会社の決算にも少なからず影響を与え、モラルを低下させている。

会計基準を政策目的で利用しようとするのは日本特有の考え方である。 ルール(会計基準)と政策は別問題である。企業の実態を示そうとする会計基準(会計基準の設定)と、実態を知って政策を実行(政治または行政)することを明確に区分しない限り日本の会計基準はグローバルにはならない。 別稿「国際会計基準・ホームページに見る動向・」を参照してください。

ちなみに、自己資本を減少させる下記の会計基準は無視されている。つまり、都合の良い基準を適用するつまみ食い状況にある。

項目 費用(自己資本減少)繰延べの内容
不良債権の引当金、債務保証損失引当金、製品保証引当金等偶発損失の引当 現行、不良債権の評価基準は十分ではない。現行の会計基準(企業会計原則注解18に規定)では、十分な引当がされるようになっていない。同様に、債務保証損失など債務保証に関して生ずる損失についての引当も十分とは言えない。
一般に、こうした引当を偶発損失といい引当の計上を規定しているが、バブル崩壊後こうした引当金が十分に引当てられてこなかったことが、決算後倒産した企業の財務諸表が債務超過であることの原因であることが判明している。

1999年1月22日、大蔵省企業会計審議会は、「金融商品に係る会計基準」を公表した。その中に,「貸倒見積高の算定」の項目がある。銀行業を想定して、「一般債権、貸倒懸念債権、破産更正債権」に区分し積立てることが規定しているが,実効性は疑問。論理的構成に欠けている。「偶発事象」の会計基準を充実するか,債権に「正味実現可能価額」の評価規定を盛る必要がある。
退職給付の会計 現行、退職給与引当金は税法基準の40%で引当ることも認めている。40%の根拠は、バブル崩壊以前の割引率による現在価値という説を盲信している結果で、現在のように割引率が低いと現在価値の負債は膨らむが、沈黙を守り議論されていない。なお、平成10年の税制改正で、平成10年4月以後、累積繰入限度額が毎年段階的に減少し、平成15年4月1日以降開始する事業年度から20%となる。

98年6月16日、大蔵省企業会計審議会は、「退職給付の会計」に関する意見書を公表した。退職給付について企業年金を含めて現在価値で測定した退職給付債務を計上することを提言している。適用時期は2001年3月期からで、適用初年度の債務について一括計上を求めず、経過措置として15年以内の一定の年数で按分して経費処理できるように措置することを提言している。ちなみに、国際会計基準は5年内としている。
金融商品の時価会計 現行、株価低迷により含み益がないばかりか、含み損が明らかになると原価法の適用を認める(実質は行政指導的に作用している)。

98年6月16日、企業会計審議会は「金融商品の会計基準(98年6月16日の草案)」を公表した。意見書によれば、時価会計を2001年3月期より導入することとなっている。不利な会計基準は早期適用を遅らせるということである。


個々の会計基準は正しいとしても、つまみ食いで会計基準を適用すれば、企業全体として適切な財政状況および業績を示すことにはならない。企業全体として財政状況および業績を適切に開示しようとすれば、国際会計基準のように40項目にのぼるコア・スタンダード(核となる会計基準)が必要となるのです。

連結財務諸表における連結範囲・・特別目的会社(SPC)の連結除外
98年10月30日、大蔵省企業会計審議会(会長 若杉明)は、「連結財務諸表制度における子会社及び関連会社の範囲の見直しに係る具体的な取り扱い」を公表し,持株比率基準から支配力基準及び影響力基準を導入するとした。連結及び持分法の対象となる会社の拡大である。

持株比率基準から支配力基準及び影響力基準を導入するとした。連結及び持分法の対象となる会社の拡大するという同一文書の中に,下記のとおり、三として特別会社の取り扱いとして特別目的会社(SPC)は連結範囲から除外する旨規定している。

会計基準というよりは、政策的色彩の色濃く出た規定となっています。98年9月1日に施行された「特定目的会社(SPC)法」が機能していない、10月中旬SPCの登録申請はゼロ、と98年10月13日の新聞報道にある。それには,不動産業界と規制当局である大蔵省との調整が難航していることを伝えている。

特定目的会社の取り扱い
企業会計審議会(旧大蔵省)の公表した「連結財務諸表制度における子会社及び関連会社の範囲の見直しに係る具体的な取扱い(98年(平成10年)10月30日)」

三 特定目的会社の取り扱い

特別目的会社(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号)第5条第2項に規定する特定目的会社及び事業内容の変更が制限されているこれと同様の事業を営む事業体をいう。以下同じ。)については、適正な価額で譲り受けた資産から生ずる収益を当該特別目的会社が発行する証券の所有者に享受させることを目的として設立されており、当該特別目的会社の事業がその目的に従って適切に遂行されているときは、当該特別目的会社に対する出資者及び当該特別目的会社に資産を譲渡した会社(以下「出資者等」という)から独立しているものと認め、上記一(支配力基準及び影響力基準を規定した部分)にかかわらず、出資者等の子会社に該当しないものと推定する。

(注)特定目的会社に資産を譲渡した会社が当該特別目的会社の発行した劣後債券を所有している場合等,原債務者の債務不履行又は資産価値の低下が生じたときに損失の全部又は一部の負担を行うこととなるときは、当該資産を譲渡した会社の財務諸表上、その負担を適正に見積もり、必要な額を費用計上することとする。

ちなみに、国際会計基準の解釈指針SIC-12「特別目的会社等(Special Purpose Entities)」によれば、実質的に支配されていれば連結することを求めています。

1999年1月19日、日本経済新聞は,三井不動産がSPCを設立し、ジャパンエナジー本社ビルを700億円で購入する見通しと伝えている。

企業の財務状況を全体として適切に示さないのであれば、住専、山一、ヤオハンなどの投資家は不測の損害を被ることになる。また、不良債権に悩む金融機関に関していえば、金融機関の状況が判明していない98年3月に巨額な公的資金(税金)を投入したが、効果的な投入できないという事態になる。

日本には法制度が欧米と違うという論がある。適切な情報開示が、法制度が違うということで無理というなら、法制度の改革を行い、投資家や政策当局が適切な判断ができるようにするのが筋ではないだろうか。


(3) 制度的に統一した会計基準が設定されない仕組み

1998年6月16日、大蔵省会計審議会は、「退職給付に係る会計基準」を国際会計基準第第19号「事業主の財務諸表における退職給付の会計」とほぼ一致した会計基準を設定した。これは、企業年金を行っている事業主である企業側の会計基準である

企業年金を受託している基金側の会計基準は設定していない。国際会計基準第26号「退職給付の会計と報告」という会計基準は、受託している基金側の会計基準である。企業年金には委託している企業側と、受託している基金側(日本の場合は、受託している信託銀行及び生命保険会社)とがある。つまり、今回大蔵省企業会計審議会の「退職給付に係る会計基準」は事業主である企業側の会計基準だけである。表裏一体にある基金側の会計基準なしに、企業側の会計基準だけで、企業側の会計を行えというものである。つまり、基金側は、企業から預かった資金運用であるため、会計単位が株式会社ではなく、まして、上場企業ではないため、証券取引法のディスクロージャー(情報開示)の枠から外れるからである。

また、同様に、商法では基金側の会計基準は設定できない。企業年金の基金自体は、会計単位が預かり基金であるため、商法上の法人格(株式会社、有限会社等)を有していないからである。基金側の会計基準は、会計基準設定の日本の仕組みからは設定できないのです。 つまり、商法や証券取引法の枠の中で「会計基準」を設定していては「財務情報の開示」は網羅できないのです。

国際会計基準には、農業会計、保険会計、探鉱、石油およびガス業を含む特定産業の会計基準を設定する予定になっています。
日本には、石油公団のような特殊法人があるが、国際会計基準が検討課題としている石油探査など、特定産業の会計基準も必要となろう。
また、1998年12月施行されたNPO法など、非営利法人・公益法人などの統一した会計基準も設定することも必要となろう。

それぞれの法律(いわゆる縦割り行政)で、会計に関する事項を規定していては、重複する内容になろうし不統一な情報開示となって、利用者には分かりにくく、説明責任を十分に果たせないであろう。


資金を必要とし事業ないし業務活動しているところには、株主、債券保有者、金融機関、投資家、出資者、間接的に納税者などに対して説明責任が生じ、財務情報のディスクロージャー(情報開示)が必要となる。市場経済の基礎は信用である。信用を築く術は情報公開である。直接金融を拡大するには投資家に対する情報公開が基礎である。財務情報の開示の基準は、会計基準である。この意味で会計基準は市場経済のインフラであるし、また、納税者が絡んでいる場合は、納税者に対する説明責任を果たすための、情報公開を基礎とする民主主義のインフラでもある。

いかなる法律(=縦割り行政)からも独立して、利用者にとって簡潔明瞭で分かりやすい統一した「会計基準」を設定する必要がある。

会計基準の範囲は、証券取引法や商法など限られた法律では、上記に記したように設定に限界が生じている。また、米国では、非営利団体・組織、自治体、国家など情報公開を必要とするあらゆる分野を対象として設定されており、会計規定の重複を避けるため、及び理論的整合性を堅持するために会計基準は特定の法律から独立して(法律に制約を受けないで)設定している。

会計基準が独立し理論的整合性を持つことは、情報公開の情報について利用者にとって分かりやすいこと、法律ごとに重複して複雑な会計規定を規定することは資源(設定から利用までの人的・物質的資源)の壮大な無駄である。21世紀に向けて、説明責任の達成と透明性高い情報公開を目的として、いかなる法律からも独立した完成度の高い会計基準の設定の仕組みを再構築することが望まれる。

(4) 証券行政と会計基準が渾然一体となっている制度

会計基準は、企業会計審議会が設定し財務情報の会計処理及び開示が行われる。証券取引法の基で、証券監督局である大蔵省は、証券行政を行っている。大蔵省令により、有価証券報告書の記載内容を規定して開示を求める。

平成10年12月25日、大蔵省企業会計審議会は「有価証券報告書等の記載内容の見直しに係る具体的な取り扱い(案)」を公表し、平成11年1月18日までに意見を徴収し、2月19日、そのまま確定版となり公表されました。旧規定と比較して、有価証券報告書の分量は省力化されていません。

それによると、次の2点で、証券行政(非会計情報の開示)と会計基準(会計情報の開示)は明確に区分されていません。

例えば:

(a)連結付属明細表 の記載を要請

従来の借入金の明細表にかえて、連結付属明細表として「社債明細表」「借入金明細表」 に連結決算後5年間における1年ごとの返済予定額を記載する、ことを求めていま す。 これは、会計基準の問題です。例えば、米国会計基準FASB Statemen t 第47号で求めている長期契約債務の決算期後1年ごとに5年間を開示するこ とを求めている会計基準で、財務諸表の注記事項とすべきものです。日本でも、F ASB Statement 第47号に相当する明確な会計基準を設定すべきものです。

(b)株主持分の計算書が基本財務諸表に含まれていない。

金融商品の時価会計が予定されています。時価会計のうち、資本の部に計上される 含み益が生じる予定となっていることと、また、ストック・オプション制度による 自己株式の取得および売却が資本の部に計上される予定となっています。 しかしながら、連結財務諸表には、連結剰余金計算書のみが作成表示されるのみで 、連結資本(株主持分)計算書がありません。まず、資本(株主持分)計算書の作 成に関する明確な会計基準の設定が必要です。投資者に分かりやすい 財務諸表が求められています。

上記2点は、会計基準の問題です。

国際的には、会計基準は、証券取引法の枠にと らわれず、すべての企業に適用されるものです。 証券行政は、証券取引法で特に広い範囲の投資家保護のために追加情報を求めるも のです。例えば、企業の概況、事業の内容、設備投資の状況、企業経営者の方針などや、上場会社に限って、売上高に対する割合が高い試験研究費、物品 税、宣伝費などの追加情報は、米国SECの証券監督局が特に求めているようにです。 会計基準の問題と証券行政の問題が渾然一体とせず、明確に区分すべきなのです。 ちなみに、米国SECは会計基準を設定していません。

有価証券報告書の問題点
投資家及び潜在投資家に顔が向いていない制度
1 株主(投資家)の手許に届かない有価証券報告書(企業内容開示)株主に対する情報開示」参照 投資家(株主)保護の為に企業は有価証券報告書および半期報告書を作成し企業内容開示をしていますが、定時株主総会終了後に財務省・財務局の審査を受けて財務局に提出しますが、株主の手許には届きません。財務局や証券取引所の閲覧室で閲覧するか、財務省印刷局で縮刷版を購入するしかありませんが2004年度から販売廃止となりました(国立印刷局からのお知らせ 政府刊行物「有価証券報告書の販売」 参照)。
2001年6月から金融庁で電子開示である「EDINET: Electronic Disclosure for Investors' NETwork」が試行されていますが(2004年6月からEDINETでの電子開示が原則)、株主に直接開示する仕組みはありません。最大の問題点は、有価証券報告書は、定時株主総会終了後に公開されるため株主として総会の議決権行使に役立たないということです。自己責任で投資リスクを負う株主に直接企業内容開示しない不思議なシステムである。

株主には、定時株主総会召集通知書に添付の商法の計算書類が手元に届き、有価証券報告書は多くの個人株主には無縁のものである。実態は、審査担当官庁、会計士、証券アナリスト、機関投資家用と言っても過言ではない。つまり、日本の証券取引法は、企業の情報開示を規定しているが「情報を伝えるべき投資家(株主)への情報伝達は限りなく無視されている」のである。個人株主を増やすインフラが無いのである。

有価証券報告書が株主の手許に届かないということは、金融制度改革の一環として会計ビッグバンで騒がれた「連結財務諸表」「キャッシュフロー計算書」「中間連結財務諸表」などは、大方の株主(保護されるべき投資家)の目に触れるのとはないということである。

2002年5月22日、商法と証券取引法の開示の一元化のため改正商法が参議院で可決成立されたが、年度決算のみを想定しており、半期報告書は依然として株主の手許には届かない。まして、ドイツや欧州連合も適用を決めている四半期報告書の開示は株主に届くことでタイムリー・ディスクロージャーで投資家保護の意味がある。商法または証券取引法がどのように対応するのであろうか。

日本の主務官庁の審査は、企業の関心を財務局の審査さえ通ればよく、国際会計基準のように企業実態を適正に表示することは二の次にしてしまう。結果として、下記のような弊害が生じている。
2 分量の問題
上場会社などの有価証券報告書の分量は、最低70ページから100ページを超える(NTTドコモのケースで130ページ)。分量が多くても内容が充実していれば何ら問題ないが、分量の多い最大の理由は、連結財務諸表中心主義といいながら、@単独財務諸表が含まれていること、A附属明細書が含まれていること。

EDINETで「有価証券報告書等の開示書類を閲覧するホームページ」参照
EDINETによって、有価証券報告書がやっと電子開示されました。ただし、有価証券報告書の項目ごとに見る仕組みになっており、SECのEDGAR Databaseのように全文が一度に見られるようにはなっていませんので閲覧に時間を要します。ちなみに、SECへ登録しているForm10k等(年次報告書等=日本の有価証券報告書に該当)は株主に配布されるためコンパクトにまとめられ適量となっています。

EDINETの問題点は次の通りです。
@有価証券報告書には一連のページが付されますがEDINETではページがありません。
A全文が一度に見ることはできません。
B国際的には「注記事項」は財務諸表の重要な要素ですが、EDINETでは「注記事項」の項目はなく、剰余金計算書のページ下から「次へ」をクリックして数ページを時間をかけて閲覧することになります。

金融庁のEDINETの改善状況
2005年8月16日金融庁はEDINETを含む業務・システムの見直しをするとして「有価証券報告書等に関する業務の業務・システム見直し方針」や「有価証券報告書等に関する業務の業務・システム見直し方針(案)への意見及びそれに対する金融庁の考え方(PDF:213KB)」を明示した。いつ実行するのか日程が明示されていない。(「XBRL化の職員を募集・・2006年2月2日金融庁」・・開発はいつになることやら・・)

2005年10月3日より、以下のEDINETシステム変更を実施する。

(2)

 検索機能の拡充
 用語検索を行うことができる開示書類の範囲を従来の有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書からEDINETに提出された開示書類全体に拡大する。
 また、従来の会社コード等による検索に加え、提出会社名、業種、提出書類様式、日付を検索条件とした検索機能を追加する。

(3)

 印刷機能の拡充
 開示資料ファイルの利用者端末へのダウンロード、当該ファイルから文書全体の印刷を可能とする機能を追加する。


2008年3月17日より、
EDINETの閲覧ホームページがXBRL化に伴って変更された。

マザース、店頭登録、ナスダック・ジャパンの会社情報開示
マザース、店頭登録、ナスダック・ジャパンなどの新興企業向け市場の情報開示は、証券取引法に基づく届け出書及び有価証券報告書であるため分量が多く、かつ、インターネット上の開示が横並びでPDFファイルとなっているため必要な情報を素早く入手することが困難となっている。特に、複数の会社の情報を素早く入手するのは困難。上場(IPO)したばかりの小さな会社が80ページもある届出書が必要なのであろうか。投資家にとっては、テキストファイルかHTMLファイルの方が迅速に入手しやすい。
個別財務諸表の開示は有用か?
@ 持ち株会社解禁のケース
2000年9月29日、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行は、持ち株会社「みずほホールディングス」を設立。有価証券報告書に「みずほホールディングス」の個別財務諸表は投資情報として有用か?
連結中心主義といいながら旧態依然として個別財務諸表を要求しているが、投資情報として個別財務諸表の有用性を真剣に議論すべきではないか。
A 情報開示の内外格差
金融庁は、2003年3月期決算より、SEC登録の企業で米国会計基準で作成した連結財務諸表を認めた。これにより、二重に日本基準の連結財務諸表を作成していた企業にとっては日本基準の連結財務諸表は作成しなくてよいこととなる。
しかしながら、日本では、個別財務諸表を旧態依然として要求されることから、連結財務諸表(連結子会社がなければ単独財務諸表)のみを情報開示する外国と、投資家に対する情報開示に内外格差が生じており、内外の投資家にとって不平等・不公平となっている。証券市場のグローバル化にあっては情報開示の内外格差を解消すべきなのである。

米国の場合、財務諸表(貸借対照表2ページ、損益計算書、株主持分計算書、キャッシュフロー計算書各1ページの基本財務諸表合計5ページに、注記で約10ページから20ページ位である)に、非会計情報が20ページから30ページ位である。SECエドガーデータベースを参照してください。

上場企業等が、SECのエドガーデータベースに直接登録したものは、投資家に限らず無料でインターネットから閲覧できる。インターネットでの閲覧には、詳細過ぎず、簡潔過ぎ分かり難いものではなく、読み物として適度にまとめられた財務諸表が求められよう。財務諸表が簡潔にまとめられるためには、完成度の高い「会計基準」が不可欠。
3 有価証券報告書の名称の問題 証券市場の主役は、企業と投資家である。企業は、投資家に適切な情報開示を提供することで投資判断の基礎となる。したがって、欧米では、年次報告書(Annual Report)なる用語を使用している。

わが国は、「有価証券報告書」なる用語の語源は分からない、明らかに企業が監督官庁に報告する用語となっており、投資家に対する情報開示の用語ではない。多分、株式等の有価証券発行している企業が証券発行の内容を、監督官庁に報告するという報告書なのであろう。名称ばかりでなく、企業は有価証券報告書を大蔵省に提出する時に「審査」を受けている。これでは、監督官庁に対する報告書で、投資家保護(投資家に情報開示すること)が具現されていない。また、住専、山一證券、長期信用銀行、日本債券信用銀行等の有価証券報告書の審査責任が問われよう。

投資家への情報開示を表現するなら、年次報告書、半期報告書、四半期報告書などの名称にすべきであろう。また、投資家保護とするなら、米国のように、株主等の投資家の手許に届く仕組みが必要となろう。
4 情報開示の問題点
1999年10月1日から、証券手数料の自由化に伴って、株式のインターネット上での取引が本格化したが、米国ではSEC EDGAR Databaseで企業の年次報告書及び四半期報告書が無料で誰でも何時でも見ることができるが、日本ではEDINET開発中ということで見ることはできない。つまり、インターネット取引をしている投資家は、タイムリーな企業情報なしに取引していることになる。企業の財務情報の開示のインフラが整っていないのが現状である。2001年6月からEDINETが一部稼働するとしているがあまりにも遅い。健全な証券市場が形成できるのであろうか。
5 有価証券報告書の内容 2000年7月28日、日本公認会計士協会が金沢市で開いた研究大会で、「有価証券報告書の内容は、投資するのに役立たない。」とのアンケート結果が公表された。生命保険、投資顧問など35社の有力機関投資家を対象にしたアンケートによると、有価証券報告書の内容が「十分である」としたのは全体の2割足らずだった(日本経済新聞7月29日報道)、としている。

日本の銀行(上場会社)は何故こんなに多くのディスクロージャー(情報開示)が求められるの?下記の大手銀行の「IR情報」には、連結決算及び単独決算に関する有価証券報告書、事業報告書、アニュアルリポート、ディスクロージャー誌、決算短信など実に多くの情報開示が行われている。しかし内容は多くの部分で重複している。量ばかり多くて内容が薄いのである。シンプルにして質を高めるべきであろう。

日本以外では、連結財務諸表を基礎として一つのアニュアルリポート(年次報告書)、適時情報開示としての四半期報告書(クオータリーリポート)の開示である。例えば、ドイツ取引所に上場しているドイツ銀行を例にすると、会社情報からファクト・シートのサイトを開き、報告書(Report)をクリックすると年次報告書と四半期報告書の一覧が示され見たい連結財務諸表を開くことができる。開示情報がシンプルで読みやすく中身が濃いのである。これは、企業にとっても投資家にとっても重要なことである。

大手銀行の最終損益と情報開示(2004年3月期)単位:億円
2004年3月期
最終損益
2003年3月期
最終損益
2002年3月期
最終損益
今日の
株価
会社
概要
連結
決算
IR
情報
みずほフィナンシャルグループ 
(2003年3月12日より東証上場)
4,480 ▲23,771 株価 会社 決算 IR
みずほホールディングス ▲11,620 株価 会社 決算 IR
第一勧業 ▲4,233
富士 ▲1,122
日本興業 ▲4,474
みずほアセット信託 ▲1,791
三井住友フィナンシャルグループ 
(2002年12月上場)
3,011 ▲4,653 株価 会社 決算 IR
三井住友銀行 ▲4,638 株価 会社 決算 IR
三菱UFJファイナンシャル
(2005年10月1日よりUFJと合併、東証上場)
株価
三菱東京フィナンシャル 4,825 ▲1,614 ▲1,523 株価 会社 決算 IR
東京三菱 439
三菱信託 ▲876
UFJホールディングス 3,756 ▲6,089 ▲11,464 株価 会社 決算 IR
UFJ銀行 4,088 ▲10,147
UFJ信託 332 ▲1,317
りそなホールディングス ▲14,158 ▲8,376 ▲10,406 株価 会社 決算 IR
あさひ ▲5,922
大和 ▲3,366
三井トラスト・ホールディングス 797 ▲967 ▲2,849 株価 会社 決算 IR
住友信託銀行 739 ▲729 ▲424 株価 会社 決算 IR
合計 ▲4,061 ▲46,199 ▲42,924
出展:金融庁がまとめた「主要行の平成16年3月期決算状況<速報ベース>」 (出典)決算短信(平成16年5月24日公表)
りそな公的資金注入(2003年5月17日報道)
2003年5月17日土曜日朝刊で、新聞各社は、「りそなHD一兆円規模の公的資金注入を要請」と報じた。前日16日金曜日の終値は58円であった。
2002年9月中間決算で約8300億円計上していた繰延税金資産の計上能力について、2003年3月期決算に際し、会計監査人から疑義の意見があり、計上を見送ると、国内業務に求められている自己資本比率4%を割り込む恐れが生じたと報じている。公的資金の申請額は定かではない。17日、政府は、預金保険法102条に基づいて「金融危機対応会議」を召集し公的資金注入などを決める。
6月に、1兆96百億円の公的資金を注入した。
9月の中間決算で1兆7千億円の赤字決算。「りそな」に関する日経ニュース 別稿りそな公的資金注入 参照

上場企業(銀行含む)は、定時株主総会終了後財務省・財務局に提出した有価証券報告書が、やっと金融庁EDINETとして電子開示されました。ただし、@平成16年6月1日以後、原則、EDINETで電子開示することになっているため、現在は、一部の銀行が開示しているのみです(銀行はEDINETコード500から599に含まれ、2002年10月現在、上記の大手行のうちEDINETで開示されているのは三菱東京フィナンシャルと三井トラストの2行のみです)、AEDINETの有価証券報告書は項目ごとに見る仕組みになっており、米国SECのように全文が一度に見られるようにはなっていませんので読み難く閲覧に時間を要します、BEDINETの財務情報は外部から直接リンクすることはできないためEDINET自体の使い勝手が悪いし利便性が低い(米国のEDGAR Databaseでは外部のサイトから直接企業情報にアクセスできるようにして利便性を確保している)。日本のEDINETは、米国のEDGARと比べ、利用者の利便性を考えて設計されているのか甚だ疑問である。現在のところ、日本のEDINETは満足に機能していませんので、大手行のIR情報にリンクしています。ペイオフの議論がされているなか、預金者保護のための情報開示の議論がされないのか不思議である。

「日本はこれまで情報非公開、株価維持、公的資金の一斉注入などで恐慌を回避してきた。しかしその結果は金融行政の不信を広げ不良債権を温存し、信用不安を強め、景気停滞を長引かせた」(日本経済研究センター会長 香西泰 氏筆日本経済新聞02年10月21日「やさしい経済学ー巨匠に学ぶ シュンペーター より)   今日の「日経平均株価」 参照

(5)理論的整合性を欠いている会計基準

(a)商法と証券取引法の矛盾

商法上ストック・オプション制度が導入され、自社株式を購入する企業が増えています。昨今の株価低迷で,98年9月中間期で自社株式の評価損を計上したところは少なからずありました。商法は、自社株式は資産計上して、低価法の適用があるとしています。また、譲渡すれば譲渡損益を認識することになります。商法は、いわゆる自社株式を損益取引と認識しているのです。

一方、証券取引法の「新連結財務諸表原則」は、「自己株式を資本の払戻し」として取り扱うとしています。つまり、資本取引とみなすと表明しています。どこに違いが生ずるかといえば,証券取引法は資本取引とするなら自己株式からは損益が生じないことになります。商法で損益取引として処理されたものを、証券取引法で資本取引に修正するのかは明らかにされていません。この矛盾点は一向に解決されていないのです。

(b)大蔵省企業会計審議会は,1999年1月22日、「金融商品に係る会計基準」を公表した。この中には、重要な矛盾が二点あります。

一点目は,第六複合金融商品1.新株引受権の会計処理(2)発行者側の会計処理です。新株引受権の発行者側の会計処理を次ぎのように規定しています。

新株引受権付社債の新株引受権の会計基準

新株引受権付社債の発行価額は、社債の対価部分と新株引受権の対価部分とに区分する。社債の対価部分は,普通社債の発行に準じて処理する。新株引受権の対価部分は負債の部に計上し、権利が行使されたときは資本準備金に振り替え、権利が行使されずに権利行使期限が到来したときは利益として処理する。
矛盾点:

企業会計原則第一一般原則の三に「資本取引と損益取引とを明瞭に区分し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない」とあります。かつて、日本公認会計士協会で検討した際、「新株引受権は、発行時に、米国同様、資本準備金である。」との認識は一致していたが、商法上「資本準備金が特定されており、商法の改正が無い限り計上できない。」との理由で先送りにした経緯があります。つまり、新株引受権を負債(支払い先の無い負債?)に計上するが、権利を行使したものに対応する部分は資本剰余金とし、期限が到来し権利の行使がないものは「利益剰余金」とするとは、まさに、「資本剰余金と利益剰余金とを混同している」に他ならない。

二点目は,デリバティブ取引に関してです。
デリバティブ取引は時価で評価しその評価損益は損益計算書に計上すべし,としています。一方、ヘッジ会計では、対象とする資産負債が評価損益を認識しない場合に、デリバティブ取引だけ損益を認識してしまうとヘッジした意味が無くなるところから、対象となる資産負債が損益を認識するまでは、繰延べることができるとしている。

具体的には,外貨建長期債権債務の換算に関する会計基準がある。日本の場合、外貨建債権債務のうち、長期のものは取得日レートで換算することとなっている。従って,ヘッジ目的で為替の先物を契約した場合、取得日レートで換算した外貨建長期債権債務が為替差損益を出すまでは、為替の先物予約をそれに合せて会計処理することを許さないと、ヘッジ会計のみ損益を認識しヘッジの意味が無くなります。長期の外貨建債権債務の換算基準とヘッジ取引の時価会計とに矛盾が生じ、長期の換算差損益を認識するまで繰延べることを許容している模様です。会計基準には具体的な内容が示されないまま,ヘッジ会計として繰延べ可能という文章になっているため理解に苦しむようです。

外貨建取引等会計処理基準改訂
1999年6月18日、大蔵省企業会計審議会は、「外貨建取引等会計処理基準改訂(草案)」を公表した。国際会計基準21号の「外貨換算の会計」に一致した内容となります。2000年4月以後開始する事業年度から適用するとあります。
上記矛盾は解消されることになります。


(c)リース会計について

1993年6月、大蔵省企業会計審議会が公表の「リース取引に係る会計基準」においては、基本的な二点について「骨抜き」ないし「理論的整合性に欠けている」。従って、国際会計基準第17号「リース会計」とは似ても似つかないものとなっている。1997年6月以後の国際会計基準の一部導入とは異質のもので日本独特のものとなっている。

一点目は,ファイナンスリースの場合で、借手側の会計処理では,「リース物件の所有権が借手に移転すると認められるもの以外については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる」として、実質的なリース会計を骨抜きにしていること。

第二点目は,貸手側の会計処理で、ファイナンス・リース(金融リース)という用語は、国際会計基準を基礎にしているが、リース会社の事業実態は金融取引であるに関わらず、「ファイナンス・リース取引については、原則として、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う」としている。無論、製造会社の製品を販売するためにリースしている場合の規定していない。また、貸手側にも借手と同様の「リース物件の所有権が借手に移転すると認められるもの以外については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる」と規定している。製造会社のリースを除いて、リース会社の実態は金融取引(ファイナンス取引)であるところから、国際会計基準・米国会計基準は金利収入を計上する方法を規定している。


(6)会計基準が存在しない場合があるのに財務情報を求める奇怪な日本的制度

(a)通産省

投資事業有限責任組合法
98年11月「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律(投資事業有限責任組合法)」が施行された。ベンチャーキャピタルが投資家の資金を集めて未公開のベンチャー企業に投資し、その企業が株式公開した後に株式譲渡益得る。
民法上の任意組合、商法上の匿名組合で投資事業は可能であるが、民法上の任意組合は無限責任となる点、商法上の匿名組合は税制上の問題点など一長一短があった。
投資事業組合の投資家への情報開示を徹底するため財務諸表の作成と公認会計士の監査を求めている。
通産省は、98年8月、「中小企業等投資事業有限組合会計規則」を公表している。ほぼ商法と類似しており、証券取引法が求めているキャッシュフロー計算書は求めていない。法律ごとに会計規則を作成していては会計の整合性は図れない。独立した会計基準設定主体で会計基準を設定しておれば法律ごとに会計規則をつくることはない。

訪問販売法
通産省の産業構造審議会は、99年2月15日,外国語学校やエステティックサロンなど長期間継続的サービスを行っている場合に、消費者保護のために、消費者の要求がある場合には「経営情報の開示」をしなければならない、との提言をまとめ、通産省はこれに基づき「訪問販売法」の改正をする予定と報じている(99年2月16日日本経済新聞)。

外国語学校やエステティックサロンが倒産し、顧客から預かった前払授業料が返還できない事例を受け、消費者保護の強化を提言しているいるものである。財務情報の開示は良いのであるが,財務情報を開示する会計基準が日本に存在するのであろうか。商法で設立した会社なら商法の計算規定を適用することになろうが、十分な財務情報は得られるであろうか。それ以上に、個人営業ならば、財務情報を作成・開示する会計基準が無いとも言える、どうなるのであろうか。

いかなる法律にも左右されない中立で独立した会計基準が存在すれば、産業構造審議会の提言する「財務情報の開示」は自然であるが,日本には、個人営業も含めた会計基準が存在しないのに「財務情報の開示」は奇怪である。商法や証券取引法の枠の中で「会計基準」を設定していては、法律が求める「財務情報の開示」を実質的に満たすことはできません。

(b)総務庁

99年3月5日、日本経済新聞夕刊に、総務庁は86認可法人に情報公開杜撰として15省庁に改善勧告した旨の報道がある。特に、日本公認会計士協会、日本税理士連合会、全国社会保険労務士会連合会、日本万国博覧会記念協会は5種類(貸借対照表、損益計算書、事業報告書など5種類・・残りの2種類は何?)のすべてを公開していない、とある。したがって、「民間の会計基準に沿った財務書類の作成と公開を義務付ける必要がある」と判断、所轄省庁に各認可法人制定法の改正を勧告した、とある。

総務庁は、悪いジョークを言っているのか? 「民間の会計基準」はどこに? そもそも日本に会計基準がある?

99年5月18日、日本経済新聞夕刊に、総務庁は国立大学附属病院に関する行政監察結果からほとんどの附属病院で収支が赤字の上、財政投融資からの借入残高が99年度末には1兆円を超える見通しになるなど経営意識の甘さが浮き彫りになったとし、監督する文部省に経営管理体制の見直しや経営の外部評価制度の導入などの抜本的な改善策を勧告した、とある。

「国立病院などで作成している損益計算書などの財務諸表を、国立大学附属病院は作成していないため、財務内容を把握できていないと指摘。早急に財務諸表を作成して、収支改善計画を策定するよう求めた。」とある。この程度の勧告が今ごろになって行われることに驚かされる。文部省、厚生省などの監督官庁がありながら、また、総務庁がありながら、今まで何をしてきたのか疑問に思うのは当然であろう。

非営利組織の会計基準を設定して、財務情報の開示の仕組みを構築し、国民に対しする公開情報とすべきであろう。際限無く肥大する赤字に歯止めをかける機会を逃してはならない。行政や政治を効果的・効率的に機能させるには、国民に対する情報公開により歯止めをかけるほうが有効かつコスト低減に役立つ。

独立行政法人の会計基準・・総務庁作成
総務庁は、独立行政法人の会計基準の原案は総務庁の「独立行政法人会計基準研究会」が作成した、とし「会計基準固まる」と報じた(日本経済新聞1999年10月10日(日曜))。独立行政法人は、国が直営で運営する必要性が少ない事務・事業を国から分離した法人。独立採算とはしないが経営の裁量を与え効率化を競わせる。2001年4月から国立研究所や博物館など89機関が順次移行する。ホームページ「独立行政法人会計基準(中間的論点整理)」及び「中央省庁等改革のページ」参照

2000年2月、総務庁は、総務庁に設置された独立行政法人会計基準研究会がまとめた「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」を公表した。日本初の公会計と評価されるが、@企業会計原則と重複した規定が多いこと、A 総務庁という縦割り行政で設定していて、企業会計の変更があった場合整合性を維持するため迅速に対応できる体制にあるのか、B そもそも「真実な報告」とは何を指すのか明記されていない、など幾多の疑問点が挙げられる。

小手先の単なる簿記を開示するというような短絡なことではなく、米国のように、財政改革及び行政改革を基礎にして総合的に検討し、高度に専門化し、内容が国民に対して公開されているが学ぶべきものがある(「米国連邦政府の会計基準(エージェンシーを含む)」を参照)。21世紀を迎えるにあたって、政府の説明責任(Accountability)とスチワードシップ(Stewardship)の改善が効果的になるように、国家の会計基準は、納税者である国民に対する情報開示を視点に、会計検査院、予算局、総務庁、財政学者、国民代表など構成員、設定機関、公開草案の事前公開などして設定機関自体の信頼性を確保すべきなのである。

2000年2月17日、日本経済新聞は、総務庁長官の私的諮問期間である「独立行政法人会計基準研究会」(座長山口信夫旭化成工業会長)は16日、2001年1月の中央省庁再編に伴い発足する独立行政法人の会計基準の最終案を決めたと報じた。
検討資料を見ると、企業会計原則のコピーのような部分が多く、新たに総務庁管轄の会計基準ができるようである。

大蔵省の会計原則設定の失敗の轍を踏んでいるようである。例えば、次のようにである。
(1)「真実な報告をしなければならない」とあるが、大蔵省の「企業会計原則」同様に「何が真実な報告」かは書かれていない。
(2)現存する研究開発費の費用処理や、ソフトウエアの会計処理など、企業会計原則と重複して規定している。
(3)経済の変化に伴って会計基準自体の網羅性、妥当性など改変する必要が生ずるが、機動的にどのように対応しようとするのか不明。新たな会計基準が企業会計原則で設定されることは常にある。例えば、最近変更した「為替換算会計」や、現在検討中の「減損会計」などである。また、貿易保険なども独立行政法人も含まれるようだが、国際会計基準が「保健会計」を検討しているが、国際化の中で導入が必要となることもあろう。
(4)会計基準自体の独立性が必要である。行政が設定すると会計基準に政策が反映され、会計基準自体の信頼性、独立性が保てない。したがって、その会計基準から作成される財務情報が必要十分で信頼できるものかは疑問。

わが国に、独立した会計基準設定主体(常設機関)があり、完成度の高い会計基準があれば、重複した基準や欠落した基準を速やかに補完することができる。独立行政法人の特殊性のある部分の会計基準を設定すれば足りることである。新たに、縦割り行政で会計基準を作れば、相互調整に時間がかかり機動的に調整できない。現に、商法と証券取引法は相互に調整できない状況にあるのである。総務庁の会計基準には、大蔵省の企業会計原則と重複部分が多分にあるのである。現在は整合したとしても、やがて整合しなくなることは明らかである。

最大のネックとなっているのは、日本に「独立した完成度高い会計基準」が無く、縦割り行政で行政単位(=行政の視点で設定=行政文書=読者、市民、作成者の視点が希薄)で会計基準を作成しようとすることである。


特別会計(36の特殊法人)に連結財務諸表
政府・自民党は、会計制度と法制の両面から非効率な特殊法人の改革に乗り出す。2000年春をメドに現在36ある国の特別会計のすべてに「連結財務諸表」の作成を義務づけ、特別会計から特殊法人への資金の流れを透明化する。2001年4月に実施される財政投融資改革がきっかけ、とある。自民党は日本公認会計士協会に連結財務諸表のガイドライン作成を要請(日経00年5月25日)。
なぜ、総合的な国家の会計基準(米国ではエージェンシーを含んだ政府の会計基準がある)に着手しないのであろうか。

2000年2月6日、日本経済新聞に、「民活に必要な情報公開(論説委員藤川忠宏氏)」の解説が掲載されている。それによると、特殊法人などの情報公開制度を検討している政府の委員会が、「官」と「民」の線引きに頭を悩ませている、として次のように国際空港を例に示している。

国際空港一つ選んでも、ばらばならな法人形態
国際空港 法人形態 取締役 累積損失及び経営状況
羽田空港 運輸省直営
日本空港ビルデング株式会社
1990年2月東京証券取引所へ上場
伊丹空港
大阪国際空港
運輸省直営
関西国際空港ビルディング(株)
成田空港 運輸省直営
成田国際空港株式会社
完全民営化に向けて早期上場を目指します。」とのことですが日程は明示されていません。
関西空港 関西国際空港会社(特殊法人の株式会社) 取締役10人のうち8人は、大株主である国(運輸省、大蔵省、自治省、建設省、警察庁)と自治体(大阪府)の役人OBの8人が占める。 1300億円を超え、実績が予測を下回り厳しい経営が続いている。政府保証債も発行している。
中部空港(2005年開港)
セントレア
中部国際空港会社(民間会社) 中部国際空港はトヨタ自動車やJR東海など民間企業が50%、
国・地方自治体が50%を出資。
社長はトヨタ自動車出身の平野幸久氏で、民間的な
経営効率を最優先して、総事業費を約1200億円削減。
着陸料も当初提示額より約6%引き下げた。
開港後5年で単年度黒字化を目指している。

2005年2月17日、中部国際空港(愛称・セントレア)
が開港したことで、成田、関西国際空港と合わせて
「3国際空港時代」が幕開けした。中部国際は初の
本格的な民営空港で、建設・運営コストを徹底的に削減し、
着陸料の安さや乗り継ぎの便利さなどを武器に、
旅客・物流の争奪戦に参入する。
3空港体制でアジアのハブ(拠点)空港として
韓国や中国に奪われた「アジアの玄関」の座を取り戻す戦いもスタートする。

中部国際空港ニュース 参照

法人形態は、新しいほど「民」の色彩が濃くなる。経営陣については、関西空港を例にすると「民活」というよりは「官活」である、としている。

競争原理が働かず、役員は官僚の天下りという構図は、自治体が次次と設立した土地開発公社など地方版特殊法人や第三セクター法人にも見られる。自治省の調査では、@地方の土地開発公社が抱える「塩漬け」状態の土地は3兆8千5百億円にのぼる、A会社方式の第三セクターの6割は赤字経営である。住民は知らない間に巨額な債務を負わされている。

つまり、経営内容の開示制度(会計基準、例えば国際会計基準参照)がなく、民間企業のようなコーポレート・ガバナンス(例えば、ナスダックのコーポレート・ガバナンス参照)もなく、お題目は「簡素で効率的な透明な政府」を実現するといっても、絵に描いた餅のようなもので、適切に機能することは期待できない。財務情報の開示基準(会計基準)は、どれを使うのでしょうか? 公的セクターの会計基準の設定の必要性が聞かれるが、上記のようにまちまちの形態では、適用する会計基準は企業間比較(空港間比較)可能でしょうか?

(c)経済企画庁

1998年3月19日、NPO法(特定非営利活動促進法)が制定され、同年12月1日から施行された。NPOの会計基準は現在作成されていないが、1999年6月、経済企画庁国民生活局が「特定非営利活動法人の会計の手引き」を公表している。これは、「公益法人会計基準」をアレンジしたもの。

(d)総理府

総理府が「平成10年度 公益法人に関する年次報告書」と題して、平成9年度から公益法人に関する年次報告書を公開している。公益法人の概要他、「公益法人の会計基準」の適用状況等をまとめており興味深いものがある。

(e)厚生省

2000年2月16日、厚生省は、介護保険の導入に合わせるように「社会福祉法人会計基準」を公表し、2000年4月1日より適用するとしています(3月20日現在ホームページに公表していない)。これによると、公益事業はこの会計基準に従い、収益事業部分は企業会計原則に従うとなっています。また、財務諸表に、「貸借対照表」のほかに「財産目録」を求めています。公表から適用時期が短いこと、現代会計では死語となっている財産目録が貸借対照表に加えて求めているなど、あわてて作成した印象である。相変わらず企業会計原則と重複した部分が多い。また、1985年9月、総理府次長が主宰の公益法人指導監督連絡会議が「公益法人会計基準」が別途公表されている。

(f) 自治省

2000年3月29日、日本経済新聞によれば、自治省地方自治体向けに貸借対照表を作成する際の指針をまとめた、と報じた。当面は参考資料とし、将来は自治体に作成を義務つける方針。地方の債務残高が過去最悪の約163兆円(1998年度決算)に達するなど財政状況の悪化が一段と進むなか、地方財政の情報開示を促すのが狙い、としている。

不思議な点は、対象が資産や負債、特に債務残高を誇張する貸借対照表(ストック部分)だけなのか、行政サービスの内容開示(フローの部分で、企業にあっては損益計算書に該当)に触れていない。また、日本の場合は、中央、地方というように、国民側(情報利用者)から見れば、地方と中央と統一した会計基準を基礎に、地方、中央政府の連結決算を知りたいところである。特に、最近は地方分権と称して、地方自治体への行政の重要性が高まっているからである。日本の場合は、3割自治といわれるように、中央政府、地方自治体の統一した会計基準が作成しやすい土壌にあるが、縦割り行政の単位で情報開示する部分的な対処療法に止まらせている。政治が公会計基準設定機関を設立しない限りこの問題は放置されたままとなろう。(「米国連邦政府の会計基準」参照)


(7) 「日本の会計基準」で作成された財務諸表は日本には存在しない。

欧米企業のように「年次報告書」を作成しようにも、「日本の一般に認めれた会計基準」が何を意味しているのか明確ではない。日本の会計基準が、商法会計、証券取引法会計であったとしても、有益な「年次報告書」とはならない。商法会計は、連結決算ではなく、また、単年度の決算数値のみで有用な財務情報とはならないし、有価証券報告書では70ページから100ページを超える財務情報となり適当な分量ではないことと、内容が有用な情報とは言えない。

したがって、実務上、日本の企業が作成している年次報告書は「米国会計基準による年次報告書」、「国際会計基準による年次報告書(「国際会計基準の実例」参照)」、「日本基準であるが表示方法は米国基準を模した年次報告書」が英文で作成されているのみである。純粋に、日本語で日本の会計基準に基づいた年次報告書は存在しないのである。

年次報告書は、IRのための投資家へ配賦することを目的とするばかりでなく、取引先に配賦して業務拡大につなげているのが欧米企業である。日本の会計は、財務諸表の利用者を投資家のみに限定している傾向がある。

会計基準は、財務情報の開示にある。日本で初めて、国際会計基準の一部導入として採用された「キャッシュ・フロー計算書の会計基準」「税効果会計の基準」「退職給付の会計基準」「金融商品の時価会計」は、企業財務の情報開示である。国際会計基準の一部導入は、上場会社等を対象とする証券取引法が導入したもので、対象となる企業は証券取引法適用会社のみです。法の枠にとらわれない「日本の会計基準」とは言いがたいものです。

財務諸表の利用者の面から見てみると、例えば、銀行(融資しようとしている欧米の銀行では常識)、投資家(企業買収しようとしているところ含む)が、特定企業の適切な財務情報を入手し、融資または投資判断に利用したいとする。この場合、一般に認められた会計基準にしたがって財務諸表を作成し企業の実態が把握できるようにする。しかし、日本には、この「一般に認められた会計基準」が明確ではないのです。

例えば(例が適当ではないかもしれませんが)、経済危機に瀕した韓国がIMFの支援で目覚しい改革を行っていると伝えられている。その中に、韓国財閥企業の結合計算書Combined Statements)の作成を求めたとあります。結合計算書とは、連結財務諸表(Consolidated Financial Statements)とは異なり、親子会社関係が無いが人的結合している場合、つまり、社長が個人的に所有する会社を含めて(結合させて)作成した財務諸表のことです。これは、米国会計基準ARB51(会計調査公報51)「連結財務諸表(Consolidated Financial statements)」パラグラフ22「結合計算書(Combined Statements)」(1959年に設定された会計基準で現在も有効)で米国で定着しているものです。
韓国のケースは、IMF(財務諸表利用者)が韓国の財閥企業の実態を知る上で作成を求めたものと考えられます。

つまり、財務諸表利用者が利用可能な財務諸表(企業の実態を表示できる財務諸表)を作成するには、商法だとか証券取引法にこだわらない、企業の実態を表示できる完成度の高い会計基準が必要なのです。日本には、そうした意味の会計基準は存在しません。

結合計算書は、日本ではアイデアさえ出てこない。というのは、商法は連結財務諸表さえ導入していないし、証券取引法は2000年3月期から連結中心主義へ移行したばかりである。私の経験では、製造会社が上場しており、社長個人の販売会社が製品を販売していたケースがあった。その会社を買収する欧米の会社が、企業実態を把握したいため製造会社と販売会社の監査済み「結合計算書」を要望し米国基準でサービスを提供した。このようなケースは起こりうることであるが、証券取引法上の大蔵省企業会計審議会は「結合計算書」の必要性を感じはしないであろう。連結財務諸表がそうであったように・・

国際会計基準で作成された財務諸表や、米国会計基準で作成された財務諸表は、会計基準が存在するから作成できます。しかし、商法の計算書類や証券取引法の財務諸表は作成できても、日本には「日本の会計基準」で作成された財務諸表は存在しないのです。

(8)会計基準設定の対象範囲と国際比較

会計基準設定機関の国際比較及び設定の範囲
基準設定機関名 官民区分 対象とする会計基準
日本 企業会計審議会
金融庁(旧大蔵省)
国家機関 上場会社等の証券取引法適用会社の企業会計基準を設定
国際 国際会計基準審議会
(IASB)
民間機関 企業は無論のこと、企業に限定していない。例えば,企業年金基金の会計基準の設定,近い将来、業界別の会計基準、非営利団体等の会計基準を設定予定
米国 財務会計基準委員会
(FASB)
民間機関 企業は無論のこと、企業に限定していない。例えば,企業年金基金の会計基準の設定,業界別の会計基準、非営利団体等の会計基準を設定している。

日本のみが,上場会社等を規制している証券取引法の枠の中で会計基準を設定しており,機関の名称に「企業」とあるように「企業」のみを対象とする会計基準を設定している。 たとえば、株式会社約2百万社の内上場していない会社,特殊法人、86ある認可法人、公益法人、相互会社、個人事業、地方自治体などは適用対象にならない。企業会計審議会が連結中心主義に方針転換しても、現在のところ、商法では、連結財務諸表及びキャッシュフロー計算書の作成の規定は存在しない。

日本以外の主要国は、基準設定機関がいかなる法律からも独立しており,独立・中立的な機関であるとともに、財務報告を必要とする会計単位全般の会計基準を取り扱っている。 例えば,すべての企業(上場会社に限定してない)、地方自治体の会計基準、年金基金のように会計単位なども適用対象としている。

(9)財務情報の開示制度が脆弱な日本の法制度

商取引を開始するに当たって、企業財務の情報を入手し信用調査をする必要がある。(「債権管理の方法と保全」を参照〕

現行の商法では、定款に「会社が公告を為す方法」(商法第166条第一項第九号)を記載し、会社が決算を行い株主総会の承認を受けて、「貸借対照表又はその他の要旨を公告することを要する」(商法第283条第三項)として官報または日刊新聞に公告をすることになっている。決算後、貸借対照表などの要旨が日刊新聞に掲載しているのは商法の規定による。しかし、ある特定の企業の財務情報を探そうとしても到底無理な仕組みではないだろうか?

私が、1985年に赴任したカナダでは、企業は毎期決算書を商業登記所に登記し、我々利用者は電話で商業登記所に登記内容の送付を依頼(代金はクレジットカードで決済)すると間もなく、ある企業のマイクロフィッシュ(登記簿謄本に当たる)を郵送してきた経験がある。つまり、企業内容を調べるインフラが整っているということである。迅速に調べられることは、信用経済のインフラではないであろうか。

日本の公告制度は、インターネット時代の電子化時代には、そぐわない。利用者の立場に立った制度整備が望まれる。

プリンスホテル、会社設立以来決算公告せず

 西武鉄道グループのプリンスホテルが、1971年の会社設立以来、商法で求められている決算公告をしていなかったことが9日わかった。プリンスホテル広報は「今後なるべくすみやかに04年3月期の決算公告をする」としている。商法はすべての株式会社に、官報や新聞に貸借対照表を掲載することを義務づけている。

(04/12/09) asahi com

(10)戦前の亡霊「資本の部」

コーポレート・ガバナンス(企業統治)論が脚光を浴びている。「株主利益の最大化」を目標として、企業不祥事を起こさない健全な企業発展の基礎理論として芽生え始めている。貸借対照表の「資本の部」を「株主持分」に改める時期にきている。

大蔵省OBで東京証券取引所理事長となった谷村裕氏は自著「株主勘定復活論」(東洋経済新聞社1982年刊)によれば、『統制経済を迎えると、昭和16年会社経理統制令の規定による法制化の準備として新たな財務諸表準則が公表されることになる。この準則は概ね従来の形を踏襲したが、大きな変化は、資本金と準備金とを合わせた資本という項目と、繰越金と当期利益金とを合わせた利益金という項目の二つに分かれるのである。そして私がかすかに記憶しているところによれば、そこにはどうもナチスドイツの会社についての考え方が影を落としていたのではないかと思う。企業自体ということが盛んにいわれ「資本と経営の分離」とか「公益は私益に先立つ」とかいう標語のもとに、会社の社会的使命達成を強調する反動として、株主の地位を軽視するような風潮が当時わが国にもあったことは否めない。この企画院の準則も結局法制化されないまま戦争が終わり、財務諸表準則の作成は経済安定本部の企業会計制度対策調査会に移される。昭和24年に準則草案を公表したが、資本金や準備金や剰余金等は一括して資本の部と名づけられたことになった。しかし、一たび消えた株主勘定という言葉は遂に復活せづ、その後、この準則は証券取引法に基づく財務諸表規則として法制化された。』とある。

「資本の部」の国際比較
日本 国際基準
民間企業の場合、昭和24年制定の企業会計原則により「資本の部」とされた。

2005年12月9日、企業会計基準委員会は、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」を公表した。
これによると、貸借対照表を、資産の部、負債の部及び純資産の部に区分し、純資産の部は、株主資本株主資本以外の部に区分する。
自己株式は、株主資本の部から控除し、少数株主持分は株主持分以外の部に表示する。
6月に公表された、国際会計基準の企業結合の会計基準と整合させる努力が一部に伺えるが、「純資産の部」は非営利団体や公会計で使用されるが、利益の配当を所有者である株主に行う株式会社には相応しくない。営利を目的とする株式会社の場合には、株主の持分を明示するため「株主持分の部」とすべきであろう。
米国基準では、「株主持分(Stockholders' equityまたはShareholders’ equity)」

国際会計基準では、「資本および剰余金(Capital and reserves)」であったが、改正案では、少数株主持分⇒非支配持分(non-controlling interests)を含めて「所有者持分(Owners' equity)」とし、資本金を 株式発行持分(Issued equity)に変更して「資本(capital)」の用語を使用していない。(例示 参照)

中国でさえ「所有者持分(Owners' Equity」としている。
ロシアでも国際基準と同じに「持分(Equity」としている。
時価総額世界3位のガスプロムロシア会計財務諸表 参照)
連結決算における少数株主持分は、
負債と資本の中間に表示


平成9年6月6日企業会計審議会が公表の連結財務諸表原則参照
2005年12月9日、企業会計基準委員会の、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」で純資産の部へ
米国は、少数株主持分(Minority interests)を負債と株主持分の中間に区分表示を持分表示へ変更のSFAS141号「企業結合」草案が出ている。
国際会計基準IAS27号では、少数株主持分(Minority interests)は負債の定義を満たしていないとして持分(Equity)に区分表示することを求めている(IAS27のパラグラフBC24)。

IFRS3号企業結合の会計基準で持分へ表示。 米国基準と共同して公表。
ストック・オプション(草案)では、費用として計上し、貸方は負債と資本の中間に独立して計上(4項)。
2005年12月9日、企業会計基準委員会の、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」で純資産の部へ
2005年12月27日企業会計基準委員会は「ストック・オプション等に関する会計基準」を公表した。
米国基準(SFAS123号)では費用を計上し貸方は資本剰余金実例 参照)
国際会計基準(IFRS2号)では貸方は持分(equity)へ計上(IFRS2,パラグラフBC100)。
ファンドの会計
例:三井・住友・ニュー・チャイナ・ファンドでは、米国と同様「純資産の部」とし、資本金相当は「元本」としている。純資産変動計算書の開示はない。「目論見書」参照
上場ファンドは、普通株を発行している会社でも、「Net Assets Applicable to Common Shareholders」と「Summary of Stockholder’s Equity」の両者を同時に使用している。通常「Net assets」を使用する。純資産変動計算書(Statement of changes in net assets)が開示される。SEC登録の年次報告書 参照
the Annual Report for the American AAdvantage Treasury Inflation Protected Securities Fund for the period from June 30, 2004 (inception of the Fund) through December 31, 2004”参照
非営利法人・・公益法人会計基準では、「正味財産の部」 非営利法人で国際会計基準審議会(IASB)の運営母体である国際会計委員会財団(IASCF)の財務諸表は国際会計基準で作成されている。
それによると、「純資産(Net assets)」(年次報告書・・流動配列法適用 参照)

米国公認会計士協会(AICPA)の年次報告書(結合計算書combined statements)
協同組合・・「出資金」 国際会計基準審議会(IASB)が「協同組合の出資金は負債である」とする国際会計基準書第32号を設定したことに対し、日本の生活協同組合は強く異議を申し立ている。(農林中金総合研究所2004年7月 調査と情報 参照)
欧州財務報告助言グループ(EFRAG)が、2005年1月17日、国際会計基準解釈指針第2号の「協同組合の持分(IFRIC 2 Members’ Shares in Co-operative Entities and Similar Instruments)」を適用するよう欧州委員会(EC)に提言した
「国の貸借対照表(試案)」および
省庁別財務書類の作成についてでは、「資産・負債差額の部」
米国連邦政府の会計基準では、資産から負債を控除した差額を「ネット・ポジション(Net position)」としている。

国際公会計基準(IPSAS)では、「純資産/持分(Net assets/equity)
独立行政法人会計基準では、「資本の部」 英国のエージェンシーの場合、「納税者持分(Taxpayers' equity)」
米国のエージェンシーの場合、「ネット・ポジション(Net position)」

流動配列法の貸借対照表は米国式、「資本の部」は間接金融中心であった欧州大陸式、と米国および欧州大陸式の折衷方式が日本の貸借対照表に関する会計である。「資本の部」を見る限り、会計ビッグバンで、日本の資本市場を欧米並の市場とする方針は、中途半端に終わっている。

新会計基準・・ますます国際基準と乖離する日本基準

貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(2005年12月9日by企業会計基準委員会
貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(2005年12月9日)
2005年11月29日公表の法務省令案株式会社の計算に関する法務省令案」第44条1項3号は既に「純資産」と規定している。)
2006年2月7日法務省が公布した、「会社計算規則第76条に「純資産の区分」が明記された。)

「企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準
企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」(2005年12月27日by企業会計基準委員会

参考:討議資料「財務会計の概念フレームワーク」by基本概念ワーキング・グループ(2004年9月)ASBJ委員会は承認していない。
会社法制上の資本制度の変容と 企業会計上の資本概念について」by古市峰子氏(2006年1月)

(個別貸借対照表) (連結貸借対照表) 国際会計基準(IAS1号)
純資産の部 (会社計算規則第76条) 純資産の部 Owners' equity 所有者持分
T株主資本
  1 資本金
  2 新株式申込証拠金
  3 資本剰余金
   (1) 資本準備金
   (2) その他資本剰余金
        資本剰余金合計
  4 利益剰余金
   (1) 利益準備金
   (2) その他利益剰余金
     ××積立金
     繰越利益剰余金
        利益剰余金合計
T株主資本
   1 資本金
   2 新株式申込証拠金
   3 資本剰余金



   4 利益剰余金

Issued equity(注1) 普通株発行持分(注1
Capital reserve  資本剰余金
Revaluation reserve 再評価積立金
Hedging and translation reserve
             ヘッジおよび換算調整

Retained earnings 利益剰余金
  5 自己株式
  6 自己株式申込証拠金
   5 自己株式
   6 自己株式申込証拠金
        株主資本合計          株主資本合計
U評価・換算差額等
  1 その他有価証券評価差額金
  2 繰延ヘッジ損益
  3 土地再評価差額金

        評価・換算差額等合計
U評価・換算差額等
  1 その他有価証券評価差額金
  2 繰延ヘッジ損益
  3 土地再評価差額金
  4 為替換算調整勘定
        評価・換算差額等合計
土地再評価差額は再評価積立金として区分、
その他の「包括利益」の時価変動のリスク
は、すべて企業に帰属し、リスク回避責任は
経営者にある。
未実現の為替差額、株価等の損益は会社を
清算したときは清算損益に含み、残余財産は
株主に帰属する。配当可能利益からは除外す
べきであるが、所有者(株主)持分が相応しい。
V新株予約権 @ V新株予約権 @ ←資本剰余金へ計上 A
国際基準は親会社株主持分合計を示す
W少数株主持分 少数株主持分⇒非支配株主持分(注2
               純資産合計                純資産合計 Total owners'equity(注1
所有者持分合計(注1

@「金融商品に係る会計基準では、新株引受権付社債及び転換社債の発行に際して新株引受権(現・新株予約権)の対価部分を「負債の部に計上し」となっていたものを、この改正に際して純資産の部に表示することとなったもの。実務対応報告16号によれば、権利行使の時には資本金・資本準備金に振替、権利が行使されずに権利行使期限が到来し失効したときは利益として処理する(資本取引と損益取引の混同)。あたかも仮勘定のようである。権利行使により、自己株式を発行したときは企業会計基準1号「自己株式および準備金の額の減少等に関する会計基準」を適用するとある。

日本の場合だけは、ストック・オプションの人件費計上の相手科目は「新株予約権」として計上する(ストックオプション等に関する会計基準」4項 参照)。しかし、2004年12月28日の当初の草案日本公認会計士協会も支持)は、酷く、人件費の相手勘定を、負債の部と資本の部の中間に「新株予約権」として独立項目として計上する(4項参照)、ことを求めていたもの。2005年12月27日企業会計基準委員会は「ストック・オプション等に関する会計基準」を公表した。案から変更はない。

日本では、自己資本の概念は、金融庁と東京証券取引所が決め、純資産から新株予約権および少数株主持分を除いた部分ということです。自己資本当期利益率自己資本比率に替わるようです。

A米国会計基準APB意見書14号「転換社債およびワラント債の会計(Accounting for Convertible Debt and Debt Issued with Stock Purchase Warrants)」パラグラフ16(1967年より適用)により、分離型ワラント債のワラント相当額はワラント部分が分離独立して流通するため、資本剰余金(additional paid-in capital)としなければならない、と規定している。たとえ、期限が到来して未行使のワラントがあっても、発行と行使はそれぞれ別の取引で完結しており、そのままとしておく(日本のように後になって利益には振り替えない)。
ストック・オプションの人件費計上の相手勘定は、資本剰余金となる。(「マイクロソフト社の早期適用事例」参照)

純資産の部における項目と会計処理
税効果会計の適用
4. 純資産の部に直接計上される評価・換算差額等については、これらに係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を控除して計上することとなる(純資産会計基準第8 項なお書き参照)。税効果会計の具体的な適用については次による。
(1) 法人税等について税率の変更があったこと等により、評価・換算差額等に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の金額を修正した場合には、修正差額を当該評価・換算差額等に加減して処理する(この点については、税効果会計基準 注解(注7)を参照のこと)。
(2) 繰延税金資産の回収可能性を見直した結果、評価・換算差額等に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の金額を修正した場合には、修正差額を当該評価・換算差額等に加減して処理する(この点については、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「税効果実務指針」という。)第23 項ただし書きを参照のこと)。

国際会計基準の場合
基準番号 Owners' equity and liabilities 所有者持分および負債 31/12/05 31/12/04
IAS 1.68(p) Capital and reservesOwners' equity(注1); 資本および積立金所有者持分(注1);
IAS 1.69 Share capitalIssued equity(注1) 株式資本普通株発行持分(注1) xxx xxx
IAS 1.69 Capital reserves 資本剰余金 xxx xxx
IAS 1.69 Revaluation reserves 再評価積立金 xxx xxx
IAS 1.69 Hedging and translation reserves ヘッジおよび換算調整 xxx xxx
IAS 1.69 Retained earnings 利益剰余金 xxx xxx
----- -----
IAS 1.68(p) Equity attributable to equity holders of the parent 親会社株主持分 xxx xxx
IAS 1.68(o) Minority interestnon-controlling interests 少数株主持分⇒非支配株主持分(注2) xxx xxx
----- -----
Total owners' equity(注1 所有者持分合計(注1 xxx xxx
===== =====

注1草案では、所有者持分(Owners’ equity)区分およびその合計を所有者持分合計(Total owners’ equity)の用語を使用している。資本金部分は、普通株発行数を付記して「普通株発行持分(Issued equity)」の用語にしている。株式資本(Share capital)から普通株発行持分(Issued equity)とし資本(capital)の用語を使用していない。(添付AパラグラフA136)。
中国でさえ「所有者持分(Owners' Equity」としている。
ロシアでも国際基準と同じに「持分(Equity」としている。(時価総額世界3位のガスプロムロシア会計財務諸表 参照)
金融庁は「「純資産の部」の内容については、国際基準と同様ですが、国際基準の「Equity」という表現を我が国に置いては、「純資産」と称したものです。(企業会計基準委員会(ASBJ)の発表した「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」を参照してください。)(総務企画局企画課)」としています。絶望的。加えて、企業会計基準委員会の委員が「純資産の部導入の背景」を説明しています。しかし、国際基準では、「純資産の部」の用語を使用するのは及び地方自治体の行政府や非営利団体の貸借対照表に使用されるだけ、営利企業で株式を発行している株式会社は上記の通り「所有者持分Owners' equity」であって、資本の部でもなければ(純資産の部)でもありません。

2007年2月、国際会計基準審議会は、「中小企業の会計基準」と「ガイドライン」の草案を公表したが、草案では「株式資本(Share capital)」と「留保利益(Retaied earnings)」を「持分(Equity)」 としている。ガイダンスには、「少数株主持分(minority interest)」がある場合は、「持分(Equity)」の区分に「親会社株主持分(Parent shareholders' equity)」と区分して表示する、とある。(ガイダンス30ページ参照) 国際会計基準は、非営利組織を除いて、企業の株主持分を日本のように「純資産(Net assets)の部」としていないことは確かです。

注2少数株主持分(Minority interest)は、国際会計基準1号(IAS1)パラグラフ68の(o)により貸借対照表に表示することが求められている。国際会計基準IASBおよび米国財務会計審議会FASBとの共同プロジェクトが2005年6月30日に公表した企業結合の改正会計基準案により、従来、少数株主持分(minority interests)としていた非支配株主持分non-controlling interests )は資本取引として所有者持分(Owners' equity)に区分表示する。

2005年6月30日、米国財務会計基準審議会FASBと国際会計基準審議会IASBは、企業結合の会計基準について双方の会計基準を一致させた草案を公表した。2008年12月15日以降開始する事業年度から適用する。早期適用も可。(IASB’s IFRS 3 Business Combinations and the FASB’s Statement 141 Business Combinations およびFASB's Statement 160(Consolidated Financial Statements, Including Accounting and Reporting of Noncontrolling Interests in Subsidiaries - a replacement of ARB No. 51) 。

すべての企業結合について、どちらか一方が他方を取得する一つの方法(a single method)・買収法のみを採用する。なお、新基準では、パーチャス法(Purchase method)をアクイジション法(Acquisition method)と呼称を変更している。意味は「買収法」で変更はない。取得時の公正価値で「のれん」を認識し、取得者ばかりでなく、従来少数株主持分(minority interests)としていた非支配株主持分(non-controlling interests )にも配分する。非支配株主持分(non-controlling interests )は資本取引として所有者持分(Owners' equity)に区分表示する。(IFRS3草案 FASB基準書 FASB141号およびARB51号 参照)

なお、企業会計基準委員会は、国際会計基準審議会IASB米国財務報告基準審議会FASBが統一に向かっているときに、資本の部を純資産の部に変更したが、その論理は不可解なものである(JICPAジャーナル2006年1月号参照)。株主資本以外とされる「U評価・換算差額等およびV新株予約権」が誰の持分か明記されず、あたかも株主以外の持ち主がいるかのごとく表示して読者を誤解(ミスリード)させるものである。会計基準は実務で使用されるものである。学会論争と混同されてはたまらない。今後、国際的に意見を発信するつもりであろうが国際的に賛同が得られるか、今後の推移を見守りたい。ますます国際会計基準から乖離し、レジェンド(警句)が消えなくなると危惧される。

(ROEについては企業会計基準第5号31項で「ROE のみならず、自己資本比率や他の財務指標については、本来、利用目的に応じて用いられるべきものと考えられ、本会計基準の適用によっても、従来と同じ情報は示されており、これまでと同様の方法によるROE などの財務指標の算定が困難になるわけではないと考えられる」として正面から答えようとはしていない。
株主資本等変動計算書が純資産の部の期中増減を表示する計算書であれば、なぜ「純資産変動計算書」と首尾一貫しないのか。拙速に会計基準を開発しており、適正な手続(due process)が機能しているか疑問の問題の多い内容の会計基準である。)

(11) 日本の会計は「企業会計」に限定している

元来、会計は、財務情報の開示を取扱う。財務情報の開示は資本市場の企業会計はもとより、資本市場以外の団体・組織等も財務情報の開示が必要となる。たとえば、間接金融にあっては上場企業以外の企業・組織・団体に対しても与信を行う必要があり情報開示を求めるのが一般的である(ただし、日本は、会計基準の制度制場が無いことと、土地担保主義、ないし、保証人制度が優先しており機能していないのが現実)。また、公益法人、行政法人など関係者の理解をえるための情報開示が求められよう。

日本の会計は、会計基準というと、証券取引法(資本市場に関する法律)の「企業会計原則」を想定されるため、常に「企業会計」というように「企業」が会計の頭につくが、会計基準の本質から言うと「企業」に限定されない。したがって、国際会計基準は「International Accounting Standards」であり、米国財務会計基準は「Financial Accounting Standards」であって、Corporate Accounting Standardsに限定していないのである。会計基準は、財務報告(Financial Reporting)する必要のある企業、組織・団体を想定しており作成しているのである。

日本のように会計の目的が曖昧で、行政官庁がそれぞれの目的で縦割り行政の会計基準を作成すれば、それぞれ重複したり、欠落したりする。したがって、相互に整合せず、複雑で分かり難いものにしている。

縦割り行政の会計基準では、経済の変化に対応した変更が不可能となったり、相互の整合性が保たれなくなったりするのは、「商法」「証券取引法」「税法」のトライアングル体制を見ても明か。日本経済は莫大な不利益を被っているのであるが、行政は痛痒を感ぜず改革は遅々として進まない。会計という経済インフラは、シンプルで分かりやすく、経済の変化に機敏に対応する仕組が求められるている。

財務報告(情報開示)は、資本市場ばかりでなく未公開株式市場などの直接金融市場、間接金融の企業に限定されず、NPOなどの資金を募る組織が寄付をお願いする企業・個人などに対しても必要となるインフラである。
因みに、国際会計基準適用会社等(2000年3月現在828社適用)には、経済協力開発機構(OECD)、証券監督者国際機構(IOSCO)、国際オリンピック委員会(IOC)、国際会計士連盟(IFAC)、国際会計基準委員会(IASC)、国際証券取引所連盟(FIBV)など、いわゆる企業ではない機構も含まれている。国際会計基準は、企業に限定されないし、上場会社に限定しているものでもない。インフラが整わなければ、その活動の活性化は遅れ、それぞれの分野で不利益を被っているのである。

独立した会計基準設定主体を設立し、特殊会計もその機関で集中して検討設定すれば、整合性、明瞭性、設定の機動性は保持される。 独立した会計基準設定主体には、欧米同様、設定過程の透明性、特定分野からの独立性を保証する簡潔な仕組みが必要となる。国際会計基準に例にするまでもなく、「金融機関及び類似機関の会計」、「保険会計」、「企業年金基金の財務報告」など特殊分野の会計の設定が可能となる。特殊分野の会計として、「公益法人会計」「独立行政法人会計」の設定も可能となる。

(12)コア・スタンダード(核となる基準)がない日本の会計

証券監督者国際機構(IOSCO)が国際会計基準を完成するに当たって要請した40項目にわたるコア・スタンダードは、投資家保護の目的で「最低限度設定が必要とされる会計基準」を示したもの(「国際会計基準」のコア・スタンダード参照)。日本にはこのコア・スタンダードの理念は存在しない。そもそも、企業会計審議会の「企業会計原則」には、真実な報告をしなければならないとしながら、真実な報告とは何か明記されていない。

日本は、問題が表面化したときに、その都度手当てする場当たり的な会計制度である。

イ) 橋本首相の金融ビッグバンにより、7つの会計基準(連結財務諸表、中間連結財務諸表、キャッシュフロー計算書、研究開発費の会計、税効果会計、退職給付の会計、金融商品の時価会計)導入。

ロ) 金融機関の不良債権問題及び有価証券の含み損が問題となり、不良債権を正しく評価する、また、株価下落により有価証券の含み損を表面化させるべきとの世論を背景に、不良債権の評価及び有価証券の時価会計は、IAS39号「金融商品:認識と測定」を導入することでほぼ手当てが済む。但し、適用開始時期は2001年3月期からである。

ハ) 現在、日本公認会計士協会は、「販売用不動産」の適切な評価をするための指針を作成している。しかし、日本には国際会計基準2号「たな卸資産」の会計基準が存在しないことから生じている実務指針なのである。
国際会計基準1号によれば、たな卸資産は、「原価または正味実現可能価額(Net realizable value)のいずれか低い価額でなければならない」のである。過剰在庫、新製品・商品の発売による旧製品・商品、販売用不動産などのたな卸資産は、原価が正味実現可能価額を超えている場合は、正味実現可能価額まで評価減が必要とするものである。無論、販売価額(市場価格)が低下する半導体のようなもの、または、日本の土地のように時価が低下する場合も適用される。

つまり、国際会計基準は、資産の評価額は、正味実現可能価額以上の価額が付されることは無い。日本の会計は、たな卸資産についてそうした会計基準は無いことから含み損を抱えたままの貸借対照表が制度的に作成されるのである。現在、大蔵省企業会計審議会は、「資産の減損会計」を検討しているが、その内容は国際会計基準36号「資産の減損」であり、資産が毀損した場合、資産の回収可能額が帳簿価額より低下した場合は、回収可能価額(Recoverable amount)まで減額することを求めている。趣旨は、資産については含み損を即時に評価減することを求め、負債を担保している資産が正味実現可能価額を超えて示してはならないことを規定している。

日本の会計基準設定者から、今年から始まる7つの会計基準導入によって「日本の会計基準は世界的レベルに達した」と自己評価しているが、そもそも、会計基準の評価は海外を含む財務諸表利用者が行うもの。

このように、場当たり的な制度では、財務情報が適切に示され直接資本市場の投資家保護が図られているとは到底思えない。

(13)日本の会計の閉鎖性・排他性の結果

それを表す、一つの指標は、先進国の証券取引所の外国会社の上場会社数が日本は極端に少ない。欧州では、2000年に8カ国の証券取引所が統合することで、ドイツ、フランス、イギリスがイニシアチブを競い国際化しつつある。ナスダックは日本進出に象徴されるように外国会社の上場を促している。ニューヨーク証券取引所も同様である。

1999年末および1998年末現在の主要国証券取引所の上場会社数内訳は次の通り。

1999年 1998年 1999年の
増減率
証券取引所 国内会社 外国会社 上場会社
合計
国内会社 外国会社 上場会社
合計
ニューヨーク証券取引所 2,619 406 3,025 2,278 392 2,670 13.3%
ナスダック 4,400 429 4,829 4,627 441 5,068 -4.7%
東京証券取引所 1,892 ↓43 1,935 1,838 52 1,890 2.4%
大阪証券取引所 1,281 ↓0 1,281 1,271 1 1,272 0.7%
ドイツ取引所 617 234 851 452 210 662 28.5%
パリ証券取引所 968 176 1,144 914 183 1,097 4.3%
ロンドン証券取引所 1,826 448 2,274 1,957 466 2,423 -6.1%
(出所:証券取引所国際連盟FIBV

日本の証券市場での外国会社の上場会社数の少なさは、グローバル化している証券市場の中でひときわ日本の証券行政の閉鎖性・排他性を物語っている。資本市場のインフラである財務情報の開示=会計基準の問題、外国会社を受け入れるだけのインフラの整備などが十分でないことを示していよう。規制当局の排他性がこの結果を生んでいると言っては言い過ぎであろうか。経済大国日本、1200兆円の個人金融資産を保有する日本市場に世界が魅力を感じないことはないであろう。それが、この結果だからである。

ドイツ取引所のベンチャー企業の市場ノイア・マルクト(Neuer Markt)は、外国からの投資を促進するため、国際会計基準(IAS)または米国会計基準の開示と、独語と英語の開示を求めている。日本版エドガーデータベースであるEDINET(大蔵省とIBMが開発中)では、日本企業の英語表示を希望してもできないし考慮に入れていないと伝えられている。日本版エドガーデータベースEDINETは、日本語の有価証券報告書を入れるのみで、世界に発信し外国の投資家の参加を促進できるインターネット時代に対応していないというべきであろう。

また、香港では、ナスダックと香港証券取引所の提携事業の一環として、2000年6月1日から、米国ナスダック株7銘柄(マイクロソフト、インテル、シスコシステムズ、デルコンピュータ、アムジェン、アプライドマテリアルズ、スターバック)の株式取引を開始した。企業の情報開示は、SECのEDGAR Databaseを利用している。香港の投資家は地元の証券会社を通して香港ドルで売買できる。

結果として、(1)日本の投資家に外国会社への投資チャンスを奪っていることになるし、(2)グローバル化した資本市場で外国企業からは資金調達のチャンスを奪っていることになる、また、(3)日本の証券市場の国際化・活性化の障害となっている。

家計(個人)金融資産に占める株式投資の割合は次の通りです
郵便貯金 民間預金 保険・年金 株式 投資信託 現金 その他 合計
平成12年度 249兆円 470兆円 390兆円 64兆円 34兆円 37兆円 141兆円 1,386兆円
割合 18.0% 33.9% 28.1% 4.6% 2.4% 2.7% 10.2% 100%
平成13年度 239兆円 490兆円 411兆円 63兆円 30兆円 38兆円 146兆円 1,417兆円
割合 16.8% 34.6% 29.0% 4.5% 2.1% 2.7% 10.3% 100%
出展:郵便貯金のホームページヘ   (郵便貯金・年金は財投で「特殊法人」へ融資されている。)
個人金融資産に占める株式の比率・・日本・米国・英国・ドイツとの比較」 参照

直接金融(株式市場)を拡大していドイツでは個人金融資産に占める株式の割合は13.1%
米国は18.3%と比較すると日本のそれは異常に低い割合である。自己資本比率では日本22%、米国37%
国家予算80兆円(内国債30兆円)に景気対策の支出は限られ効果が薄いことは明か
個人の株式投資が期待され、資本市場に信頼できるシステムが望まれているのだが・・・。

(14)企業会計原則は、会計ビッグバンにより時代にそぐわなくなった

昭和24年(1949年)7月、経済安定本部企業会計制度対策調査会(現金融庁・企業会計審議会)中間報告として制定された「企業会計原則」の前文に、「企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、必ずしも法令によって強制されないでも、すべての企業がその会計を処理するに当たって従わなければならない基準である。」としている。

この企業会計原則は、今もって現役である。その証拠に、最近作成されている「独立行政法人の会計基準」や、その他公益法人特殊法人などの会計基準は、この企業会計原則を基礎に作成されたり作成しようとしている。

日本の企業会計の実務では、有価証券は原価法で評価して事業上、利益が出なくなると含み益のある有価証券や土地を売却して利益を嵩上げしたり、退職給与引当金は、要支給額(支払要する額)の40%を引当ていた。そうした財務諸表に適正意見を監査人は表明していた。

会計ビッグバンで、「適正表示」を目的とする国際会計基準から「金融商品の時価会計」、「退職給付の会計」、「税効果会計」、「キャッシュフロー計算書」、「連結財務諸表」などの会計基準が導入されたのである。これらの新たな会計基準の導入は、会計実務の中から慣習として発達したものではない。

会計基準は
、国際的には、適正表示のために考え出された研究・開発の成果であり、かつ、一般に認められた(generally accepted)ものである。国際的には、会計基準とは、実務の中で慣習として発達したものではなく、実務の慣習が適切でない場合に、適正開示を行うための方法を開発(develop)したものを会計基準で設定して実務に導入しようとするものなのである。欧米の会計基準設定機関は、経済の変化に適切に対応できるように常設機関で調査・研究・開発・検討・承認・導入を行っているのである。(国際基準と異なる日本の「企業結合の会計基準」参照)

50年以上前に制定された企業会計原則の考え方は、国際的なものとは180度異なっており、今や時代にそぐわないものとなっているのである。

会計基準は進化するもの:

会計基準は進化する。海外子会社の財務諸表を本国通貨に換算する会計方法を例にとると、1973年2〜3月に固定相場制(日本は1ドル360円であった)から変動相場制に切り替えられた直後、米国の会計基準SFAS8号「外貨取引の換算会計」では、「取得原価主義」を基礎とした換算方法で、海外子会社の非貨幣性項目の工場・設備などの固定資産やたな卸資産は、取得日の換算レートで本国通貨に換算し、減価償却や売上原価はその歴史的原価(取得日レート換算)で処理するというものであった。この換算方法の欠陥は、やがて現実となった。

米国子会社のドル表示の財務諸表では、税引前利益に法人税等を計上し純利益となって配当もしているのに、属性法で換算した円表示(本国通貨)の損益計算書が税引前損失となり法人税等を計上し純損失という、業績を正しく表示しないという事態に直面した。財務諸表の有用性を損ねるものであることは明らかであった。

属性法の欠陥による換算方法に関する大論争を経て、1981年12月、米国財務会計基準審議会は、SFAS52号「外貨換算(Foreign Currency Translation)」の会計基準を公表することで最終決着を見、米国に遅れること18年後の1999年に改正された現在の日本の基準と同じものになったのである(日本は実に18年間も矛盾した会計基準が放置された)。つまり、SFAS52号では、損益計算書の売上高、売上原価、減価償却費、販売費・一般管理費などすべての取引は、月ごとの換算レートで換算し、貸借対照表は、固定資産や在庫を含めたすべての項目を(資本等は取引日レート換算を除く)期末日レートで換算して表示し、換算差額を「株主持分」に計上するというものであった。

この換算方法は、期末日の換算レートを使用することである意味で時価会計となってしまい厳密な取得原価法から逸脱するものとして、狂信的な取得原価主義の信奉者である会計学者の強烈な批判の的であった。しかし、SFAS52号が成立した時点で、現実的対応として有用性を尊重し誰も異論をはさむ者はなく未だ変更されていない。

会計基準は過去の理論を根底から覆すことがあり、会計基準は進化するものなのである。過去の論理に固執し引きずられることは危険である。特に、日本の権威あるとされる会計学者の陥りやすいことは過去にいくつかの例が示している。

欧米が、会計監査を通して実務家が実際の取引に直面して会計基準の矛盾をいち早くキャッチし、欠陥のある会計基準を、実務家が中心となり常に実態を適正に示すように改善を加えようとするのに対し、日本は、会計学者が中心となっており、会計基準と実務の矛盾をタイムリーにモニターする制度になっていないことから欧米の実態重視substance over form)の考えを共有できないでいるのである。価値観を共有できないために失われる時間は大きい。

(15)利用者不在の会計制度

もし、あなたがある企業の財務諸表を利用する立場となったらどのような財務諸表を望みますか? 

財務諸表利用者とは、株主となる場合、社債を購入しようとする場合、または金融機関で企業の与信をしようとする場合など、資金を提供する側です。当たり前のことですが、財務諸表利用者にとっては、資金を提供するにあたって判断基礎となる企業の財務報告は、形式を超えた実態を示した報告書であって欲しいものです。

現在の財務諸表は、利用者にとって十分な情報と形式を超えて企業の実態を表示しているでしょうか?

株主は、商法の計算書類が株主総会召集通知書に添付されますが、投資家保護の目的で作成される有価証券報告書は、財務省・財務局(または金融庁のEDINETに電子開示)に内閣総理大臣宛てで提出され、投資家である株主には届きません。有価証券報告書は、開示項目が多く2年比較の財務諸表、連結財務諸表、キャッシュフロー計算書などが開示され、商法の計算書類より情報量は多くあります。恐らく、個人株主の多くは有価証券報告書を見たこともないのではないでしょうか。

上場会社の財務諸表作成基準(有価証券報告書・経理の状況の部分)を作成している企業会計審議会は臨時的に開催し月1回2時間程度の審議で行われて会計基準を公表したら解散し実務への適否の評価検証はされません。問題は、迅速な対応ができない仕組みであることと表示は形式的(form)です。

投資家である株主の目に触れない情報開示は、会計基準の不備などがチェックされないという構造的な欠陥であり、会計基準に関する関心が希薄であった。

商法は、硬直的な計算規定規定となっており形式的(form)で、迅速な対応ができない仕組みです。

金融機関が融資する際に、与信管理に重要な資料の一つが財務諸表ですが、日本の場合は土地担保主義が長い間続き、財務諸表を見るより土地担保登記に専念することとなったことで、会計基準に関する関心が希薄であった。

つまり、資金提供者に形式を超えた実態(Substance over form)を示すための会計基準を設定しようとする社会的システムが日本にはないことが最大の問題なのです。
国際的な会計基準が、形式を超えた実態(Substance over form)を示すための会計基準を設定し、国際的に収斂させようとしているときに、日本が同じ価値観を分かちえないで国際貢献できないとするなら企業や投資家の損失は計り知れないものがあり残念なことです。

2002年6月、政府の経済諮問会議の骨太の方針第2弾として、四半期情報の開示を求め、これを受けて金融庁と東京証券取引所が協議して、東京証券取引所の規則として四半期情報の開示が決まりました。

日本の「四半期情報の開示」の特徴は、市場の規則により市場への登録を情報開示としており、株主(投資家・Investors)への報告(Report)は考慮されていません。金融庁幹部の発言として「海外でも取引所規則による義務化が多い。本決算や中間決算と同じ法定開示にすると実施までに時間がかかるし、企業の事務コストも重くなる」(日本経済新聞02年7月3日報道)、として、決算短信(プレス・リリース)と同じ位置付けのようです。いかにも場当たり的発言で、情報開示の総合的ビジョンは感じられず、証券取引法の投資家(株主)保護の観点は希薄。

取引所規則であるナスダックのコーポレート・ガバナンスの規定(25)(A)(@)及び(A)にあるような、四半期報告書(Quarterly Report)、年次報告書(Annual Report)を株主に送付し、かつ、ナスダックおよびSECへの登録というような構成にはなっていません。個人株主を含めた投資家保護の観点から、株主への情報開示は基本ではないでしょうか。

年度決算は有価証券報告書、半年決算を半期報告書といい証券取引法を根拠法令として、内閣総理大臣へ提出、四半期情報開(なぜか四半期報告書と称していない)は証券取引所の規則としようとしている。財務情報は、四半期であろうが年度であろうが一つのもの。なぜ米国のように、証券取引法で、年次報告書、四半期報告書というシンプルな用語および仕組みとしないのか。日本は、使われている用語がばらばらで整合していないことが象徴しているように、利用者および作成者不在で、行政当局の視点でしか仕組みができていない。市場の主役は、投資家であり企業である基本を忘れてはならない。

(16)商法自体に矛盾の利益処分規定

2003年4月施行の改正商法によって、委員会等設置会社制度が創設された。委員会等設置会社を選択した会社については、商法特例法第二十一条の三十一 第2項に「委員会等設置会社にあつては、利益の処分として、取締役又は執行役に対する金銭の分配をすることができない。」とあり、委員会等設置会社にあっては、利益処分による役員賞与はできなくなる。一方、委員会等設置会社以外は、従来どおり、利益処分による役員賞与は可能となっている。

二つの方法が商法に並存することによって、二つの方法が混在する連結子会社を有する連結財務諸表の作成は「ハチャメチャ」なものになる恐れが生じる。
そこで、企業会計基準委員会で検討するよう「平成15年8月19日付で川北テーマ協議会議長から斎藤企業会計基準委員会委員長に対し、提言書が提出されました。」とのことである。

ただし、従来から米国会計基準による連結財務諸表を作成し米国SECへ提出している会社は、利益処分の役員賞与も役員報酬の一部であるとして連結財務諸表作成の際に一般管理費へ組替えているので影響は全く無い。

平成16 年1 月28 日企業会計基準委員会は、実務対応報告公開草案第12号「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い(案)」を公表した。コメントを2月23日までに求めている。平成16年3月9日に実務対応報告第13号「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」として公表。6ヶ月以上をかけているが玉虫色の報告となっており継続して検討するとなっている。

2005年(平成17年)9月7日企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第9号役員賞与に関する会計基準(案)を公表し、「3.役員賞与は、発生した期間の費用として処理する」とし利益処分方式を廃止した。たった一行「役員賞与は、費用処理とする」の改正に何年掛かっているのだろう。会社法施行期日以後終了する事業年度に係る株主総会で決議される役員賞与から適用するとされており、判り難い。

2005年11月29日企業会計基準委員会は、改正商法の施行に合わせるため企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」を公表した。「3. 役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」とし利益処分方式を廃止した。

矛盾を増殖し続ける日本の会計
矛盾する会計は、上記商法の法務省自体だけではなく、下記の通り証券取引法の金融庁でも同じで、自ら矛盾を生み出している。
加えて、商法と証券取引法には目的の違いを理由に、財務諸表の体系(商法ではキャッシュフロー計算書は不要)、表示する年度(商法では単年度、証券取引法では2期比較)などを初めとして双方の開示内容は「似て非なるもの」となって、矛盾は増殖し続けるのである。研究開発費では、商法は商法施行規則第37条で繰延資産計上できるが、証券取引法の企業会計審議会「研究開発費の会計基準」では米国会計基準と一致させ「発生時の費用とする」とあり繰延資産計上できない。

ドイツでは、こうした矛盾の発生を防ぐ仕組みが組み込まれている。(1999 年10 月、日本銀行金融研究所古市峰子女史著「会計基準設定プロセスの国際的調和化に向けたドイツの対応」 ドイツ会計基準委員会(German Accounting Standards Committee (DRSC))の「法務省との契約」 参照。)
会計基準 規則
連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準の設定に関する意見書」(企業会計審議会平成10年3月13日公表)では、「現金および現金同等物」という用語が採用された。 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(連結財務諸表規則)」では、貸借対照表に「現金および現金同等物」という用語が使用できない。
第二十三条  流動資産に属する資産は、次に掲げる項目の区分に従い、当該資産を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。ただし、当該項目に属する資産の金額が資産の総額の百分の一以下のもので、他の項目に属する資産と一括して表示することが適当であると認められるものについては、適当な名称を付した科目をもつて一括して掲記することができる。
一  現金及び預金
二  受取手形及び売掛金
三  有価証券
四  たな卸資産(財務諸表等規則第十五条第五号 から第十号 までに掲げるものをいう。以下同じ。)
四の二  繰延税金資産
五  その他

個別財務諸表の「財務諸表規則」も同様である。

会社法に規定された「臨時計算書類」とは?

2005年6月29日参議院本会議で「会社法案」が成立した。2006年の施行を目指している。会社法案第441条(下記参照)には「臨時計算書類を作成することができる」と規定している。世にも不思議な臨時計算書の正体は「法務省令」に委ねられている。したがって、法務省令が何の目的で何を求めるのか明らかにされないと判らないが、461条2項の規定から中間配当の規定のようである。中間配当であればもっと判り易い規定にしたらよいのに、法務省は独自の日本の会計および監査の世界を開拓しているようだ・・・

金融庁は、証券取引法で四半期報告書(連結ベース)およびそのリビューを検討しているが、それとの関係はどのようになるのであろうか。中間ごとに株主総会の承認を受けなければならないのであろうか。いずれにしても縦割り行政で、会社法・証券取引法で調整をしたようには見えない。

日本公認会計士協会は、2006年8月2日、「臨時計算書類の作成基準(案)」を公表した。

会社法

臨時計算書類

第四百四十一条 株式会社は、最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日(以下この項において「臨時決算日」という。)における当該株式会社の財産の状況を把握するため、法務省令で定めるところにより、次に掲げるもの(以下「臨時計算書類」という。)を作成することができる。

 一 臨時決算日における貸借対照表

 二 臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間に係る損益計算書

2 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社又は会計監査人設置会社においては、臨時計算書類は、法務省令で定めるところにより、監査役又は会計監査人(委員会設置会社にあっては、監査委員会及び会計監査人)の監査を受けなければならない。

3 取締役会設置会社においては、臨時計算書類(前項の規定の適用がある場合にあっては、同項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。

4 次の各号に掲げる株式会社においては、当該各号に定める臨時計算書類は、株主総会の承認を受けなければならない。ただし、臨時計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合は、この限りでない。

 一 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社又は会計監査人設置会社(いずれも取締役会設置会社を除く。) 第二項の監査を受けた臨時計算書類

 二 取締役会設置会社 前項の承認を受けた臨時計算書類

 三 前二号に掲げるもの以外の株式会社 第一項の臨時計算書類


配当等の制限

第四百六十一条 次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。

2 前項に規定する「分配可能額」とは、第一号及び第二号に掲げる額の合計額から第三号から第六号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう(以下この節において同じ。)。

 一 剰余金の額

 二 臨時計算書類につき第四百四十一条第四項の承認(同項ただし書に規定する場合にあっては、同条第三項の承認)を受けた場合における次に掲げる額

  イ 第四百四十一条第一項第二号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

  ロ 第四百四十一条第一項第二号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額

 三 自己株式の帳簿価額

 四 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額

 五 第二号に規定する場合における第四百四十一条第一項第二号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

 六 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

2006年8月2日日本公認会計士協会は、会社法(平成17年法律第86号)及び会社計算規則(平成18年法務省令第13号)に新たに設けられた臨時計算書類に関する規定を受けて、臨時計算書類の作成基準について調査研究を進め、一応の検討を終えたため、「「臨時計算書類の作成基準について」(公開草案)を公表した。

「臨時計算書類を作成する場合、臨時決算日までに生じた損益等を反映させた分配可能額が算定されることを重視し、臨時決算を行う事業年度の初日から臨時決算日までを事業年度と並ぶ一会計期間とみなして、原則として年度決算に基づいた会計処理が行われるべきであるとの考え方を前提としているものの、費用配分に関する基準の一部について簡便法を認める「中間財務諸表作成基準」に準じて作成することが適切であるとしております。」とのこと。

2006年8月2日、日本公認会計士協会の「監査委員会報告第75号「監査報告書作成に関する実務指針」(公開草案)」を、会社法及び関連法務省令の平成18年5月1日の施行を受け、臨時会計年度に係る臨時計算書類の監査に対応するため、所要の改正を行っております。

日本・米国・欧州の国際会計基準へのスタンス

2007年には、日本、米国、欧州がそれぞれ姿勢を明確にしつつある。以下は、現在のそれぞれのスタンスである。米国では、国際会計基準について「収斂(コンバージェンス)」では”米国基準への差異調整表”の免除はない。一方、欧州では、2011年12月31日までに国際会計基準(IFRS)への収斂を終わらせ実施することを求めている。欧州は、監督官庁が公的約束(public commitemnt)することを求めている。

日本は、現在、金融庁は、国際会計基準の適用を内外の企業に認めていない。日本企業会計基準委員会は、2011年6月30日までに国際会計基準との差異の解消を約束しているが、あくまでもコンバージェンス(収斂)としており適用(adopt)ではないとしているし、適用時期も明らかにしていない。このままでは、米国および欧州の規制を満たしていない。いずれ、明らかにする必要に迫られている。

時系列 日本 米国 欧州
2005年 金融庁は内外の企業に国際会計基準の適用を認めていない。 2005年より国際会計基準を適用している。
2007年
8月8日
企業会計基準委員会(ASBJ)の西川郁生委員長と国際会計基準審議会(IASB)のDavid Tweedie議長は、日本基準と国際財務報告基準(IFRS)のコンバージェンスを加速化することの合意(東京合意)を公表致した。
日本基準とIFRSの間の重要な差異(同等性評価に関連する2005年7月欧州証券規制当局委員会(CESR)によるもの)について2008年までに解消し、残りの差異については2011年6月30日までに解消する。東京合意

日本は上記の適用時期を明らかにしていない。
2007年
11月8日
米国会計審議会(FASB)は、高品質の会計基準は一つとして改善された国際会計基準(IFRS)を米国上場会社すべてが適用すべきであることを表明した。
また、外国会社には、国際会計基準審議会が設定した国際会計基準(IFRS)に準拠して作成した財務諸表の場合のみに”米国基準への調整表”の開示義務を免除するよう求めた。(SECへのコンセプトリリースへの回答書
2007年
11月14日
EU議会は、証券発行時の届出目論見書(prospectus)に関し、第三国(米国、日本、カナダ)の会計基準が国際会計基準に相当しているかどうかの評価規定を次のように改正した。
第三国の会計基準に責任ある官庁は、2011年12月31日以前に国際会計基準(IFRS)に収斂する計画を2008年6月30日までに公に約束(public commitment)し、その計画を遅延無く確実に実施すること。収斂の実施状況の評価は、各国ごとにEU委員会が行う。導入日程はカナダの国際会計基準への移行日程と同じになっている。
発行市場が決まれば、流通市場の年次報告書も同様な結論となることが予測できる。
2007年11月14日EU議会法案付議状況  法律 3月6日のCESRが欧州委員会に提出した助言書 参照)

2007年
11月15日
2007年11月15日SEC米国に上場する外国会社の財務諸表について、国際会計基準審議会(IASB)が設定した国際会計基準(IFRS)に準拠して作成している場合にのみ、従来開示を求めていた米国基準への差異調整表の開示を免除することを決定した。2007年11月15日以降に終了する事業年度から適用する。日本のようなコンバージェンス(収斂)版の会計基準は免除しない。(SECプレスリリース ニュース 参照)
Having considered extensive and informative public comment on its June 2007 proposal, the Commission today approved rule amendments under which financial statements from foreign private issuers in the U.S. will be accepted without reconciliation to U.S. Generally Accepted Accounting Principlesonly if they are prepared using International Financial Reporting Standards (IFRS) as issued by the International Accounting Standards Board.

なお、コックス議長は、米国企業にIFRSの適用を認めるかどうかについて意見を聴取するため12月13日および15日の二日にラウンドテーブルを召集すると発表した。

日本の会計制度の改善状況進捗表

日本の会計制度を改善する動きが芽生えてきた。2002年5月22日、商法と証券取引法の開示の一元化に関して、商法が証券取引法第24条の有価証券報告書を作成する企業に対して連結財務諸表を求める法案が参議院を可決成立した。これにより、有価証券報告書の内容が株主に開示されると期待される。しかしながら、問題は山積しており、いつどのように改善されるか追ってみる。

日本の課題 改善
可・否
対応した根拠法令等 米国の場合
1996年11月、橋本内閣で日本版ビッグバンを表明し、
会計ビッグバンにより「連結中心」となる。
証券取引法の改正により
2000年3月期より連結中心となる
新しい連結決算」参照
該当なし
民間の会計基準設定主体創設。(注1) 2001年8月、民間の
企業会計基準委員会創設
古くからあり
金融庁は、米国証券取引委員会(SEC)登録の
米国会計基準による連結財務諸表の提出を認めた。
2003年3月期より
連結財務諸表規則、財務諸表規則
N/A
連結財務諸表(有価証券報告書)が株主に送付される。 2004年4月以降終了する事業年度から、
上場会社に商法が新たに連結計算書類を求めた。

未監査連結計算書類を株主総会召集通知に添付
商法施行規則第142条〜179条
 
商法特例法第19条の2

監査済み
連結計算書類の監査の結果を株主総会に報告 2002年5月商法改正で一元化(注2)
商法特例法第19条の2または第21条の32
株主に対する情報開示」参照
該当なし
株主資本等変動計算書が会社法で計算書類となる。
これにより利益処分及び損失処理は会社法に規定せず
2006年4月以降に会社法の施行後適用予定
2005年年2月9日に法制審
会社法制の現代化に関する要綱」を答申
古くからあり
個別財務諸表(有価証券報告書)が株主に送付される × 該当なし
連結財務諸表がある場合、個別財務諸表の外部報告の廃止。 × 2010年7月29日、経団連は、「財務報告に関わるわが国開示制度の見直しについて」を公表し、連結財務諸表の開示のみにし、単体は廃止を提言した。
2014年1月14日、単体開示の簡素化 資料3
半期報告書が株主に送付される。 ×
四半期報告書を導入し株主に送付される。 × 2003年4月以降開始する事業年度から
四半期財務情報を決算短信の形式で公表
欧米の四半期報告書とは異なる。
国際会計基準(IFRS)への収斂またはIFRSを認める。 ×

一部○
・EUが日本企業に2007年(2年延期となり
2009年
)より追加情報の開示要請案

公表(2005年4月28日
 
ついに日本が2011年6月末までに国際会計基準に完全収斂を約束2007年8月8日
相変わらず、金融庁は内外の企業に国際会計基準の適用を認めていない

IFRS適用を認める(2010年3月期より)

・「IASと日本の会計の相違点」参照
外国企業に

2007年11月15日以降認める

任意適用延期
英文財務諸表からレジェンド(警告文)が削除される。 × 該当なし
確定決算主義の廃止。取締役会で決算確定
(未払配当金計上可能)。
取締役会決議で未払配当金を計上
会計のトライアングル体制を解消する。(注1) × 該当なし

(注1):民間の会計基準設定主体が会計基準(欧米及び韓国同様に、上場会社に限定せず中小企業・非営利組織を含む)を設定すれば足りる。具体的には、商法及び証券取引法(省令を含む)から重複した計算規定をなくす。ただし、会計基準設定主体の独走、任務懈怠を監視するガバナンスが必要。証券監督当局がガバナンス(統治)目的で、民間の会計基準設定主体のオブザーバーとして参加する。ただし、証券監督当局は、ガバナンス目的を徹底し行政指導等の影響力を行使してはならない。欧州(2005年までにIAS完全適用・・比較財務諸表が求められることから期首貸借対照表の2003年末からIAS適用となる)及びアジア周辺国が国際会計基準(IAS)の導入を図りつつあり、日本が先進国中最後となっている。国際会計基準の導入にはトライアングル体制を解消する必要がある。

参考:
別の視点で一元化を主張企業再編時代の会計制度・証取法決算への一元化」2000年12月by野村総合研究所渡辺茂氏
・会社法改正直前での研究会で一元化も議題に上る
経済産業政策局企業行動課企業経営と財務報告に関する研究会報告書」2002年4月
初めて一元化を提言⇒日本公認会計士協会上場会社のコーポレート・ガバナンスとディスクロージャー制度のあり方に関する提言」2009年5月

(注2):会社の計算関係の改正については、西山芳喜金沢大学法学部教授が「法律時報・平成一四年九月号《特集・商法改正ーその将来への視座」に簡潔に述べていますのでご参照ください。
計算規定を商法本文から商法施行規則へ移した理由は「商法会計と証券取引法会計の整合性の調整を迅速に行うことができるようにする観点から,株式会社の計算に関する一定の事項について法務省令に委任すること等を内容とする商法等の一部改正法案(平14閣法77)を,平成14年通常国会に提出しているところである。」としている。(法務省「商法開示と証券取引法開示の調整」参照)
世界は国際会計基準に収斂しつつある中、日本では商法と証券取引法の一元化さえ実現できていない。連結計算書類の作成方法は法務省令である「改正商法施行規則」による。

財務諸表作成者、財務諸表の読者(投資家等のステークホルダー)、会計監査人は、簡潔明瞭な分かりやすい制度を望んでいよう。改革には商法が大きな足枷となろう。日本が模範としたドイツ商法は、本場ドイツでは、大手企業30社(DAX30社)のうち25社が国際会計基準または米国会計基準で開示し、ドイツ商法の開示はわずか5社で、新興市場であるノイア・マルクト(01年11月末現在326社上場)では国際会計基準または米国会計基準での開示を求めておりドイツ商法の開示を禁じている。(ドイツの動向」および豊橋創造大学井戸一元教授著「ドイツの財務報告」(2001年)参照)

市場の動向に疎い官主導で、かつ、商法は法務省、証券取引法は金融庁と縦割り行政の中で構築されている日本の会計制度は、驚くほど頑固で改革の速度は遅い。 1997年12月金融危機に見舞われた韓国の会計制度改革の事例は、日本にとっても示唆を含んでいる。(「金融危機が韓国会計制度に与えた影響」参照) 中国の会計改革については、石川純治駒沢大学教授の書評「婁爾行と中国会計研究の歩み」は中国会計学会の創設者のひとりを紹介し、中国会計史を知る上で貴重な資料を提供している。麗澤大学助教授趙家林氏の論文「中国上場企業のディスクロージャー」は参考となろう。


戦後、日本の会計の成り立ち

日本の著名な会計学者は、商法・証券取引法・税法の関係を「トライアングル体制」として欧米諸国に日本の会計を紹介しているが、欧米の国際会計に関する著書によれば、配当可能利益を算出する商法はキャッシュフロー(資金の流入・流出)の考えが、発生主義の証券取引法の会計と矛盾し、その双方の利益が一致するのは不思議であると解いている。

戦後の会計について詳しい故・太田哲三氏著「近代会計側面誌」(中央経済社)によれば、終戦後、占領軍は財閥解体のため、旧財閥や軍需会社に財務諸表を求めた。英文財務諸表でなければならなかったため、停年で一橋大学を退官した村瀬玄氏を嘱託として作らせた。氏は、ペンシルバニア大学で勉強された方であり英語には堪能である。かつ、米国には多数の友人を持っていて・・云々とある。その結果提出した英文財務諸表は司令部の理解を得られず、司令部は昭和22年の暮れにインストラクションを発表した。これは財務諸表の様式を定めたもので、今後はこの様式を以って司令部に届け出ることが要請されたとある。
インストラクションの前文には、「日本の会計実務は惨めなほど不整備である。(注1)」と言う意味のことが書いてある(太田哲三氏)。

(注1) インストラクション前文一部原文抜粋。
 A secondary purpose i s to lay the foundation for improving and standardizing Japanese commercial and industrial accounting practices. Statements furnished to SCAP in the past have disclosed deplorable shortcoming in accounting practices and procedures.
(文中SCAPは連合司令部、文書の日付は1947年12月とある)


これが、昭和24年7月9日大蔵省企業会計審議会の前身である経済安定本部企業会計制度対策調査会が公表した企業会計原則の前文に書かれることになった。

前文に、「我が国の企業会計制度は、欧米のそれに比較して改善の余地が多く、且、甚だしく不統一であるため、企業の財政状態並びに経営成績を正確に把握することが困難な実情にある。我が国企業の健全な進歩発達のためにも、社会全体の利益のためにも、その弊害は速やかに改めなければならない。」とある。企業会計原則が公表される1年前の閣議決定「企業会計制度対策調査会設置に関する件 (昭和23年6月29日 閣議決定 )」に同文の趣旨が記載されているが、レジェンド(警告文)問題を解消できなかったり、国際会計基準への収斂に立ち遅れたりしている状況は、55年を経過した現在の日本の会計の状況を言い表しているようでもある。

上記前文を記した「企業会計原則」は、作成の中心的人物で著名な故・黒沢清氏著「近代会計学」(春秋社)に詳しい。それによると、終戦後の混乱の中、当時の日本では最新の米国の会計学文献である「SHM会計原則」を入手し、重要な資料としたことが記されている。サンダース、ハットフィールド、ムーアの3人の会計学者(頭文字のS.H.M.を採っている)が米国公認会計士協会の依頼により1938年に作成されたものである。これを中心として諸外国と日本の状況を加味して「企業会計原則」は作成されたとしている。これにより基本的な骨組みが作成され数次の改正を経て現在に到っているが、基本的な体系は変わっていない。

なお、米国では、「SHM会計原則」は研究論文で実務上の会計原則となったことはないが、米国会計基準の前身である「会計手続委員会(CAP)Committee on Accounting Procedures」は1938年〜1939年、「会計調査公報(ARB)Accounting Research Bulletins」は1939年〜1959年、「会計原則審議会(APB)Accounting Principales Board」は1959年〜1973年、「財務会計基準審議会(FASB)Financial Accounting Standards Board」が1973年から現在に至るのだから、SHM会計原則の1938年当時は、米国でも会計基準の萌芽のときであった。また、故・沼田嘉穂氏著「企業会計原則を裁く」(同文館)には、司令部のインストラクションから「企業会計原則」の設定までの経緯及び内容について詳しく記している。(「日本における企業経理近代化の系譜」by久保田秀樹甲南大学教授の研究論文がある)

戦後の占領政策の延長線上で、当然商法の改正も検討された。商法学者田中誠二氏著「会社法」(千倉書房)によれば、昭和23年アメリカ主義に変える根本的改正が検討されたが、上記の企業会計原則および財務諸表準則(現在の規則)そのものが確定的なものとは言い難く、実際界方面のにおいても相当な反対があり、これに基づく改正は時期尚早という説が強かった、とある。米国の会社法のように会計規定を盛り込まず、会計基準に準拠しようとしたところ、会計基準が整備されていないと判断して、計算規定を残したとある。したがって、証券取引法の財務情報の開示という目的と、配当可能利益を算定する商法の計算規定が存在することになったとある。

米国における証券取引委員会(SEC)は、会計基準を設定する権限は放棄しているわけではないが現在まで設定してはいない。SECは、会計連続通牒(Accounting Series Releases、通称ASR)150号で会計基準の設定は財務会計基準委員会(Financial Accounting Standards Board,通称FASB)にあると明記して自らは設定していない。重要なことは、SECとFASB双方ともに巨大な組織であるが専門家集団であるだけでなく、議会からのチェックを常に受けていることも欠かせない事実である。

一方、我が国は、証券取引法のもと会計基準および会計規則は大蔵省にあり、会計基準から財務諸表規則、規則要領まで広範囲にわたる。つまり、米国のFASBの機能とSECの機能が合体し万能の機能を備えている。従って、日本特有の上記に記した政策的配慮が会計基準に反映する。リース会計基準も国際会計基準のリース会計基準に似せているが、その実態は似ても似つかないものとなっているのはその典型といえよう。聞く所によると、リース業界の要請を受けたものになったとのことである。官僚の業界調整役の機能を発揮した結果のようである。

戦後50年経過しても「レジェンド(警句)」を挿入させられる日本の会計

日本の会計が信頼を失い「日本の証券取引法及び会計基準で作成し、日本以外の国で通用する会計基準で作成したものではない」下記英文参照)という主旨の文章を記述させられるいわゆるレジェンド(legend clause 警告文)を挿入することになった背景には、日本の閉鎖性による国際的動向に鈍感なことからであろう。書かされる企業の問題ではなく日本の会計制度の問題である。会計基準の未整備によって不利益を被るのは、日本の会計制度を守っているが信頼を得られない企業であり、正確な情報を入手できない投資家(財務諸表利用者)である。

1. SUMMARY OF SIGNIFICANT ACCOUNTING POLICIES 重要な会計方針の一覧
(a) Basis of presentation 表示の基礎
Nissan Motor Co., Ltd. (the "Company") and its domestic subsidiaries maintain their books of account in conformity with the financial accounting standards of Japan, and its foreign subsidiaries maintain their books of account in conformity with those of the countries of their domicile.
The accompanying consolidated financial statements have been prepared in accordance with accounting principles and practices generally accepted in Japan and are compiled from the consolidated financial statements filed with the Minister of Finance as required by the Securities and Exchange Law of Japan. Accordingly, the accompanying consolidated financial statements are not intended to present the consolidated financial position, results of operations and cash flows in accordance with accounting principles and practices generally accepted in countries and jurisdictions other than Japan.

2004年3月期から多少の表現は変更されましたが
「日本の会計基準は国際財務報告基準とは異なる」としています。

(「金融庁の主張」「日本公認会計士協会の主張」「経団連の主張」参照)
わが国におけるレジェンド問題の現状(2006年)」by粥川和枝氏

Nissan Motor Co., Ltd. and Consolidated Subsidiaries
Fiscal year 2003 (Year ended March 31, 2004)

1. SUMMARY OF SIGNIFICANT ACCOUNTING POLICIES
(a) Basis of Presentation
Nissan Motor Co., Ltd. (the “Company”) and its domestic subsidiaries maintain their books of account in conformity with the financial accounting standards of Japan, and its foreign subsidiaries maintain their books of account in conformity with those of their countries of domicile.
The accompanying consolidated financial statements have been prepared in accordance with accounting principles generally accepted in Japan, which are different in certain respects as to the application and disclosure requirements of International Financial Reporting Standards, and have been compiled from the consolidated financial statements prepared by the Company as required by the Securities and Exchange Law of Japan.


なお、原文を確かめたい場合は、日産の英文財務諸表(Annual Report)をインターネットの英語版日産サイトからPDFファイルで入手してください。当然ですが、レジェンドの警告文は「日本の証券取引法に基づいた財務諸表を外国人用に英訳した財務諸表」に記載されているのであり、SEC登録会社の米国会計基準で作成している会社の財務諸表にはありません。現在の日産は、日本基準によって作成されており、かつ、英文への翻訳では重要な会計方針を翻訳していません。 英文財務諸表を和訳した財務諸表では資生堂のアニュアルリポート(2011年3月期も従来と変り無くレジェンドが付されている)があります。

また、住友電気工業(株)の2001年3月期英文財務諸表(Annual Report)にレジェンドがはずされたと話題になっていますが、英文財務諸表の注記1に「日本の会計基準は米国とは異なっている」旨の記述がありレジェンドは付されたまま、注記15では「米国会計基準との差異調整表と差異説明」が開示されています。米国SECが米国での上場の際に外国会社に求めている「米国会計基準(US GAAP)とそれ以外の会計基準との調整表の開示」と同じ形式となっています。通常は、手間が同じ事や二重開示でミスリード(誤解)を避けるために、米国会計基準の財務諸表を作成するのが一般的です。その後、2003年3月期英文財務諸表ではレジェンドが付されたまま米国基準との差異調整表の開示さえ中止しています。2004年3月期英文財務諸表には、下記の通り「日本の会計基準は、国際財務報告基準の求めている会計処理と開示が異なることがある」の記載が残っている。(住友電工アニュアル・リポート 2012年3月期の年次報告書 参照)

Notes to Consolidated Financial Statements
SUMITOMO ELECTRIC INDUSTRIES, LTD. AND CONSOLIDATED SUBSIDIARIES
March 31, 2004 and 2003
1. BASIS OF PRESENTING CONSOLIDATED FINANCIAL STATEMENTS
 Sumitomo Electric Industries, Ltd. (the “Company”) and its consolidated domestic subsidiaries maintain their accounts and records in Japanese yen, and in accordance with the provisions set forth in the Japanese Commercial Code (the “Code”), the Japanese Securities and Exchange Law and its related accounting regulations and in conformity with accounting principles generally accepted in Japan (“Japanese GAAP”), which are different in certain respects as to application and disclosure requirements of International Financial Reporting Standards.


平成12年(2000年)6月29日、大蔵省の企業会計基準設定主体のあり方に関する懇談会」では、その「論点整理」の中で「現在、わが国会計基準は、企業会計審議会においてここ数年精力的に改訂がなされ、諸外国に比べても遜色ないものとなってきているが」と記している。しかし、米国五大会計事務所(現在は4大事務所)が実務の上で日本企業の証券取引法で作成した財務諸表にレジェンド(警句)が付されるのは、何故なのか。
グローバル化しつつある資本市場にとって不幸なことである。

参考:「日本の会計と国際会計基準の相違点」参照

他の参考サイトへ:::キーワードを「レジェンド」として検索した結果⇒  Google  「わが国におけるレジェンド問題の現状(2006年)」by粥川和枝氏

レジェンドは消えない
日本の証券取引法による会計が欧米に伝わるのは、英文翻訳することによってである。欧米の財務諸表利用者に誤解を与えないようにレジェンド(警告文)を挿入して警告するのは自然のことである。

実例を示してみよう。1999年3月27日、日産は仏ルノーとの資本提携を発表しCOOにカルロス・ゴーン氏(CEO)を起用して事業の再構築を行い日産を再生させつつある。日産は、毎年英文財務諸表を作成しているが、1999年3月期の有価証券報告書を英文財務諸表にしたときに初めてレジェンドを挿入した。

1999年3月期は日本人経営陣の決算で、2000年3月期はゴーン氏の経営結果を表していると言えよう。ゴーン氏は大胆なリストラを行い約7千億円の特別損失を計上して2000年3月期の決算では純損失を7906億円にした。翌年の2001年3月期には純利益1874億円を、2002年3月期には純利益1834億円を計上し業績を急回復させている。

レジェンド問題の原因となった日本特有の会計の一例を示すと、「製品保証引当金」にある。ゴーン氏の決算である2000年3月末に製品保証引当金1523億円が計上され、その前年の1999年3月末にはゼロである。(ちなみに、1999年3月末の資本金は2037億円である。

製品保証引当金の注記を見ると、「1999年3月期までは税法基準で計上し、2000年3月期より費用収益を対応させるために計上した」旨の説明がある。日本では、会計慣行を基礎に、税法基準で開示することも認められているため(監査報告書は適正意見を表明し、財務局の審査も受け受理されていることを意味する)、税法基準から合理的な見積による基準への変更と見ている。米国基準及び国際会計基準では、税法基準は認められず適正表示のため合理的な見積を求めている。つまり、国際基準では、会計方針の変更とはいえず、誤謬の訂正correction of errors)として取扱われるものなのである。

日本が、適正表示できない税法基準を一つの会計方法として認めている限りレジェンドは消えないことになる。日本の会計や監査について信頼は得られないことになる。グローバル化の時代にはレジェンド問題を真剣に検討すべき時期にきている。

なお、米国基準では「引当金 reserve」という用語は、資本の部の利益積立金で使用する以外死語となっており、製品保証引当金や欠陥車のリコールによる無償修理の偶発債務(Contingent liabilities)は未払費用(accrued expenses)として計上することが求められます(未計上の債務は許されない)。日本の企業でも米国SECに登録し米国基準で財務諸表を適正開示している企業は適切に計上しています。

国際会計基準(IAS)が普及すると、「IASではない、ある一国の会計基準にもとづく開示情報は,監査段階でローカル・ルールにもとづく開示であるとして,レジェンド(警句)を発せられ,結果的に発行体は資金調達段階で大きなペナルティを課されることになる.そのような情報を開示していたのでは,もはや国際的信頼が得られない国際環境に移行している.」という見解がある(井戸一元豊橋創造大学教授「国際会計基準(IAS)への収斂と展望」(2002年)より)。

金融庁企業会計審議会国際会計基準に関する我が国の制度上の対応について(論点整理)」(2004年6月24日)

上記(論点整理)の最後の章にレジェンドが残っている旨記載されているが、論点整理の公表直前の平成16年6月17日企業会計審議会第10回企画調整部会会議では、藤沼委員の説明に対し、次のように経団連の委員は発言している。

○関委員 私も今の八木委員に付け加えることはあまりないのですが、practicesproceduresが取れたということですが、よく読むとaccountingprincipleがまさにdifferentだと言っているわけですよね。これは大変大きな、それをレジェンド問題と言うかどうかはともかくとして、決定的なところがまだ残っているという認識がごく常識的ではないかと思うのです。

したがって、私のお願いは奥山委員や藤沼委員がずいぶん努力されたということは分かりますが、これでJICPAとしてはレジェンド問題は終わりだと、あとは監査法人とクライアントとの個別問題でやってくれというのはぜひ止めて頂いて、なお努力をして頂くということをこの会としてお願いするということなのではないかと思います。
(「金融庁の主張」参照)



2013年3月期決算で国際会計基準を適用すると発表したマネックス証券は、2012年3月期の決算発表までは、日本基準で財務諸表を公表していたが、公表の際、”本資料は、日本において一般に公正妥当と認められる会計処理基準(“日本会計基準”)により作成されたマネックスグループ株式会社の連結計算書類から派生する情報を含んでいます。日本会計基準は、米国において一般に公正妥当と認められた会計処理基準(“米国会計基準”)および国際財務報告基準(“IFRS”) を含む他の国において一般に公正妥当と認められた会計基準と、一定の重要な点において異なっております”と誤解を避けるため親切に断っている。文面は正に”レジェンド”である

 なお、マネックス社長 松本大のつぶやきは、傾聴に値する。”日本版の国際法なるものがあり得るか?日本版の野球ルールで野球をしていたら果たしてイチローや松井はうまれたか?国際ルールは万国に共通だから意味があるので、ローカル版グローバル・ルールって意味があるのでしょうか?国際会計基準を導入する大きな理由は、グローバルな投資家から見て比較しやすく分かりやすくし、日本企業への関与を強めるためです。分かりにくいローカル版グローバル・ルールの導入には反対です。マネックスグループは真のIFRSを既に導入済み(日本の上場企業で現在20社程度)ですが、この方向をもっと推進していくことが、日本の資本市場の発展に繋がっていくと信じています。”

企業経営と財務報告に関する研究報告(2002年4月)

経済産業省は上場企業の度重なる企業不祥事不正な財務報告に対処するため、昨年10月「企業経営と財務報告に関する研究会」を立ち上げ、2002年4月18日、「報告書および資料」を公表しました。@商法と証券取引法の開示の一元化、A内部統制に関するCOSOリポートを基礎にした経営者報告書(Management Report)の開示、B役員報酬の個人別情報開示、C経営者の検討及び分析(MD&A)の開示など基本的な事項を多岐に渡って提言しています。

米国のエンロン問題に見るように、証券取引委員会、SEC、議会、ナスダック、ニューヨーク証券取引所、公認会計士協会、財務会計審議会(FASB)などそれぞれの機関が再発防止の為に即座に検討に入る。しかも、それぞれの機関の対応策は透明性が高く人々の理解を得るのに容易となっている。

一方、日本は、「犯罪行為に対して司直の捜査を待って」という理由で先延ばしになり、人々の興味が薄れた頃に提言が出されるという残念な状況にある。即座に機能しない構造に重大な欠陥を孕んでいるのではなかろうか。それが日本の置かれた最大の問題であろう。個人投資家から信頼を得るには、米国のような迅速な対応と透明性が求められていると思うのだが・・・・・・

日本の会計を象徴する出来事(1998年8月22日更新)

日本長期信用銀行は、1998年8月21日、9月の中間決算で7500億円の不良債権処理を柱とする抜本的なリストラ策を正式発表し、資本充実のため5000億円を超える公的資金注入を申請すると表明した、と新聞は報道している。住友信託が救済合併を計画しており9月に最終結論するとのことである。金融監督庁が不良債権の調査を進めているが、結論は出ていないとのことである。

日本長期信用銀行の財務情報は、二つの点で日本の会計基準を如実に物語っている。一つは不良債権の問題と、もう一つは有価証券の評価の問題である。

不良債権の評価について

不良債権に対する貸倒引当金の繰入の会計基準は、企業会計原則注解18に引当金の会計基準があり、「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」として、ほんの数行の規定がるだけであり、また、商法では、商法第285条ノ4第2項に「取立て不能の恐れあるあるときは取り立てること能はざる見込み額を控除することを要す」という規定があるだけである。不良債権の会計基準については、ホームページ「不良債権」をご覧ください。

98年3月の決算から6ヶ月後の9月までに7500億円の不良債権が突如として発生したといえるのだろうか。98年3月期に不良債権の引当額が適切に行われていたのか疑問に思うのが一般的であろう。1998年4月1日の日本経済新聞の報道によれば、98年3月決算で推定6000億円の不良債権処理を行い、自己資本比率10%程度と報道している。

ところが、1998年8月22日の日本経済新聞の記事によれば、日本長期信用銀行の大野木頭取は「連結ベースの資本勘定は7500億円の不良債権処理後でも5500億円あり、9月末の国際決済銀行(BIS)の自己資本比率は6%程度」と言っている。

不良債権の適正額の測定の仕方、会計処理の時期、開示の仕方など規定のない日本の会計基準は、信頼しうる不良債権額を表示しないことを証明している。それが証拠に、金融監督庁が7月から調査に入り不良債権額を確定するようであるが、合併受け入れ銀行である住友信託は金融監督庁の検査終了後、独自に外資のアーサーアンダーソン会計事務所に不良債権額の査定を依頼をしていると報道している。米国会計基準による実質的な不良債権額を査定することを意味している。受け入れる銀行としては当然の依頼であろう。


有価証券の評価についてー原価法処理

1998年8月21日、日本経済新聞の記者の「株式含み損を考えれば実質的に債務超過ではないのか」との質問に、長期信用銀行の頭取は「原価法だから含み損は計上しない」と回答している。

日本の会計基準では、大蔵省企業会計審議会の企業会計原則の資産の貸借対照表価額五Bに有価証券の評価を規定しており、「原則として取得原価主義とし、時価が著しく下落したときは時価を付さなければならない」、としている。商法では、商法第285条ノ6第1項では、株式についてはその取得価額を付すことを要す」としており原則取得原価主義で、第2項で第285条ノ第1項但し書きを準用して「著しく時価が低下した場合は、時価を付すことを要す」として同様の規定となっている。頭取の「原価法だから含み損は計上しない」というのは、日本の会計基準では適切な回答となるのです。

しかしながら、合併に際して受け入れる側(住友信託?)は、含み損を持ったままの状態で受け入れられない(資本充実の観点で不可能)のであるから、早晩、含み損は表面化することになることでしょう。

また、大蔵省企業会計審議会は平成12年(2000年)4月1日以降開始する事業年度から適用予定として、「金融商品に係る会計基準(草案)」を6月16日付けで公表し8月31日までに意見を聴取している。それによれば、米国の会計基準に類似し時価基準を採用している。


上記2点の会計問題について、長期信用銀行の対応は一般的には常識的ではないように思えるのだが、日本の会計制度に違反しているとは言い難いのです。会計基準を整備確立しない限り、適切な財務情報は提供されないのです。

インターネットにより、1998年8月22日現在、日本長期信用銀行が公表している財務情報から見て見ると次のようになります。日本長期信用銀行が公表している財務情報は、1997年3月期の単独貸借対照表と損益計算書及び1998年3月期の単独及び連結決算短信である。なぜか、1998年3月期の貸借対照表は公表されていないので、資産内容及び負債・資本内容が不明です。

(1)自己資本比率

1998年3月期の決算短信より

連結・単独区分 総資産 株主資本 株主資本比率
単独財務諸表 26兆1900億円 7872億円 3.0%
連結財務諸表 26兆5657億円 1兆248億円 3.9%

銀行業の決算経理基準はミスリード(誤解を与える)させる

まづ、上記の株主資本比率は、自己資本比率(自己資本/総資産)であるが、監督当局である大蔵省が指示している「銀行業の決算経理基準」に基づき作成されているもので、国際決済銀行のBIS基準である自己資本比率とは異なっている。BIS基準では、資産及び資本に相場のある株式を時価評価し評価益に税効果を控除した額を加算でき(つまり時価会計)、負債に含まれている貸倒引当金(債権の評価勘定なのに銀行の貸借対照表は負債に含めている)を総資産から控除する(本来の会計にする)。このように、銀行の貸借対照表からは直接BIS基準は分からないものとなっている。

国際決済銀行の最低基準は、8%以上、国内銀行の最低基準は4%以上となっており、リストラ策として海外拠点から撤退を含んでいるが8%の基準をキープできなかった模様である。

(2)8月21日に行われた、長期信用銀行頭取の記者発表を反映してみる

不良債権7500億円を処理すると公表しており、全額損失処理とすると、株主資本が同額減少することになる。
つまり、償却後の株主資本は、単独決算で7872億円−7500億円=372億円となります。
有価証券が原価法となっているので(原価法は継続企業の前提ですが、合併などがあれば時価で引き継ぐことになる)、低価法による含み損を吐き出す必要がる。
公表している資料では、1997年3月期に株式保有額は2兆2490億円とあります。98年3月期にいくらあり、どれほどの含み損があるのか不明ですが、97年3月期の数値を参考として計算すると、上記372億円に対する割合は、1.6%(372億円/2兆2490億円)となります。含み損は結構あると疑われても仕方のない巨額の保有額である。

こうした財務情報は、(1)不良債権の償却額がもっとあるのではないのか、(2)株式の含み損を入れれば債務超過になっているのではないかという、当然の疑問を抱かせる内容の情報開示制度なのである。


長期信用銀行の記者発表は、公的資金(税金)5000億円以上の注入を前提に話が進めています。少なくとも、財務情報の開示は日本の基準には準拠しているのでしょうが、納税者である国民が納得できるだけの情報開示とは言い難いといえます。会計基準の整備・確立が望まれるところです。

98年10月8日、住友信託は合併の交渉を白紙に戻すと発表した。

1999年3月18日、日本経済新聞は、1998年10月の特別公的管理(一時国有化)に移行した時点で、日本長期信用銀行の債務超過額は2兆円を上回っていたことが分かった、と報じている。その後、6月には、昨年の10月時点で、2兆6535億円の債務超過であることが報じられている。また、粉飾決算として刑事事件に発展している。

簿記と会計が混同している日本の会計

簿記と会計は違うと言えば驚くかもしれません。なにも奇を狙っているわけではありません。

簿記(Bookkeeping)とは、取引の仕訳をして補助元帳や総勘定元帳に記録し、試算表、貸借対照表及び損益計算書を作成することです。簿記とは、記録、分類、集計、作表することです。

会計(Accounting)とは、会計基準に準拠して適切に財務情報の開示を行うことです。 簿記と会計の違いは、簿記が記録・集計の技術に対して、会計は財務情報を会計基準に従って適切に開示することにあります。

例えば、在庫を例にすると、商品を購入しすべてが販売されるなら問題はないが、在庫が残ってしまう場合、良品、不良品、過剰在庫、新製品の発売開始のため旧品となったものなどが混在している場合がある。購入時に取得原価で帳簿記録(簿記=Bookkeeping)しただけでは、在庫の状況は適切に表現したことにはならない。IAS2号「たな卸資産」によれば、たな卸資産は正味実現可能価額以下で貸借対照表に表示することになっているため、取得原価が正味実現可能価額を超過している損失は在庫の評価額から除外する必要がある。したがって、不良品、過剰在庫、旧品となった在庫の評価額を検討し評価損が生じているものは評価減を必要とする。

また、機械などの設備は、その設備で生産している製品が当初予想に反して販売不振となり生産中止に陥るケース、または、生産設備の生産能力が過大で一部機械が休止又は遊休設備となるケースがある。こうした場合、IAS36号「資産の減損」は、資産の回収可能価額まで評価減することを求めている。つまり、会計は企業の実態に即した状況を適切に示(適正表示=説明)すものである。取得時に原価で記録するのは簿記である。日本の原価主義は簿記に限りなく近く、適正表示を求める会計の目的から乖離している。

山一證券の飛ばし問題、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の不良債権問題は、取得原価主義を基礎とし、評価損の適時・的確な処理の遅れである。原価主義は、投資家に適正表示を提供してこなかったことにより損失を与えたのはもとより、経営者自身が自社の実態を知り得なかった可能性がある。なぜならば、明確な会計基準がなく含み損失が幾らあるか求められていないことや、含み損が分かっていても先送りできるできるからである。会計基準の不備は、投資家はもとより、自社の実態が分からず経営者にとっても大きな損失なのである。経営者が自社の実態を的確に把握できなければ、監督官庁は当然実態が把握できるはずはない。すべてが不完全な会計基準から起きていること。

会計は、財務情報の開示(=説明)にあります。会計基準は、適切な情報開示を目的として設定されます。会計基準に従って財務情報を適切に開示する行為を会計と言います。財務報告(Financial Reporting)を行うのが会計です。account for は、「説明する」という意味ですし、ウエブスターの辞書で、accountable(釈明する義務・責任がある)の意味を引くとexplainable(説明のつく)と出てきます。また、アカウンタビリティ(Accountability)を「説明責任」と訳しています。会計は説明(開示=報告)することにあります。

具体的な例を示すと,後述するマイクロソフト社の損益計算書(「キャッシュフロー計算書の読み方」に提示しています)の中で営業費用の中に、1998年に「仕掛技術の購入費(Acquired in-process technology)」と言う用語を用いて2億9千6百万ドル計上した旨を記載しています。これは、勘定科目とは言わず、説明なのです。開発途中の技術を購入し費用計上したことが分かります。キャッシュフロー計算書には「仕掛技術の償却」として同一金額が表示されています。読者にわかりやすく表現して、情報開示しているのです。

財務諸表の注記事項も同様です。例えば,「税効果会計」では、会計処理の基準もありますが合せて注記による開示事項(説明)があります。税効果会計により税法と会計上の費用や収益の認識時点の相違を会計処理するものですが、税効果会計の結果、会計上法人税等の負担割合(税引前利益に対する税効果会計後の税金負担割合)と法定税率とに重要な相違がある場合に調整項目の開示が求められます。これは、注記による情報開示なのです。

この情報開示は、単なる帳簿記録(簿記)ではなく、企業の状況を適正に開示する会計ないしは財務報告なのです。 同様にキャッシュフロー計算書も情報開示です。キャッシュフロー計算書を作成するために、新たな帳簿が必要となるのではありません。記録している総勘定元帳や補助元帳に何らの変更をせず、ワークシート上でキャッシュフロー計算書を作成して財務情報として開示するのです。

従来の日本の会計は、右肩挙がりの経済状況が続き適正開示が無くても企業は成長し続けていたため、単なる帳簿記録(簿記)を開示したものでも間に合っていたのですが、不況や・構造変化の中で直接金融市場を育成する時代になると、投資家(金融機関を含む)に対して適性開示が必要となってきます。戦後55年間は、日本は限りなく簿記の世界に限りなく近かったのでその区分が明らかとなっていませんでした。それは、商法、税法、証券取引法の「会計のトライアングル体制」という硬直的な制度を基礎にして、実質的には適正開示を求めてこなかった(会計が無かった)ために、簿記で記録、分類、集計、作表したものを単純に開示していたに過ぎなかったからです。例えば、国際会計基準の目的は、「適正開示」を目的として会計基準を設定しています(国際会計基準第1号「財務諸表の表示」参照)。

1997年6月、大蔵省企業会計審議会が連結決算中心に方向転換しましたが、その趣旨は、日本版ビッグパンの実施により資本市場をニューヨク及びロンドン並に育成するためのインフラとしてディスクロージャーの充実(=会計基準の整備充実)を謳っています。ディスクロージャーの充実の為に、キャッシュフロー計算書、中間連結財務諸表、税効果会計、試験研究費の会計、退職給付(企業年金)の会計金融商品の時価会計を導入したのです。情報開示のためにそれぞれ簿記を超えた注記による開示が含まれることになったのです。これは、日本では非常に希薄であった情報開示の概念です。 (ASOBAT(A Statement Of Basic Accounting Theory、基礎的会計理論に関する報告書・1966年)参照)

帳簿付けをする人を帳簿記録人(ブックキーパー、Bookkeeper)といい、会計基準に準拠して財務報告まで行える人を会計士(アカウンタント、Accountant)といいます。米国会計基準は、適切な財務情報の開示を行うために120を超える個別会計基準があります。財務情報に関する情報開示の重要性がそうした高度な会計(キャッシュフロー計算書、税効果会計、企業年金の会計、金融商品の時価会計、研究開発費の会計など)を生み出しているのです。それを支える公認会計士(Certified Public Accountant,通称 CPAと称します)は、約33万人を超える人々を輩出しています。ちなみに日本の公認会計士は約1万3千人です。

簿記から会計・監査および財務情報の開示の関係
監査基準
下記注2参照)
↓  
会計監査 (「監査の目的」参照)
信頼性の付与
財務諸表の利用者:
簿記
帳簿記録
(Bookkeeping)
会計
財務情報の開示 
(Accounting)
監査済財務情報
(Financial Reporting)
投資家(株主・社債権者)、
潜在投資家、金融機関、
債権者、仕入先、得意先、
従業員、
税務当局、監督当局
IASB Frameworkより)
説明責任の実現
(Accountability)
↑  
「一般に認められた会計基準(GAAP)」
Generally Accepted Accounting Principles 
プロの分析情報提供者
格付機関
会計基準設定機関
(下記注1参照)


証券アナリスト
コンサルタント
マスコミ等
 
(注1)会計基準設定機関の国際比較及び設定の範囲
基準設定機関名 官民区分 対象とする会計基準
日本 企業会計審議会
(金融庁へ移管)
国家機関 上場会社等の証券取引法適用会社の会計基準を設定
2003年10月31日公表の「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書」を最後に官による会計基準設定の使命は終わりました。

企業会計審議会の今後の役割について」by加古宜士企業会計審議会会長・早大教授
企業会計基準委員会
(Accounting Standards Board, ASB)
民間機関 2001年8月に国際会計基準審議会(IASB)のメンバーになるべく創設された。
企業会計審議会との関係が不透明のままでスタート、名称を変えただけか?。
会計基準の開発・設定を行う機関(National Standard Setter)と解していましたが会計基準の設定という文字は見られません。 委員長のメッセージをご覧ください。
国際 国際会計基準審議会
IASB
民間機関 企業は無論のこと、企業に限定していない。例えば,企業年金基金の会計基準の設定,近い将来、保険会計など業界別の会計基準を設定予定
米国 財務会計基準審議会
(FASB)
民間機関 企業は無論のこと、企業に限定していない。例えば,企業年金基金の会計基準の設定,業界別の会計基準、非営利団体、地方自治体の会計基準(GASBで設定、FASBと区分しているが同様の機関)等の会計基準を設定している。

日本のみが,上場会社等を規制している証券取引法の枠の中で会計基準を設定しており,機関の名称に「企業」とあるように「企業」のみを対象とする会計基準を設定している。 その結果として、会計基準が有価証券報告書作成のみに限定されている。有価証券報告書は大蔵省、証券取引所等の閲覧所に出向いて閲覧するか、政府刊行物として縮刷版を購入しなければならない。有価証券報告書は、投資家である株主、社債保有者の手許に届かない仕組みである。

欧米の会計基準は、上場に関わり無く年次報告書(Annual report)作成の基礎となっており,年次報告書は、株主、金融機関、社債権者、取引先等に配布され利用されている。上場会社の場合は、SECへ登録する財務諸表は、SEC規則で追加的に求められる開示事項を反映していれば、年次報告書でよいことになっている。会社は,会計基準に準拠した一つの財務諸表を作成すれば良いことになっている。

会計基準の対象範囲についていえば、欧米では、会計基準の設定主体が、いかなる法律からも独立しているため、公共法人(特殊法人を含む)、公益法人(認可法人を含む)、協同組合、地方自治体の会計などを含んで設定しているが、日本の企業会計審議会では、証券取引法の枠で設定しているため取り扱えないものとなっている。

(注2)監査基準について
監査基準設定機関名 官民区分 対象とする監査
日本 企業会計審議会
(金融庁へ移管)
国家 制度的には、上場会社等の証券取引法適用会社の監査基準を設定
国際 国際会計士連盟
IFAC
国際監査保証基準審議会
(IAASB)
民間 「一般に認められた会計基準(=国際会計基準、IAS)」に準拠して
適正に表示
されているかどうか」について監査意見を表明するので、
会計の対象となるすべての企業・団体(非営利団体など)・組織・会計
単位(企業年金基金など)を対象とする。
米国 米国公認会計士協会
AICPA
民間 「一般に認められた会計基準(=米国会計基準、SFASなど)に準拠して
適正に表示されているかどうか」について監査意見を表明するので、
会計の対象となるすべての企業・団体(非営利団体など)・組織・会計
単位(企業年金基金など)を対象とする。
上記(注1)の会計基準同様、米国では監査基準は、監査の責任を負う公認会計士の民間団体である米国公認会計士協会(AICPA)が設定し、監査基準書(Statements of Auditing Standards、通称SAS)を公表している。

一方、日本では、1996年6月16日、大蔵省企業会計審議会は、「中間監査基準の設定に関する意見書」を公表し、また、1999年3月30日、「財務諸表等の監査証明に関する省令の一部を改正する省令」を公表しているとおり、国家機関である大蔵省ないし企業会計審議会が米国のSASに規定している監査基準を設定している。企業会計審議会は、会計と監査を混同しており、両者を明確に区分していない組織である。

国際監査基準は、会計士団体の民間国際機構である国際会計士連盟(International Federation of Accountants,通称IFAC)が設定している。国際会計基準(IAS)の世界基準化の道が開けたことから、国際監査基準の世界基準化をするため国際監査基準の設定機関を2001年中にIFACから独立させる方針となっている。
国際監査実務委員会(IAPC)による国際監査基準(ISA)の設定
国際会計士連盟(International Federation of Accountants, IFACは、2001年7月18日、国際監査基準(International Standards on Auditing, ISA)設定に関し、国際監査実務委員会(International Auditing Practice Committee, IAPC)の新組織および監査基準設定手続きについての提言を公表し、2001年9月21日までにコメントを求めている。2001年11月15日の総会で、国際監査及び保証基準審議会(International Auditing and Assurance Standards Board, IAASB)と改称し、18人のメンバー(10人はIFACのメンバー、5人は国際監査事務所、3名は非監査人の代表)で構成するなどのIAPCの提言が承認された。

現在、日本の監査基準設定主体は企業会計審議会(金融庁)であるが参加要件を満たしていないとする意見が多い。塩崎衆議院議員意見参照

2000年5月、証券監督者国際機構(IOSCO)が国際会計基準(IAS)を承認したことを受けて、国際監査基準も同様にIOSCOに承認される必要性が生じているもの。

52年を経てやっと監査の目的を明かにした日本の監査基準
昭和25年(1950年)に制定された日本の監査基準が、52年を経た平成14年(2002年)1月25日、企業会計審議会(事務局金融庁)が「監査基準の改訂に関する意見書」を公表し、初めて監査の目的を明かにした。次のように規定している。

財務諸表の監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、すべての重要な点において、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況を適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。

米国公認会計士協会の公表する監査基準書(SAS, Statement of Auditing Standards)の初めに記載されている「監査の目的」とほぼ同文である。実に52年間、監査の目的が明記されていなかった日本の監査基準に明記されるようになったのである。
ただし、日本の場合は会計基準とは何を指すのか明示していない。日本の場合は、商法、証券取引法、税法の会計のトライアングル体制があり複雑となっているため混迷させることになろう。
監査基準「企業の存続可能性」について
監査基準も日本では証券取引法の元に大蔵省の権限で作成されるが、欧米では、会計基準同様に監査対象が上場会社等に限定されていないため証券取引法から独立して設定されている。

例えば、1999年6月、大蔵省は会計監査に関し、監査意見に「企業の存続可能性」について明記を義務付けする方向で検討している、と日本経済新聞が報じているが、基礎は米国監査基準書( Statement of Auditing Standards、通称SAS)34号「事業体の継続的存続について疑義が生じた場合の監査人の考慮(The Auditor's Considerations When a Question Arises About an Entity's Continued Exsistence、March 1981)に関するものです。現在は、米国公認会計士協会がまとめたものには、AU341: The Auditors Consideration of an Entity's Ability to Continue as a Going Concernとして掲載されています。

元来、会計監査は、「一般に認められた会計基準に準拠して適切に開示しているかどうか」について意見を形成するものであり、会計基準同様上場会社等の証券取引法適用会社に限定されない。監査基準は、監査人が意見を形成するにあたり準拠すべきルールである。監査の信頼性を高めるためには、会計士自らが品質の向上を図るべきで、欧米同様に会計士団体がその設定と責任を負うべきであろう。存続可能性の問題も会計士側から既に問題提起していた事項である。しかしながら、日本では、証券取引法のもとに監査基準があり、監査基準の設定権限は大蔵省にあり、制度上大蔵省に依拠せざるを得ない状況にある。大蔵省が指摘している事項は、米国公認会計士協会の上記の監査基準を日本に導入するということです。会計士自らが信頼回復の為に監査基準を改善できない日本の制度は、理解しがたいものがある。また、2000年6月9日、やっと企業会計審議会から試案が公表され、8月4日までに意見を聴取して最終案をまとめ秋にも企業会計審議会を再開し改正内容をまとめ早ければ2000年度中に新たな監査基準に切り替える方針、とのこと。改善に適時な対応ができていない。また、企業会計審議会でなぜ監査基準が設定されるか、名称的に会計と監査を区分しておらず双方を混同している。
日本の会計制度
税法 法人税法
商法 商法計算規定 会計基準の空白地帯
証券取引法 金融庁(旧大蔵省)
企業会計審議会の
企業会計原則等の
会計基準
対象企業等 上場会社等
株式会社
未公開会社
株式会社
有限会社
合名会社
合資会社
非営利法人(NPO法人)
公益法人(収益事業)
協同組合等
国家・地方自治体
公共法人(特殊法人
独立行政法人等)
公益法人等(認可法人等)
協同組合等(公益法人部分)
個人事業(所得税法)
企業数 上場会社約3500社
店頭登録会社約860社
商法の企業数は、約2百万社
とされている。
1999年現在、証券取引法監査及び商法監査の対象会社数は、約10,000社とされている。
商法、証券取引法および税法の史的概観は「わが国の会計制度の史的展開と現状」(広島修道大学商学部02年6月)参照。

日本の会計制度は、証券取引法、商法、税法の三者が結びつき会計実務を行っているところから「会計のトライアングル体制」と言われます。しかしながら、上図をご覧の通り、トライアングル体制で行っている範囲は、上場会社を中心とした証券取引法適用会社のみで、上場していない会社は商法と税法のみですし,商法を適用しない協同組合等及び公益法人のうち収益事業は法人税法や設立した根拠法令に規定をおいている。法人税法は課税所得及び税金の計算のみで、財務報告(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書等)としての機能は持っていない。地方自治体、公共法人(特殊法人を含む)等は全くの会計基準に関する空白地帯となっている。

1997年6月、大蔵省企業会計審議会が「連結中心」に方向転換し、同時に、国際会計基準から新たな会計基準を導入したことは、グローバル・スタンダードへの道を歩み始めたものである。他の主要国のように,会計基準設定主体も独立し、中立的な機関に移せざるを得ないであろう。そうした場合は,会計基準の適用範囲は上場会社に止まらないことになる。ちなみに、国際会計基準の適用対象は次のようになっている。
会計基準の適用は、上場会社の場合は、証券法・証券取引法(米国や日本など)や証券取引所の規則(英国など)で、銀行、保険、証券会社などは規制監督機関の法律で強制適用となりますが、その他は、資金の供給元(金融機関や投資家、寄付者など)と企業等との間で決まり、または、透明性を高めることで事業活動を有利に遂行すると考える企業等が自ら自由意思で会計基準に準拠した財務諸表を作成します(市場で自由契約により決まる)。日本の商法のように強制規定にすれば、必要のない企業に強制する場合もありますので、企業によっては実態に合わず形骸化し有害な規制になります。多様化した社会では、会計基準は民間の独立した設定主体が設定し、計算規定は商法に規定していません。

会計基準 国際会計基準(IAS) = 国際財務報告基準(IFRS) 政府部門の会計基準
あらゆる民間の企業,組織、団体が対象 国際会計士連盟のPublic Sector
Committeeが設定中
適用対象 上場会社、非上場会社ほか 非営利組織 政府部門
銀行、証券、保険、一般事業会社 国際会計基準委員会財団
IASC Foundation
国及び地方自治体
会計単位では企業年金基金の報告 国際オリンピック委員会(IOC) エージェンシーなど
中小企業(SMEs)を含む 世界銀行など

日本以外の主要国の会計基準は,財務報告(情報開示)を必要とする会計単位全般について取り扱っている(興味のある方は別途「会計基準」のホームページをご覧ください)。

調製(コンピレーションCompilation)、リビュー(Review)および監査(Audit)の違い

監査(オーディットAuditとは、「経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、すべての重要な点において、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況を適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。」
監査は,監査証拠の入手及び意見形成に多大な時間を要し、監査費用が嵩む。

一方、規模等が小さいため多くの経費を掛けられない場合がある。監査ほど信頼性の程度が高くなくても、会計専門家が会計・監査の専門知識で財務諸表を見てもらいたい。そうした要望に応えて、調製(コンピレーションCompilation)とリビュー(Review)と言うサービスがある。

調製(コンピレーションCompilationとは、会計基準の知識が不充分なため適正な財務諸表が作成できないような場合、会計士が会計事実等を担当者に質問しながら財務諸表を作成(調製)する。この場合は、会計士は監査やリビューを行っていないので意見を形成できない旨記載した報告書を添付する。

リビュー(Reviewとは、会社が財務諸表を作成し、会計士は一般に認められた会計基準に準拠して表示されているかについてのみリビュー(査閲)する。分析・質問はするが、実査、立合、確認等の監査手続きは行わないので積極的な監査意見は述べられず消極的意見を述べた報告書を添付する。

企業の規模、契約額の規模などにより、監査費用をかけるまでもない規模に対応した、コンピレーションやリビューのサービスが提供できるようになっている。米国では、規模の小さい会社では税法会計や現金主義会計(修正現金主義を含む)のOCBOA(Other Comprehensive Bases of Accounting・・一般に認められた会計基準GAAP以外の会計の包括的な基礎に準拠した)財務諸表が作成されており、規制業種について規模の小さい企業のOCBOA財務諸表監査基準書62号「特別報告書」参照)に監査ばかりでなくコンピレーションやリビューが広く利用されている。日本企業が米国に規模の小さい子会社を設立した場合、コンピレーションやリビューのサービスを受けているケースも見られる。規制業種では、入札ボンドに参加する中小建設業社の財務諸表に例がある。

コンピレーション、リビュー、監査の理解」 参照    
Compilation, Review & Auditが欧米で定着しているかは、ホームページを見れば歴然としている。 Yahoo!の検索結果 参照

調製(コンピレーションCompilation)とリビュー(Review)は、監査に比べ使用する時間が少ないため費用が少なくて済む。米国では、公共工事などの入札ボンドで利用されている。コンピレーション、リビュー、監査のいずれを要求するかは、契約金額の大きさによるが、ボンド会社が決めている。(入札ボンド・・平成14年7月19日国土交通省総合政策局建設業課公表の「新たな保証制度に関する実務研究会報告」 「やさしい建設業教室・・履行保証とボンド制度・関東学園大学法学部教授・草苅耕造」 「入札ボンドに関する報道」「米国の公共工事にかかるボンド制度の概要」、渡辺喜美議員の主張「口利き防ぐ入札」 参照)

会計士業務の国際基準を作成している国際監査及び保証基準審議会(Inetrnational Auditing and Assurance Standards Board, IAASB)は、2005年から国際会計基準を適用のEUが適用できるように「2004年版国際監査基準」を公表した。2004年版では、基準書の番号を改定しており、監査の国際基準- International Standards on Auditing (ISAs)- ISA100〜999項までに監査(Audit)、IAPS1000〜1100項には監査実務書、ISRE2000〜2699項にはリビュー業務(Review)を、ISAE3000〜3699項には保証業務(Assurance Engagements)、関連業務の国際基準- International Standards on Related Services (ISRSs)-ISRS4400に「合意した手続き」、ISRS4410にコンピレーション(Compilation)の規定を含んでいる。なお、2004年版ハンドブックは「国際監査基準」を参照してください。

IAASBは、2003年1月1日より、国際監査基準書など会計士業務に関する基準書(行政部門の公会計基準を含む)を無料ダウンロードしている。氏名、パスワードを登録しておくだけで無料ダウンロードできます。 「国際監査基準書無料ダウンロード」 参照

「合意した手続き(Agreed-Upon Procedures)」を日本道路公団に適用か?

債務超過のない財務諸表と、債務超過の財務諸表があるとして揺れている日本道路公団(「特殊法人」参照)の財務諸表は、日本道路公団が監査法人へ監査を依頼することで決着をつけようとしたが、監査法人側と合意に達せず物別れとなり、日本道路公団と国土交通省は正式な外部監査を見送る方針を固め、正式監査に準じる「保証業務」として監査法人に財務諸表を検証してもらう、と報じた(2003年7月24日日本経済新聞報道)。

2003年7月30日、日本道路公団は、4大監査法人を対象に競争入札した結果、新日本監査法人が約17百万円で落札し、8月末までに検証結果を報告すると公表した。 新日本監査法人の日本道路公団との「合意された手続」業務報告書 参照

道路公団改革
・・・Yahoo!のニュース
 道路関係四公団の平成14年度決算と民間企業並財務諸表 参照
2003年6月日本道路公団側の公表資料:
●6月9日公表、日本道路公団(JH)の民間企業並財務諸表(概算値)等 について(平成14事業年度)
財務諸表検討委員会「中間整理」の要約  ■本文  ■抜粋 
●6月13日公表、民間企業並財務諸表(平成14事業年度)の公表について

日本道路公団のケースの”正式監査に準じる「保証業務」”とは、国際監査基準書の「合意した手続き(Ageed-Upon Procedures)」の規定に照らせば、依頼主の求めに応じた検証手続き(合意した手続き)のみを行い、実施した手続きとその結果を忠実に記載した報告書を提出するサービスであり保証するものではないので「保証業務」に該当しない。ただし、米国公認会計士協会では証明基準(attestation standards)を設定し「合意した手続き」を含む。

通常は、次のようなケースで行われている。誤解を避けるため、報告書には監査(audit)の用語は使用できない。
■比較的小さな規模の連結子会社の財務諸表の監査で、在庫、売掛金、法人税等など主要科目など特定の科目に絞ってチェックを依頼をする場合
■特許使用料(Royalty)が契約書の通り計算されているかどうか検証して欲しい場合(技術使用契約書に支払うロイヤリティ金額の計算チェックを会計士が行う旨規定している場合)
■70年代に、カラーTVのダンピング容疑に反論して日本メーカー各社は、米国商務省に対してカラーTV1台当たりの適正総原価を10年間開示した際に、会計士に米国基準にしたがったこの検証報告書を添付して提出した。
■特定の科目・項目・内容に絞ってチェックを依頼をする場合・・例えば、日本でも証券会社の信頼性を確保するため、平成15年から「証券会社における顧客資産の分別保管」に関する検証業務に「合意した手続き」が適用される場合がある。

日本道路公団のケースでは、公団の財務諸表検討委員会(委員名簿等・・委員長加古早大教授、現企業会計審議会会長)が作成した財務諸表の作成方法にしたがって作成されか計算方法や手続きのみを検証し報告するものである。したがって、財務諸表作成基準そのものの妥当性については言及しないサービスであることは注意を要するところである。報道によれば、受注した新日本監査法人は8月29日予想された通りの報告書を提出した模様。

日本には「合意した手続き(Ageed-Upon Procedures)」に関する基準は存在しない。理由は、監査基準の設定主体は金融庁の企業会計審議会にあり、証券取引法の枠でのみ基準を作成しているため(金融庁と言う行政の視点でしか基準を作成していない)、その必要性を理解していないからであると言える。会計士の業務は、上場会社の財務諸表監査(証券取引法)の枠の中だけではないにも拘らず、日本では旧態依然として証券取引法の枠で基準つくりをしているのである。

日本公認会計士協会がガイドライン公表(平成15年7月22日付)
日本公認会計士協会は、上記日本道路公団の「合意した手続き(Agreed-Upon Procedures)」に合わせたかのようにガイドライン「法規委員会研究報告第3号 監査及びレビュー等関連業務の契約書作成について 」を平成15年7月22日付で公表している。

日本特有の中間監査基準公表(02年12月6日)

金融庁の企業会計審議会は第二部会が検討していた中間監査基準を纏め、2002年12月6日、「中間監査基準の改訂に関する意見書」を公表した。企業会計審議会の意見書の公表について 参照

中間監査基準を検討していた企業会計審議会第ニ部会の議事録を見ると日本特有の基準であることを認識しその正当性について疑問を残したまま、事務局である金融庁と会長の独断の論理で基準を作成していることがよく分かる。企業会計審議会第二部会議事録 参照

2002年6月27日東京証券取引所は「四半期財務情報の開示に関するアクション・プログラム本文pdf)を公表した。遅くとも、2003年4月以降に開始する事業年度から適用を計画している。

ただし、中間監査基準の改定を審議している企業会計審議会の第29回第二部会(平成14年5月24日(金)開催)の議事録を見ると、金融庁に四半期報告書の開示義務付けの意向は感じられない。以下は、金融庁の認識が分かる発言の抜粋です。当局では、金融ビッグバンの趣旨は胡散霧消しているようです。詳細は、議事録を参照してください。

委員発言 :日本の中間財務諸表を英文に直したときに、中間監査報告書というのを英文に直す際にレビューレポートになっているというふうにうかがうんです。あるいはレビューレポートがつかない場合にはアンオーディットだということが中間財務諸表の英文のものには記載されているという実務が行われている中にあって、今回の中間監査の改訂によって、その英文に直したものがアンオーディテットなのか、それともオーディテットというふうになるのか、中間監査報告書は中間監査報告書として、監査証明の一つとして英文に訳されるのかどうか、これ非常に重要な点ではないと思うので伺っているんですけれども、この点も含めて修正案でのご提案というのはそのあたりに対してどういうご判断なんでしょうか。

金融庁課長補佐発言:「レビューについては、海外でどうなっているかというのも、私どもわかりませんし」云々、(以下省略)

会長発言 :この中間監査というのは日本独自のものであるならば、事実あるわけですけれども、むしろ日本が積極的にそれについてのはっきりとした基準をつくって、そして世界に発信するというような、そういうような意気込みを持ってやるちょうどいいチャンスじゃないかと思うんですけれどもいかがなものでしょうか。

インターネットを通じ瞬時に情報が世界に伝わる時代、会計・監査の世界では世界が一つになろうとしているとき、なぜ世界の潮流を見ずに日本独自の制度をつくろうとするのだろうか?

2005年6月28日金融庁・金融審議会金融分科会第一部会は、「ディスクロージャー・ワーキンググループ報告ー今後の開示制度のあり方についてー」を公表し、四半期開示制度を導入することを明らかにした。現在、企業会計審議会監査部会で四半期開示を想定してリビューの基準を検討しており、いずれ日本特有な中間監査基準は廃止されよう。

2005年7月20日企業会計審議会監査部会は、「監査基準及び中間監査基準の改訂並びに監査に関する品質管理基準の設定について(公開草案)」を公表し中間監査基準(案)を公表した。上記「工程表」には「必要に応じて四半期開示に係るレビュー等の検証の基準について企業会計審議会において検討を開始」とあるが、用語は「中間監査」とあり「レビュー」ではない。内容も、「4 監査人は、中間監査に自己の意見を形成するに足る合理的な基礎を得るために、経営者が提示する中間財務諸表の記載事項に対して監査要点を設定し、これらに適合した十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならない。」とあり、監査そのものである。「平成18年9月に終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施する。」とあり、四半期開示の用語も無く、かつ、レビューの用語も無いことから、従来の半期報告書の中間監査基準の改定のようである。紛らわしい改定である。

税法と会計

税法は租税原則を基礎に法定される。租税原則として有名なのは、アダム・スミスの租税原則で、1776年「国富論」(In Chapter II of Book V)のなかで、次の原則を打ち立てました。
@ 公平の原則(各人民は各自の能力にできるだけ比例して納税すべきである)
A 明確の原則(租税は、その支払時期、金額、方法が明確でなければならない)
B 便宜の原則(納税の方法や時期は、納税者にとって便利でなければならない)
C 最小徴税費の原則(徴税費はなるべく小額でなければならない)
という4つの租税原則です(田中二郎著「租税法」有斐閣)。200年を超えて現在でも有効な原則です。

その後、資本主義の発展に伴い租税を利用した租税政策(投資促進税制、パソコン減税など)が加わりました。 課税の公平及び明確の原則により、通常、税法は現代会計の適正表示のための見積り計算を即時には認めず、より客観的な証拠を入手した時点で証拠を基礎に損金算入を認める。会計と税法との費用・損金等(または収益・益金等)の認識時点の相違を調整する会計として「税効果会計」が行われます。

説明責任(Accountability)とスチワードシップ(Stewardship受託管理責任)

アカウンタビリティ(Accountability)とは、説明責任と翻訳されるようになりました。説明責任は、経営者が投資家等に説明する責任です。説明すればその責任は遂行したことになります。つまり、単に情報開示をしたり質問に答えたりすればその責任は全うされたことになります。

一方、スチワードシップ(Stewardship)は、スチワード(Steward 執事)の仕事が、ご主人の財産管理を行い、その説明責任に加えて、ご主人の財産管理を効果的に効率的に行う責任をいいます。つまり、受託管理責任を意味します。

企業にあっては、マネジメントは経営者に対してスチワードシップを負っているとして、米国企業では、マネジメントに企業の資源を効果的・効率的に活用し利益を最大化する受託管理責任(スチワードシップ)を明文で求めているところもあります。

最も明確にスチワードシップを求めているのは、行政です。ご主人である国民に対して行政は、スチワードシップを発揮しなければならないことを、米国連邦政府の行政及び財政改革の中で明示しています。(「米国連邦政府の会計基準」参照)

説明責任より一歩踏み込んだスチワードシップが、巨額な赤字財政となった日本の財政を担う人たちに望まれるところです。

会計士の数の日米比較

2005年3月末で、日本の公認会計士は約15千人、会計士補が約5千人合計2万人である。他の国と比べて少ない、経済力を加味すると極端に少ない。そのほとんどが監査法人ないし独立した会計士である。(日本公認会計士協会会員数・日本公認会計士協会調べ 参照)
公認会計士試験は金融庁(旧大蔵省)が行ってきましたが、2004年4月から金融庁所管の公認会計士・監査審査会が行うことになりました。

米国公認会計士協会(AICPA)の年次報告書(下記参照)によると、米国公認会計士の数は、1999年末で33万人である。33万人のうち、13万人(39.5%)が会計事務所で就業または独立している。残る60.5%は企業、教育、政府部門等に就業している。企業等では、内部監査、コントローラー、CFOその他に従事し、内部統制の整備・充実、コンピュータ・システム構築、税務など多岐に渡って貢献している。
米国公認会計士統一試験は、AICPAが行い、2004年4月よりコンピュータを使用して行う。紙と鉛筆の試験は2003年11月が最後でした。

米国公認会計士の統計
1987 1991 1995 1999 2000 2001 2003
Total AICPA Membership
(excluding student and other affiliates)
米国公認会計士協会会員合計
(学生及びその他関係者を除く)
254,910 301,410 323,779 336,635
337,454
336,081
335,111

Public Accounting 会計事務所に従事 47.60% 43.20% 40.70% 39.50% 39.4% 38.9% 38.4%
Business & Industry 企業 39.50% 40.70% 41.70% 46.20% 46.4% 46.6% 47.4%
Education 教育界 2.80% 2.80% 2.40% 2.40% 2.3% 2.3% 2.4%
Government 政府 3.40% 3.90% 4.40% 4.30% 4.2% 4.1% 4.1%
Retired & Miscellaneous 退職その他 6.70% 9.40% 10.90% 7.60% 7.7% 8.1% 7.7%









Membership in Public Practice 会計事務所に従事している会員 121,349 130,078 131,887 133,036
132,943
130,870
128,730
Firms with one member 個人事務所 25.60% 24.10% 23.20% 22.80% 21.8% 21.6% 21.4%
Firms with 2 to 9 members 会員2人から9人の事務所 34.00% 35.20% 36.50% 34.70% 34.1% 34.1% 34.1%
Firms with 10 or more members,
except the 25 largest firms
会員10人以上25人未満の事務所 15.50% 18.80% 20.40% 21.60% 22.8% 22.8% 24.5%
25 largest firms 会員25人以上の大型事務所 24.90% 21.90% 19.90% 20.90% 21.3% 21.5% 20.0%
会計士の約60%が企業、政府、教育界で従事し、残る約40%に満たない会計士が大・中・小の会計事務所に均等に従事していることである。日本側から見ると進出している大型の米国系会計事務所のみが見えるが、米国国内では会員25名以上の大型事務所は21%とグローバル企業の割合に対応している。つまり、顧客である企業の規模(大中小)に対応して会計事務所も大中小に均衡して存在しているのである。

日本は米国系の巨大事務所に対抗すべく監査法人化しかつ合併を通じて巨大化を進めてきた。米国系のビッグファイブ会計事務所は世界規模で8万から10万人を擁する規模の巨大化だけでなく、教育・品質管理は世界規模に及ぶ。現に、私の在籍した米系巨大事務所(国内数十ヶ所、世界で数百ヶ所の事務所一つの事務所のケース)には、毎年5人のトレイニー(Trainee)が各国から向い入れ、逆に同じだけの人数を各国の事務所に一人ずつ送り出していた。トレイニーは、赴任数日後には監査チームに入り監査実務に従事する。受入事務所は、現地の皆と同じ能力評価及び教育を行う。トレイニーは、既に会計基準及び監査基準がに習熟し本国で実務経験を持った将来を嘱望される人たちである。言語、習慣、制度の異なる人たちとの仕事は相互の理解に非常に役立つ。こうして、監査実務を通じて各国の制度を身を持って体験し習得する仕組みを持っている。巨大事務所は教育機関となっており、大量に採用し大量に卒業しているため、上記統計に見るように巨大事務所に偏在しないのである。

米国労働省労働統計によれば、2004年に会計及び監査(Accountants and Auditors)に従事している者は、無資格者を含めて1.2百万人としている。

欧米においての会計に関する就業状況(Accounting jobs)は、内部統制上、担当者の責任と権限を分離(segregation of duties)することもあって、会計の内容と就業者は多岐に渡る。最高財務責任者(CFO)、コントローラー(Controller)、会計取締役(Director of accounting)、内部監査人(Internal auditor)、簿記係り(Bookkeeper)、税務会計係り(Tax accountant)、買掛金係長(Accounts payable supervisor)、売掛金係り(Accounts receivable clerk)、与信課長(Credit manager)、給与担当係り(Payroll clerk)、原価計算係り(Cost accountant)など、求人側は、経理の具体的な仕事内容によって募集する。
求人側は、ポジション(Title)、行ってもらう具体的仕事内容を「Job description」または「Duties & Responsibilties」、必要な資格や経験(Requirement or Experience)などを明らかにする。日本のように単に「経理募集」として求人することはない。(「欧米の経理担当募集サーチ」「サンフランシスコ・港地域の経理募集」「英国の経理担当者募集サーチ」参照)

公認会計士監査制度の充実・強化平成14年12月17日
2002年12月17日、金融庁・金融審議会公認会計士制度部会は、「公認会計士監査制度の充実・強化」と題する報告書を突如公表した。同日、SECはサーベンス・オクスリー法に関する外国監査法人や外国企業の監査委員会の独立性等に関して円卓会議(公聴会)が開かれ、日本はこの「公認会計士監査制度の充実・強化」を理由に免除を求めている。(SEC速報 12月17日のSEC円卓会議生放送  参照)

なお、金融審議会の報告書は、公認会計士の数に関しては次のように述べている。
C 試験制度の見直し
・社会人を含めた多様な人材にとっても受験しやすい制度として いくこと、一定の要件を満たす実務経験者などに対して試験科目 の一部を免除すること、専門的人材育成の教育課程との連携を図 ること
・平成30年頃までに公認会計士の総数を5万人程度の規模と見込み、年間2000名から3000名が新たな試験合格者となる ことを目指し、行政が試験制度を運営すべきであることなど
D 監視・監督の充実・強化
・「自主規制」として公認会計士協会が現在行っている「品質管 理レビュー」を行政がモニターすること
・公認会計士監査制度における行政のあり方は、資本市場全体の 監視・監督のあり方との関係の中で、引き続き検討することが必 要不可欠であることなど
(参考) 昨年度最終(第三次試験)合格者数710名 10月末での公認会計士登録者数14318名

詳細は以下の12月17日の金融庁・金融審議会公認会計士制度部会の報告書参照;
公認会計士監査制度の充実・強化(公認会計士制度部会報告:概要)(PDF:5KB)
公認会計士監査制度の充実・強化(公認会計士制度部会報告)(PDF:162KB)
公認会計士制度の概要(PDF:292KB)

公認会計士監査制度の改革についての金融庁としての考え方(金融庁 2003年2月3日)
公認会計士監査制度の改革についての金融庁としての考え方(PDF:9KB)
・ 新たな公認会計士試験制度等のしくみ(PDF:7KB)

ちなみに、米国公認会計士統一試験は、2004年4月よりコンピュータを使用して行う。紙と鉛筆の試験は2003年11月が最後。
中国の公認会計士13万人(?)
人民網日本語版」2002年11月20日は、「会計市場を一層拡大 項懐誠部長発言」と題した記事の中で、次のように伝えている。
「2001年末時点で、中国公認会計士協会に登録された公認会計士は13万人。そのうち業務執行会員は約5万人、非業務執行会員は約7万人で、会計士事務所は4300カ所余りに上る。公認会計士は中国で最も人気のある職業の一つで、毎年の全国公認会計士統一試験の受験者は60万人以上に達する。」
出展:http://fpj.peopledaily.com.cn/2002/11/20/jp20021120_23495.html
チャイナゲート・コム」では、外国人にも受験でき、1997年末で13万3千人のCPAがいることになっている。

アジア開発銀行が纏めた「中国における財務管理およびガバナンス」の「第3章専門家インフラストラクチャー」には、中国公認会計士協会(CICPA、the Chinese Institute of Certified Public Accountants、1988年創設)の歴史、制度、現状などが紹介されており、1999年12月31日現在で約13万5千人(会計事務所実務家6万人、会社等就業者7万5千人)の個人と4800の会計事務所がCICPAのメンバーとなっており、2010年までに個人の会計士は20万人になると予測している。

中国日本商工会 調査委員会 「会計について(2004)」によれば、「2003年12月現在124,000人の会員がおりそのうち58,000人が会計士業務に従事する会員であり、残りの66,000は会計士業務に従事しない会員である。また、6,700の法人会員がいる。人口および面積に大きな開きがあるため単純比較は意味の無いことでは有るがざっと日本の公認会計士の8倍の会員数を有している」、としている。

参考ホームページ:
アジア開発銀行が纏めた「中国における財務管理およびガバナンス」の「第3章専門家インフラストラクチャー」には中国公認会計士協会(CICPA、the Chinese Institute of Certified Public Accountants)の歴史、制度、現状などが紹介されており、約13万5千人の個人と4800の会計事務所がCICPAのメンバーとなっている、としている。
中国公認会計士協会(the Chinese Institute of Certified Public Accountants)・・・CICPA憲章(1996年)
中国の会計士協会および関連組織のホームページ・リンク集・・・(香港会計士協会のホームページより)
中国公認会計士の歴史を記述しているサイト(2002年11月)・・・(Lipsher会計師事務所のホームページより)
Lipsher会計師事務所の記述では「2001年11月末、4,547の会計事務所に55,898人のCPAが働いていた」とし「あと30万人は必要とされている」としている。2000年に62万人、2001年に67万人がCPAの試験を受けていると言うのには驚かされる。質や経験不足も問題となっているようだが急速に拡大している様子が覗える。
注册会計師(日本の公認会計士にあたる)試験の合格体験記(2003年)」・・杏林大学に留学の中国人学生の合格体験記
中国会計士協会会長、国際化適応へ会計士の育成急ぐ

 【ブリュッセル=田村篤士】中国の会計士団体の中国公認会計士協会の劉仲藜会長は2005年4月4日、ブリュッセルで講演し、「会計監査の国際化に適応するために専門性を持った会計士の育成を急ぐ」と述べた。また会計士協会の自主規制機能の強化に取り組み、会計士の独立性を高めることも強調した。

 劉会長は「中国の会計や監査の水準を国際基準に近づけることが中国市場の国際化につながる」と指摘。国際感覚を持った人材を増やすため、会計士の資格試験や教育システムを見直す考えを示した。

 中国は国営の会計専門学校をつくるなど独自の育成プログラムで知られ、同協会は個人会員が13万人強。劉会長は具体的な目標値には言及しなかったが、「会計の国際化に対応できる管理能力や強い専門性を持つ人材を増やす」と話した。一方、中国の資本市場の信頼感の向上には会計監査の質の向上が欠かせないとしたうえで、「協会としても会員の監査活動のチェックや処罰など自主規制機能を強化する」と話した。
日本経済新聞2005年4月4日(12:00)の記事より

劉仲藜会長Zhongli Liu, President, Chinese Institute of Certified Public Accountants and former Finance Minister of China)は、2005年4月4-5日英国勅許会計士協会(ICAEW)の125回記念コンファレンスから招待され、ブラッセルで、「グローバルな資本市場:ビジネス、政府および専門職の挑戦」と題して行われた。各国、国際機関から錚々たる人物が出席しスピーチしており、日本からは金融庁の式部透氏(Toru Shikibu, Deputy-Commissioner, Japanese Financial Services Agencyが日本の従来からの主張を繰り返した(金融庁主張の全文 ロイターニュース 参照)。次回はロンドン、香港、最後にニューヨークで開催するとしている。なお、香港は2005年1月から若干の差を残して国際会計基準に収斂するとしている。5日には、EUの市場担当コミッショナーとなったチャーリー・マクリービーがスピーチしている(スピーチ 参照)。


参考:主要国の会計士の数
人口 会計士協会等 会計士の数 上場会社数
日本 127百万人 日本公認会計士協会・・・・・・公認会計士 2005年12月末現在 16,245 4,245
米国 298百万人
人口時計
米国公認会計士協会
American Institute of Certified Public Accountants・・2003年度末現在
335,111 5,295
英国 59百万人 Institute of Chartered Accountants in England and Wales 勅許会計士
Institute of Chartered Accountants of Scotland       勅許会計士
 -------
 合計 イングランド・ウエールズは2003年、スコットランドは2002年
125,642
15,166
--------
140,808
2,311
アイルランド 3.9百万人 Institute of Chartered Accountants in Ireland (ICAI) 13,000 55
2004年11月に議会の承認後、EUの新市場担当コミッショナーとなるチャーリー・マクリービー氏(Charlie McCreevy)はアイルランド勅許会計士出身の政治家で財務大臣。(EU速報 EU速報・ティームメンバー ICAI速報 参照)
カナダ 30百万人 Canadian Institute of Chartered Accountants(2002年のデータ) 68,000 1,340
ドイツ 82百万人 Wirtschaftsprufer(Statutory auditor 経済監査士・上場会社監査人)
Wirtschaftspruferkammer,WPK(経済監査士会・公共会計士会)に
よると2004年度では、メンバーは19,000人弱となっている。
約19,000
660
フランス 59百万人 OEC (2003)・・Experts Comptables 専門会計士
CNCC (2003)・・Commissaires aux comptes 会計監査人
すべての法定監査人はCNCCに登録することが義務付けられている。
したがって、OECとCNCCは重複登録されている。
17,464
18,470
1,046
フランスの出展は、国際会計士連盟(IFAC)の60カ国超の調査結果「各国会計士団体からの報告書(2003年)」より
欧州会計士連盟
FEE
540百万人 FEEは欧州29カ国41会計士団体から構成される欧州連合の団体。
会計士の約45%が会計事務所で、55%が産業界等に従事しているとしている。
500,000 7,000
中国 1,275百万人 CICPA、the Chinese Institute of Certified Public Accountants
1999年12月31日現在の中国の公認会計士の人数です。
135,652 1,285
上記、上場会社の数は、取引所世界連盟(World Federation of Exchanges)の外国会社を除き国内会社の数値を引用した(2003年のデータを使用)。ただし、日本は東証、大証にジャスダックを加え、重複上場は差し引いていない。米国は、ニューヨーク証券取引所、アメックスにナスダックを加えたもの。フランスは、ユーロネクストの数値を使っておりベルギー、オランダが含まれている。
会計士の数を、上場会社の数で割ってみるといかに日本の会計士の数が少ないかお分かりいただけるのではないでしょうか。
会計士の数 上場会社の数
国内会社のみ
上場会社1社あたり
会計士の数
(A) (B) (A)/(B)
日本 16,245 4,245 3.82人 ←極端に少ない
証券取引法適用会社を含む、商法特例会社の監査対象大会社は10,084社とすると1社当たり1.61人の会計士となる。
欧米が連結財務諸表ひとつに監査報告書を作成するのに対し、日本は、会社法の@個別計算書類、A連結計算書類、
証券取引法の@個別財務諸表、A連結財務諸表の四つの監査報告書を作成する必要がある。重複開示による重複作業が多い。
米国 335,111 5,295 63.29人
英国 140,808 2,311 60.92人
ドイツ 約19,000 660 28.78人
フランス 18,470 1.046 17.65人 ユーロネクストの上場数はベルギー、オランダ含む
欧州連合 500,000 7,000 71.42人
中国 135,652 1,285 105.56人
上記の分析は、監査時間の不足を指摘されている日本の現状を示しているものと言えよう。日本の監査が信頼されるためにも人員の確保は不可欠だ。また、近年国際的な批判に対抗するため国際的な人材を求める声が多いが、「数も力なり」人員の確保なくしては困難である。

金融庁の公認会計士監査制度の充実・強化計画では、「平成30年(2018年)頃までに公認会計士の総数が5万人程度の規模となることを見込としていますが、5万人現在の上場会社の数4,245で割っても上場会社1社あたり11.77人しかなく現在のドイツの約半分ですし、現在のフランスより少ない。5万人とする根拠は明らかにされていない。会計・監査のビジョンさえ明らかではなく、金融庁には「プロフェッショナル・インフラストラクチャー(Professional Infrastructure)」という概念は持ち合わせていないようである。(金融庁「公認会計士・監査審査会」参照)

会計基準や監査基準(内部統制)が書面で整備されても、それを機能させるプロフェッショナルの存在(インフラ)が無ければ効果的に機能しない。プロフェッショナル・インフラストラクチャーとは、制度を効果的に機能させるための専門家のインフラである。独立監査人の会計士に限らず、財務報告作成者側の企業にも会計士がいることで財務報告の正確性・信頼性が促進される。特に高度化・国際化する会計の世界には、企業側の作成者や内部監査人、取締役会の監査委員会委員に会計士が就任することは必要なインフラと考えられている。

コーポレート・ガバナンスなどで「ベスト・プラクティス(Best Practices 最良の実務)を導入し従っている」などとされる場合、ベスト・プラクティスは、実務の中のプロフェッショナル・インフラストラクチャーからより良いものが生まれてくる。

一方、金融庁は、2004年8月26日、「平成17年度機構・定員及び予算要求」によれば、体制整備を早急に図る必要があるとして、200人増員予算要求し1400人体制とするとしている。また、同日、「公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方」(案)」が公表された。官による管理体制のみが強化される。
公認会計士の監査を監視する金融庁の「公認会計士・監査審査会」 参照。
2004年12月24日の金融庁「金融庁の平成17年度機構・定員及び予算について」によると、109名増員して平成17年度末で総員1,294名(証券取引等監視委員会および公認会計士・監査審査会を含む)としている。

2005年2月9日、金融庁公認会計士・監査審査会は、「品質管理レビューの一層の機能向上に向けてー日本公認会計士協会による品質管理レビューの実態把握及び提言-」を公表した。
提言を見ると、日本公認会計士協会の平成15年度の「品質管理レビューチーム」は7名(延べ1,021日参考資料参照)、一方、金融庁の公認会計士・審査会の「品質管理リビュー」の審理の事務局約10名公認会計士・監査審査会の会長含めて委員10名の合計約20名というように審理・審査の陣容のほうが大きいのには驚かされる。
提言では、「求められる対応・・品質管理レビュー制度導入時の平成11 年度において6名体制であったレビューアーが、段階的に増員されて平成16 年度は10 名体制となったとはいえ、依然として十分な人的資源を確保していると評価することが困難な状況が継続している。今後の品質管理レビューを実施する体制強化が不可欠である。協会で設けられるレビューチームの人員の増員強化を今後継続して図ることが必要である。」としている。

2005年9月16日日本公認会計士協会は、カネボウの粉飾決算に関与したとして監査法人の公認会計士が逮捕された問題で、監査の質をチェックする担当者の増員などを柱とした再発防止策をまとめた。具体的には、「レビューアー」と呼ばれる監査の品質管理の担当者を現在の10人から20人に倍増する。企業の情報システムの高度化を踏まえ、情報技術(IT)の専門家を新たに登用する。2005年9月17日3時5分  読売新聞

民間で会計基準作り

『2000年3月27日、日本公認会計士協会と経団連は、会計基準の設定主体となる民間機関を設立することを明らかにした。企業会計審議会から独立色の強い機関に権限を移し、基準つくりの透明性も高めることで、日本の会計制度に対する国際的な信頼を回復するのが狙い。大蔵省もすでに新機関への権限委譲を大筋で了承。5月中旬をメドに組織の概要を固め、早ければ2000年度中にも発足させる方針。

新機関の設立合意を受けて、自民党金融問題調査会は、28日に企業会計小委員会を開き、法制面の整備について検討を始める。会計基準設定権限が金融庁にあることを法律に明記したうえで、民間への権限委譲を可能にする方向。』と、28日、日経は報道した。

2000年5月24日、国際会計基準委員会(IASC)の理事会で、各国の会計基準設定機関から理事会のメンバーとして迎え、新たな組織で運営しようとしている。日本は、この新たな体制作りに唯一参加できない仕組みであった。対処療法として、取り合えづ5月中旬までに組織作りの概要を固め、IASC理事会メンバーの切符を取ろうとしているようだ(「国際会計基準」参照)。ドイツが、1998年5月に民間に移して既に活動していることを考えると、日本は2年遅れている。政・財・官・学・マスコミの遅れは目を覆いたいほどである。

1998年12月、IASCは新たな組織作り案を公表し、理事会メンバーの選出方法及び日程も公表していた(ホームページ上にも公表中であった)。日本を除く先進国及び中国はそのIASC体制に応えられるようになっていた。日本は、発車寸前の電車に飛び乗ろうとしているのだ!検討する時間的な余裕は十分あった。何ゆえ遅れたのかが問題である。

企業会計基準設定主体のあり方に関する懇談会(大蔵省)

企業会計基準設定主体のあり方に関する懇談会(大蔵省金融企画局市場課参事官室)
2000年4月11日、日本公認会計士協会の「わが国の会計基準設定主体のあり方について(骨子)」を受けて、大蔵省は「企業会計基準設定主体のあり方に関する懇談会」を設置し、日本証券業協会副会長、東京証券取引所副理事長、日本公認会計士協会会長、経済団体連合会常務理事、大蔵省金融企画局長、高千穂商科大学教授(企業会計審議会会長)の6名のメンバーで検討している。
検討している内容は、7月以後は総理府金融庁市場課企業開示参事官室担当の議事録が公表されているのでご覧戴きたい。
議事録によると、6月5日までに懇談会は4回開催されているが、1回の会議が1時間半から2時間の討議で、議事録要旨には発言者名が不明、結論がない。国の権限を如何に留保するか腐心しているような発言がある。
自民党の「企業会計に関する小委員会」がまとめた「企業会計基準設定主体の充実・強化に向けて(案)」や、日本公認会計士協会がまとめた「わが国の会計基準設定主体のあり方について(骨子)」があるにもかかわらず、議事録を見る限り、遅々として進んでいない。

2001年2月28日経団連、日本公認会計士協会、全国証券取引所協議会、日本証券業協会、全国銀行協会、生命保険協会、日本損害保険協会、日本商工会議所、日本証券アナリスト協会、企業財務制度研究会など10団体が出資して「財務会計基準機構」(仮称)を7月に設立し、下部組織の「会計基準委員会(ASB)」が会計基準の設定について全権をもつとし、米国FASB型の会計基準設定主体を模したものになる。設立準備委員会の設置を公表(ロイター、日本経済新聞、毎日新聞が報道)。政府出資を見送ったことが注目に値する。それだけに責任が重くなろう。

2001年7月26日、金融庁所管の公益法人として、財団法人 財務会計基準機構(FASF)の設立認可を受け、企業会計基準委員会(ASB)を8月7日正式に発足した。 国際会計基準審議会(IASB)へ英文で報告したものは、Japanese Accounting Standards Board, ASBJ (日本会計基準審議会)となって「企業」の文字を抜いており英文とは一致していない。 

日本は、国際会計基準審議会(IASB)のリエゾン・メンバー国7カ国の1カ国として(「各国の会計基準設定主体の連絡役(Liaison)として審議会(Board)メンバーとなっている7カ国プラス1・ニュージーランド」参照)、日本だけが取残されていたがようやく8月10日リンクされ形だけは整った。
欧州連合は2005年から国際会計基準を適用、オーストラリア・ニュージーランドも欧州と同時期に国際会計基準の適用を表明、カナダ証券監督局は2002年6月に国際会計基準を適用する規則改正案を公表した。リエゾン・メンバー国では日本だけが国際基準の適用を表明していない唯一の国となる。「GAAP Convergence 2002」参照
リエゾン・メンバー国 会計基準設定主体名 国際会計基準
適用の有無
オーストラリアおよび Australian Accounting Standards Board (AASB) 2005年適用
ニュージーランド Financial Reporting Standards Board (FRSB) 2005年適用可、2007年適用
カナダ Accounting Standards Board (AcSB) 2002年6月IAS適用
するための規則改正案公表
フランス Conseil Nationale de la Comptabilite (CNC) 2005年適用
ドイツ German Accounting Standards Committee (DRSC) 2005年適用
日本 Accounting Standards Board (ASBJ) 適用しない
英国 Accounting Standards Board (ASB) 2005年適用
米国 Financial Accounting Standards Board (FASB) 国際会計基準審議会IASB
と共同作業で調和を志向
FAF2001年度年次報告書」、2001年の活動報告とFAS No.117号「非営利組織の財務諸表」
による財務報告が行われています。FAF(財務会計財団)は、FASBとGASBの運営法人。
FAFはデラウエア州一般会社法で設立し税法501(c)(3)の非営利組織として取扱われている。
米国では、非営利組織(NPO)は税法で規定され歳入庁(IRS)で管理される。NPO税制参照
その他の国の会計基準設定主体 備考
韓国 Korea Accounting Standards Board (KASB)
中小企業連盟もメンバーとなっており、かつ、
非営利組織(NPO)の会計基準も設定する
2000年10月、神戸国際コンファレンス・
センターでのスピーチ「韓国の会計改革
は、減損会計の適用、個別財務諸表への
持分法適用、誤謬の訂正で遡及修正の適用
、貸倒引当金の引当は将来の回収額を基礎
とするなど改革内容は日本に先行している。
2001年3月から、1号「会計処理の変更及び誤謬の訂正」、
2号「中間財務諸表」、3号「無形固定資産」、4号「収益の認識」、
5号「有形固定資産」、6号「後発事象」、7号「財務費用の資本化」、
2002年1月から、8号「有価証券」、9号「転換証券」に関する
会計基準を精力的に設定。簡潔なHPとなっている。
1997年12月の「金融危機が韓国会計制度に与えた影響」は、
99年6月の韓国会計協会KAI(KASBの母体)創設を必要
とした。構造改革に迫られている日本にとっても参考となろう。
マレーシア Malaysian Accounting Standards Board (MASB)
IAS26号「退職給付制度の会計と報告」と
類似の基準草案34号を02年2月公表
1997年に財務報告法成立と同時にMASBを創設。
以来、1号「財務諸表の表示」、2号「たな卸資産」などIASに
沿ったテーマで29号まで公表。簡潔なHPとなっている。
シンガポール 2001年9月、「開示及び会計基準委員会報告書」を公表し、@独立の会計基準設定主体を設立し
シンガポールの会計基準を設定すること、A2003年1月1日以後開始する事業年度より国際会計基準
を適用すること、B2003年1月1日以後開始する事業年度より、四半期報告書(非監査)の開示など
22項目にわたって提言している。(シンガポール財務省 参照)
中国 中国の会計改革のコンサルティングをしているデロイト・トゥシュ・トーマツが紹介しているHPによると、
中国は急速に国際会計基準に準拠した会計基準に進行している。@2001年12月、中国証券監督委員会
(CSRC)は国内株のA株にも新たに株式公開した場合は、国際会計基準による開示を求め、A上場会社には
2001年1月1日以後、四半期報告書の開示を求めている。(IAS Plus 参照)
アジア開発銀行が纏めた「中国の会計とガバナンス問題」の「中国の会計基準・監査基準」の項が参考となる。
石川純治駒沢大学教授の書評「婁爾行と中国会計研究の歩み」は中国会計学会の創設者のひとりを
紹介し中国会計史を知る上で貴重な資料を提供している。
香港 香港取引所・・成長企業市場(GEM)では、香港会計基準、IASまたは米国会計基準の内いずれかを
継続して適用した財務情報の開示を要求している。(GEM上場規則18参照)
欧州 2001年6月26日、欧州財務報告助言グループ(European Financial Reporting Advisory Group, EFRAG)
は、欧州委員会の要請により2005年までに欧州のすべての上場会社にIAS適用のため、技術専門家集団
(Technical Expert Group)を結成し、実務対応に向けて動き出した。(詳細は「欧州委員会の動向」参照)
2002年5月28日、欧州委員会は欧州議会に対して会計指令法案を提出した。これは、国際会計基準に
収斂させるもので、欧州の非上場会社5百万社に影響するとしている。(法案本文参照)


むすび

日本の会計の特徴に示したとおり、理論的整合性に欠け複雑で選択肢の多いことは、会計に対する信頼性を著しく損ない、いつしか会計に対するモラルの欠如に結びついている。欧米の人からの質問は規則等の準拠性が多いのに比べ、日本人からはどうしたら抜け道があるかを聞かれることが多い。同一の規定であっても正反対の反応を示すことが多い。日本が政策等で歪んだ規定を作成し抜け道を作ることと全く無関係ではないようである。

1999年2月26日、経済戦略会議が最終報告を小渕首相に手渡した。その中に「会計制度のグローバルスタンダードに合致した制度設計が必要。」と記載された。一方、会計を取り巻く世界情勢を見ると,国際会計基準は1998年末にコア・スタンダードを暫定的に完成させ証券監督者国際機構(IOSCO)の承認を待つ状況にきている。欧州を見ると,2002年までに欧州統一証券取引所構想が現実に動き出した。当然のこととして統一証券取引所が認める財務諸表(会計基準)を決めることになるだろう。また、国際会計基準委員会が組織改革に乗り出し,各国の会計基準設定機関からメンバーを入れて各国の会計基準との調整と、より実行性の高い会計基準の設定を目論んでいる。フランスおよびドイツは1997年までに会計基準設定機関を独立性が高く中立的な民間に移し体制を整えてしまった。先進国の中で日本のみが蚊帳の外にある状況である(国際会計基準委員会の将来像参照)。

会計基準を分かりやすくするためには、商法、証券取引法、税法の「三すくみ」の状態から脱却し、会計規定の重複を避け、「会計基準」は特定の法律からは独立して設定することです。国際会計基準のように独立して設定し、経済環境に即して機動的に対応できる仕組みとしておくことです。

投資家及び潜在的投資家にとっても、財務情報を読める環境の整備と、財務情報の作成基準である会計基準を分かりやすくしておくことが必要です。その最低条件は、会計基準の設定主体が独立した機関で理論的整合性を持った分かりやすい会計基準を設定することです。分かりやすい会計基準とは、投資家(潜在投資家を含む)、財務諸表作成者、会計監査人、証券アナリスト、マスコミ、市場関係者、その他興味を持った人に分かりやすくなっていることが、理解を得る近道です。パズルのような会計基準を、何とかすべき時期が来ています。

具体的には、商法および証券取引法は、財務情報に関しては、独立した「会計基準に準拠する」規定にとどめればよいことです。 税法は、会計処理を条件として企業会計を歪めている各種引当金および準備金を、「損金経理を条件としない」ようにすればよいことです。

変化の激しい経済を取扱う会計基準を法律にしておくと、適時・適切で機動的な対応が妨げられ、投資家の保護は名ばかりのものとなって実効性がありません。

PS;2002年10月、日本経済新聞の記者磯山友幸氏が「国際会計基準戦争」と題する著書を出版しました。現場を取材した視点から日本の会計がなぜ遅れたのかを探っています。最近の日本の会計制度を決めている現場を実名で活写しており貴重な資料となっています。真渕勝京都大教授の書評 参照


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