第四章 そして不都合が生じた
第2節 発端(その2)…特例が続出した

   カンマを伴う分詞句を、副詞要素的機能を果たす《分詞構文》とは読めないことが余りにも多かったのである。(日本の学校英文法の世界では《分詞構文》をめぐって、その形態、その機能、その「日本語への言い換え」などの点でどのような了解が成立しているかは既に第一章第2節 《分詞構文》という了解の中で述べた。)

   とりわけ、カンマを伴い、文末([1−11]参照)に位置する-ed分詞句の場合に、である。英語教師でない方には、それがどうした、というほどのことかもしれない。

   次のような例が続出した。

(4−1)
The chairman is likely to be Don Cruickshank, appointed as chairman of the London exchange last month.

〈会頭はDon Cruickshank氏になる見通しであるが、氏は先月ロンドン証券取引所会頭に任命されている。〉
(注)"The chairman"とは、ロンドン証券取引所とドイツ証券取引所が合併して出来る新しい証券取引所の会頭のこと。
(London Board meets on German merger By Aline van Duyn, FT.com, May 2, 2000 09:31GMT | Last Updated: May 2 2000 12:51GMT) ("FT"は"FINANCIAL TIMES")

   -ed分詞"appointed"の暗黙の主辞は"Don Cruickshank"であって、この文の主辞"The chairman"ではない。この文の動詞辞([1−5][1−5]参照)によって示されている「時」である「現在」の時点において、既に「ロンドン証券取引所会頭に任命されている」のは"Don Cruickshank"氏なのである。従って、この-ed分詞句は直前の名詞句を説明する形容詞要素であって[4−3]、《分詞構文》と通称される副詞要素ではない。

   これだけの話しなら、ネット上で読める英文(新聞・雑誌などの記事本文、調査記事、論説、コラム、書評、企業や大学の頁の様々な文書)の場合でも、大学入試に出題されている英文と同様の事態が起こっているだけのことである。つまり、第三章(「《分詞構文》という副詞要素、これで不都合はなかった」)で述べたように、「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」が時には「非制限的名詞修飾要素」であったとしても何の不思議でもなく、それだけなら格別の不都合は生じないのである。

   そう、時には「非制限的名詞修飾要素」であった、というだけであれば何も起こらなかった。時にはではなかったのである。余りにも特殊である(と感じられている)せいか、種々の学習用文法書をひもといても全く記述が見当たらない「分詞の非制限的名詞修飾用法」が頻出した[4−4](更に[3−3]参照)。

  

(第四章 第2節 了)


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© Nojima Akira