第六章 開かれた世界へ
第2節 「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」になぜこだわってきたのか

   カンマを伴う分詞句が非制限的名詞修飾要素として機能することがあることを明示的に記述することを可能にしてくれるのが「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」という形態の-ed分詞句だった。この形態の-ed分詞句にこだわった理由はそこにあった。分詞句を、その暗黙の主辞との位置関係を基準にして分類すれば、

(1)暗黙の主辞の直前
(2)暗黙の主辞の直後
(3)暗黙の主辞から隔たった位置
   というこの三通りになることを前節で見た。文末(節末、あるいは句末)に位置し、直前の名詞句を非制限的に修飾する-ed分詞句(英文中に頻出する形態の分詞句である[6−12])は、あえて採り上げるまでもないほど、分詞句とその暗黙の主辞との関係(およびその在り方)が明白であると「彼ら」には感じられているらしく、英語で書かれた文法書においてさえ見向きもされないに等しかった。日本の学習用文法書でこの形態の-ed分詞が「見向きもされないまま」であるわけは次節で簡単に(それで十分である)触れる。

   -ed分詞句が非制限的形容詞要素として機能していることを体験できるような文例を更に挙げてみる。もしかしたら、これから挙げる文例を本稿の記述の起点にしてもよかったのかもしれない。

   私がJimmie Wayne Corder『現代英語ハンドブック』中の以下の文例を含む頁に初めて目を通したのは最近のことではない。同書の「非制限的修飾要素を伴うカンマ[COMMAS WITH NONRESTRICTIVE MODIFIERS]」の一節に、「制限的修飾要素」と「非制限的修飾要素」を使い分ける際の注意事項と、これら二種類の修飾要素の違いを見て取るための例として、関係詞節の文例二組と-ed分詞句の文例一組が挙げられている。注意事項は以下のようなものである。

制限的修飾要素と非制限的修飾要素を区別する際、書き手は、修飾を受ける語句の特質とその語句が出現する文脈を慎重に検討せねばならない。その語句がそれ自身で十分に制限されており、従って別のものと混同されることがない場合、その語句に後続する修飾要素は非制限的である。しかし、その語句が漠然としていたり、修飾要素なしでは曖昧である場合、(その語句に後続する)修飾要素は制限的である。(11.3)
(制限的修飾と非制限的修飾についてCGEL等に見られる記述については[1−18]参照。音声上の区別(「間」や「抑揚」)については[1−17]及び[1−19]参照)
   関係詞節と-ed分詞句の文例を一組ずつ挙げておく。関係詞節の文例は既に第一章第3節で引用したものである。

   まず、関係詞節の文例一組。(1−2a)では非制限的関係詞節、(1−3a)では制限的関係詞節。

(1−2a)
Last month I read a novel and a biography. The novel, which especially appealed to me, was written by Hawthorne. (『現代英語ハンドブック』11.3) (斜体・太字と下線は引用者)
〈先月私は小説を一冊と伝記を一冊読んだ。この小説に私は殊のほかひかれたが、ホーソンの作であった。〉
(1−3a)
Last month I read several novels and a biography. The novel which especially appealed to me was written by Hawthorne. (ibid) (斜体・太字と下線は引用者)
〈先月私は小説を数冊と伝記を一冊読んだ。私が殊のほかひかれた小説はホーソンの作であった。〉

   次に-ed分詞句の文例一組。(6−9)の-ed分詞句は非制限的名詞修飾要素、(6−10)の-ed分詞句は制限的名詞修飾要素。

(6−9)
While in Rome. I took photographs in the vicinity of St. Peter's. The square, designed by Michelangelo, is perfectly symmetrical.(ibid)(斜体・太字と下線は引用者)
〈ローマに滞在中,私はサン・ピエトロ広場近くで何枚も写真をとった。この広場はミケランジェロによって設計されたもので、完全に左右対称である。〉
(6−10)
While in Rome, I took photographs of squares designed by Michelangelo, Bernini, and Borromini. The square designed by Michelangelo is perfectly symmetrical. (ibid)(斜体・太字と下線は引用者)
〈ローマに滞在中,私はミケランジェロやベルニーニやボロミーニに設計された広場の写真を何枚もとった。ミケランジェロによって設計された広場は、完全に左右対称である。〉

   このような記述と文例から、分詞句による名詞修飾の在り方に「制限的」と「非制限的」の区別があることを見て取るのは容易なのである。しかも、懇切ともいえるこれらの文例では、類書に多く見られる不備な文例の場合とは異なり、英語学習者にとって難所である非制限的名詞修飾要素の使い方[6−13]に得心することが比較的容易である。提示されている文例の適切さは称賛に、そして感謝に値する。こうした文例から-ed分詞句が名詞句を非制限的に修飾する場合を確かに体験できるのである。しかしながら、このことから、「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」も「カンマ+関係詞節」と同じように非制限的名詞修飾要素であることを記述するのは、実際にはさほど容易ではない。

  

(第6章 第2節 了)


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© Nojima Akira