第六章 開かれた世界へ
最後に文形式③(分詞句,+S[=分詞の暗黙の主辞]+V….)中の分詞句を吟味する。 (6-1)-ed分詞句の暗黙の主辞は母節の主辞"Peter"であると判断して殆ど欠如感は生じない。ただ、(6-13)(He tried to remember the telephone number, repeating it over and over again.)(第六章第3節参照)の場合と同じように、その暗黙の主辞"Peter"の指示内容について常に、分詞句に示されていることがら(「その一撃で意識を失った」)を語り得るわけではないという感じは拭い難い。つまり、分詞句に展開されているのは「ピーター」の通時的属性の一端であるとは判断し得ない。文頭の分詞句についてはそこに「副詞的勾配」を感知しやすい ([6-1]参照)――こうした感知の在り方は、文頭に位置する分詞句にその暗黙の主辞の指示内容の通時的属性の一端が展開されるという事例の出現頻度が相対的に低い ([6-27]参照) という言語事実と無関係ではない――こともあり、受け手はしばしば、文形式③中の分詞句が実現しているのは対「暗黙の主辞」関係というよりむしろ対「母節」関係の方であると感じ取るとともに、母節に示されている事態の原因(あるいは理由)を分詞句に見出せると感じることにもなる。 その結果、分詞句に副詞的代替表現を割り当てるという解読が頻繁に行われることになる[6-35]。更に、(6-13)の場合に、分詞句に展開されている属性(「その番号を何度も口にした」)の主体である「彼」は「その電話番号を記憶しようとした」の主体でもあったのと同じように、(6-1)の場合についても、「その一撃で意識を失った」の主体である「ピーター」は「ゆっくりくずおれた」の主体でもある。"repeating …."の暗黙の主辞が「その電話番号を記憶しようとした彼」であると判断し得たのと同じように、"Stunned …."の暗黙の主辞は「ゆっくりくずおれたピーター」であるとも判断し得るのである。(6-13)の場合と同じように、(6-1)でも、分詞句は母節の主辞と結びついていると同時に母節の述辞とも結びついていると感じられ、その結果、分詞句が実現しているのは単なる対「暗黙の主辞」関係というよりむしろ対「母節」関係であると感じられることになる。 ただ、文頭の分詞句の場合であっても、分詞句が母節全体と結びつくという感じを常に与えるわけではない。例えば、次のような例。
(6―19) (6―19)中の分詞句に展開されているのは、その暗黙の主辞の指示内容について常に語り得るようなことがら(即ちある種の通時的属性)の一端であると判断し得る。このような場合、分詞句の暗黙の主辞は単に母節の主辞であると判断して欠如感が生じないことが多く、そのため、分詞句を副詞的代替表現で置き換え得るという感じはしない。(6―1)と(6―19)を比較して分かるように、同じように文頭の分詞句の場合であっても、分詞句とその「暗黙の主辞」との関係の方が優位であると感じられるか、それとも、分詞句と母節との関係の方が優位であると感じられるか、その感じ取られ方には個々の事例ごとに程度はともかく差異が生じる([6-19], [6-27]参照)。
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