美術館見てある記・2008年編

2009年 1月 5日


 2006年秋のフランスに引き続き、2008年春に仕事で英国ロンドンに出かけてきました。
 行った先々で美術館を回ってくるのが楽しみで、このときもロンドン・ナショナル・ギャラリー大英博物館を観てきました。ロンドンのナショナル・ギャラリーには、フェルメールが2点あるはずでしたが、このときには残念ながら1点しか見られませんでした。

 国内では、6月に国立新美術館のモディリアーニ展を、11月に上野・東京都美術館でフェルメール展を、12月に国立新美術館とサントリー美術館をはしごして両方で同時開催されていたピカソ展を見てきました。

 その他、いくつかの美術展、展覧会なども観てきましたので、2008年の美術館見てある記をまとめてみました。

 なお、ロンドンで見てきたナショナル・ギャラリー以外の博物館(大英博物館ヴィクトリア&アルバート博物館など)については、「ロンドンのおみやげ 2008」に少しだけ触れていますので、興味があればご参照下さい。

<その他の美術館見てある記>
  ・その1・アメリカ編
  ・その2・ドイツ編
  ・その3・フランス編
  ・その4・日本編
  ・美術館見てある記・2007年編


1.ロンドン・ナショナル・ギャラリー

 ロンドンでは、公共の美術館・博物館は入場無料です。ということで、世界的に有名な大英博物館にしてもナショナル・ギャラリーにしても、見たいときに、見たいところだけ、何度でも見ようと思えば見ることができます。こういったところは、近代以来の「啓蒙主義」というのか、国家や王室は国民・大衆の文化向上のために貢献すべきである、という社会通念があるのでしょう。それは、持てる者は相応の社会奉仕をすべき、という考え方にも通じていて、だから、どの博物館・美術館に行っても、いたるところに「Donation (寄付)」と書かれた募金箱が置いてあります。

 寄付といえば、余談ですが、ロイヤル・フェスティバル・ホールのコンサート・チケットをインターネットで予約すると、チケット代に自動的に「寄付金」3ポンド(この記事執筆時点では約400円)が加算されます。この寄付金額は、「支払い」ボタンを押す前に、プルダウンメニューで増やすこともゼロにすることもできます。何もしないと、デフォルトで「3」となっているわけです。

 おっと、ナショナル・ギャラリーでしたね。
 私は、土曜日の朝にナショナル・ギャラリーに行きました。ここは、朝10時に開館するので、それに合わせて行き、ほぼ開館と同時に中に入りました。
 とてつもなく広い美術館なので、順番に見ても良いのですが、入館者は大体入り口に近いところから順番に見ていく人が多いので、私は迷わず「フェルメール」のある部屋に直行。少なくとも、その部屋にはまだ誰もおらず、15分ほどフェルメールを独占していました。残念ながら、このロンドン・ナショナル・ギャラリーにあるフェルメール(「ヴァージナルの前に座る若い女」)は、あまり良いできの作品ではなく、あまり独占の喜びは大きくありませんでしたが。
 しかし、日本の美術館で、名作をかなりの時間独占できることなどまずあり得ないので、これは貴重な体験でした。(広い美術館ならではで、おそらくオルセーやルーヴルでも開館一番に行けば、同じような体験ができるのでしょう)

ロンドン・ナショナル・ギャラリー正面ロンドン・ナショナル・ギャラリー正面(トラファルガー広場)

ロンドン・ナショナル・ギャラリーのパンフレットロンドン・ナショナル・ギャラリーのパンフレット(ここにもちゃんと日本語版がありました)

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの案内書ロンドン・ナショナル・ギャラリーの案内書(日本語版)


2.モディリアーニ展(国立新美術館)

 モディリアーニは、その肖像画の独特の表情と、モディリアーニ没後にその後を追った恋人ジャンヌ・エビュテルヌの悲劇から、とても興味を惹かれていた画家でした。でも、まとまった形でその展示を見たのは今回が初めてでした。

 この企画展では、普段は見ることのできない個人所蔵の肖像画も展示されていたのがうれしいところでした。

 モディリアーニの描く肖像画の中でも、特に恋人ジャンヌ・エビュテルヌを描いたものは、とても魅力的だと思います。そういえば、2007年に東京都美術館で見た「フィラデルフィア美術館展」の展示に中にも、ジャンヌ・エビュテルヌを描いたものがありました。

モディリアーニ展のパンフレットモディリアーニ展のパンフレット



モディリアーニ展のチケットモディリアーニ展のチケット


3.フェルメール展(東京都美術館)

 2007年に「牛乳を注ぐ女」でフェルメールに開眼し、フェルメール全点踏破の旅などを読んでファンになりました。
 全部でも高々37点しかないフェルメールの作品のうち、今回7作品もやって来る、ということで、楽しみにして見に行きました。
 当初展示されるはずだった「絵画芸術」(ウィーン美術史美術館所蔵)がキャンセルとなり、その代わりに「手紙を書く婦人と召使い」(ダブリンのアイルランド・ナショナル・ギャラリー所蔵)が展示されていました。

 2007年に「牛乳を注ぐ女」、その前にワシントン・ナショナル・ギャラリーで4点(残念ながら、記憶しているのは1点のみ・・・)、パリ・ルーブル博物館で2点、そして2008年春にロンドン・ナショナル・ギャラリーで1点見ているので、これで通算15点を見たことになります。(下の東京都写真美術館の「液晶絵画」の2点を加えると、通算17点・・・。約半分を見たことになる!)

フェルメール展のパンフレットフェルメール展のパンフレット







フェルメール展のチケットフェルメール展のチケット


4.ピカソ展(国立新美術館、サントリー美術館)

 ピカソは、長寿で多作家だったので、世界中の美術館にその作品があります。
 2008年には、パリのピカソ美術館が改装工事のため、その所蔵品が日本にも多数やって来て、六本木の国立新美術館と、同じく六本木の東京ミッドタウンにあるサントリー美術館の2箇所で、同時にピカソ展が開催されました。
 2つの美術館をはしごすると、2つ目の美術館の入場料が割引となりました。

 本家のパリ・ピカソ美術館へは、20年以上前の1987年に行ったことがありますので、ほとんどの絵は「再会」ということになります。
 ということで、この美術展に関しては、パンフレットは購入しませんでした。(写真はチラシのみで我慢してください)

 なお、本家のパリ・ピカソ美術館は、ピカソが亡くなったあと、その相続税を物納するため、生前ピカソが自身で所蔵していた作品をパリ市に寄贈し、それを展示している美術館です。ピカソの作品以外に、モディリアーニやアンリ・ルソーの作品があり、ピカソが手元に置いていただけのことはある、なかなかの逸品ぞろいですが、今回のピカソ展では残念ながらピカソの作品のみの展示でした。
 そういえば、私がモディリアーニに開眼したのも、そのときのピカソ美術館だったのでした。

 パリのピカソ美術館については、美術館見てある記・その3・フランス編をご参照下さい。

ピカソ展のチラシピカソ展のチラシ



ピカソ展のチケット(国立新美術館)ピカソ展のチケット(国立新美術館)

ピカソ展のチケット(サントリー美術館)ピカソ展のチケット(サントリー美術館)


5.液晶絵画 動く美術展(恵比寿・東京都写真美術館)

 純粋な美術展ではありませんが、恵比寿ガーデンプレイスに初めて行って、そこにある東京都写真美術館で行われていた「液晶絵画 STILL/MOTION」というものを見ました。
 単なる静止した美術品ではなく、オリジナルで「動く」作品、既存の美術作品を「動きの中の一瞬」として見せる作品など、それなりに面白い美術展でした。肖像画がときどきまばたきをしたり腕時計の針が時を刻んでいたり、静物画の果物が次第に腐敗していったり・・・。千住明さんの林の絵で、木々がわずかに風に揺れ、ときどき鳥が画面を横切る・・・。

 その中に、フェルメール展で展示キャンセルとなって見られなかった「絵画芸術」(ウィーン美術史美術館所蔵)のパロディーがありました。つまり、絵と同じ部屋に、モデルが入ってきて画家が絵を描く、というもの。この絵は、絵の中に画家自身も描かれていますので。
 そして、同じくフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」(チケットのデザイン)で、向こうを向いていた少女が、こちらを振り返って絵と同じ瞬間となるもの(でも、モデルは少女というよりオバサンだった・・)。

液晶絵画 動く美術展のチケット液晶絵画 動く美術展のチケット


6.横浜開港150周年 横浜浮世絵展(横浜・そごう美術館)

 夏休み中に開催していた「横浜浮世絵」展。横浜の開港当時の風物を描いた浮世絵が展示されていて、とても興味深く見ました。どちらかというと、横浜市内の小中学生の夏休みの社会科見学の課題か?

 そういえば、ロンドンの「ヴィクトリア&アルバート博物館」(V&A)の日本展示室でも、文明開化期の蒸気機関車の浮世絵を見たことを思い出しました。浮世絵の技法は、決して江戸時代だけのものではなく、明治時代になっても作られていたのでした。

 浮世絵ではありませんが、古い横浜の風物ということで、興味があれば、横浜界隈の古いの写真を集めたこちらのサイトもどうぞ。

横浜浮世絵展のパンフレット「横浜浮世絵に見る横浜開港と文明開化」パンフレット


7.おまけ

 美術館ではありませんが、ロンドンで見てきた大英博物館、タワー・オブ・ロンドンのパンフレットも公開しましょう。

 大英博物館は、広すぎて、とても1日では回りきれません。大量の貴重な文化財を無償で公開していることは啓蒙国家の面目躍如なのですが、ロゼッタ・ストーンや、ギリシャの神殿、エジプトやメソポタミアの遺跡や像の展示を見ていると、武力で世界中から略奪してきたという事実にやや腹が立つのも事実です。

 タワー・オブ・ロンドンは、テムズ河畔にある中世からのお城で、近世はもっぱら「牢獄」として使用され、数多くの王族・貴族が幽閉され、処刑された怨念の場所です。
 英国史を知らないと全く価値が分かりません。ということで、日本語の音声ガイドを借りて見学しました。

 一番感動したのは、英国王室の歴代の王冠や刀剣類の展示でした。決して「キンキラキン」ではない、黒や紫を基調にした生地にセンスよく宝石がちりばめられた王冠は、落ち着いて気品と威厳のあるものでした。その一画だけ、立ち止まり禁止で「動く歩道」から見る仕組みになっていました。

大英博物館のパンフレット大英博物館のパンフレット(日本語です)

ロンドン塔タワー・オブ・ロンドンのパンフレット

ロンドン塔タワー・オブ・ロンドンのチケット


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