家族で巡るアガサ・クリスティ・カントリー

第2日 (ロンドン〜トーキー) 

待ちに待った朝ご飯

 イギリス滞在最初の朝ご飯はカリカリのトーストに、卵、ベーコン、焼きトマト、ソーセージ、ベークドビーンズ、ミルクティーというフルブレックファスト。トーストは日本のものよりずっと薄くて小さい。カリカリなのに乾燥しておらず、日本にはない歯ごたえ。ソーセージはふわふわと柔らかく日本のスーパーではお目にかかったことのないものです。そして牛乳。日本の牛乳よりもさらっとしていて飲みやすい。やはり、本当にウマイ。
 日本との8時間の時差(日本とイギリスの時差は9時間ですが、サマータイム中なので1時間時計を進めています)を考えると、家族への電話は朝がベスト。ということで、朝ご飯を済ませるとすぐに電話をかけに外に出ました。公衆電話は2種類ほどあるようで、クレジットカードオーケーのものを探します。


ブリットレイルパスの損得

 イギリスの観光ガイドブックを見てみると、まず間違いなく「ブリットレイル・パス」というものが紹介されています。北アイルランドを除くイギリスの鉄道乗り放題の切符で、通用日数や列車のクラス、あるいは使用者の年齢などによりいくつかの種類があります。一定期間以上イギリスに住んでいる人は利用できず、普通は出発前にあらかじめ購入していくようになっています。これ一枚あれば切符売り場の長い列で時計を気にすることも、窓口で悪戦苦闘することもなく、フリーパスで列車に乗れるというのがうたい文句です。
 私も最初はお手軽にこの切符を購入していこうと考えていましたが、イギリスの鉄道会社のサイトなどで料金を調べると、今回の日程ではどうにも元はとれないみたいです。多少の不安はありますが、切符はすべて現地調達ということにしました。
 切符売り場では、英語が達者じゃない人(あたし)は、会話に持ち込まず情報を一気に伝えるのがコツ。鉄道路線を検索できる「UK RAILWAYS on the Net」というサイトから入手した時刻表をプリントアウトして持っていったのが、切符購入時、大いに役立ちました。トーキー行きの切符は、乗車する前日、ロンドンに到着してからすぐに購入したのでSuperSaverという割引券が手に入り、41ポンド(約8200円)でした。


英国鉄道事情

 日本とイギリスで事情が違うのが、座席指定についてです。日本では指定席のみの車両や車両の一部を区切って指定席とした席があらかじめ決められており、運賃のほか追加料金を払ってそれらの座席を利用するようになっています。しかし、イギリスの列車には「指定席車両」と「自由席車両」の区別がありません。座席の指定はしてもらえますが、どこか適当な席を割り振ってくれます。予約済みの座席席にはあらかじめレシートのような札が差してあり、予約されている区間がわかります。一般客は札のない席に座るか、予約済みの席に、予約されていない区間だけ座ればよいわけです。

 といっても、たまに札をさすのが間に合わないこともあるらしく、私たちが乗った列車は、札がさしてありませんでした。
 パディントンの駅で前売り切符を買ったとき、指定席をとってもらったのですが、2人掛けに家族3人で座るはめになってしまい、たいへん窮屈な思いをしてしまいました。後から聞いた話では、ボックス席を頼むこともできたらしいです。
 また、日本とまったく逆なのが、前売りならおおむね指定切符のほうが安いということ。逆にどの時刻の列車のどの席にでも座れる切符(open ticket)がいちばん高くなっています。つまり、乗る列車を指定される窮屈な旅のほうがお安くあがるということらしいです。これはけっして列車が定員以上の客でうまることはないという事情のせいでしょう。ただし1999年夏のコーンウォール地方の日食のさいは、一部の列車は全席指定になっていました。
 それと、切符の購入時、「往復(return)か、片道(single)か」を必ず尋ねられました。私どもの場合は、乗りたい時刻の列車を指さしながら、「トゥー・シングルチケッツ・フォー・トーキー・バイ・スタンダードクラス・プリーズ」でオーケーですね。


いよいよアガサ・クリスティ・カントリーへ

 さて、列車の時刻には多少早いものの、10時前にホテルをチェックアウト。駅の本屋でデボンの地図を買ったり、売店を眺めたりしたりして時間をつぶし、ベンチに腰掛けて列車が来るのを待ちます。
 天井からはテレビモニターがいくつかぶら下がり、どの列車がどのホームから何時に出発するのかといった情報が表示されています。列車の発着ホームは決まっていないらしく、乗客はモニターでホームの番号を確かめて乗り込みます。
 ところが、私たちが乗る予定の列車は何かの事情で遅れているらしく、モニター画面にはいっこうに案内が表示されません。やきもきすること数十分。大きなエンジン音とともにいちばん端のホームに突然、お待ちかねのインターシティ(特急列車)が入線してきました。私たちの予約席はホームのいちばん向こう端。スーツケースを引きずりながらホームを走り、どかどか乗り込みます。列車には荷物置き場があり、狭いながらもなんとか席に収まりました。
 市街地を抜けると車窓にはなだから丘陵が続き、それなりに美しいもののやや単調な風景。牧草地には羊羊羊羊……。しばらく内陸部を走ったあとは海を眺めながらの旅です。ロンドンからトーキーへ列車で移動するには、主として2つのルートが考えられます。ひとつは今回選んだパディントン発のグレート・ウェスタン・レールウェイの列車を使う方法。もうひとつはウォータールー発のバージン・トレインズを利用するものです。ウォータールーからの列車はストーンヘンジで有名なソールズベリーなどを経由します。
 クリスティの短編、『プリマス行き急行列車』では、パディントン発プリマス行きの列車内で女性が殺されます。死体が発見されるのが、途中駅のニュートンアボットでした。私たちが目指すトーキーは支線の駅のため、パディントンから出発した場合、通常はエクセターまたはこのニュートンアボットでペイントン行きに乗り換えます。日に数本はペイントン行き直通列車もあります。今回は、事情のよくわからない国で小さな子どもと大荷物かかえての乗り換えはたいへん不安だったため、多少時間は無駄になってしまいますが直通列車に乗車することにしました(後に、駅の行き先表示モニターがよくできているため、乗り換えはたやすいことが判明。もっとも荷物かかえてならやはり直通がよいですね)。
 改札にやってきた車掌は陽気に鼻歌を歌いながらの登場。「オーララ、み、な、さーん。切符拝見よー」てな感じかね。いいなー。


■トーキー行きの列車内でモバイルするの図、ではなく、テーブル
に VAIO の特大ステッカーが貼ってあった。2人席に親子で座り狭
い狭い。紙袋はパディントンで買ったサンドイッチ


クリームティー

 トーキーに到着してからホテルへはタクシーで向かいます。イギリスのタクシーはみな黒塗りのでかい車なのかと思っていたら、トーキーのタクシーは普通の車でした。運転手さんにホテルのパンフレットを見せて、ここに行ってくれと頼みました。
 インターネットで取り寄せた情報によれば、トーキーで2泊するB&Bの名物はクリームティーだそうです。ウェルカムドリンクならぬウェルカム・ティーが料金に含まれています。クリームティーとは、クリーム入りの紅茶ではなく、紅茶とデボンシャークリーム付きのスコーンのセットのこと。
 タクシーでホテルの前まで行くと、奥さん(日本で言うと女将になるか)が両手を広げ、笑顔で迎えてくれました。到着するなり、主が、「お茶をサービスします。クリームティーにしますか」と尋ねるので、「イエース」と元気に答えます。
 部屋で待つとことおよそ30分。主が呼びに来て、サンルームに案内されました。さあどうぞどうぞとすすめられたテーブルには、焼き立ての特大スコーンにコーヒーケーキ、ティーポットにカップ、ジャム、マーマレード、そしてもちろんデボンシャー名物クロッテド・クリームが大盛りで。
 クロッテド・クリームは黄色っぽくて、とろっとしていて、一見アイスクリームのように見えます。それを真ん中から割ったスコーンにどかんと乗せて、ジャムをちょっと付け、食べる食べる。紅茶を飲む飲む。クリスティが「私は何よりもクリームがいちばん好き」というだけのことがあります。ごちそうさま。
 腹ごなしに街の中心部までぶらぶら歩き、夕ご飯は、軽くフィッシュ&チップスで済ませることに。単に「フィッシュ」といっても種類を選べるようで、メニューにはいろいろな魚の名前が書いてあります。電子辞書で調べて、ヒラメとタラを頼みました。


■トーキーの宿、ハルドン・プライヤーズ・ホテル。クレジットカ
ードは使えず、日本からcheque(小切手)を郵送して予約した。ダ
ブルベッドの大きな部屋と娘用にシングルベッドの小さな部屋を用
意してくれた。プールや温室もある。庭がきれいだった。今回の旅
で唯一バスタブ付きの部屋。
1泊2部屋で81ポンド(約1万6000円)。2泊



 
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