家族で巡るアガサ・クリスティ・カントリー

第4日(トーキー〜ソルカム)

別れを惜しみつつ、ソルカムへ

 今日はトーキーからソルカムへ移動します。
 ソルカムは、NHKで放映された『名探偵ポワロ』シリーズの長編作品『エンドハウスの怪事件』のロケが行なわれた土地です。また、クリスティの『ゼロ時間へ』、『無実はさいなむ』の舞台とされています。
 ある解説書によると、1930年代の雰囲気をいまも色濃く残している街とのこと。鉄道が通じていないため交通はかなり不便ですがぜひいちど訪れてみたくて、赤坂にある英国政府観光庁でバス時刻表を調べ、ソルカムの観光案内所にメールを書いて資料を取り寄せました。ホテルはインターネットで予約することができました。ちなみに英国政府観光庁には無料のパンフレットが多数用意されているほか、イギリス全土のバス路線や地図を参照することができます。
 トースト、卵、ベーコン、ソーセージなどの朝食をいただいてホテルを出発。宿の主に「これからソルカムへ行く」と言うと、「あー、ソルカムならお昼を食べによく行くよ」「車なら30分くらいだ。車を借りればよかったのに」とのことですが、外国で車の運転はちょっと不安だったため、今回はすべて公共の交通機関を利用することにしていました。ソルカムで泊まるホテルの名前を言うと、「そこなら知っている。きれいなところだよ」と教えてくれました。
 荷物が多いので駅まではタクシーを呼んでもらいました。娘と宿の奥さんは、タクシーの窓越しにさかんに投げキッスを贈り合いながら別れを惜しんでいます。
 トーキー駅で、ソルカム方面行きのバスが出発するトットネスまでの切符を購入。ウェールズ・アンド・サウス・レイルウェイの直通列車が11時46分にあるので利用します。乗車時間は30分ほど。料金は4ポンド30ペンス(約860円)。
 お昼はトットネス駅のビュッフェでベーコンエッグサンドとチーズ&チャツネサンドを食べました。イギリスは、サンドイッチの種類が豊富でボリュームも満点。娘は「サンドイッチよりおにぎりが食べたい」と言いますが。
 トットネスは前日につづいての訪問です。街の中心部まで散歩して、ロイヤル・セブンスターズというホテル前からバスに乗ることにしました。


バス代踏み倒し一家

 ロイヤル・セブンスターズ前から乗るバスはキングスブリッジという町まで行きます。キングスブリッジでもう一度バスを乗り換え、ようやくソルカムに着きます。日曜日と祝日には直通バスもあるようです。
 さて、40分ほどの乗車の後、最初のバスが終点キングスブリッジに到着するも、料金箱らしきものがありません。そういえば切符はどこで売っていたのだろう? 運転手に「トットネスから乗りましたが、いくらですか?」と尋ねると、切符の販売機をがたがたと操作しながら、「おやまー、切符販売機もう動かないなー。まーいーよいーよ(意訳)」とのこと。どうやら、バスに乗るときに行き先を言って切符を買うらしいです。帰りの切符を見ると料金は大人1枚1ポンド80ペンス(約360円)でした。


キングスブリッジの親切な人々

 キングスブリッジは鉄道は通っていないものの、なかなかにぎやかな町のようです。バス停でたたずんでいると、近くにいたおばちゃんが寄ってきて「どこへ行くの?」と尋ねてきました。「ソルカムまで」と答えると、聞きもしないのに、「あーそれなら、あそこのバス停に来る白いバスに乗ってけばオーケーよ。白以外はだめよ」と親切に教えてくれます。これはどーもー。
 しばらくすると杖をついたおじいちゃんがよろよろ寄ってきて「なんか困ったことはないか?」と尋ねてきます。「オーライオーライ」と答えると、「そりゃよかった」。
 やがてバス停に白いバスがやってきました。さっきのおばちゃんが、「はい、あのバスよ」とまた教えてくれました。キングスブリッジの人はなんだかとても親切です。キングスブリッジからソルカムまではおよそ30分。バス代は1ポンド40ペンス(約280円)。


バス停はどこかしら

 それにしてもソルカムは遠い。バスは田舎道を走り続けます。細い道の左右に木の枝が覆いかぶさり、ちょうどバス1台が通れる緑のトンネルのようになっています。それでもときどきバスの屋根が小さな枝をこすっていきます。「いやー、とんでもないとこに来ちゃったねー」。さっと景色が開けると牧場らしきゆるやかな丘陵地帯。そしてまた木に覆われた道路。やがて遠くに海が見えてきました。
 しばらくすると道の両わきに民家が続いてきました。いよいよソルカムの市街地にさしかかったみたい。バスの左側に、あ、予約したホテルの看板が見える! こんどのバス停で降りようと思って目を凝らして待ちますが、いつまでたってもバス停らしきものが見えません。そのまま終点まで連れていかれてしまいました。あとから聞くと、好きなところで降りてよかったのだそうです。
 バスの終点はソルカムの町の中心部でした。タクシーが通らないかと思ってしばらくまわりを見回すも、1台も見当たりません。まだ3時前で充分に日が高いとはいえ、早くホテルに着いて荷物をおろしたい。こうなりゃ宿に電話してどうにかしてもらうしかありません。「私は日本から予約した者である。タクシーが見つからない。タクシーを呼んでもらえないか」とたどたどしく伝えたところ、「ここはタクシー少ない。あなたはどこにいる? あ、アイスクリームショップの前、オーケーオーケー、ちょっと待ってなさい」とのこと。
 しばらくすると、宿の主自ら車で迎えに来てくれました。しかし、宿の主とは初対面であるはずなのに、なぜかああいうシチュエーションだと、お互いの探している人物がすぐわかるものですね。ま、向こうがこちらを見つけるのは簡単でしょうが。
 ソルカムでは遠出することなく、散歩したり写真を撮ったりしながらのんびり過ごすことにします。
■ほんとは、バス停も、まれにはある


ご飯

 ソルカム到着後の夕食は「キャプテン・フリント」という海賊船をイメージしたらしいファミリーレストランで、ピザ、パスタ、チキンのグリルなど。チキンは皮はぱりぱり、中身はしっとり。ホタテのパスタもなかなかのお味でした。お値段も日本のファミレス並み。飲み物はビール。
 ソルカムでいちばんおいしかったものは、何と言ってもアイスクリームです。クロッテド・クリームをそのまま冷やし固めたような濃厚な風味、でも甘さはしつこくありません。スーパーマーケットでは特大サイズのプラスチック容器に入ったクリームがたくさん売っていました。


■ソルカムは「a haven for yachting enthusiasts」と形容され、古く
から多くのヨットマンたちを惹きつけてきたところだそうだ。細い
坂道をとことこ登っていくと突然海が開ける。ただただ絶景である


■よーく見ると、「END HOUSE」と書いてある。うーむ


■ソルカムのトーレ・ビュー・ホテル。ここはノンスモーカーズオ
ンリーのB&B。これまでに日本人を1人泊めたことがあるそうだ。
頼めば夕食も用意してくれる。子供は4歳以上から。屋根裏のとて
もかわいい部屋。窓から遠くに海が見える。ダブルベッド1つにシ
ングルベッド1つ。
シャワー・トイレ付きで1泊64ポンド(約1万3000円)。2泊



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