第七章 開かれた世界から
第6節 何が曖昧なのか
その二 「解消されるべき先験的曖昧さ」と「解読」
《分詞構文》を先験的に副詞要素と見なす受け手の視点から、「解消されるべき曖昧さ」を湛えている《分詞構文》の発話の過程が記述されると次のような形をとる。
前掲教科書の練習問題の頁には,as節と母節([1−10]参照)からなる複文を、《分詞構文》を用いて書き換えさせる課題が載っている。「例にならって、書き換えなさい。」とあり、次のような「例」が示されている。
例:As they were pleased with his success, they planned to have a party for him.
→ Pleased with his success, they planned to have a party for him.
(New Encounter English T, p.75)(下線と斜体・太字は引用者)
〈彼らは彼の成功を喜び、彼のためにパーティーを開こうと思った。〉→〈彼の成功を喜んだ彼らは、彼のためにパーティーを開こうと思った。〉(私訳)(第二章第5節参照)
《分詞構文》を発話するための練習問題を載せている学習用文法書は大方、まず、決まって文頭に位置する副詞節を含む複文を示し、その副詞節を《分詞構文》に書き換えさせるといった問題形式を踏襲している[7−62]。《分詞構文》の発話に至るまでの「推敲」あるいは「圧縮」の手順――曖昧さが《分詞構文》とは不可分であることを知らしめる意図があるかのごとき手順――を事細かに解説している文法書もある。
【考え方】分詞構文の作り方は次のようにすればよい。すなわち、副詞節(「接続詞+主語+動詞」の形)において、(a)まず接続詞を省略する、(b)副詞節の主語(つまり分詞構文では分詞の意味上の主語)が主節の主語と一致する場合にはこれも省略する、ただし一致しない場合は副詞節の主語はそのままその位置に残すが、世間一般の人が主語の場合は省略して非人称独立分詞にする、(c)副詞節の動詞を現在分詞に変える、ただし副詞節の動詞が進行形の場合はその現在分詞をそのまま用いる、なお受動態の場合はbeingやhaving beenを省略して過去分詞だけを用いてもよい。
(高梨健吉『総解英文法』、p.504))(下線は引用者)[7−63]
(清水周裕『現代英文法』では「2.分詞構文の作り方の基本」として五頁に渡って(pp.352--356)類似の解説が繰り広げられている。)
こうした【考え方】によれば、"Though I had not seen him before, I could recognize him easily."([7−63]参照)という複文を元にした場合、「(a)まず接続詞を省略する」が「手順その一」である以上、"Though"が省略され、改称されるべき曖昧さを湛えた《分詞構文》を含む"Not having seen him before, I could recognize him easily."が導かれることになる。「圧縮」の手順を逆に辿る「解凍」の練習を狙いとする課題(「接続詞を用いて書き換えなさい」)[7−64]中の、"Badly injured in the leg, he could not walk any farther."からは、"As he was badly injured in the leg, he could not walk any farther."が、更に"Being very old, he has a sharp hearing."からは、"Though he is very old, he has a sharp hearing."が導かれることになる。"being"で始まる《分詞構文》が「〜なので」と解読されるのはある種の約束事でありはするけれども([1−14], [6−40]参照)、時には"Though"を標識とするような論理的関係が見出されるという解読の在り方もあるということであろうし([7−61]参照)、更には、"These explosives, not handled carefully, may blow up."(この文には「過去分詞を用いた分詞構文であることに注意。その前にbeingを補なって考えよ」という助言が与えられている)の場合には、" if "を標識とするような論理的関係が見出されるという解読の在り方もあるということになるのであろう。その結果、「カンマを伴う分詞句」は" if "に導かれた副詞節に置き換えられ、"These explosives, if they are not handled carefully, may blow up."が導かれることになる(以上の英文とその書き換えについては[7−64]参照)。
以上、《分詞構文》を先験的に副詞要素と見なす受け手の視点から、解消されるべき曖昧さを湛えた《分詞構文》について、「その発話に至る圧縮」及び「曖昧さの解消に至る解凍」が行われる過程の記述の試みである。
(第七章 第6節 その二 了)
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