『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第6節 何が曖昧なのか

その一 「簡潔さ」と「曖昧さ」


〔注7−61〕

   《分詞構文》という了解を共有する受け手は時には、《分詞構文》には副詞要素を見出さねばならないという解読への衝迫に駆られるかに見える。受け手を次のような読解へと駆り立てているのはそのような衝迫であるとしか思えない(非制限的関係詞節の場合にも「解読への衝迫」らしきものが透けて見えることがある[3−2])。

   中原道喜『マスター 英文法』は「beingやその完了形having beenが省略される場合がある。」(p.398)と述べ、次のような例を挙げている。

[Being] a student of science, he was not interested in politics.
科学者だったので、彼は政治には関心がなかった)(ibid, p.398)
(下線は引用者)(第二章第6節末尾参照)
   また、次のような読解が示されることもある(以下の読解の主体によれば「分詞構文は副詞句なのだから、英文構成のかなでは常に修飾語句(M)の働きをする。」(山口俊治『全解 英語構文』p.143)のである)。
Being stupid and having no imagination, animals often behave far more sensibly than men.
= Though they are stupid and (they) have no imagination 「動物は愚かで想像力はないけれども」
分詞椰文の中に含まれるThough……という譲歩の意味を汲み取るのが要点である。「……なので」と解すると主節の内容と矛盾してしまう。
〔訳〕『愚かで想像力はないけれども、動物は人間よりずっと賢くふるまうことがしばしばある。』
(山口俊治, ibid, pp.149〜150)(太字体と斜体は原文通り)(第二章第6節末尾参照)
   しかしながら、同じ程度に「曖昧である」とも言える「等位構造を構成する"and"」を目の前にした場合、こうした「解読への衝迫」に駆られることはないようである。「[42](a) You have been invited to the reception formally and you ought to send a formal reply.」(R.A.クロース、齊藤俊雄訳『クロース 現代英語文法』、300)(下線は引用者)は、素直に「あなたは歓迎会に正式に招待されているのだから、正式の返事を送るべきです」と読まれて然るべきところであろうに、「あなたは歓迎会に正式に招待されています。そこで正式の返事を送るべきです」(ibid)と読まれることになる。おそらく"and"に関わる了解の中心は、そこに解消されるべき曖昧さを先験的に見出すことにはないからであるし、受け手は"and"についてはおそらく《分詞構文》の場合ほど強力な解読への衝動を植えつけられてはいないからである。

   日本の学校英文法が《分詞構文[participial construction]》に副詞要素を先見的に見出すという了解の在り方に立てこもり続けていられるあたっては、次のような輜重の補給によるところが大きいはずである。

特に簡潔なのは述辞並置分詞構造[predicate appositive participial construction]である。この構造においては、分詞とそれを修飾する要素が簡略節[abridged clause]を構成し、この簡略節においては分詞は論理的述辞であり、主節の主辞は論理的主辞である。この簡略節は全体として、時・原因・様態などといったある種の副詞的関係[adverbial relation]を示し、その副詞的関係は結びつき[connection]をもとに決定し得るのみである。なぜならこうした関係は節それ自体の中では形態的に表現されていないからである
(CURME, Syntax, 20-3) (下線は引用者)
(「述辞並置分詞構造」の具体例は[7−49]参照。Curmeは「述辞並置分詞」を副詞要素と見なしているという点については[7−19]参照)

副詞節においては、分詞はしばしば、述辞並置要素[predicate appositive](8の第五節)として、(文の)述辞[predicate]の傍ら、あるいはその近くに位置し、時・様態[manner]・随伴的状況[attendant circumstances]・原因・条件・譲歩・目的といった関係に応じて[as to]述辞を修飾する。
(CURME, Parts of speech, 47-4) (述辞並置要素[predicate appositive]については、 [1−4], [6−37], [7−1]参照)

(〔注7−61〕 了)

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