第六章 開かれた世界へ
第4節 「カンマを伴う分詞句」の「暗黙の主辞」の在り方について

その三 文形式@の場合
  

   更に、文形式@(S[=分詞の暗黙の主辞]+,分詞句,+V….)中の分詞句を吟味する。

(6−11)
Some even think that the lost island of Atlantis, thought to be in this area, is exercising its strange powers on these missing planes and ships. (New Encounter English T, p.17)([6−22]参照)
〈消えたアトランティス島はこの区域にあると考えられ、これらの行方不明の航空機や船舶にその不思議な作用を及ぼしている,と考えている人さえいる。〉

   ここで、カンマに導かれた-ed分詞句という形で展開されているのは、話者にとって既知である名詞句(即ち「脈絡内照応性」は既に実現されていると話者に判断されている名詞句)の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である。(6−11)中の-ed分詞句はその暗黙の主辞である名詞句"the lost island of Atlantis"を非制限的に修飾する分詞句である。この名詞句の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端が分詞句の形態で展開されており、「この区域にあると考えられている」は、「消えたアトランティス島」の属性の一端である。ここでの暗黙の主辞の在り方は「これらの行方不明の航空機や船舶にその不思議な作用を及ぼしている消えたアトランティス島」のごとくであると判断することはもちろん可能ではあるが、そうする必要性は皆無に近いとも判断し得る。

(6−16)
The company, known for its i-mode wireless mobile service, has pursued a strategy of taking stakes in other companies, as well as forming alliances in Europe and Asia.
〈同社は携帯電話のiモード事業で知られており、ヨーロッパとアジアでの提携の実現に加え、他の企業への資本参加という戦略も追い求めてきた。〉
(注) The company : NTT DoCoMo
(Japanese giant's investment brings hot Internet technology to AT&T Wireless by Mark Watanabe, Seattle Times technology editor, The Seattle Times, Thursday, November 30, 2000, 10:00 p.m. Pacific)

   ここで、カンマに導かれた-ed分詞句という形で展開されているのは、話者にとって既知である名詞句(即ち「脈絡内照応性」は既に実現されていると話者に判断されている名詞句)の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である。(6−16)中の-ed分詞句はその暗黙の主辞である名詞句"The company"を非制限的に修飾する分詞句である。(6−11)の話者が"the lost island of Atlantis"の指示内容について"thought to be in this area"と語り得たのと同じように、(6−16)の話者は"The company"の指示内容について"known for its i-mode wireless mobile service"と語り得たのである。

   (6−16)の場合、名詞句"The company"については既に「脈絡内照応性」が実現されておりそのことは受け手に伝わる(即ちこの名詞句は受け手にとっても既知である)という話者の判断は"the"に露出している。このような「the+名詞」は脈絡を参照すべしとの示唆である(第一章第5節参照)。(1−4)(*The woman, who was sitting behind the desk, gave me a big smile.)(PEU, 506) (下線は引用者。記号「*」については[1−24]参照。この文については第一章第5節参照)が受け手に引き起こす困惑――SWANは記号「*」を用いてこの文の言語表現としての容認可能性に疑問を投げかけている――の根にあるものが明るみに出されている。文例(1−4)の場合、名詞句" The woman"については既に「脈絡内照応性」が実現されておりそのことは受け手に伝わると話者によって判断され、脈絡を参照すべしとの示唆が行われていながら、受け手はいずこにも参照すべき脈絡を見出し得なかった。脈絡は覆われていたのである。脈絡を参照すべしとの示唆は不実であった([1−41]参照)。

   ところが文例(6−16)では、脈絡を参照すべしとの示唆には誠意がこもっており、受け手は実際に参照すべき脈絡を、名詞句"The company"の指示内容は"NTT DoCoMo"に照応することを見て取るのに必要な発話の流れを既に示されている[6−24](そのような言語的脈絡に拠らずとも、分詞句に展開されていることがらから類推して、"The company"は"NTT DoCoMo"に照応することを受け手が見て取れるとしたら、「iモード」は"NTT DoCoMo"の登録商標であるといった"NTT DoCoMo"に関わる非言語的脈絡が受け手の念頭にあることによってそれが可能になっていることになる。ただし、既に述べたように、分詞句に展開されていることがらが受け手にとって「既知の情報」であるやなしやといった点は、この発話について論ずべきことがらとしては付随的なことに属する)。名詞句"The company"については既に「脈絡内照応性」が実現されており、「脈絡内照応性」が既に実現されている名詞句を修飾するに際しては、カンマを伴う名詞修飾要素、つまり、非制限的名詞修飾要素を添えることになる。あるいはまた、名詞句とその修飾要素との間にカンマが介在するということは、その名詞句の指示内容は唯一的に特定可能であり、その指示内容については何ごとかを語り得ると話者に判断されていることを明かしているのである(第一章第5節参照)。

(1―1)
A big Martin Marina rescue plane, containing a crew of 13 men, quickly took off.(New Encounter English T, p.18)
〈マーティン・マリーナ号という大型救援機は、乗員十三名を乗せて、すぐに飛び立った。〉

   ここで、カンマに導かれた-ing分詞句という形で展開されているのは、話者にとって既知である名詞句(即ち「脈絡内照応性」は既に実現されていると話者に判断されている名詞句)の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である。(6−16)(The company, known for its i-mode wireless mobile service, has pursued a strategy of taking stakes in other companies, as well as forming alliances in Europe and Asia. )の話者が"The company"の指示内容について"known for its i-mode wireless mobile service"と語り得たのと同じように、(1−1)の話者は"A big Martin Marina rescue plane"の指示内容について"containing a crew of 13 men"と語り得たのである(ただ、文例(6−16)の"The company"の場合とは異なり、"A big Martin Marina rescue plane "の場合、例えこの発話に関わる言語的脈絡([6−22]参照)を辿りつづけている受け手にとっても、分詞句に展開されていることがらは「新しい情報」である、といった点もまた付随的なことである)。(1−1)中の-ing分詞句はその暗黙の主辞である名詞句"A big Martin Marina rescue plane" を非制限的に修飾する分詞句である。つまり、(1―1)については(6−11)や(6−16)の場合と同じことを記述するだけで十分なのである。次のように。

   "A big Martin Marina rescue plane"は既に「脈絡内照応性」が実現されている名詞句(即ちその指示内容について何ごとかを語り得るような名詞句)であると話者に判断されており、「脈絡内照応性」が実現されていると話者に判断されている名詞句が修飾される場合、つまり、そうした名詞句の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端が修飾要素という形で展開される場合、カンマを伴う名詞修飾要素、つまり、非制限的名詞修飾要素が添えられることになる。あるいはまた、カンマが介在するということは、その名詞句の指示内容は唯一的に特定可能であり、その指示内容については何ごとかを語り得ると話者に判断されていることを明かしている。

   その上、(1―1)に関する付随的記述も(6―16)の場合に成立し得る記述と同じもので足りるだろう。(6―16)の場合、「同社」について語り得ることがら(「携帯電話のiモード事業で知られている」)は「同社」の通時的属性の一端であると判断し得るのと同じように(あるいはいやさらに)、(1―1) の場合、(1―1)という発話をその一部とする言語的脈絡をその最後まで辿り終わった時点では、「乗員十三名を乗せていた」は「マーティン・マリーナ号という大型の救援機」の一時的属性というよりむしろ通時的属性の一端であると判断し得ることになるだろう。

   訓練飛行中の爆撃機編隊に緊急事態が生じたという発話の流れの中で出現する(1―1)の主辞"A big Martin Marina rescue plane"の指示内容は既に「緊急事態下にある爆撃機編隊の救援に赴こうとするマーティン・マリーナ号という大型の救援機」に照応する。この時点の(1―1)という発話には、「乗員十三名が乗り組んでいた」は「マーティン・マリーナ号という大型の救援機」の通時的属性であると判断し得るほどの情報はいまだ示されていない。しかし、発話の流れの中で更に示される情報――〈救援機からのそれ以上の連絡はきっぱり途絶えた[Nothing more was ever heard from the rescue plane.]〉([6−22]参照)――によって、連絡を絶った五機の爆撃機編隊の救援に赴いた同機もまた再び戻ることがなかったことが示される。

   こうして「マーティン・マリーナ号という大型の救援機」は「乗り組んでいた乗員十三名」とともに謎の海域に永遠に失われることとなり、名詞句"A big Martin Marina rescue plane"は分詞句"containing a crew of 13 men"と永遠に結びつけられた「唯一的に特定し得る個体」と化すことになる。「何らかの特別な状況下にあるマーティン・マリーナ号という大型の救援機」の一時的属性の一端であると思われた「乗員十三名が乗り組んでいた」は、「マーティン・マリーナ号という大型の救援機」の通時的属性の一端へと身分を変える。「乗員十三名が乗り組んでいた」は「緊急事態下にある爆撃機編隊の救援に向かい、同じように連絡を絶つことになったマーティン・マリーナ号という大型の救援機」という「唯一的に特定し得る個体」について常に語り得ることがらの一端になり得たのである(叙述による「特定」の実現については第一章第4節参照)。

   文形式@(S[=分詞の暗黙の主辞]+,分詞句,+V….)中の分詞句の「可動性」を論ずるには多少の慎重さを求められる(「先行詞の直後の位置は分析にとって最も多くの難題を突きつける。…」(CGEL, 15.61)という点については第二章第5節参照)。文形式C(S+V…名詞句[=分詞の暗黙の主辞] +,分詞句.)の場合に、分詞句は「可動性」を欠いていると断じて危さはなかったのとは異なり、文形式@の場合も同じように、ここでは分詞句は「可動性」を備えていると断じては危さが伴うことになる。(1―1) の分詞句"containing …"に「可動性」を許容し得る一方で、(6−11)(Some even think that the lost island of Atlantis, thought to be in this area, is exercising its strange powers on these missing planes and ships. )及び(6−16)(The company, known for its i-mode wireless mobile service, has pursued a strategy of taking stakes in other companies, as well as forming alliances in Europe and Asia.)中の分詞句""thought to be …"と"known for …"の「可動性」には一定の制限が課せられることを指摘せねばならないだろう。

   (6−11)と(6−16)中の分詞句のように、叙述による「特定」の実現を要件とはしていない名詞句を暗黙の主辞とする分詞句、言い換えると、ある名詞句の指示内容の通時的属性の展開であるような分詞句の「可動性」には一定の制限が課せられるということである。(6−11)と(6−16)中の分詞句が文末へとその位置を変え、結果的に、分詞句がその暗黙の主辞である名詞句と「隔たる」ことによって、暗黙の主辞の在り方に生じる変化を指摘し得るからである[6−25]

   例えば、(6−16)の主辞"The company"は"NTT DoCoMo"に照応することを受け手に伝えるのに必要な情報は既に発話の流れの中で示されており、それゆえ、"The company"は"NTT DoCoMo"に照応するという話者の判断は受け手にも共有されているのである。カンマを伴う分詞句という形で展開されていることがらは、"The company"の指示内容("NTT DoCoMo")について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端である。(6−16)中の分詞句を文末に移動した場合((6−16a)The company has pursued a strategy of taking stakes in other companies, as well as forming alliances in Europe and Asia, known for its i-mode wireless mobile service.)、分詞句"known for …"の暗黙の主辞は、「ヨーロッパとアジアでの提携の実現に加え、他の企業への資本参加という戦略も追い求めてきた同社」という過剰な在り方を抱え込みかねぬであろう。「携帯電話のiモード事業で知られている」という属性は、日々刻々移り変わる状況に応じて失われたり新たに加わったりする一時的属性の一端というよりむしろ通時的属性の一端であると判断し得るがゆえに、「携帯電話のiモード事業で知られている」という属性の主体としては、単に「同社」、即ち、"NTT DoCoMo"を見出すだけで足りたのであり、それがここで見出すべき暗黙の主辞の適切な[6−26]在り方である。「特別な状況下にある同社」といった、過剰と言えるほどの暗黙の主辞を敢えて抱え込むには及ばなかったのである(これとは対照的な記述が(5−3)Mr Hull said BMW wanted to move quickly with a sale of Rover Cars, worried that the market would pull its share price down if delays were incurred. については成立するであろう。以下の記述参照)。

   (6−11)(Some even think that the lost island of Atlantis, thought to be in this area, is exercising its strange powers on these missing planes and ships. )の場合にも、"this area"の指示内容は「バミューダ三角地帯と通称され、数多くの船舶や航空機が不思議な消え方をしている区域」に照応することが受け手に伝わっている([6−22]参照)以上、「この区域にあると考えられている」という属性の適切な主体は「消えたアトランティス島」であり、暗黙の主辞にこれ以上の在り方を求めることは過剰を求めることに等しい。(6−11)中の分詞句を文末に移動した場合((6−11a)Some even think that the lost island of Atlantis is exercising its strange powers on these missing planes and ships, thought to be in this area. )、分詞句"thought …"の暗黙の主辞の在り方(「これらの行方不明の航空機や船舶にその不思議な作用を及ぼしている消えたアトランティス島」)は、「この区域にあると考えられている」という属性の主体としては過剰であり不適切であると判断し得る上に、ことによれば、この分詞句の暗黙の主辞が"these missing planes and ships"である可能性まで抱え込みかねない。

   これとは対照的に、(1―1) 中の分詞句"containing a crew of 13 men"の暗黙の主辞は、その指示内容が発話の流れによって継続的、重層的に「特定」を実現され続けることになる「特別な一個体」である。「十三名の乗員を乗せていた」という属性の主体を、発話の流れによって「特定」が実現される暗黙の主辞、即ち、「何らかの特別の状況下にあるマーティン・マリーナ号という大型の救援機」に見出すことは適切であると判断し得る。発話の流れから切り離された(1―1)にのみ依拠した場合でも、(1―1)の母節全体によって「特定」が実現されている暗黙の主辞、即ち、「すぐに飛び立ったマーティン・マリーナ号という大型の救援機」に分詞句の暗黙の主辞を見出すことは、ここではむしろ適切だったのである。分詞句"containing a crew of 13 men"の暗黙の主辞のこうした在り方は、(1―1) 中の分詞句を文末に移動した場合((1―1a) A big Martin Marina rescue plane quickly took off, containing a crew of 13 men.)に、まさに見出し得るものである。

   (6−11)と(6−16)中の分詞句"thought to be …"及び"known for …"は、その「暗黙の主辞」単体、つまり、母節による「特定」の実現を要件とはしない名詞句と関わることになる位置、即ち、暗黙の主辞の直前[6−27]と直後には位置し得るが、暗黙の主辞が過剰な在り様を呈することになりかねない文末の位置への移動は許容し難い。つまり、「可動性」を備えてはいるものの、その「可動性」には制限がある。これに対し(1―1)中の分詞句は、いずれの位置への移動も許容し得る、つまり、「可動性」を備えている、と判断し得る。文形式@中の分詞句の暗黙の主辞の在り方につきまとうこうした事情は、次の文形式中の分詞句の暗黙の主辞の在り方を検討する過程でより明解になるはずである。

  

(第6章 第4節 その三 了)


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© Nojima Akira