『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第七章 開かれた世界から

第6節 何が曖昧なのか

その七 「相[aspect]」の曖昧さ


〔注7−75〕

副詞的分詞節と副詞的無動詞節が従位詞によって導かれていない場合、推測可能な意味上の関係についてはかなり曖昧であることがある。不定詞節は、数多くの意味上の関係を示すにもかかわらず、こうした点では特別の問題を全くもたらさない
(CGEL, 15.60)(下線は引用者。第七章第6節「その一」参照)
という記述に呼応するかのように、不定詞句の表す活動作用の相は安定している。
不定詞はその活動作用[action]が完結的であることを含意する。"I saw him change the wheel."が意味するのは、私はその活動全体を見たということである。
(PEG, 273)
   Curmeの次のような記述は、PEGの記述と矛盾するわけではない。
分詞は目的辞述辞[objective predicate]]としては極めてありふれている。
    'I see him working in his garden.'
ここでは分詞は進行的意味力[progressive force]を有している。完結的意味力[terminate force]を、即ち、全体としての、つまり、一つの事実としての活動作用[action]という内容[idea]を表現するには、目的辞述辞として不定詞[infinitive]を用いる必要がある。
    'He said he didn't do it, but I saw him do it.'
(CURME, Parts of Speech, 47-4)("force"については[6−37]参照)

動詞の普通形[common form]は常に、活動作用[an act]を一つの全体、一つの事実として表わす。
(CURME, Parts of Speech, 52-2-a)
(普通形[common form]に対しては拡張形[expanded form]がある)(CURME, Parts of Speech, 52-2-a 参照)

   なお、「普通形」とは、'He kept working until he was tired.'(ibid)の"kept"がそうであり、これに対して「拡張形[expanded form]」とは、'He is working in the garden.'(ibid)の"is working"がそれである。

   -ing分詞の表す活動作用の相に関わる記述を紹介しておく。

自由付加詞[free adjunct]として働いている現在分詞を中心とする語群[present participle group]は等位節に実質的に[practically]等価なことがある。このような場合、分詞は定動詞によって示されている活動作用に先行あるいは後続する活動作用[action]を表わすことがある。分詞は必ずしも明白に継続相で[durative]あるとは限らず、その反対であることがよくある。口頭英語[Spoken English]はたいてい等位節を用いる。
   Seating myself I began to read ( = I sat down and began to read).
   Entering a covert, she walked along a ride.
   Young men by the dozen came up, asking her to dance.
(Zandvoort, A HANDBOOK, 83)
(下線は引用者。最初の例にカンマがないのは原文通り。「自由付加詞」については[1−1], [1−4], [1−8], [6−39], [7−29]参照)

こうした付加詞[adjunct]が動詞的ing[verbal ing]を含むことが多いのは当然である。というのも、ing形の相は常に継続相[durative]であるからである、即ち、ing形は全体としての活動、生起、あるいは状態を表わし、開始にも終結にも特別な注意を払わないのである。
(KRUISINGA & ERADES, An English Grammar, 240-1)
(「付加詞」とは「自由付加詞」のこと。下線は引用者)

   また、相は時制と絡み合っている。
英語の顕著な特徴[marked characteristic]の一つは、英語では通常(殆ど常に)、動作行為[an act]の相を示さなくてはならないということ、即ち、その動作行為が一つの全体、一つの事実と見なされているのか、それとも、進行中である[going on]、継続している[continuing]、と見なされているのかを殆ど常に示さなくてはならないということである。
それゆえ、二つの相がある。それぞれの相に六つの時制がある。
かくして、英語においては、時制は相に従属している[subordinated]
それぞれの相の六つの時制は相の時間関係[time relations]を示す。
(CURME, Parts of Speech, 52 ASPECT [相])
   実際、-ing分詞句を覆っている時制の判定は相の判定と相関的である。

Moreover, producers are increasingly moving work to places such as Canada, Australia and New Zealand to save costs, hiring crews and local actors for lower rates.
〈その上、製作者は費用節減のためますます仕事をカナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった地域に移しつつあり、(合衆国)より低い賃金で人員と地元の俳優を雇うようになっている。〉
(A Tough Scene for Actors By JAMES BATES and CLAUDIA ELLER, Times Staff Writers, Los Angeles Times.com, Saturday, June 16, 2001)

   "hiring ….."の相の判定は、この分詞句が "are increasingly moving"を標識とする時制の網に覆われているという判断と不可分である。

(〔注7−75〕 了)

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