税制の改革

1998.11.5

<直接税の減税は、必要か?>
(1) 実際に検討しているのは、所得税と住民税の最高税率を、下げること。この背景には、「直接税と間接税の比率を、間接税を増やす方向に変更する」という考えがある。しかし、税の「所得の再分配機能」を考えると、直接税からきちんと取る必要がある。
高額所得は、実際には、「現在の社会の仕組みが結果として、その人の能力以上の収入を得させた」面が強い。分かり易い例えでは、何億円を得る野球選手は、空振りを含めて、1打席で、何○○万円を稼ぐが、その1打席だけを見れば、その金額に値しないことは、明らかだ。広告塔として、スター選手を必要とする事情が、金額を吊り上げている。大会社の会長の報酬も、その地位に合う見栄えのする金額を決めたのであって、その金額を稼ぐからではない。また、金融商品や株式等のうち、投機的取り引きで儲けた場合は、その実態は、勤労所得や産業の利益とは、異なる。だからこそ、税の「所得の再分配機能」により、公正さを確保することができる。
(2) 今後、日本は、超高齢化社会になる。年金や医療、介護に金がかかる。金は、いくらあっても、足りない。なのに、少子化で働く人数(=納税者)が減る。高額所得者は、最高税率が高くても、生活できる。バブル期のように、経済の成長と比例して実収入が増える必要は無い。一方、超高齢化社会にかかる金を、間接税だけに求めたら、経済が窒息する!!現に「あれもこれも(年金、医療、介護、何やかんや公的資金も)消費税」と皆が狙っているではないか?今の直接税は、そのまま確保しておかないと、後で足りなくなる。

<総合課税が必要>
(1) 米国と比べて、日本の直接税比率が高いと良く言うが、他の欧米諸国、北欧諸国と比べれば、高いばかりではない。結論が先にあって、比較の対象が偏っている。所得税、住民税の実効税率を見ると、年収3,000万円までは、日本はドイツ、英国、米国、フランスの中位にあり、高くない。年収3,000万円なんて、夢のまた夢だ。更に、これ以上の高額所得者でも、日本は、資産性所得に分離課税があるため、実質税負担は、軽い。かつ、前項(1)も参照。そもそも、年収5,000万円だと、半分税金を払っても、まだ、2,500万円あり、毎月200万円使っても、まだ残る。
(2) 日本では、総合課税をしていないので、きちんと所得を捕捉していない。どちらかと言えば、低所得者は給与所得だけの人が多く、所得の捕捉率が高い。高額所得者は、利子、株式等所得があり、捕捉率が低い。総合課税が無い条件では、日本の直接税比率は、低い。
課税の前提として、どこにどれだけ所得があるか、きちんと把握しないのは、おかしい。

<高額所得の前提は、健全な経済>
(1) ひとつの言い方をすれば、高額所得者は、下々の上前をはねてその所得を得ているのだから、下々が豊かでなければ、相対的高額所得も有り得ない。「@収入から差し引かれる、年金掛け金も、医療保険料も、介護保険料も、A残った金の支出にかかる間接税も上がる見込み(終身雇用を崩して派遣労働で賃金低下も見込まれ)」だから、「低所得者は、生活ができない」、「中所得者も住宅購入なんて到底無理」、生活防衛に走っているから、縮小経済になっている。元のパイが無くなれば、パイの分捕り合戦に勝者も無い。
(2) 5万円のテレビを10人の低中所得者が買えば、50万円だが、20万円のテレビを1人の高額所得者が買っても、20万円にしかならない。国内総生産(GDP)の60数パーセントを占める消費需要を回復するには、薄く広い消費拡大が必要だ。
(3) つまり、「直接税の最高税率引き下げ」という、今の所謂「(景気対策としての)減税論議」は、時代認識、経済の現状認識を誤っている。「昔の教科書に、こう書いてあった」という類の話だ。

<年金保険料引き上げと、給付水準引き下げ>
(1) 予定される、「年金保険料引き上げと、給付水準引き下げ」により、国民の大多数を占める低中所得者の、可処分所得(=購買力)は、確実に下がる。間接税は、もう打ち出の小槌ではない。
(2) 繰り返すが、「年収5,000万円だと、半分税金を払っても、まだ、2,500万円あり、毎月200万円使っても、まだ残る」。片や、パートで時給1000円だと、「1000円/時間×8時間/日×22日/月×12月=2,112,000円/年収」で、「年収5,000万円の50%税引後月収」と「税引前パート年収」が同じ!! 直接税の最高税率を引き下げる必要は無い。
他方、低中所得者は、「@収入から差し引かれる、年金掛け金も、医療保険料も、介護保険料も、A残った金の支出にかかる間接税も上がる見込み(終身雇用を崩して派遣労働で賃金低下も見込まれ)」では、生活防衛に走る以外ないだろう。消費税を払う、消費者という存在自体が、抹殺されかねない事態だ。そういう認識を、きちんと持つ必要がある。

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