年金資金からのコーポレート・ガバナンスの要求

機関投資家からの株主利益の最大化の要求

米国の場合・・カルパースのケース・・公的年金
日本の厚生年金は150兆円の巨大資金をもち・・・
日本の場合・・三井信託のケース
野村アセット・マネジメントのケース
生命保険・信託銀行が株主権行使へ
機関投資家のチェックポイント
ドイツのケース
ナスダックのコーポレートガバナンス要請規定

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カルフォルニア州公務員退職年金基金(カルパース)の日本企業に対するコーポレート・ガバナンスの要求



コーポレート・ガバナンスのホームページを開くと、「米国の上場株式の約26%は年金資金が保有している」としている。 年金資金が投資先企業のコーポレート・ガバナンスを機関投資家として要求する重要な位置を占めている。

カルパース(CalPERS、California Public Employees' Retirement System)のホームページを開くと、カルパースはカルフォルニア州及び地方の公務員およびその家族約1百万人以上の退職給付や医療給付のため、2400以上の雇用者から1400億ドル(約20兆円)を預かっている、としている。

カルパースは、機関投資家として株主権を行使して、米国企業のみでなく海外の投資先企業にコーポレート・ガバナンスを求めており、多大な影響を与えている。


カルパースは、1998年3月18日付けで「日本にコーポレート・ガバナンス実務の採用を」と題して、日本企業にコーポレート・ガバナンスに関して提言している。その中で、次のように記している。

カルパースは、40億ドル以上を日本のに投資しており、株式相互持ち合いの解消、株主議決権の適切な集計実務、業績の連動する経営責任者ストックオプション制度の導入及び情報開示の改善を含む取締役と株主との関係を強化したいと望んでいる。 こうしたコーポレート・ガバナンスを改善することは、魅力ある投資とするためであり、海外投資家を引き止めておくためでもある、グローバルな競争のために日本にとって必要なことである。

特に、次の3点について提言している。

その会社および関係会社から独立した取締役を取締役会に含めること。
最高経営者のパフォーマンスや経営戦略計画の意思決定を効率的および効果的に行う為、取締役会の規模を適切なものに縮小すること。
その会社および関係会社から独立した監査人(Auditors としているが、多分監査役 Statutory Auditorsを指しているものと思われる)の選任をすること。

カルパースの上記要求は、現行商法でも導入は可能である。

日本の厚生年金は150兆円の巨大資金をもち・・・

日本の厚生年金は150兆円前後の年金資金を運用し、規模で公的年金であるカルパースなどを圧倒している。日本の厚生年金などは大規模保養施設の建設で批判を浴びたことはあっても、ガバナンスのリード役としてみなされたことはない。

厚生年金特別会計 連結財務諸表平成13年度末

各特別会計の新たな特別会計財務書類の開示状況 (平成1581日現在)

厚生保険特別会計財務書類

年金資金運用基金(旧年金福祉事業団)  年金資金運用基金の概要  情報公開

三井信託の年金資金からの議決権行使

1998年6月24日の日本経済新聞によれば、三井信託が企業から預かっている企業年金の投資先企業のうち、証券不祥事や総会屋への利益供与事件を起こした企業を対象に、6月の株主総会で議決権を行使し、退任役員への退職金議案に対して事実上反対する方針を固めた。他の年金資金も今後追随する方向にあり、日本のコーポレート・ガバナンスに弾みがつきそうである。

株主総会の決議は、商法239条1項によれば、「発行済み株式の総数の過半数にあたる株式を有する株主出席して、その議決権の過半数をもってなすことを要す。」とあり、出席株主には、委任状による代履行使を含を含む。
従って、株主総会の議案、例えば、「役員退職慰労金の支給に関する議案」に賛成できなければ、委任状に積極的に「反対」は無論のこと、または「棄権」とすれば、「賛成」票の数には含まず、議案は否決されることになる。

特定の機関投資家だけでは「反対票」は過半数にならないが、追随する他の機関投資家や個人株主、海外の機関投資家を含む株主が同調すれば議案が否決される可能性が高くなる。その意味で、三井信託の年金資金に関する株主権の行使は、日本の企業に多大な影響を及ぼすことになる。

信託銀行や生命保険会社は、顧客である企業から預かっている年金資金の運用に関し責任を負っており、年金資金の運用により利益を最大化することは当然のことである。それを怠れば、資金運用責任者としての責任を問われることになろうし、また、顧客が逃げて競争に負けることにも成る。株主代表訴訟の対象になることもあろう。

1996年度末の企業年金資産額(生命保険協会・信託協会・全国共済農業共同組合連合会「適格年金契約に関する統計表」)を見ると、日本の適格年金は生保・信託合計で19兆円、厚生年金は約48兆円、年金資産合計67兆円あることになっている。残念ながら、年金資産から株式投資額に向けられた額又は割合の統計が不明である。

年金資金を預かる機関投資家が、株主としての議決権行使を行うなら日本企業のコーポレート・ガバナンスは大きく促進される余地がある。他の信託銀行も三井信託に追随する方向にあるようだし、生命保険会社も競走上同様な動きを見せることになろう。

野村アセット・マネジメントのケース

1999年4月11日、日本経済新聞は、資産運用大手の野村アセット・マネジメント投信は、10日、投資信託や年金の運用で株式を保有している企業の株主総会で、議決権を行使する方針を明らかにした、と報じた。株主の権利意識が高まる中、資金運用の受託者として企業統治(コーポレートガバナンス)に積極的に関与することで、個人投資家や年金の利益を守ることにつながると判断した。構内の投資信託運用会社として初めてで今後も同様な動きが広がりそう、している。

6月の株主総会から、違法行為のあった企業、株主を軽視している企業などに対し、反対票を投じる。反対票を投じる可能性があるのは、@ 企業や経営者個人に違法行為があった、A 多額の損失を計上した、B 情報開示などで株主軽視の姿勢が見える、などのケース。

株式投資信託の残高は99年3月末で2兆円。

生命保険・信託銀行株主権行使へ

1999年6月1日、日本経済新聞は、日本生命、第一生命、住友生命、三菱信託、東洋信託、安田信託など、顧客から預かった年金資産で運用する株式を発行する企業に対して、1999年の株主総会から株主権を行使すると報じた。

背景には、外資系金融機関との競争激化のなか、年金加入者など顧客の利益を優先する「受託者責任」を重視した体制へ転換し始めたとある。

機関投資家のチェックポイント

機関投資家が投資先企業の経営に注文を付けるのは、株主の権利を最大限発揮し、業績を向上させることが得策と判断しているからだ。機関投資家によってチェックポイントは異なるが、下記のようなチェックをして、取締役の選出の議案に反対投票を投じたり棄権票にしたりしているということである。

社外取締役がいるか
配当性向が低くすぎないか
株価の動きが過去1年間で株価指数を25%以上低下していないか
取締役が20人を超えていないか
会長と社長の兼任がないか
ストックオプションなど経営者が株主と利害を共有仕組みがあるか

企業不祥事に付いては、総会屋への利益供与で辞任する役員の退職金が高すぎる場合は、反対票を投ずるとしている。

最近では、機関投資家の提案が企業に受け入れられている場合も多いようである。

しかしながら、3月期決算会社の株主総会が、2000年6月29日(木曜)に集中する現実は崩れていない。

ドイツのケース

ドイツのコーポレートガバナンスの仕組みは、監査役会である。ドイツの特徴は、金融機関の間接金融が中心であるため、銀行から送り込まれた監査役、従業員代表などから構成する監査役会が経営のチェックや取締役会の決定事項を承認する重要な役割をもつ。

1999年11月26日、日本経済新聞によると、「監査役会制度に批判」「チェック機能働かず」と題して、ドイツ・ゼネコン大手であるフィリップ・ホルツマンの経営危機を契機にドイツ特有のコーポレート・ガバナンスの仕組みである監査役会が機能していないと批判が高まっていると報じている。

内容は、ホルツマンの経営危機に際しメインバンクのドイツ銀行は現役役員をホルツマンの監査役会会長に送りこんでいた。「ドイツ銀行は重要な経営情報をいち早く知る立場に居た」(コメルツ銀行)として、ドイツ銀行が提示したホルツマン再建費用の分担案を拒否。監査役会の密室でドイツ銀行がすべてを取り仕切ってきたから「出融資の割合以上にドイツ銀行の責任は重い」とさらなる負担を求めた。コンセンサス重視で物事を決めるドイツ流が金融機関、経営陣、従業員の三者のもたれ合いを生むリスクの早期発見を遅らせる結果となる。

「企業、銀行いずれにも責任がある最悪の事例」(スイス系銀行)で、監査役会の抜本改革を求める議論に火をつけそうだ、と結んでいる。

翌日の新聞には、ホルツマンの旧経営陣の背任や証拠隠滅の容疑で地方検察局が捜査開始し、約24億マルク(1マルク約54円とすると1296億円の損失が97年以前の不動産開発によるもので「大部分は97年以前に決算に計上できたはず」(ビンダ−社長)としており粉飾決算の疑いも出ている、としている。日本のニュースを見ているような錯覚を覚える。双方とも密室で意思決定される制度上の欠陥だからであろう。

監査役会制度は、間接金融中心の金融支配のドイツ特有の制度であるが、ドイツ法に基礎をおく日本の商法も似たようなところがあり、監査役が「閑散役」と揶揄され機能しないのは、間接金融中心で株主をほとんど無視してきた異常な状況が背景にあるのではないか。であるとするなら、ドイツ及び日本の間接金融中心の制度の制度疲労であるといえよう。現在では、直接金融市場へのシフトが要求されており、「株主価値の最大化」を目標としつつある。コーポレート・ガバナンス制度を抜本的に改革する必要性が生まれている。

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公認会計士 横山 明
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