コーポレート・ガバナンス

ナスダックのルールに見るコーポレート・ガバナンスほか

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ナスダックのコーポレート・ガバナンス規定抜粋
ナスダックの市場ルール(25)コーポレート・ガバナンス要請5600. Corporate Governance Requirementsに変更、 Marketplace Rules 4000〜7000 )によれば、以下のことを企業に求めている。

(A)年次報告書および中間財務報告の配布

(i)監査済年次報告書(子会社があれば連結財務諸表)年次の株主総会開催前に、合理的な期間内に、株主に配布し、ナスダックに登録しなければならない。

(ii)SECルール13a-13にしたがって、SECにForm 10-Qの損益計算書を含む四半期報告書SECに登録前または以後速やかに株主に送付し、および1部をナスダックに登録しなければならない。四半期報告書は、最低、異常項目、臨時的性格のものを、税引前および税引後または純利益および見積繰延税金を損益計算書に開示しなければならない。


(iii)SECルール13a−13に該当しなく、SECあるいは他の連邦または州の監督当局へ登録が求められている会社は、業績と財政状況に関する中間財務諸表を株主に配布し、適切な監督当局およびナスダックに登録しなければならない。


(B)独立取締役(Independent Directors)
会社は、最低2名の独立取締役を取締役会に置かなければならない。

(C)監査委員会(Audit Committee)
会社は、独立取締役が過半数を超える監査委員会を設置しなければならない。


(D)株主総会
会社は、株主の年次総会を開催しなければならない。株主総会の開催通知をナスダックに送付しなければならない。


(E)定足数
普通株式の株主総会での定足数を定款で規定しておかなければならない。定足数は、発行済普通議決権株の33.33%以下であってはならない。

(F)委任状
株主総会の委任状を保管し、委任状取り纏め表をナスダックに提出しなければならない。

(G)利害関係者
会社は、継続的な事業活動から生ずる関連当事者間取引のすべてについて(all related party transactions)、適切なリビューを行わなければならない。監査委員会を活用しなければならない。監査委員会では利害が衝突するような場合で、適当と考える場合は、取締役会を活用しなければならない。

(H)株主の承認
有価証券を発行する場合、および、証券発行の前には株主の承認を受けなければならない。(詳細省略)

ワンポイント・コメント

ナスダック(Nasdaq)には、ナショナル・マーケット(National Market)とスモールキャップ・マーケット(SmallCap Market)があります。コーポレートガバナンスの規定は、従来、ナッショナル・マーケットに株式公開する企業にのみ適用されていましたが,その重要性から最近変更され、スモールキャップ・マーケットに株式公開する企業にも適用されることになりました。(「ナスダックの株式公開基準」を参照)

上記ナスダックのコーポレート・ガバナンスの要請規定は,第一に「財務情報の適切な公開」を挙げ、第二に、「複数の独立取締役(Independent Directors)」を挙げています。なお、コーポレートガバナンスの要請は、「トレッドウェイ委員会報告の勧告」をうけて規定されたものです。

第一の財務情報の開示は、米国では、米国会計基準(米国財務会計基準委員会FASBが設定したもの)で作成された財務諸表を意味します。証券監督局であるSECは、会計基準を設定していません。安易にSEC基準という用語は、意味不明で使用するのは避けたほうが無難です。

第ニの「複数の独立取締役」は、日本では「社外取締役(Outside Director)」と翻訳されていますが、原文は「独立取締役(Independent Director)」で、コーポレート・ガバナンスの視点からは全く違ったものです。

米国は、独立という言葉に意味を持たせており、「社外取締役(Outside Director)」という用語ですと独立性が保証されていないと解しています。 つまり、「社外取締役」という用語であれば、日本のように系列グループから選任するようなことになり、独立性が保たれないとし信頼性が無いと判断します。独立取締役が取締役会で議決権を行使することでチェックが機能し、かつ、独立取締役が過半数を占めた監査委員会が機能することができるのです。日本人が外国人と話しをする場合、特に注意して話しをする点です。

日本の商法では、社外監査役の制度がありますが、取締役会で議決権がないことから、実態は監視機能を果たしていると信ずる者は居ないのではないでしょうか。現に、山一證券、日本長期信用銀行、日本債券銀行などで立証されたようなものです。

最近、先進的な企業は、現行商法でも可能なことから社外取締役を選任し監視機能を高めようとする企業が出現するようになりました。しかしながら、現行商法第276条(監査役の兼務禁止規定)により、社外取締役は監査役と重任することはできず重任すると違法となります。米国同様、監査役の目的はコーポレート・ガバナンス(企業統治)であるにもかかわらず日本のそれは機能せず、米国は取締役が監査委員会を設置して機能させている。また、機能しない制度に固執して改革しないのは不思議です。

ナスダックのコーポレート・ガバナンスでは、複数の独立取締役(通常は、独立取締役の数は取締役会の構成員の過半数を超える)は経営意思決定の場である取締役会のメンバーとして議決権を行使することで監視機能を果たしているのです。

⇒「社外取締役と独立取締役」 
私見ですが、当初、日本で商法に社外取締役制度を導入した際、独立性についての制限が無く、独立性を無視した社外取締役の登用などの弊害から、その後、「その会社の従業員や役員でない者」という制限を付した経緯を見ると、当初に「Independent Director」 の翻訳に困惑した学者またはマスコミが日本流に誤訳したのではないかという懸念を持っている。なぜならば、日本の商法改正(1993年(平成5年)改正・・大会社で社外監査役・監査役会導入)の「トレッドウェイ委員会報告」(1987年10月公表)に「独立的な監査委員会の設置の義務付け」を勧告し、その中で「独立的な取締役からのみで構成される監査委員会の設置を全上場会社に要求しているのはニューヨーク証券取引所だけである」との記載があり、米国では「独立」の用語に重要な意味を持っていることが明らかであった。2001年5月現在でも、米国政府から「独立性」について、ニューヨーク証券取引所の上場規定と同じもの(「独立取締役」の定義は以下の者を除外しています:(1)当該企業の使用人および役員、(2)当該企業の使用人および役員等の直系親族(雇用関係が終了してから三年まで)、(3)パートナーズ、支配的株主、当該企業と業務関係を有する企業の役員、(4)当該企業とある一定の兼任役員会関係を有する企業の取締役。)にすることを要求されている。
なおも続く社外監査役の独立性に関する抜け道
(監査役の員数等)
第十八条  大会社にあつては、監査役は、三人以上で、そのうち一人(半数)以上は、その就任の前五年間(前に)大会社又はその子会社の取締役、執行役又は支配人その他の使用人でなかつた(となつたことがない)者でなければならない。

カッコ( )内は、「平成13年12月12日法律第149号」(商法特例法)の改正で、社外監査役は半数以上とされました。施行は平成17年5月1日となっています。3月決算では、2006年の株主総会から実施。
この改正のおいても、社外監査役には会社や子会社に在籍したことがなければ就任できるため、親会社の出身者を置いている場合があり、海外から独立性に疑問を呈する意見がある。
独立性について小出しに改善しているが今なお抜け道がある。

上場企業に社外取締役義務付け・取引所規則改正へ

 金融庁は、取引所に上場するすべての企業に対し、経営陣から独立した社外取締役の起用を義務付けるルールを採用するよう、東京証券取引所など主要な取引所に要請する。上場の条件などを定めた「取引所規則」の改正を求める。企業経営を巡る事件や買収攻防などが増える中で、第三者のチェック機能が重要になるためだ。ただ、外部人材登用の実効性を疑問視する声もあり、産業界に波紋を広げそうだ。

 2005年4月15日の金融審議会(首相の諮問機関)で基本的な考え方を示した。6月までに論点をとりまとめる。現在の取引所規則は合併など経営にとって重要な事実が生じた際の適時開示に関するルールが中心で、経営体制に関する規定はない。米ニューヨーク証券取引所(NYSE)には社外取締役の設置義務やその要件を定めたルールがあり、同じような仕組みの導入を目指す。
 
 日本経済新聞2005年4月16日付(07:00)より

資料3−6 社外取締役に関するニューヨーク証券取引所のルール(NYSE company manual)(PDF:113KB)
● 
ニューヨーク証券取引所・上場会社マニュアル(原文 参照

ナスダックのコーポレート・ガバナンス基準改善案(2002年4月、7月承認)

2002年4月12日エンロン問題で信用回復に腐心している証券市場の一つナスダックでは、ナスダック議長・CEOウイック・シモンズ氏が、SEC委員長ハーベイ・ピット氏及びニューヨク証券取引所所長・CEOリチャード・グラッソー氏に対し、下記の項目について「コーポレートガバナンス基準の見直し」を約束している。(ナスダックのプレスリリース参照)

@監査委員会の独立取締役の強化
エンロンの監査委員会における取締役の独立性の欠如に対し批判が集中した。現行、規定では、取締役が会社にコンサルティグのサービスをして6万ドル以上の報酬を得ている場合は、独立(Independent)しているとは認めないとしているが、会社と監査委員会の独立取締役の経済的関係を厳格にし独立性の定義をもっと限定するよう提案している。

Aストック・オプションの付与の株主による承認を拡大
すべてのストックオプションの付与について株主の承認を得るよう規定を変更することを提案している。現行の規定は、一般的には株主の承認を求めているが、除外事項が多すぎるとしている。

B行為規範及び広範囲なディスクロージャーを要請
行為規範:すべての企業はベストな実務として行為規範を適用すべきである。コンプライアンス(遵法)を監視するために取締役会の承認手続きがあるべきである。
外国の会社についても、現在ナスダックのコーポレートガバナンス基準の適用を放棄していても、SECは要求を検討している。ナスダックにおいても米国のコーポレートガバナンス魂を外国会社に要求することを検討する。

C監査委員会の権威を強化
SECが提案しているように、監査委員会が独立監査人の選任・解任に関し取締役会が反対したかどうかを年次報告書に記載させる。

DSECの公正開示規則(Regulation Fair Disclosure)との調和
現行ナスダックのルールでは、会社の重要な情報は主要なニュース通信社を通じて公表し、かつその前にナスダックに通知することを要求している。SEC公正開示規則(FD)は電話会議やウエッブ配信の普及を代替手段とすることを認めている。現在混乱している企業があるが、ナスダックもSECのFD規則に協調して完全開示や公正開示を容易にする。

Eすべての取締役会メンバーについて継続教育
ナスダックは、取締役会メンバーの継続的教育のために、ベストな実務(Best Practice)を構築することを検討している。

2002年6月5日、ナスダックは、下記ニューヨーク証券取引所の改善案と類似した案を、6日にSECへ登録すると発表した。コメント期間を設けて、今年の夏後半にも実施したいとしている。上記4月のSECに対する回答文書に加えて下記の内容が盛り込まれた。(プレスリリース 参照)

・ a majority of independent directors on corporate boards; 取締役会で過半数の独立取締役
・ compensation committees composed solely of independent directors; 報酬委員会は独立取締役のみで構成
・ a cooling-off period during which former auditors would be precluded from serving on corporate audit committees; 前任監査人が企業の監査委員会の勤務から除かれるクーリングオフ期間
・ expanding the scope of audit committee authority; 監査委員会の権限範囲の拡大
・ strengthening continuing education for directors; 取締役の継続教育の強化
・ increasing the use of corporate codes of conduct and compliance methods to support them; and 会社の行為規範の利用増加および遵法方法の支援
・ mandate non-U.S. companies to disclose if they have received waivers of corporate governance standards through a new SEC disclosure requirement. 新SEC開示要求を通じてコーポレートガバナンス基準の適用除外を受けた外国企業に開示を強制

2002年7月24日、上記案は承認された。

ニューヨーク証券取引所のコーポレート・ガバナンス改革(2002年6月、8月承認)

ニューヨーク証券取引所(NYSE)は、エンロン問題で明らかになったコーポレート・ガバナンスに関する不備を改善するため「企業の説明責任及び上場規定委員会」を発足して検討していた。2002年6月6日、ニューヨク所見取引所は、「企業の説明責任及び上場規定委員会」が纏めた改善提案を公表した。独立取締役(Independent directors)の強化が提言されている。

現行規定と、改善提案を比較した表は下記の通りである。(原文およびNYSE取締役会への提言 参照)

NYSE Committee Recommendation 改善提言 Current Rule(s) 現行ルール
独立取締役は取締役会の過半数でなければならない
Independent directors must comprise a majority of a board.
Listed company must have an audit committee composed of at least three independent directors.
非経営執行取締役は、管理されることなく定期的な役員会に参画しなければならない。
Non-management directors must meet without management in regular executive sessions.
No such requirement.
上場会社は、独立取締役のみで構成される監査委員会、指名委員会、役員報酬委員会を設置しなければならない。
Listed companies must have an audit committee, a nominating committee and a compensation committee, each comprised solely of independent directors.
Listed companies must have an audit committee comprised solely of independent directors. No requirement for establishment or composition of nominating or compensation committees.
監査委員会の議長は、会計または財務管理の経験者でなければならない。
The chair of the audit committee must have accounting or financial management experience.
All committee members must be financially literate and at least one must have accounting or financial management expertise.
監査委員会は会計監査人の採用及び解任、および会計監査人の重要な非監査業務の報告について責任を負わねばならない。
Audit committee must have sole responsibility for hiring and firing the company's auditors, and for filing any significant non-audit work by the auditors.
Audit committee charter must provide that selection and firing of the independent auditor is subject to the "ultimate・authority of the audit committee and the board of directors.
For a director to be deemed "independent,・ the board must affirmatively determine the director has no material relationship with the listed company (either directly or as a partner, shareholder or officer of an organization that has a relationship with the company). Existing definition precludes any relationship with the company that may interfere with the exercise of director's independence from management and the company.
Independence also requires a five-year "cooling-off・ period for former employees of the listed company, or of its independent auditor; for former employees of any company whose compensation committee includes an officer of the listed company; and for immediate family members of the above. Cooling-off period is three years; does not specifically apply to former employees of the auditor or any company whose compensation committee includes an officer of the listed company. Board of directors can make an exception for one former officer, provided the reason is explained in the next proxy statement.
Director's fees must be the sole compensation an audit committee member receives from the listed company; further, an audit committee member associated with a major shareholder (one owning 20% or more of the listed company's equity) may not vote in audit committee proceedings. No current requirement.
Listed companies must adopt a code of business conduct and ethics, and must promptly disclose any waivers of the code for directors or executive officers. No current requirements.
Shareholders must be given the opportunity to vote on all equity-based compensation plans. Brokers may only vote customer shares on proposals for such plans pursuant to customer instructions. Shareholder approval required of equity-compensation plans in which officers or directors may participate, but broad-based plans and one-time employment inducements are exempt. Broker can vote customer shares except when given instructions from the customer, or when the action is contested.
Listed companies must publish codes of business conduct and ethics, and key committee charters. Waivers of such codes for directors or executive officers must be promptly disclosed. No current requirements.
Listed foreign private issuers must disclose any significant ways in which their corporate governance practices differ from NYSE rules. No current requirements.
Each listed-company's CEO must certify annually that the company has established and complied with procedures for verifying the accuracy and completeness of information provided to investors and that he or she has no reasonable cause to believe that the information is not accurate and complete. The CEO must further certify that he or she has reviewed with the board those procedures and the company's compliance with them. No current requirements.
CEOs must also certify annually that they are not aware of any company violations of NYSE rules. No current requirements.
Upon finding a violation of an Exchange rule, the NYSE may issue a public reprimand letter to any listed company and ultimately suspend or de-list an offending company. No current provision for a public reprimand.
The NYSE urges every listed company to establish an orientation program for new board members. No such recommendation has been made previously.
In conjunction with leading authorities in corporate governance, the NYSE will develop a Directors Institute. NYSE has generally supported educational initiatives, but this will be the first formalized program designed for directors.

NYSE理事会は、この提言を2002年8月1日承認した。承認された改訂内容は、「ニューヨーク証券取引所上場会社マニュアル」参照。


ニューヨーク証券取引所へ上場の京セラのコーポレート・ガバナンス

ニューヨーク証券取引所におけるコーポレート・ガバナンス基準に関して」by 京セラ
(下記は、ニューヨーク証券取引所に上場 年次報告書Form 20ーF・・Item 16G Corporate Governanceの翻訳版)

ニューヨーク証券取引所に上場する会社は、同証券取引所の上場会社マニュアルセクション303Aに定めるコーポレート・ガバナンスについての基準に従う必要があります。ただし、当社のように外国企業で同証券取引所に上場している場合については、セクション303Aの規定にかかわらず、自国の慣行に従うことが認められています。
下記の表は、同証券取引所上場会社マニュアルセクション303Aの定めにより、米国上場企業が従うコーポレート・ガバナンスの慣行と、当社が従うコーポレート・ガバナンスの慣行の主な違いを記述したものです。

ニューヨーク証券取引所に
上場する米国企業が従う
コーポレート・ガバナンスの慣行
当社(京セラ)が従うコーポレート・ガバナンスの慣行
同証券取引所上場会社マニュア
セクション303Aにより、
同証券取引所上場の米国企業
は、取締役会メンバーの過半
を、同セクションの定める独立性
要件を満たす独立取締役としな
ければなりません。
当社を含む日本の大会社で監査役会制度をベースにしたコーポレート・ガバナンスシステ
ムを採用している場合、日本の会社法には、独立取締役についての規定はありません。
経営者及び会計監査人を監視する業務は、経営者と分離した立場にある監査役にゆだねら
れます。
また、当社を含む監査役会制度を採用する日本の大会社は、日本の会社法の規定にもと
づく追加的な独立性要件を満たした少なくとも半数以上の“社外”監査役の設置を義務付け
られています。“社外”監査役の定義は、就任以前に当社及び子会社の取締役、支配人
又はその他の使用人となったことがない監査役となっています。
2011年6月28日現在、当社には5名の監査役がおり、そのうち3名が社外監査役です。
日本の会社法の規定に基づく独立性要件に加えて、日本の証券取引所の規則により、
2010年3月31日に終了する事業年度に係る定時株主総会日の翌日より、当社の社外取締
役又は社外監査役のうち少なくとも1名は、追加的な独立性基準を満たすことが義務づけら
れています。
同証券取引所上場の米国企業
は、3名以上の独立取締役だけ
から構成される監査委員会を
置かなければなりません。
当社は前述のとおり監査役会制度を採用しています。この制度のもとでは、監査役会は、
取締役会から法律的に分離独立した組織です。監査役会の主な機能は、米国における監査
委員会の委員を含む独立取締役の機能と同様のものであり、当社株主のために、取締役の
業務執行を監視し、また、会計監査人の監査方法、監査報告を検討して意見を述べます。
当社を含む監査役会設置会社である日本の大会社では、最低3名の監査役を置く義務が
あります。2011年6月28日現在、当社には5名の監査役が就任しています。監査役の任期は
4年です。一方、当社取締役の任期は2年です。
上場企業の監査委員会に関する米国1934年証券取引法ルール10A−3上、一定の要件
を満たした監査役会を有する外国企業は、同規則の適用を免除されますが、当社は、かか
る免除規定の適用を受けています。
同証券取引所上場の米国企業
は、独立取締役だけから構成さ
れる推薦委員会/コーポレート・
ガバナンス委員会を置かなけれ
ばなりません。
当社取締役は、株主総会によって選任されます。また、取締役会は、その欠員を自ら補充
する権限を有しません。当社監査役もまた、株主総会によって選任されます。監査役選任議
案は取締役会が提案しますが、監査役会による同意が必要です。監査役会は、当社取締役
が監査役選任議案を株主総会に提出することを要請する決議を行うことができます。監査役
は、株主総会において、監査役選任議案について意見を述べる権利があります。
同証券取引所上場の米国企業
は、独立取締役だけから構成さ
れる報酬委員会を置かなければ
なりません。
当社取締役に対する報酬総額及び監査役に対する報酬総額は、株主総会に提案され
決議にかけられます。この報酬総額に関する提案が株主総会において承認されると、
取締役会及び監査役会は、それぞれのメンバーに報酬を配分します。
同証券取引所上場の米国企業
は、一般に株式による報酬支払
制度について、株主の承認を得
なければなりません。
当社を含む日本の企業では、新株予約権が役員等に対するストックオプション目的で
発行されることがあります。ストックオプション目的の場合には、通常、特に有利な条件での
新株予約権の発行に該当する為、日本の会社法の規定に基づき、株主総会での承認事項
となります。当社によるストックオプション目的の新株予約権の発行に関しても、株主総会で
の承認を受けております。

企業改革法に関するSEC規則の改正(2002年7月、10月、03年11月)

米国上院及び下院が独自に企業改革法案を作成していたが、両院の意見を調整して「2002年サーべンス・オクスリー法(SARBANES−OXLEY ACT OF 2002〕」にまとめ両院で可決し、2002年7月31日、大統領が署名して法律として発効した。
コーポレートガバナンスに関する条文の概要は以下の通り。

・301条 公開会社の監査委員会は独立(Independent)していなければならない。
・302条 CEOおよびCFOは「企業が作成した財務諸表は適正である」との証明書を添付しなければならない。
・404条 経営者による、内部統制制度の評価をした「内部統制制度報告書(Internal control report)」を年次報告書の添付すること。
・406条 最高経営者に関する会社の倫理規定(company codes of ethics)の開示についてSECが規則を作成すること。
・407条 監査委員会には最低一人の財務専門家(Financial expert)が必要とする規則をSECが作成すること。
・409条 リアルタイム情報開示として、財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす場合は、情報開示しなければならない。

2002年10月16日、SECは、企業改革法(2002年サーべンス・オクスリー法(SARBANES−OXLEY ACT OF 2002〕)が求めていたルールなど施行するための情報開示の追加規則案を承認した。規則草案は近日中に公表し30日間コメントを求めるとしている。(SEC速報 参照) 

年次報告書への開示内容は次の通り。
407条に関して監査委員会の財務専門家(audit committee financial expertsの数、氏名、経営者からの独立性についての情報開示、(SEC Final Rule「Disclosure Required by Sections 406 and 407 of the Sarbanes-Oxley Act of 2002」 参照)
406条に関して、最高経営責任者に関する会社の倫理規定の開示( company codes of ethics)、無ければその理由等を開示、
・404条に関して、内部統制報告書(internal control reports)を年次報告書に開示する。

2002年12月5日、SECは、米国サーベーンズ=オクスリー法(企業会計改革法)が要求する「監査人の独立性」に関する国際的影響を検討するため各国の規制当局、会計基準設定主体、監査法人、司法関係者などの参加の元に公開円卓会議を12月17日開催し、最終規則作成期限である2003年1月26日の参考にしたいとしている。欧州委員会、英国会計財団、ドイツ会計士協会、イタリア取引所などが参加としているが日本の参加はリストされていないのが気に掛かる。
SEC速報 参照)

2002年12月3日、金融庁は、監査役協会、三菱東京ファイナンシャルグループ、公認会計士協会、経済団体連合会、経済産業省および在米日本大使館と合同で、2002年12月4日、5日の両日、「官民合同ミッション」がSEC、ニューヨーク証券取引所(NYSE)等を訪問する予定、と公表した。
 本ミッションは、米国サーベーンズ=オクスリー法(企業会計改革法)の適用が我が国の監査法人及び米国上場の日本企業に及ぼす影響等にかんがみ、我が国監査法人及び企業について、106条(外国監査法人の監督)及び301条(公開会社の監査委員会)の監査委員の独立性からの適用除外を求めている。日本の対応は、欧州企業の調査結果と多少異なる。
金融庁・・官民合同ミッションの米国訪問について (米国サーベーンズ=オクスリー法への対応) 参照

SECは、2002年12月17日、米国サーベンス・オクスリー法(企業会計改革法)が要求する「監査人の独立性」に関する国際的影響を検討するため各国の規制当局、会計基準設定主体、監査法人、司法関係者などの参加の元に公開円卓会議を開催した。その中で日本は「公認会計士監査制度の充実・強化(12月17日付)」の改革の中身を円卓会議で明かにして日本の監査法人への適用免除を求めている。公表前に中身を知っている者(金融庁)が出席していたようだ。(SEC速報 12月17日のSEC円卓会議生放送  参照)

欧州連合(EU)は、12月10日、米国に対して大西洋を横断する証券市場(Transatlantic Securities Market)の創設、上場規制の統一」を呼びかけているのに対して、日本は、日本企業及び日本の監査法人に対する適用除外の陳情をしている。日本に求められていたのは、理念無き陳情よりは、証券市場の理念ないしビジョンを示し建設的な提案ではなかったか。

2003年11月4日、SECは、ニューヨーク証券取引所およびNASDAQに上場している企業(外国企業を含む)に適用するコーポレートガバナンス強化に関する新たなルールを承認した。独立取締役の定義など具体的で詳細な規定となっている。(SEC速報 「NASD and NYSE Rulemaking: Relating to Corporate Governance」 November 4, 2003 参照)

欧米の監査委員会には、財務専門家が最低一人必要・・日本は要求していない

米国およびカナダのケース:

米国ニューヨーク・証券取引所、ナスダック、カナダのトロント証券取引所では、正確な財務報告を行うには、内部統制の整備・充実し機能していることに加え、監査委員会の委員に財務能力(Financial literacy)をもった人を最低一人コーポレート・ガバナンスの面から要求している。米国では、サーベンス・オクスリー法407条で監査委員会の財務専門家(audit committee financial expertsの数、氏名、経営者からの独立性について年次報告書に情報開示を求めている(SEC Final Rule「Disclosure Required by Sections 406 and 407 of the Sarbanes-Oxley Act of 2002」 参照))。

ニューヨーク証券取引所上場会社マニュアル
303A.00 Corporate Governance Standards コーポレート・ガバナンス基準 抜粋

303A.07 Audit Commitee Additional Requirements
(a) The audit committee must have a minimum of three members.
Commentary: Each member of the audit committee must be financially literate, as such qualification is interpreted by the listed company's board in its business judgment, or must become financially literate within a reasonable period of time after his or her appointment to the audit committee. In addition, at least one member of the audit committee must have accounting or related financial management expertise, as the listed company's board interprets such qualification in its business judgment. While the Exchange does not require that a listed company's audit committee include a person who satisfies the definition of audit committee financial expert set out in Item 401(h) of Regulation S-K, a board may presume that such a person has accounting or related financial management expertise.

参考:「米国とカナダにおけるコーポレート・ガバナンスの要請」・・ニューヨーク証券取引所・ナスダック・トロント証券取引所のコーポレート・ガバナンスの要請を比較したもの。

英国のケース:

英国は、コーポレートガバナンスに関する統合規範(COMBINED CODE)により次のように規定している。

C.3.1取締役会は最低3人、小会社の場合は2人、の監査委員会を設置しなければならない。監査委員のすべては独立の非執行取締役で無ければならない。監査委員会のメンバーの最低1人は、最近、財務の経験を持った人でなければならない
C.3.1 The board should establish an audit committee of at least three, or in the case of smaller companies two, members, who should all be independent non-executive directors. The board should satisfy itself that at least one member of the audit committee has recent and relevant financial experience.

会計監査人の監査報告書の内部統制については
"金融サービス機構(FSA)の上場規定(LR 9.8.10 R(2))が求めている、「コーポレート・ガバナンス報告書(Corporate Governance Statement)」が「コーポレート・ガバナンスに関する統合規範(
Combined Code」に規定の9か条(C.1.1, C.2.1, C.3.1, C.3.2, C.3.3, C.3.4, C.3.5, C.3.6, および C.3.7)に準拠しているかどうかについてリビューし、準拠していない場合に報告する。監査人は、すべてのリスクおよび統制が内部統制の取締役会の報告書に掲載されているかどうかについて、また、グループのコーポレート・ガバナンスないしそのリスクおよび統制手続が機能しているかどうかの意見を求められていない。"

We review whether the corporate governance statement reflects the company's compliance with the nine provisions of the 2006 Combined Code specified for our review by the Listing Rule of the Financial Services Authority, and we report if it does not. We are not required to consider whether the board's statement on internal control cover all risks and controlls, or form an opinion on the effectiveness of the group's corporate governance procedures or its risk and control procedures.


英国の監査報告」参照

日本のケース:

東京証券取引所は、「適切なディスクロージャーに企業経営者が責任をもって取組み意識を持つということと、企業経営者の独走を牽制する観点から独立性のある社外の人材を適切に活用するという点に置くこととし、その実現を促進する観点から、各社のコーポレート・ガバナンスの状況を投資者により明確に伝える手段として、新たに「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の開示をお願いすることとしました。」とし、2006年3月1日以降終了する事業年度から適用することとしています。コーポレートガバナンス報告書に監査役ないし監査委員会に関する記載事項には財務の専門性に関する事項はない(監査役設置会社監査委員会設置会社の記載要領)。

日本の制度整備について

会社法制整備について(00年12月8日)

2000年12月8日、産業構造審議会総合部会新成長政策小委員会は、「企業法制分科会報告書」をまとめ会社法制の整備について報告した。
78ページに及ぶ長文の報告書で、広範な整備を要請している。なかんずく、「監査役の適用除外」の項には、次のような文章となっており、上記ナスダックのコーポレートガバナンスの内容と類似したものとなっている。
「現行の監査システム(取締役会と並立・独立の機関として、適法性モニタリングのもを担う監査役を設置)に加え、取締役会内部に、社外取締役が過半数を占める監査会を設置することにより一定の独立性を保ちつつ、直接的かつ一元的に監査を行うことを選択することも認め、このシステムを採用した会社については、定款の定めにより監査役制度の適用を除外する。」

2002年の商法改正に反映されると予想される。詳細は、経済産業省(旧通商産業省)白書・報告書に掲載されています。
社外取締役制度及び執行役制度の任意導入へ
2002年5月22日、参議院は、商法の改正案を可決・成立させた。 商法特例法第21条の5以降 参照。
社外取締役及び執行役制度の主な内容は、次の通り。

適用対象会社:
資本金が5億円以上または負債が200億円以上の大会社(約1万4百社)

監査役制度の廃止(任意規定):
下記の三つの要件を満たし、「委員会等設置会社の定款の定めがる場合、監査役制度を廃止することができる。
@ 取締役会のなかに、取締役候補の選任・解任のための指名委員会、取締役報酬を決める報酬委員会、監査を担当する監査委員会(米国の各種Committeeに該当)を設置
A 上記各種委員会は3人以上で構成し、社外取締役が過半数となるようにしなければならない。
B 業務を担当する執行役制度を導入する(取締役との兼任を認める)。
注:業務執行役について:
業務執行役は取締役会が選任・解任を行う。 執行役は委員会等設置会社の業務を執行する。取締役会が委員会等設置会社の代表執行役を選任する(共同代表も可)。株主代表訴訟の被告になる。

委員会等設置会社の取締役および執行役の任期は、1年となる。

社外取締役の登記 参照

⇒「社外取締役と独立取締役」 参照 
私見ですが、当初、日本で商法に社外取締役制度を導入した際、独立性についての制限が無く、独立性を無視した社外取締役の登用などの弊害から、その後、「その会社の従業員や役員でない者」という制限を付した経緯を見ると、当初に「Independent Director」 の翻訳に困惑した学者またはマスコミが日本流に誤訳したのではないかという懸念を持っている。なぜならば、日本の商法改正(1993年(平成5年)改正・・大会社で社外監査役・監査役会導入)の「トレッドウェイ委員会報告」(1987年10月公表)に「独立的な監査委員会の設置の義務付け」を勧告し、その中で「独立的な取締役からのみで構成される監査委員会の設置を全上場会社に要求しているのはニューヨーク証券取引所だけである」との記載があり、米国では「独立」の用語に重要な意味を持っていることが明らかであった。2001年5月現在でも、米国側か「独立性」について、米国からニューヨーク証券取引所の上場規定と同じもの(「独立取締役」の定義は以下の者を除外しています:(1)当該企業の使用人および役員、(2)当該企業の使用人および役員等の直系親族(雇用関係が終了してから三年まで)、(3)パートナーズ、支配的株主、当該企業と業務関係を有する企業の役員、(4)当該企業とある一定の兼任役員会関係を有する企業の取締役。)にすることを要求されている。
なおも続く社外監査役の独立性に関する抜け道
(監査役の員数等)
第十八条  大会社にあつては、監査役は、三人以上で、そのうち一人(半数)以上は、その就任の前五年間(前に)大会社又はその子会社の取締役、執行役又は支配人その他の使用人でなかつた(となつたことがない)者でなければならない。

カッコ( )内は、「平成13年12月12日法律第149号」(商法特例法)の改正で、社外監査役は半数以上とされました。施行は平成17年5月1日となっています。3月決算では、2006年の株主総会から実施。
この改正のおいても、社外監査役には会社や子会社に在籍したことがなければ就任できるため、親会社の出身者を置いている場合があり、海外から独立性に疑問を呈する意見がある。
独立性について小出しに改善しているが今なお抜け道がある。
企業内容等の開示に関する内閣府令の改正(平成15年4月1日以降開始する事業年度から適用)

2003年3月11日、金融庁は、金融審議会の報告「信頼される市場の確立にむけたディスクロージャーの充実・強化」受けて、有価証券報告書等におけるコーポレート・ガバナンスに関する情報」、「リスクに関する情報」及び「経営者による財務・経営成績の分析」についての開示の充実等を図るほか、「商法等の一部を改正する法律(平成14年法律第109号)」による「委員会等設置会社」の導入等に伴う規定の整備等を行うため、証券取引法に基づくディスクロージャー制度関係の各内閣府令の一部を改正するとともに、関係ガイドラインの一部を改正するとして、草案を公表した。コメントは3月17日まで形式的に求めている。

以下参照
草案
ディスクロージャー制度関係「内閣府令」及び「ガイドライン」の改正案の概要

企業内容等の開示に関する内閣府令・様式編(平成15年4月1日以後開始する事業年度から適用)
○企業内容等の開示に関する内閣府令(昭和四十八年大蔵省令第五号) 【 平成十五年四月一日以後開始する事業年度から適用】

32-2)事業等のリスク
a 届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、財政状態、経営成績 及びキャッシュ・フロー(連結財務諸表規則第2条第13号及び財務諸表等規則第8条第 17項に規定するキャッシュ・フローをいう。)の状況の異常な変動、特定の取引先・製 品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、 役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能 性のある事項を一括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること。
b 将来に関する事項を記載する場合には、当該事項は届出書提出日現在において判断した ものである旨を記載すること。

33)・(34) (略)

34-2) 財政状態及び経営成績の分析
a 届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関して投資者が適正な判断を行うことが できるよう、提出会社の代表者による財政状態及び経営成績に関する分析・検討内容(例 えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析、資本の財源及び資金の流動性 に係る情報)を具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
b 将来に関する事項を記載する場合には、当該事項は届出書提出日現在において判断した ものである旨を記載すること。

35)〜(52) (略)

52-2) コーポレート・ガバナンスの状況
a 提出会社の企業統治に関する事項(例えば、会社の機関の内容、内部統制システムの整 備の状況、リスク管理体制の整備の状況、役員報酬の内容(社内取締役と社外取締役に区 分した内容)、監査報酬の内容(監査契約に基づく監査証明に係る報酬とそれ以外の報酬 に区分した内容))について具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
b 提出会社の企業統治に関する事項に代えて連結会社の企業統治に関する事項について記 載することができる。その場合には、その旨を記載すること。


日本の証券取引所にはコーポレートガバナンスの規定がない。
日本の証券取引所には、欧米の主要証券取引所が規定している上場企業に求める「コーポレート・ガバナンス」に関する規定がない。上場会社のコーポレート・ガバナンスはどうあるべきかが示されない状況にあるといえよう。

主要証券取引所 上場基準 コーポレートガバナンス規定 備考
東京証券取引所 上場基準等 商法の規定だけでよいのか? 東証の上場会社コーポレート・
ガバナンス原則
」 は研究報告
ニューヨーク証券取引所
(NYSE)
上場基準 上場会社マニュアル・・コーポレートガバナンス規定等
ナスダック 上場基準 ナスダックのコーポレート・ガバナンス規定等
ドイツ取引所 上場基準 ドイツのコーポレート・ガバナンス・規範 抜粋 参照
中国証券監督管理委員会 中国上場会社のコーポレートガ・バナンスの規範 2001年1月制定

日本以外のどの証券取引所も、コーポレート・ガバナンス(企業統治)に関して最初に「株主」および「株主総会」を規定している。日本では、株主および株主総会、株主総会召集の規定が商法に規定されていることから、証券取引法のもとにある証券取引所および金融庁は意識的に株主および株主総会に関する商法に規定している事項は避けて規定している。日本が、ドイツ商法を基礎に法体系ができているとしているが、証券市場でも、ドイツの方が日本より株主重視の体系ができているといえよう。日本では有価証券報告書は株主に送付されない。加えて、日本では証券取引所の上場規定にコーポレート・ガバナンスの規定がない
上場企業に社外取締役義務付け・取引所規則改正へ

 金融庁は、取引所に上場するすべての企業に対し、経営陣から独立した社外取締役の起用を義務付けるルールを採用するよう、東京証券取引所など主要な取引所に要請する。上場の条件などを定めた「取引所規則」の改正を求める。企業経営を巡る事件や買収攻防などが増える中で、第三者のチェック機能が重要になるためだ。ただ、外部人材登用の実効性を疑問視する声もあり、産業界に波紋を広げそうだ。

 2005年4月15日の金融審議会(首相の諮問機関)で基本的な考え方を示した。6月までに論点をとりまとめる。現在の取引所規則は合併など経営にとって重要な事実が生じた際の適時開示に関するルールが中心で、経営体制に関する規定はない。米ニューヨーク証券取引所(NYSE)には社外取締役の設置義務やその要件を定めたルールがあり、同じような仕組みの導入を目指す。
 
 日本経済新聞2005年4月16日付(07:00)より

資料3−6 社外取締役に関するニューヨーク証券取引所のルール(NYSE company manual)(PDF:113KB)
● 
ニューヨーク証券取引所・上場会社マニュアル(原文 参照


日本は株主行動主義(Shareholder activism)に欠けるとEUマクリービー氏語る(2007年6月13日)
欧州委員会のチャーリー・マクリービィ域内市場・サービス担当委員が2007年6月12日から15日まで来日、政府閣僚および産業界の代表とさまざまな会合を持ち、金融サービス、政府調達、知的財産権、郵政民営化、規制改革の総体的進捗状況などについて意見交換をする予定です。(駐日欧州委員会代表部ニュース 参照)

2007年6月15日
チャーリー・マクリービーECコミッショナーの来日直後、ASBJ新たな「中期運営方針を公表し2009年を目途に加速とのこと。EUの同等性の判断は2008年末までに決定されるとしているのに、のんびりと「2009年を目途に加速させる」としている。日本は、駆け引きばかりしてないで、米国とEUの合意のように日程を区切って目標を明らかにして進捗状況等を誰にでも分かりやすく明らかにすることであろう。

チャーリー・マクリービー氏の初めての訪日に際して、会計基準の同等性についての記事が見られなかったが、氏へのインタビューを掲載した「日本は更に株主行動主義に(Japan to see more shareholder activism)」というコメントを残している。「日本には、まだ株主行動主義(shareholder activism)の文化に欠けているがグローバルな財務環境へのシフトを続けることにより変化するかも知れない」と語った。(2007年6月13日英文ニュース ロイター 参照)

株主行動主義shareholder activismについては「21世紀のコーポレート・ガバナンスと株主価値経営」by若杉敬明教授が詳しい。
企業の透明性と民主主義のための道具としての株主行動Shareholder Activity as a Tool for Corporate Transparency & Democracy
) 参照


上場企業の取締役会、社外役員「義務化」で火花(金融庁・金融審議会)2009年4月23日

 上場企業の取締役会に、企業から独立した社外役員を加えるべきかどうかを巡って、東京証券取引所など証券界と日本経団連など経済界が火花を散らしている。企業統治の強化を目指す金融庁は義務化を提案しているが、23日の会合では意見が真っ二つに割れた。6月の取りまとめに向けてつばぜり合いが活発になりそうだ。

 同日開かれた上場企業の企業統治向上策を検討している金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会で問題は表面化した。金融庁は株主の利益を守る立場で経営を監視できる社外役員を置いておく必要があるとの立場だ。社外役員の設置を義務づけるには金融商品取引法の改正が必要となる。[2009年4月24日/日本経済新聞 朝刊] 島崎憲明委員(住友商事取締役)は「株主の目線で経営し始めており、義務化はもう少し先のほうがいい」と語った。(金融庁・金融審議会・我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ 参照)


なお、下記は、国際的な標準のガバナンス規定である。日本は、監査役に財務のエキスパートも要求しておらず各国の信頼を得ていない。

C.3.1取締役会は最低3人、小会社の場合は2人、の監査委員会を設置しなければならない。監査委員のすべては独立の非執行取締役で無ければならない。監査委員会のメンバーの最低1人は、最近、財務の経験を持った人でなければならない
C.3.1 The board should establish an audit committee of at least three, or in the case of smaller companies two, members, who should all be independent non-executive directors. The board should satisfy itself that at least one member of the audit committee has recent and relevant financial experience.
A3.2小会社を除いて、取締役会は、議長を除いて最低過半数が独立の非執行取締役で構成していなければならない。小会社は、最低二人の独立非執行取締役がいなければならない。
A.3.2 Except for smaller companies, at least half the board, excluding the chairman, should comprise non-executive directors determined by the board to be independent. A smaller company should have at least two independent non-executive directors.


「独立役員」を求め始めた東京証券取引所ルール(2009年11月)
2009年11月25日東京証券取引所(東証)は、上場会社のコーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備を図るための規則見直しの内容を明らかにした。現在、パブリック・コメントを募集しており、その後、金融庁による認可を得て、12月にも規則改正が実施される見通しである。
  今回の制度改正の最大のポイントは、すべての東証上場会社に対して、「独立役員の選任を義務付けることである。上場会社は、社外取締役または社外監査役の中から一般株主と利益相反が生じるおそれのない者を独立役員として1人以上確保し、東証に届け出るとともに、コーポレート・ガバナンス報告書において、独立役員の氏名及び独立役員として指定する理由を開示することが求められる。
  独立役員の選任は、上場規則の中の企業行動規範における「遵守すべき事項」の1つとされる。したがって独立役員を1人も選任しない場合には、上場規則に違反したことになり、違反事実の公表や1000万円の上場契約違約金の徴収といった制裁措置の対象となり得る。違反状態を長期にわたって放置するなど、悪質な場合には、上場契約について重大な違反を行ったものとして上場廃止の対象となることも考えられる。
  東証によれば、上場会社は2010年3月末までに独立役員の確保状況を届け出ることを求められ、2011年3月以降に終了する事業年度にかかる定時株主総会終了後は、違反に対する制裁措置が発動されることになるという。つまり3月決算会社の場合、2011年6月の定時総会で独立役員を少なくとも1人選任しなければ、上場規則違反という事態に陥ってしまうのである。(ロイター 経団連タイムス 参照)

2009年12月29日東証は、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領(平成21年12月29日改訂版)」を公表した。<独立役員の確保の状況に関する記載>(平成22年3月1日以降に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から適用・・つまり2010年4月1日から始まる事業年度から適用)

独立役員の選任義務化等に関する東京証券取引所における新たな規制の概要」byモリソン・フォレスター法律事務所2010. 01.22参照


金融庁が初めてコーポレート・ガバナンスに関する開示を府令で求めた(2010年2月12日)
金融庁では、企業内容等の開示に関する内閣府令案等を別紙のとおり取りまとめましたので公表します。(2010年3月31日公布された。)

○ 本件で公表する内閣府令案等の概要
上場会社等のコーポレート・ガバナンスに関する開示の充実について【企業内容開示府令】
有価証券報告書等の「コーポレート・ガバナンスの状況」等において、以下の事項の開示を義務付けます。

(1)コーポレート・ガバナンス体制について
@コーポレート・ガバナンス体制の概要・当該体制を採用する理由
A財務及び会計に関する相当程度の知見を有する監査役又は監査委員の有無
B社外取締役・社外監査役と内部統制部門との連携
C社外取締役・社外監査役の設置状況・設置していない場合の理由 等

(2)役員報酬
@役員(報酬等の額が1億円以上である者に限ることができる。)ごとの報酬等の種類別(金銭報酬、ストックオプション、賞与、退職慰労金等)の額
A役員の役職ごとの報酬等の種類別の額
B報酬等の額又はその算定方法に係る決定方針の内容及び決定方法 等

平成22年3月31日施行予定
 ただし、平成22年3月31日に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定

東証も金融庁も共に玉虫色の規定で濁している。自信のない表れであろう。一方、1億円以上の役員報酬を個別に開示させることには熱心である。米国では高額報酬が問題となったケースがあるが、日本で高額報酬が問題となったことがあったとは聞かないのだが・・・。

この背景には、世界の企業統治格付けで日本は39カ国中36位と低い評価で、その理由として96%の上場会社で独立取締役がいないためとされている。


東芝 不適切会計・・・日本的コーポレートガバナンスの典型

ビジネスジャーナル】2015年5月8日(金)、東芝は過去に不適切な会計処理が行われたとして、2015年3月期連結決算の公表を6月以降に延期すると発表した。

東芝は4月3日、14年3月期のインフラ関連工事の会計処理に問題があったとして、室町正志会長をトップにした特別調査委員会の設置を発表している。特別調査委の調査が進む中で、原価の見積もりの過小評価以外にも、調査が必要な事案が出てきた。不適切な会計処理が14年3月期より前の期にも行われていた可能性が明らかになった。

2015年7月20日、東芝は、不適切会計問題を調べてきた第三者委員会(委員長:上田広一元東京高検検事長)の報告要旨を公表した。報告は、歴代社長ら「経営トップの関与に基づき、組織的に不適切会計が実行・継続された」と断じるとともに、過年度の利益の過大計上が総額1562億円にのぼったことを明らかにした。報告が示した税引前利益の過大計上額は2009年3月期から2014年4−12月期までの累計。第三者委の調査で1518億円、東芝の自主チェックで44億円が判明した。東芝は過大計上額を548億円と発表していたが、3倍近くに膨らんだ。

同社は半導体やパソコン事業の減損処理や繰延税金資産の取り崩しについて検討を迫られることになり、追加損失の計上は避けられない見通しだ。同社は8月31日までに14年度決算を公表する。

東京 2015年7月22日 ロイター] - 企業統治の仕組みを他社に先駆けて整備し、「先進的な」企業のイメージを内外株主に与えてきた東芝 。今回の不適切会計問題はその仕組みが「空文化」していることを露呈した。

東芝の監査委員会は5人で構成。委員長は財務部門出身で社内取締役の久保誠氏が務め、3人が社外取締役。そのうち2人は外交官出身。「監査委員会の布陣だけでも、実質的な監査能力に疑問が浮かぶ」(上場企業の財務部門関係者)との見方も出るなか、報告書は社内取締役の島岡聖也監査委員の指摘ですら、監査委員会で取り上げられなかった事実を明らかにした。

東京 23日 ロイター] - 東芝(6502.T)の久保誠・前監査委員会委員長が、金融庁に対して、同庁の企業会計審議会・会計部会の臨時委員を辞任する意向を伝えていたことがわかった。関係者が23日、明らかにした。

金融庁が、企業会計審議会会計部会委員に人選したこと自体驚きである。かつての財務担当取締役久保誠氏が監査委員会の長となっておりガバナンスの利いていない状況であっても、企業会計審議会の委員に人選しているということは金融庁の認識がこの程度かとよく分かる。


第三者委員会は「東芝から嘱託を受けて、東芝のためだけにおこなわれた」として監査法人の監査については言及せづ、巨額ののれんの減損会計の可否について触れていない。監査法人は適正意見を表明するには、のれんの減損をする必要がないとの監査証拠を得ている必要がある。監査法人の監査の検証は注目されるところである。



欧州からの視点ー2000年の主要国5カ国の国際比較で最下位の日本

欧州の保険コンサルティング会社であるワトソン ワイアットの2002年8月に公表している「コーポレート・ガバナンス・・ヨーロッパの文脈(チャールズ・フェア氏筆)」の中で「2000年コーポレート・ガバナンスの国別の合計点」では、1位英国(8.2)、2位米国(7.5)、3位フランス(6.4)、4位ドイツ(5.4)、5位日本(3.3)となっており、日本は最下位である。

日本が最下位となった理由は、『日本のコーポレート・ガバナンスでは、CEOと取締役会議長の役割の未分化や、株主投票権の平等性について低い評価を受けている。役員報酬についての開示の不十分さ、社外役員がほとんどいないこと、そして取締役会メンバーの独立性が十分でないことが指摘されている。加えて、最近導入された二つのコーポレート・ガバナンス規約がまだ十分反映されていないこと、国際会計基準に十分準拠していない点があることも問題とされている。

上記のスコアは、多様な個別の企業にそのまま当てはめて考えるべきものではない。企業が法的にこのコーポレート・ガバナンス規約に従う義務はないし、あくまで自発的な意思によって取組むべきものである。その国の市場についてはベストなコーポレート・ガバナンスであると評価されながら、その国のある企業では低いスコアしか得られないということも当然ありうる。』としている。

評点に使ったコーポレート・ガバナンス指標とは、次の項目を挙げている。
■ ベストプラクティス規約―その国の企業に存在すると認められるものがあること
■ 会計基準―国際的に認知された基準を使用(例えば国際会計基準あるいはUS GAAP)
■ 役員報酬―役員個人に対する報酬、賞与、年金拠出、ストックオプション付与そして表彰の公開
■ 非執行役の取締役―取締役会に参画し、取締役会決定に影響を十分与えられる数が存在すること
■ 取締役会における役員の独立性―役員は純粋に独立であり、相互的監督関係がある会社に所属せず、利益相反となる役割(例えばコンサルタント)にないこと
■ 取締役会議長とCEOの役割との分離―ポストが一緒でないこと  (例えばフランスのPDG)
■ 取締役会の委員会―監査、指名、報酬委員会などの構成や活動の公開
■ 投票権―すべての株主が、重要な企業戦略に影響を与えうる投票権を持っていること
■ 買収に対する障害の不在―例えば、業績の上がらない取締役会が敵対的買収に対してポイゾンピル防衛策が使える、政府などのゴールデンシェアの存在など
■ 監査役の独立性―監査役が利害相反関係にないこと。  例えばコンサルティングなど。また監査関係が同じ会社にないこと
■ 株式関係の調査の独立性―投資銀行のアナリストなどからの推薦が独立している程度

詳細は、「コーポレート・ガバナンス・・ヨーロッパの文脈(チャールズ・フェア氏筆)」を参照してください。

参考:「OECD コーポレート・ガバナンス原則、1999年5月」の概要(外務省翻訳)
    OECD アジア・コーポレート・ガバナンス円卓会議の「アジア・コーポレート・ガバナンス白書」(2003年6月10日)
    「OECD コーポレート・ガバナンス原則改訂版(OECD東京センター翻訳のプレスリリース2004/04/22」 原文70ページ エンロン事件を反省材料としてOECDが改訂版を公表したもの。

OECD コーポレート・ガバナンス原則改訂版2004年4月22日)・・会計に関する部分の抜粋
Information should be prepared and disclosed in accordance with high quality standards of accounting and financial and non-financial disclosure.
情報は、会計、財務および非財務情報の開示に関する質の高い基準に従って作成され開示されなければならない。
The application of high quality standards is expected to significantly improve the ability of investors to monitor the company by providing increased reliability and comparability of reporting, and improved insight into company performance. The quality of information substantially depends on the standards under which it is compiled and disclosed. The Principles support the development of high quality internationally recognised standards, which can serve to improve transparency and the comparability of financial statements and other financial reporting between countries. Such standards should be developed through open, independent, and public processes involving the private sector and other interested parties such as professional associations and independent experts. High quality domestic standards can be achieved by making them consistent with one of the internationally recognised accounting standards. In many countries, listed companies are required to use these standards.
質の高い基準の適用は、報告の信頼性や比較可能性を高め、会社への洞察力を改善させることによって、会社をモニターする投資家の能力を劇的に改善させることが期待される。 情報の質は、作成され明らかにされる基準に実質的に依存する。 (OECDのコーポレート・ガバナンス)原則は、国際的に認められた質の高い基準の開発を支持し、それは国の間での財務諸表および他の財務報告の透明性および比較可能性を改善するのに役立つことができる。 そのような基準は、民間部門と他の利害関係者(例えば専門家の協会や独立した専門家)を巻き込んで、公開で、独立した、公共のプロセスによって開発されなければならない。 質の高い国内基準は、国際的に認められた会計基準に一致させることで達成することができる。 多くの国では、上場会社はこれらの基準を使うことが要求されている。

米国からの視点・・企業統治格付け:対象14カ国で日本は最下位(2003年7月〜2005年3月

米民間調査会社のガバナンス・メトリックス・インターナショナル(Governance Metrics International, GMI)が2003年7月28日発表した企業統治(コーポレートガバナンス)格付け調査」によると、最も企業統治が進んでいる国はカナダで、2位は英国、日本は調査対象の先進14カ国中最下位と厳しい評価を受けた。  

同社は企業統治の進展度について600項目にわたり、14カ国1600社を調査。10点満点で平均点が最も高かったのがカナダ(7.2)で、英国(7.1)、米国(7.0)の順となった。日本は日経平均株価を構成する225社の平均点が3.5で最下位だった。  

日本と欧州企業は、規制が弱いという理由から、米国やカナダ、英国、オーストラリアの各社よりも数字が低い傾向があった。また、調査した企業の21%が米国会計基準(US GAAP)や国際会計基準(IAS)で会計報告をしておらず、国内基準で報告を行なっていた。こうした企業は日本と欧州大陸の各国がほとんどだった。(「日本の会計の国際的位置」 参照

同社のアンダーソン最高経営責任者(CEO)は「日本企業は企業情報の開示が進んでいないほか、社外からの役員が極めて少ないのが低い点数につながった」と説明している。(ニューヨーク共同)

[毎日新聞7月29日] ( 2003-07-29-18:54 )より
調査報告書原文参照:GMI Launches Global Governance Ratings, New York , July 28th, 2003
企業統治調査報告書のサンプル(優良会社、平均的会社、平均以下の会社の報告書サンプル):Sample Reports 参照

日本は、23カ国中22位へ後退2004年9月7日
最新情報⇒GMIは、2004年9月7日、世界各国で合計2,588社に上る企業の格付けを発表した。2004年8月末時点で、23カ国の国別のランキングを見てみよう。米国が7.23と最も高い点を獲得しトップを占め、2番はカナダ(7.19)、3番に英国(7.12)、4番にオーストラリア(6.73)の順となった。23か国中最下位はギリシャ(2.93)、22位は日本(3.57)だった。サーベンス・オクスリー法施行後の改善、依然残るリスク(GMI Releases New Global Governance RatingsImprovements Seen Following Enactment of SOX, But Risks Remainガバナンス指数と企業業績、投下資本利益率(ROI)は連動する 大和インべスター・リレーションズの記事 参照
>ガバナンス指数で日本はブービーかブービー・メーカー!!〜GMI、「グローバル格付け」(2003年7月、2004年9月)を追う (上)(No.247 2004年11月5日) 参照

欧州の上場企業が2005年から国際会計基準(IAS)を適用することから、欧州企業がIASへの開示にシフトして情報開示が改善されたと評価され、日本は改善が見られず格付け順位は後退した。
 一方、日本は、2004年11月18日、金融庁が11月23日パリ(フランス)を訪問、CESR(欧州証券規制当局委員会)の公聴会への参加し、日本の会計基準が国際基準と同等であると主張すると公表している。これは、欧州で2007年以降も日本の会計基準の使用を認めてもらうための陳情。
(注)欧州証券規制委員会(CESR)
は、「第三国の会計基準(日本、カナダおよび米国の会計基準)が国際基準に相当するかどうかを評価基準するときのコンセプト・ペーパーを公表し、12月22日までにコメントを求めている。2005年6月30日にECに評価の結果を報告することになっている

日本は相変わらず23か国中22位(2005年3月6日)
最新情報⇒GMIは、2005年3月6日、世界各国で合計3,220社に上る企業の格付けを発表した。2005年2月末時点で、23カ国中最下位のギリシャに次いで22位は前年度と同じ。(  March 6, 2005 - GMI Releases New Ratings for 3,200 Global Companies 参照) この調査結果を、朝日新聞は下記のように報道した。

企業統治、日本の格付けワースト2 米格付け会社 ( asahi.com 2005年04月09日21時31分 より)

 日本の会社の企業統治(コーポレートガバナンス)の格付けは世界で下から2番目――。米国の大手企業統治格付け会社、ガバナンスメトリックス・インターナショナル(GMI、本部ニューヨーク)が今年2月時点で、主要23カ国・地域の約3200社の情報公開度や取締役の独立性などを調べたところ、日本企業(対象383社)の平均点は10点満点の3.49点だった。

 コーポレートガバナンスは経営者の不正や暴走を監視し、企業価値を高める仕組み。GMIでは取締役会の監督機能や株主の権利などを基準に分析。1位は英国(7.39点)で、カナダ(7.14点)、米国(7.03点)と続いた。最低点の1点の評価を受けた32社のうち、日本企業は最多の13社を占め、平均点で日本は最下位のギリシャ(2.37点)を上回るだけだった。

 日本の評価が低かった理由について、同社は独立性の高い社外取締役を置いている企業の割合が日本の場合、全体の5%にとどまり、米国の72%に比べて極端に低いことなどを指摘。ギャビン・アンダーソン社長は「日本の社外取締役の多くが、株主よりも経営陣や従業員らの利益を重視している」と話す。

日本は相変わらず39カ国中36位(2009年9月22日)
最新情報⇒GMIは、2009年9月22日、45カ国4,207社にのぼる企業統治の格付けを発表した。これによると、日本のレートは3.32とし、39か国中36番目と37位の中国の次に悪い。評価が悪い理由として、日本の上場企業の96%が取締役会の取締役のマジョリティが独立取締役でない、45%が独立取締役がいない、30%が経営責任者のみとしている。また、5%が株式の相互持ち合いにあり、30%がポイズンピルをもっている。

Other notable results included Japan, the world's second largest economy but with a low average rating of 3.32. Reasons for this include the fact that 96% of Japanese companies rated by GMI have a majority of non-independent directors on their boards, 45% have no independent directors at all and 30% comprise executive directors only. GMI also found some remaining problems with cross-shareholdings (5%) and a sizable proportion of companies with poison pills (30%).

金融庁は、2010年3月31日コーポレートガバナンスの改定を行ったが、マスコミは1億円以上の役員報酬の個別開示ばかりが話題となり、肝心のコーポレートガバナンスは判り難く効果は見えない。多分、外国人には理解し難いであろう。

英国からの視点(2005年8月)・・企業統治格付け:24か国中日本は24位の最下位

2005年8月、英国のエシカル・インベストメント・リサーチ・サービシーズ社(Ethical Investment Research Services (EIRIS) Ltd)が24カ国における1600社の企業統治についての調査結果を公表した。この調査結果によると、日本は、総合評価でギリシャを抜いて最下位の24位であった。独立性の高い社外取締役の導入や、取締役に女性が少ないとか、監査委員会の独立性などについて評価している。(ニュースリリース 参照)

スイスの取締役会は、高い比率(81%)で独立取締役となっているが、ドイツ、オーストリアおよび日本は10%以下である。
Swiss boards have the highest percentage of independent directors (81%) ・Germany, Austria and Japan all have less than 10%
 USA、カナダ、オランダ、ルクセンブルク、英国とアイルランドが95%を超えるのと比較して、日本の会社のたった4%の会社だけが、独立取締役が過半数を占めた監査委員会を持っている。
● Only 4% of companies in Japan have audit committees comprising a majority of independent directors compared to over 95% in the USA, Canada, the Netherlands, Luxembourg, the UK and Ireland」

参考:
●スタンダード&プアーズ「国際投資家のための透明性およびディスクロージャーに関する調査」(2002年5月20日)も、「企業の優れたディスクロージャー(情報開示)は、優れたコーポレート・ガバナンスの主要な指標の1つである。」として上記報告書と類似している。
「OECD コーポレート・ガバナンス原則、1999年5月」の概要(外務省翻訳) 
OECD コーポレート・ガバナンス原則改訂版(2004/04/22
●OECD アジア・コーポレート・ガバナンス円卓会議の「アジア・コーポレート・ガバナンス白書」(2003年6月10日) 参照

英国キャドベリー委員会報告と最近の統合規範(Combined Code)
●『「ガバナンス」という言葉が広く使われるようになったのは「コーポレート・ガバナンスの財務側面に関する委員会報告"The Report of the Committee on the Financial Aspects of Corporate Governance"(1992年、英国キャドベリー委員会(注2))」が契機ではないかと言われています。これ以降、欧米の企業では、コーポレート・ガバナンスへの取り組みが活発化し、我が国でも90年代半ばからこの言葉が使われるようになりました。コーポレート・ガバナンスには様々な定義がありますが、OECDでは「企業を効率的に経営し、会社の経済的繁栄を最大にするための企業の規律と支配に関するもの」と定義しています。

(注2)企業の年次報告書が実態を正しく表していなかったために起こった企業破綻等を背景に、サッチャー政権の意向を受けて発足した委員会で、シュエップス社の元会長、エイドリアン・キャドベリー卿(Sir Adrian Cadbury)を委員長とし、12人の委員から構成されています。 』(出展:Digital Governmentのホームページより抜粋)

●(通商白書2003年)「イギリス・コーポレート・ガバナンスの改革の背景と動向」 参照

2003年7月新「コーポレート・ガバナンス統合規範(THE COMBINED CODE ON CORPORATE GOVERNANCE July 2003 )」を公表(By 財務報告会議 FRC、Financial Reporting Council)、1998年6月に公表のハンペル委員会の統合規範は廃止され、新統合規範は、ロンドン証券取引所の上場会社の2003年11月1日以降開始される事業年度より適用を予定している。新統合規範は、上記経済産業省の「通商白書2003年」には記載がない新たな改正である。 

統合規範(COMBINED CODE)は、ガイダンスを含み82ページのものであるが、一部抜粋してみると次のようになっている。
A3.2小会社を除いて、取締役会は、議長を除いて最低過半数が独立の非執行取締役で構成していなければならない。小会社は、最低二人の独立非執行取締役がいなければならない。
A.3.2 Except for smaller companies, at least half the board, excluding the chairman, should comprise non-executive directors determined by the board to be independent. A smaller company should have at least two independent non-executive directors.

C.2.1取締役会は、最低1年に一度、会社の内部統制の整備状況のリビューの結果を株主に報告しなければならない。そのリビューは、財務、業務およびリスク・マネジメントのシステムの重要なすべての管理をカバーしたものでなければならない。
C.2.1 The board should, at least annually, conduct a review of the effectiveness of the group's system of internal controls and should report to shareholders that they have done so. The review should cover all material controls, including financial, operational and compliance controls and risk management systems.

C.3.1取締役会は最低3人、小会社の場合は2人、の監査委員会を設置しなければならない。監査委員のすべては独立の非執行取締役で無ければならない。監査委員会のメンバーの最低1人は、最近、財務の経験を持った人でなければならない
C.3.1 The board should establish an audit committee of at least three, or in the case of smaller companies two, members, who should all be independent non-executive directors. The board should satisfy itself that at least one member of the audit committee has recent and relevant financial experience.

「"遵守するか説明する"方法'comply or explain' approach)」を特徴としている。
統合規範(combined code)に規定された最善の実務(best practice)の一つを適用しない場合、その適用しない理由を年次報告書に記載して、読者に判断をできるようにしている。透明性(transparency)をキーとする「"遵守するか説明する"方法("comply or explain" approach)」を特徴としている。

THE COMBINED CODE ON CORPORATE GOVERNANCE(2006年6月)・・若干の改正あり

●ロナルド・ドーア(ロンドン大学教授)の1999年3月19日連合総研で開催された所内研究会での講演『コーポレート・ガバナンスと労働組合:欧米での議論と日本への教訓』は、「欧米におけるコーポレート・ガバナンスの議論の流れを振り返ってみて」いるので参考となる。

ドイツでは、2003年5月21日、改正「ドイツ・コーポレート・ガバナンス規範German Corporate Governance Code)を公表した。目的は、ドイツ・コーポレート・ガバナンスを透明にすることで国内外の投資家、顧客、従業員、一般公衆にもドイツ企業を理解しやすくし、かつ、信頼性を強化することを狙っている、としている。

2002年7月26日施行の「透明性と情報開示に関する法律(Transparency and Disclosure Law)により、株式会社法(Stock Corporation Act (EGAktG)に161条(article161)が加わり、上場会社の経営委員会(Management Board (exective board)・・経営方針の設定、経営の執行を行う役員の機関)と監督委員会(Supervisory Board・・経営委員会役員の選任・解任・監督等を行う機関)は、1年に1回、ドイツ・コーポレート・ガバナンス規範に関する政府委員会(Government Commission on the German Corporate Governance Code本文)の勧告に準拠していること、または、準拠していないこと、について宣言しなければならないことになっている。

ドイツ・コーポレート・ガバナンス規範
を一部抜粋してみると次のようになっている。

2.3.1最低年に1回、株主総会は経営委員会によって、議題の詳細を提供し、召集しなければならない。株主は、株主総会の召集を要求する権利、および議題を提案する権利がある。経営委員会は、株主総会のため法によって要求されている年次報告書を含む報告書や資料を提供するばかりでなく、株主の要求があればそれらを送付し、議題と共に会社のインターネット・サイトに掲載しなければならない
2.3.1 At least once a year the shareholders' General Meeting is to be convened by the Management Board giving details of the agenda. A quorum of shareholders is entitled to demand the convening of a General Meeting and the extension of the agenda. The Management Board shall not only provide the reports and documents, including the Annual Report, required by law for the General Meeting, and send them to shareholders upon request, but shall also publish them on the company's Internet site together with the agenda.

7.1.1株主および第三者は主に連結財務諸表によって情報開示される。期中は中間報告書によって情報開示されなければならない。連結財務諸表および中間報告書は国際的に認められた会計原則に準拠して作成しなければならない。
7.1.1 Shareholders and third parties are mainly informed by the Consolidated Financial Statements. They shall be informed during the financial year by means of interim reports. The Consolidated Financial Statements and interim reports shall be prepared under observance of internationally recognised accounting principles.

7.1.2連結財務諸表は、経営委員会が作成し、監査人および監督委員会によって監査する。連結財務諸表は会計期末から90日以内に、中間報告書は報告期間の終了のときから45日以内に公にアクセスできるようにしなければならない
7.1.2 The Consolidated Financial Statements will be prepared by the Management Board and examined by the auditor and Supervisory Board. The Consolidated Financial Statements shall be publicly accessible within 90 days of the end of the financial year; interim reports shall be publicly accessible within 45 days of the end of the reporting period.

欧州連合(EU)では、統一したコーポレートガバナンス規範を模索している。(「欧州会社法の近代化」 「欧州コーポレート・ガバナンス学会(ecgi)」 参照)

フランスでさえ内部統制について経営者が証明(2003年12月31日以降適用)

コーポレート・ガバナンスの国際比較を試みているデロイトの2003年10月号の報告を見ると、2003年7月にフランス金融安全法が可決成立し、2003年12月31日以降、経営者は内部統制に関し報告が要求され、外部監査人はその報告に関するコメント(証明attestではない)が要求されることとなった米国のサーベンス・オクスリー法の要求と類似している。

国立国会図書館 財政金融課 奥山裕之氏がまとめた「フランスの金融安全法」(レファレンス平成16年2月号)によると、フランスでは、2003年7月17日に「金融安全に関する法律」(Loi de s´ecurit´e financi`ere) (以下「金融安全法」という。) が国民議会で可決成立し、8月1日に公布されたとし、「取締役会会長が株主総会に対して内部統制に関する報告を行うことを義務づけ、会計監査人にもその会社の内部統制手続きについて株主総会に報告書を提出することを規定し企業統治に関する改革」を行おうとして「2003年の企業業績に関する報告書から適用される(第117条)」としている。

ドイツでさえ会社法で監査役の一人は会計の専門知識を持った人を要求

2009年3月26日、ドイツ法務省は国際会計基準の適用を自営業者、中小企業に緩和する商法(the Commercial Code (ComC) in Germany)近代化会計法(the Act to Modernise Accounting Law(BilMoG))案が国会を可決成立したと発表した。2010年1月1日以後開始する事業年度から適用し、早期適用も可としている。

改正株式会社法第100条第5項「少なくとも1名は会計または決算監査の領域に専門的知識をもつ独立した監査役を有しなければならない」とした。上場企業は既に同様の規定があり実施しているが、会社法関係でも要求することとしている。

Composition of the supervisory board and audit committee
In order to implement the Directive on statutory audits at least one independent member of the supervisory board must have specialist knowledge in the fields of financial reporting or annual audits in capital market oriented companies (section 100(5) draft Stock Corporation Act (Aktiengesetz ? AktG-E)).

参考:ドイツ会計基準近代化法byE&Y  「近代化会計法(BilMoG)」by Simmons&Simmons2008年7月

グローバル化しつつある中国のコーポレート・ガバナンス規定

永年棚上げされてきた「証券法」は、1998年12月29日、第29回全人代常務委員会で可決された。これにより、銀行と証券業の分離、銀行借入による株式投資売買の禁止、国有企業による株式の投資売買の禁止、信用取引の禁止、株貸しの禁止などが行われた。証券監督委員会(CSRC)はディスクロージャー関連7つの規則を修正・公表した。「証券法」中国初の政府主導ではない立法といわれている。ここ数年、会計基準の改定(財政部)、監督体制の整備(CSRC、証券取引所)、メディア公表の指定(CSRC)、罰則の強化(CSRC)などの施策が行われている。(麗澤大学助教授趙家林氏の論文「中国上場企業のディスクロージャー」より引用)

中国証券監督委員会(China Securities Regulatory Commission, 略称 CSRC、中国版SEC)は、2001年1月7日、コーポレート・ガバナンス規定(Code of Corporate Governance for Listed Companies)を公表し、同年8月16日、独立取締役の招聘に関するガイドライン(Guidelines for Introducing Independent Directors to the Board of Directors of Listed Companies)を公表した。 米国型のコーポレート・ガバナンス規定となっている。加えて、わが国より明確で分かり易い規定となっていること、かつ、早く導入している。

中国のコーポレート・ガバナンス規定には、上場会社に、独立取締役(independent directors)の招聘を求め、 取締役会には、会社の戦略委員会(a corporate strategy committee)、監査委員会(audit committee)、指名委員会(nomination committee)、報酬・評価委員会(remuneration and appraisal committee)、及びその他の特別委員会(other special committee)を設置できるとしている。監査委員会の独立取締役には、最低一人の会計専門家でなければならないとしている。(下記一部抜粋参照)

(5) Independent Directors
49. A listed company shall introduce independent directors to its board of directors in accordance with relevant regulations. Independent directors shall be independent from the listed company that employs them and the company's major shareholders. An independent director may not hold any other position apart from independent director in the listed company.

(6) Specialized Committees of the Board of Directors
52. The board of directors of a listed company may establish a corporate strategy committee, an audit committee, a nomination committee, a remuneration and appraisal committee and other special committees in accordance with the resolutions of the shareholders' meetings. All committees shall be composed solely of directors. The audit committee, the nomination committee and the remuneration and appraisal committee shall be chaired by an independent director, and independent directors shall constitute the majority of the committees. At least one independent director from the audit committee shall be an accounting professional.

中国の会計基準(国際会計基準に収斂している)につては、アジア開発銀行が簡潔に纏めた「中国の会計とガバナンス問題」の「中国の会計基準・監査基準」の項が参考となる。
加えて、石川純治大阪市立大学教授の書評「婁爾行と中国会計研究の歩み」は中国会計学会の創設者のひとりを紹介し中国会計史を知る上で貴重な資料を提供している。

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